13.熱い展開。
部屋に入ってきたドストライクな女性、それがこの国の長女だった。
マルガレット姫、御年27歳。
王女としては完全な嫁き遅れである。
だが、俺にとっては丁度いい年齢である。
あまりにも差があると体力的にツライのだ。
オッサン、夢見る年齢を過ぎたのだよ。
しかも絶倫でも何でもない。
多分、並かそれ以下か。
そして何よりも俺より五歳も若い。
まだピチピチの二十代だ。
ちょっと着ている服もピチピチだが。
しかぁーし俺は何を隠そうポッチャリ党である。
ちょっとくらい服がピチピチでもいいじゃないか。
しかも性格は大人しいとのことだ。
もう完璧である。
これは運命に違いない。
「……あの、私なんかががマツシロ様の……」
「いえ、私は王女さまとお会いしてすごく光栄に存じます」
「ふむ。マツシロ殿、ではこの話は」
「勿論、姫がお許し下さるなら是非!」
「マルガレット、マツシロ殿がそう言っておるぞ」
「でも、私なんかが……」
「いえ、姫だからいいんです。それとも私みたいな中年ではダメですか?」
「そんな事ないです。ただ私なんかで本当に宜しいのか……」
「無論です。この年齢で恥ずかしいですが一目惚れです」
「……私にですか?」
「はい」
「お父様、私この話を受けたいです。マツシロ様と幸せになりたいです」
「そうか! 皆の者も異論はあるまいな」
『はい』
「うむ。なら一度解散して、明日この件を話そうぞ。マツシロ殿はすまんが城に泊まっていって欲しい」
「畏まりました」
▽
ハルバー将軍に部屋に案内された。
案内された部屋は、何というか家族四人で十分に生活できそうな部屋だった。
何か一角にはお客さんと応接する場所があり、本棚もあり、ティーセットに果物にワインなどもあって、泊まったことはないが超高級ホテルのスイートルームみたいな感じである。
で、部屋を案内され、去り際に。
「姫様をどうか宜しく頼む」
「無論です。急にどうされたんですか?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
と将軍が去っていった。
気にしない方が無理なのだが。
とはいえ肝心の将軍が去った今、どうしようもない。
部屋に入って、のんびりとお茶を飲んでいる(やはり家政婦さんっぽいメイドが用意してくれた)と、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい。どうぞ」
「失礼します」
俺が部屋を開けると、凛とした佇まいの女性が二人、俺に深々と頭を下げ入って来た。
うむ。色っぽさなし。
何か背すじがピンとさせないと怒られそうな女性である。
剣道部の女主将といった感じだ。
実際には会ったことが。雰囲気だよ雰囲気。
「こちらへどうぞ」
その場で話すのも何なので、一角にある応接する所へ案内する。
「お茶でも飲みますか?」
と言ったら、私どもで用意しますのでと、お茶と果物をむいて用意して貰った。
ちなみに俺はリンゴをむけない男である。
刃物は苦手なのだよ。
ピューラー万歳である。
ソファーに座り、お茶を飲む。
気分は、違いのわかる男だ。
実際にはブラックコーヒーは飲めないが。
胃が弱いから濃いコーヒー飲むとダメなんだよ。
気分悪くなって、お腹まで緩くなるから。
お茶の用意が出来、女性二人がソファーに座る。
「初めまして。私はハルバーの妻で、隣にいるのは娘でマルガレット姫のお世話をしております」
「そうなんですか。……もしかして姫と婚約した私のことが気にくわないと、いや姫が断ってくれとか……」
『いえ、違いますから!』
うぉっ。ビックリした。
でも、姫に嫌われていなくて安心した。
「では、どうして?」
「はい。先ほど姫が幸せそうな顔で部屋に戻ってきたので私(娘の方)がお聞きしたところ、私の事を好きになってくれた方がいて、その方と婚約されたとおっしゃったので、ひと言お礼を言いたくて」
