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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白嘘【しろうそ】

作者: 紅於

麻宮瑠李【アサミヤルイ】

 ・高校2年

綾瀬千春【アヤセチハル】

 ・高校3年生

 ・瑠李の兄の恋人。

麻宮都【麻宮都】

 ・麻宮瑠李の兄。千春の恋人。

 ・当時大学生



私は、あなたのすべてを愛してしまったのです。


~白嘘~


Side 瑠李


――初恋が甘いだなんてよく言うけど、私の初恋はと言えば、ただひたすら後味の悪い苦味を残していっただけだった。

甘い甘いクリームなんかじゃない。

ひどい味のレモンピール。

そんな私の昔話。

--------

「先輩。好きです。付き合ってください」

「…え?」

「貴女が、好きなんです。高校に入学した日から、ずっと、あなたが。」

学校の屋上という王道な場所で告白した私は、さらりと彼女の髪が風に遊ばれるのを呆然と眺めた。

当の彼女は顔を伏せて唸ったり独り言を呟いたり忙しいみたいだ。

まぁ、その悩む姿も今の自分からすれば魅力的なのだけど。



なんて。


告白したのは自分なのに、何故か客観的だ。

少しの矛盾と嘲笑を交えて、再度彼女を見た。


「おかしいのは、わかっています。だって、私たちは女同士だから…拒絶しても、いいんですよ?」

「っ!それは、その…っ!」

「好きか嫌いか、どちらかを私に、ください。」

「っ」

やだなぁ、そんな泣きそうな顔して。

私が悪者みたいじゃないか。


くつりと喉の奥で笑いを堪えながら手を差し出した。


「――おいで、千春。」


彼女の愛らしい名前


「あ、」

「いい子・・・。千春…。」


手どころか緩く抱きついてきた千春に、見えないように緩く口角をあげた。

知ってるよ。あなたがこれに弱いの。

だって――――。


私は、兄さんに似ているんでしょう?


Side瑠李

麻宮都。

私、麻宮瑠李の実兄。

私と三つ離れていて、知識人だったと思う。

他人から好かれていた方だと思うし、成績も優秀な華奢な麗人だった。

男に麗人は変か?

