12.出会い
翌日、王様に謁見することになった。
精神的にぐったりして屋敷に戻る。
明日の件を領主さんの家宰と話すと。
「それは、それは……」
家宰もまた絶句である。
君はまだいい。
俺なんて国のトップと会うんだからな。
しかも領主さんと王子と現役の将軍に紹介されたという鳴り物入りで。
胃が痛くなりそうだ。
とはいえ、寝つきのいい俺はベッドに入るなり夢の中へ。
昨日の夜、頑張ったのだから仕方ないんだよ。
俺はオッサンだから学生の頃と違い、二徹など出来ないのだよ。
翌朝、昨日よりも立派な馬車が来た。
昨日の馬車も立派だったが、今日はもっとすごい。
何か某引っ越し会社のCMでも見ているようだ。
キリンさんが好きですみたいな……。
ほら、ご近所さんにも注目されているじゃないか。
▽
近所の騒ぎも何とやら、城に着くなりハルバー将軍が迎えに来た。
もう、あなた偉いんだからこんな所にヒョイヒョイ来たら、部下が疲れるじゃない。
と、オネエ口調で言ってみる。
と、いうか将軍くさっ!
オッサン、酒臭いぞ。
「すまん、マツシロ殿の回復魔法を試して欲しくてだな……」
何でも話を聞くと、俺に回復魔法をかけて貰う為に昨夜浴びるほど酒を飲んだらしい。
周りの人に迷惑じゃないか?
こんなに酒の臭いをプンプンさせて。
そもそも自分じゃなくても良かろう。
「だったら部下に試させたら?」
「いや、自分に掛けて貰わないとどれくらい効くかわからないじゃないか」
この将軍、好奇心いっぱいだな。
だが、大切な部下になど頼めるかなどの理由だったら、もっとポイント高かったんだがな。
やっぱ軍事系だけあって脳筋なのだろうか?
いや、プロレス系だな。
と、思いつつも将軍に回復魔法を掛ける。
「おぉ! すごいな! 頭の重さなどがとれたぞ」
それは結構ですな。
それよりも早く謁見してしまおうよ。
こっちはさっさと帰ってゆっくりしたいんだからさ。
何か一連の事を見ていたら本部長から近所のプロレス好きのオッサンに変換されたよ。
▽
ハルバー将軍に案内され、謁見の場へ着いた。
金と赤で統一された豪華な造りだ。
まあ他国からの使者も来るから見せつけるんだなと想像したりした。
ちらっと見たが王様、意外と若く感じるな。
しかもなんか引き締まっているし、体型からいえば俺の方が王様っぽいな。
妊娠三か月だし。
でも味の薄い食事してれば太りづらいよな。
塩分が少ないとそんなに食べれないからね。
とりあえず、入ったのだが、どうしたもんだろ? と思っていると、イスを用意され着席するように言われた。
王様に礼をして座る。
「うむ。マツシロ殿、昨日今日と城に呼んですまんな」
俺が席に着くと、王様が俺に向かって口を開いた。
てか、王様まで俺の事を殿付きとは驚いた。
「いえ、お顔を拝見でき恐悦至極にございまする」
何か時代劇で見たのを参考に挨拶をする。
多少の言葉遣いの怪しさも何のそのだ。
周りを見ると、ハルバー将軍と王様、そして昨日の王子が居た。
他に王妃らしき人とちっこいオッサンくらいだろうか。
よく兵士がズラーって並んでいるのを映画などで見たことはあったが、そうではなくて安心した。
と、考えると非公式の謁見だな。
結構、小説を読んできたからわかる。
多分、俺の魔法と礼儀作法の件で非公式にした方が都合良かったんだなと賢しく思ったりした。
で、これから俺のプレゼン? というか何というか胃の痛くなる時間が始まるのだ。
まあ少人数なだけいいか。
俺って奴は、大人数の場での発表って緊張して潰れちゃうんだよね。
幸い十人以下だから、そこまで緊張しなくて済みそうだ。
▽
「ふむ。ではマツシロ殿……」
と、ちっこい人が口を開いた。
どうやらこのオッサンが王様を含め、紹介してくれるらしい。
・王様はブンドリック
治世12年。国で管理する孤児院を作った。
・王妃はマリーナ
第一正妃でヘンドリックの母。
・王子はヘンドリック
嫡子。次期国王。
・将軍はハルバー
代々将軍職の家系。
・ちっこいオッサンは宰相でジェスタ
自分のことなので名前しか言っていない。
簡単にまとめるとこんな感じらしい。
今回は俺のスキルというか魔法の紹介なので手早く済ませたってな感じだ。
宰相が王様の紹介をしている時に王様が咳払いして催促してたからな。
宰相も大変だな。
まあ給与もいっぱい貰ってそうだから仕方ないかもしれんが。
そんな訳で魔法を披露である。
今回は調味料魔法である。
生活魔法は時間があれば披露といった感じだ。
昨日、ボールのような容器を用意して貰うようにお願いしておいた。
で、砂糖、塩、米酢、醤油、味噌と順番に出していく。
く~、米酢の臭いが俺にしみるぜ!