「私も旦那さまが姫様を本当に気に入ってくださった方が現れたと聞いたので。私は姫の御守をさせて頂いた時期がありましたので、お会いしたく旦那さまに言ったところまだ明るい時間なので(現在三時くらい)娘と二人で会ってみたらいいとの事でしたのでお邪魔させて頂きました」
「なるほど」
何が「なるほど」なのかは言った俺もわからないが、聞いている人も何となく納得するであろう絶妙な返しだ。
とはいえ、接した感じあちらの二人は俺に対して悪感情を抱いていないで一安心だ。
特に姫に嫌われていなくて安心した。会った早々嫌われでもしたら悲しいからな。
「少しお聞きしたいのですが、私と姫との件について、お二人はどう思いますか?」
「そうですね。姫様を見るのではでなく、姫様の持つ権力のみを欲する方でしたら反対しておりましたし、何よりも姫様が嫌がります。現に今まで御独りを貫いていたのもそれにあったからです」(奥方談)
「でも本日の姫様は、とてもマツシロ様の件を嬉しそう話されていました。私を見てくれたと。私の姿、形を見ても全然気になさらずに……」(娘談)
「いえ、私は姫の姿を見て一目ぼれしたのですが」
『そうなんですか?』
「無論。会って早々、姫の性格なんてわかるはずなんてないじゃないですか。これから話すことはお二人の胸に秘めていて欲しいのですが、元々私は美男美女を苦手なんです。もちろん姫の容姿がダメだとかではありません。何せ私が一目ぼれしているのですから。あの優しそうな目、ふっくらと柔らかそうなほっぺ。あまり高くなく可愛らしいお鼻。ぽてっとした唇に慈愛を感じる体型。私の理想とする全て揃っているのが姫なのです。しかも何でも奥ゆかしいとの事ではありませんか。私の世界(平安時代)では、姫のような方を愛する方は多いんですよ。ですから私が一目ぼれするのも仕方ないのかもしれません(錯乱)」
「そうなんですか」
「いえ、私共も美しいと前々から思っておりましたが」
「ですから、この事を姫に伝えていただきたく」
「わかりました。私が責任を持って姫様に伝えさせて頂きます」
「私も旦那さまに伝えさせて頂きますわ」
▽
その日、マルガレット姫の部屋で王族一同と宰相や将軍、またまた各大臣が噂を聞き押しかけ一大パーティが開かれた。
その席でマルガレット姫は終始笑顔であり、それを見た王や王妃が嬉しくなりドンドンと酒を関係者に勧めていく。
こうしてパーティ内で、将軍の母娘が話したことに色々尾びれが付いてマツシロの株が連日というか毎分ストップ高になり、誰というかここに居る人以外知らぬ間にドンドンとマツシロと姫との話が進んでいった(無論、姫は喜んで受け入れている)。
で、何時の間にか城の一角に住んで結婚をして更に子どもを三人産んだと想定をし、その三人の子どもの未来まで話し合われたことなど、マツシロを含め、誰も予想だにしていないだろう。
幾ら三十過ぎのオッサンの妄想も流石にそこまでは想像出来ないのだ。
そなような訳でマツシロは、その場にいた王族一同やらお偉い高官から熱烈な歓迎を受けることになる。
そのそも姫の結婚に関しては皆気にしていたし、対外的にもあまり宜しくない状況だったのである。
ただ姫を不憫というか愛していた王族が、その件を触れなかったのでかれこれ十年近く悩みの種だったりしたのだ。
それが、一気に解決をした。
しかも魔法とかいう手品が使える人物で王の娘をあてがうに値する重要な人物だ。
その人物が姫のことをいたく気に入っていており、何よりも姫も満更ではなく乗り気との事だ。
一気に問題が幾つも解決をしたのだから、マツシロと話をしたどころか会ったことのないのにいきなり好感度MAX状態である。
しかも何故か会ったことがないのに、もはや友達を飛び越えて家族のような扱いである。
わかるであろう、マツシロの戸惑いが。
こうしてマツシロの立場というか、マツシロそのものが混沌としていくようになる。
だが、仕方ないのだ。
カオスを招いたのは、魔法というより錯乱した姫への熱い思いだったのだから。
でも彼も幸せだったかもしれない。
一歩間違えたら、ただの危ない人だったからな。
【一気に加速していく展開。混乱していく王国。マツシロ明日はどっちだ】