まぁ、そんな感じの人。

私は兄が好きだったし、当時兄と付き合っていた人も好きだった。

でも、別れは突然で。





6月14日。

兄は白い煙なり、空に上がっていきました。

突然だった。

兄の彼女、綾瀬千春と兄の、付き合って2年目の記念日。

まさか、外出先でトラックに突っ込まれるなんてドラマみたいな話。

信じられなかった。

千春先輩を庇ったんだって。


病院で会った兄は、薄い化粧がしてあり、穏やかな顔だった。

なのに。


「ごめんなさい。ごめんなさい。私が、私が外にいこうなんて…っ」

「…」


兄はあなたを恨んでなんかいない。

それからだ、全部おかしくなったのは。


「瑠李ちゃん。私がるいちゃんを守るね」


なんで


「瑠李ちゃんは、都くんに似てるね!」


やめて


「瑠李ちゃんは、都くんに…」


私は兄さんじゃない。

代わりになんかなれないんですよ。

それでも、私に世話をやく彼女が可愛くて、いとおしくて…

こんな、依存しあってはいけないのに。

なのに。


「瑠李ちゃん、だいすき!」


なぜ貴女を愛してしまったのだろう。

――――絡んだ楔をほどかなくちゃ。


Side瑠李


結局あのあと、先輩から帰ってきた返事はごめんなさいだった。

妹にしか見えないんだって。

でも、先輩は私が冗談を言ったと勘違いした。

よかったともう反面


「瑠李ちゃん!このケーキ美味しいね!」

「はい。でも、先輩のも美味しそう…一口頂いてもいいですか。」

「はい、あーん。」

「……うぇ・・・甘い・・・チョコレートのが、すきです。」

「あはは、瑠李ちゃん甘いの嫌いだもんね?都くんと反対だぁ」

「っ!」


また、兄の名前。


「瑠李ちゃんの目、色素薄くて綺麗。」

「わ、そんな覗きこまないで下さいよ・・・兄譲りですよ」

「そっかぁ」


兄と重ねられてるとわかっていても、それでも、この気持ちは・・・・私はなかなか先輩から離れられなくて・・・・・・

重ねられてもそばに居られるなら。

痛みを訴える胸の痛みに嘘をつこう。










Saide瑠李


「懐かしいねぇここ」

「はい。」


あの告白から季節が一巡した。

何も変わらない私たち。

でも、時は無情に過ぎ去っていったんだ。

もう、このまま今までどおりの関係でいたい・・・・そうおもったのに。


------

「瑠李ちゃん、就職だっけ?」

「はい。親に楽させたいので」

「そっかぁ」

「先輩は?」

「私は、医療系にいきたいなぁって。怪我した人とかたくさん助けたいの。」

「大学、ですか?」

「そうだね…ここから、少し離れたとこ。」

「会えなくなるんですか?」

「会いたいと思えばあえるよ」


他愛のない話をして、先輩は兄の墓に花を添えた。


「瑠李ちゃんは水仙、もってきたんだ」

「はい。なんか可愛くて…」

「…ねぇ、水仙の花言葉、知ってる?」


―――ゆらりと、先輩の瞳が揺れた気がした。

















Sideチハル


私は、都くんがすきだった。

優しく笑う顔も、声も、柔らかな髪も、彼の全てが。

もちろん瑠李ちゃんもすき。

都くんとは反対の性格。

いつも冷静で、人当たりのいい笑みを浮かべている。

そして、少しさめた瞳が、なんだか野良猫みたいだなって思った。

不思議な子。

3人で過ごすことも少なくなくて、とても楽しかった。

都くんが私を構うと、瑠李ちゃんが呆れたように都くんを苛めてたなぁ。

そんな日が楽しくて、ずっとずっと続くと思った。

でも、そんなことなくて。


―騒がしい雑踏とサイレンのなか、都くんとの最後が忘れられないよ。


「やだよ!都くん、目を開けてよ!やだ!起きてよ!」


私を庇わなければ良かったのに。

トラックに引きずられた彼からは、生ぬるい赤が流れて私を汚した。


「千春…泣かないで、」

「都、く…ん」

「俺と一緒にいてくれてありがとう……」

「なに、いって…」

「千春の、泣き顔好きだけど、笑ったかおが一番好きだよ…」

「こんなときに・・・ばかなこといわないで・・・!」


私の腕に抱かれた彼は、うっすらと笑いを浮かべているが頭からの出血が酷い。


「っ!早く、救急車を…!!」

「千春、よく聞いて」

「なに・・・・?!」


私は、錯乱していたと思う。

そんな私をみて困ったかおをし、震える手で頭を撫でた。


「瑠李を、よろしくね。あいつ、結構寂しがりやだから。」

「なに、それ…」

「はは、最後のお別れみたいって…?」


肩で息をしながら都は続けた



「もう、さ…手も足も冷たいんだ…眠たいし…あは、情けないな、俺…また、千春を泣かせちゃったよ…」


ごめんね、と告げる彼を思わず抱き締める。

徐々に熱を失っていく体に恐怖を覚えてかちりと、噛み合わない歯が鳴る。


「最後はかっこよく決めたかったけど、ダメだ」


ここで初めて、彼の涙を見たと思う。