王子がそれを見て。
「これが調味料魔法か」
と驚いていた。
実際はスキルだが、もう俺的にはどっちでも構わない。
「これが、ムドの手紙にあった味噌というやつか。どれ一つ……」
周りが止める間もなく、王子が味見をする。
毒見ともいう。
まあ昨日、氷食べたから大丈夫と思ったんだろうな。
「少し、塩辛いな。湯を……。マツシロ殿、湯をお願い出来るか?」
「大丈夫ですよ」
「父上、これがマツシロ殿の力です」
王子が自分のことのように言う。
まあ別にいいが。
「うむ。すごいな」
「あら、本当に」
「これに味噌を入れるんだ」
ここでも銀のカップ登場。
お湯をすくって味噌を溶かす。
「うむ。美味いな」
「ええ、本当に」
「何とも味わい深いのう」
好評である。
ただお湯に味噌を溶いただけなのに。
俺からするとダシがないので物足りない。
わかめ入れたい。
「で、こちらに野菜をつけても美味しいんですよ」
キュウリとかニンジンとか。
トマトとかは知らんが。
あ、将軍が走っていった。
で、ザルに色々な野菜がまんまドーンと。
こっちにもキュウリがあったので、水生成で洗うことにした。
「これが水生成か。何ともすごいのう」
「はい。限度があるようですが本当にすごいです」
王様と将軍がこの魔法について何やら話していた。
とりあえず、キュウリを洗って味噌をつけて食べる。
うむ。モロキュウだ。
味は似たようなもんだ。
無論、切ってないのでそのまんまの形だ。
それを見て、将軍もガブリ。
「これは酒のつまみに宜しいですな。ただ、少し食べにくく感じるな」
とまあ至極当然のことを言ったので、ステッィク状に切って持ってきて貰うことになった。
もう将軍、パシリである。
で、戻って来るなりみんなで実食である。
評価は上々。
で、他に醤油・砂糖・塩・米酢を使って和風ドレッシングで他の野菜を食べたり、パンにバターと醤油をつけたりと試食タイムは、ここにいる人たちがお腹いっぱいになるまで続けられた。
そして一息ついた所で王様が爆弾を投下したのだ。
▽
「マツシロ殿は、まだ独身とのことだが」
独身どころか、この世界では結婚適齢期の独身女性と話してもいない。
というか、急にどうしてこんな話になったのだろうか?
結婚相手でも紹介してくれるのだろうか?
「はい。独身です」
「なら、我が娘など、どうだ?」
噴いた。
一応そう言った場合も想定していた。
でも、公爵の娘までくらいかなぁと思っていたのだが、王様の娘とは。
多分会ったことないが、美女な気がする。
王様も王妃様も王子も美形だし。
何か美女って何考えているかわからないからイヤなんだよな。
いや、偏見で物を言っているのは自分でもわかっているけど、何か苦手意識が消えない。
しかも王族である。価値観も違うだろう。
とはいえ、それは相手にも言えること。
三十過ぎの何とも冴えない中年オヤジと結婚など罰ゲームでしかなかろう。
しかも花よ蝶よと育てられてきたのだ。
そう考えると、不憫でならない。
とりあえず少し話をして相手が嫌がったら、適当な口実をつけて断るようにしよう。
で、返事をする。
「でしたら、一度お会いしたく」
「で、我が娘は幾人かおるが、マツシロ殿はどんな女性が好みなのだ」
「特に好みはないのですが、あまりに美女は少し苦手なので考慮して頂けたら」
「ほう。美女以外なら」
「強いていえば、大人しい性格で見た感じは少しふくよかな方がいいですね」
「そうか! そうか!」
何かテンション上がってきた、王様。
周りを見ると嬉しそうに笑っている王妃さまと王子が。
宰相も何やら口元が緩んでいるし。
む。何か地雷を踏んだか?
「将軍、すまんが」
「はっ! すぐに」
将軍は、王様の前だというのに結構な勢いで廊下に出て行った。
何か周りは嬉しそうだし。
で、待つことしばし。
「お父様、私をお呼びとのことでしたが」
部屋に入って来た女性は、何というか俺にとってドストライクな女性だった。