「もっと楽しいことしたかった。もっと遊びに行きたかった。もっと千春の喜ぶかおがみたかった。もっともっと、抱き締めたかった……千春との子供が、欲しかった。」


胸がひどく締め付けられた。


「誰よりも、好きだったよ。千春…誰よりも、君を愛してた……だから。」


――――お別れの、キスをして。


彼の唇は、もう冷たかった。

その後、病院に運ばれた彼は、目を冷ますことはなかった。

その場に駆けつけた瑠李ちゃんは、自分だって、いや、私よりも悲しいはずなのに、優しく私を抱き締めた。


大丈夫ですよ。


先輩は悪くない。


ね、笑ってよ。千春。


ねぇ瑠李、強がらないでよ。

でも、その優しさにすがっていたのは、私だから


大好きな瑠李ちゃん。今から私は貴女に嘘をつきます










Side瑠李


「先輩?」

「ん?」

「あ、いや、何か考え事しているみたいだったんで…」

「あはは、何でもないよ。そうだ、さっきの続き。水仙の花言葉はね、エゴイズム。自己中心。そして、『私に気づいて』」

「…?」

「私ね、瑠李ちゃんのこと大好き。」

「…私も、先輩のこと好きです。」

「ううん、違うの。」

「違う…?」


あぁ、そうか。先輩が大好きなのは、大好き、そう、すき、なのは……っ

その先の言葉は、叫びは、かみ殺して……。

先輩に見えないように、拳を握りしめた。

どす黒い感情と、深い海におもりで沈められたかのような、冷たい動揺が体中をうねって、行ったり来たり。もう、慣れたはずなのに。苦い苦い味が広がって。

そんな私なんかの、「私」の気持ちなんか知らないで……!



貴女は笑うんだ。

いつか兄が言った「天使のような最高の笑み」で。


「今の…大好き、はあの日の答えなの。」

「……あ、の日?」


はは、やだなあ先輩。

もう、もういいですよ。


「瑠李ちゃんが、私に告白してくれた時の…本当の返事」


照れたように、それでも精一杯に笑みを私に向ける。


「天使のような最高の……」

「でも、皆の…世間の目では、女同士なんて、冷たく見られちゃうでしょ?それに、瑠李ちゃんには道をはずして欲しくなかったから…ごめんね、」

「綺麗事ばかり・・・・!」


小さくつぶやいて耳をふさいだ。

どうして、貴女って人は、どうして・・・!!

「瑠李、ちゃ…?」

「もう、いいですよ。結局貴女は…兄と私を重ねておいて離れていくんですね?


こんな、二人で会えるのが最後かもしれないこの瞬間にまで。」


「ち、違うの!それは!」

「違う?いつもいつも『兄と似てる』『ここはそうじゃないんだね』『兄ならこうだった』って口癖のように、告白して私の気持ちを知っておきながら…貴女はそうやっていつも、『兄』を見ていた。」

「話をきいて、瑠李ちゃ」

「聴く話なんてないでしょう?もう。さっきの告白も、私が兄に似てるから?兄の代わりに?それとも二人で会えるのが最後だから?そんな同情なら、依存ならいらない。私を見て貰おうと、努力した結果がコレですか?……最っ高ですよ。先輩。」


頬に伝わる、いつもは熱い邪魔な液体は、今は困った先輩の顔をぼやかして、目隠しをしてくれる。

私は皮肉たっぷり、最後に突き放すように冷たく叫ぶと、にっこりと彼女が大好きで、大好きで、愛していた「兄」の笑顔で言った


「『さようなら、千春』」

兄さん、先輩が貴方に向けてたのは「天使のような最高の笑顔」?

私には、「悪魔のような最悪の笑顔」にしか感じなかった。

それは、今日ほど痛感したことはないよ。

先輩の声も聞かないで、私はその場を去った。






















Sideチハル


「あはは・・・ばかだなあ私・・・・」


瑠李ちゃんの後ろ姿、もう滲んで見えないよ。

確かに、都君と瑠李ちゃんを重ねていたのは事実。そして、瑠李ちゃんを好きになったのも事実。

でも、でも、私は弱いから瑠李ちゃんの優しさにまだ都君を重ねてしまうから。幸せにできないから。

いいんだこれで。けんか別れしよう。

貴女の中から私をいなかったことにしてください。

貴女を好きな気持ちに嘘を。


彼女を愛した少女は、偽りきれずに傷つき。

愛を受け入れなかった少女は、嘲笑に浸った。

私たちは、白いウソをつき合っていたのです。








―――――

――初恋が甘いだなんてよく言うけど、私の初恋はと言えば、ただひたすら後味の悪い苦味を残していっただけだった。

甘い甘いクリームなんかじゃない。

ひどい味のレモンピール。

あの日の貴女の告白は、確かに私に心地いのいい胸の高鳴りを伝えた。

私もだよ。すき。大好き。


あの時そう言えたら。


でも、貴女を守る偽善の嘘で。

ごめんなさい。

―私はあの時。笑えたはずだから。







ボイスドラマの原作となります。

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