平和の最期(ピースエンド)
星刻1:00。
ヴァイシェーシカ魔法学院の五時間ほどの午前の授業は終わりを告げ、頭を休める約40分くらいのお昼休みが始まる。
しかし、アンディはこの五時間を勉強で頭を疲れさせたのではなく、エスターとの恋人ごっこに付き合うか悩んでいた。結果、
「とりあえず!セリー姉さんには事情を話す!それからなら彼氏になっていいよ!」
「アンディ君はさっき私にひどいことしたの覚えてないの?食堂はもちろん、私の部屋…」
「部屋とな…?」
「わーわーわー何でもないから!とりあえず食堂いこ、お昼はそこにセリー姉さんも来るだろうし」
一年生寮の食堂へと一年生三人は足を向ける。寮の二階に住む男子が三階の女子の部屋に入ったとなると男子には独房1ヶ月の刑罰が与えられるのだ。それは、死に等しい罰だ。なのに、逆に女子が男子の階に来て部屋にも入って何も刑罰が与えられないのはなんか差別だ。
「なんでダメなの?アンディ君には姉さん離れが必要なの!まずは姉さんて言うのやめなさい!先輩はどう?」
「ダメだね、大体僕は生まれて最初に目に映ったのがセリー姉さんだったんだ。僕はその時に一目ぼれして…」
「お前ら、食堂で仲良くして喧嘩して、朝の教室に来た時は仲良くして、今また喧嘩してんのかよ?」
ケンジーが後ろに居た。身長が高いので上級生だと見間違えるが彼は一年生でアンディのこの学校で唯一話しかけてくれる友達だ。
「「だってエスター(アンディ君)が!」」
「息までピッタリ、結婚しろよお前ら」
ケンジーは先を歩いて食堂へ行ってしまう。エスターは顔を赤くしてうつむいてる。けっこーケッコ…言ってる。僕の結婚はセリー姉さんとしたいね。
と考えてるとあっという間に食堂。
お昼のメニューはパスタに野菜サラダだ。ソースが種類豊富でアンディは味が濃いミートソースが好きなのだ。野菜サラダにはミニトマトがある。同じトマトなのにミニトマトだけは苦手だ。甘味なんてのはなく、ただ酸っぱいだけの赤い生食品をどうして野菜に盛り付けるのだろう。
でも一皿は絶対食べなくてはならない食堂の掟。そうしなければおかわりができないからだ。
「まぁ、セリー姉さんが食べてくれるからいいけどね」
アンディは大好きなミートソースのパスタと大嫌いなミニトマトが5個も盛り付けている(食堂のおばちゃんの気まま)野菜サラダを乗せたトレーを持って、朝に使った同じテーブルに座る。その隣に自然とエスターが座る。
「ちょっと?エスター?そこはセリー姉さんの席だから」怒りマーク。
「あのね?アンディ君?私とアンディ君は恋人なの、だからここに座るのは当然」ハート怒りマーク。
「そうかそうか、じゃあ今日はここに愛しのセリーヌ姉様が降臨するのか」
向かいの席に当然のように座り隣の椅子を摩るケンジー。さっき呆れてどっか行かなかった?
「はぁ…じゃあ、セリー姉さんは僕の向かいの席。それと、エスターはセリー姉さんの前であまり僕に近づかないこと、いい?」
「はぁ?何それ?全然姉離れしてない!する気ないじゃない!いいの?ばらしてもいいの!?」
「ちょっ!ここお昼は先生も使うんだから…!」
二人は静かな食堂でも喧嘩する。いつもはアンディとセリーヌ、おまけでケンジーの三人で食事を取るのだ。だけど、今日のセリー姉さんは遅い。食べ始める前には来ているほど時間に律儀なのに。
そこで、ケンジーがいきなり独り言を呟いて、と思ったがどうやら通信のようだ。誰かと会話をしていた。
「え?そうなの?それは大変だ、おいアンディお前どうすんだよ?それ?」
「え?なに?それ?」
「トマトだよミニトマト、お前食べらんねーだろ?アトピー、蕁麻疹、息切れ、心臓病いずれかランダムで起こるんだろ?どうすんだよ?」
そういえば、ケンジーには昼食をする際に「なんでトマトたべないんだ?」と聞かれたことがある。僕は嫌いだからとかはっきり言えなくて冗談のつもりで、様々な症状が起こるからセリー姉さんが食べてくれる、と誤魔化したのだった。
「それならセリー姉さんが…」
「だからだよ、お前聞いてないのか?今仲間の報道部二人が学院門を急いで出て行くセリーヌさんを見たって言ってるぞ!くそ!俺の隣で激写の作戦が!くそ!」
「え、じゃあここに来ないの?」
ガーン。残されるミニトマト。おかわりできないパスタ。隣でクスクス笑うエスター。しかもこのトマト、皮が少しふやけてて余計食べる気がしない。
「なに?アンディ君ミニトマト食べれないの?可愛いなぁじゃあ食べてあげよっか?」
「え?いいの?ぜひどうぞ!」
「でもでも、いつもはセリーヌさんに食べてもらってるんだ?あははっ」
なにも笑うこと無いじゃん。大体僕の舌には合わないだけで他の人の舌には合う味なミニトマトが良くないんだ。アンディは普通のでかいトマトなら食べられる。
「じゃあ、セリーヌさんがいなくなったら誰も食べてくれないね?ーん?あれ?」
アンディの皿からミニトマトを一つ取り食べるエスター。その顔は酸っぱい顔ではなく少し驚いている。
前の席のケンジーがエスターに向けてグッと親指を立てている。この二人はそんなに仲が良かったのだろうか?
「そ、その時は…食べる」
「でも、食べれない方がいいかもしれないよ?だってセリーヌさんが食べてくれるかもしれないんでしょ?」エスターが二つ目を頬張る。
「それは…そうかな?やっぱりそのほうがいいかな?」
アンディにとってミニトマトをいつか食べられるようになるというのは壁で、それをセリーヌと一緒に乗り越えるというのが嬉しかったのだ。食べれてないけど。
「じゃあ、私が恋人になって食べてあげよっか?セリーヌさんがいなくなってもトマト嫌いを直さない、どう?」三つ目。
トマト嫌いではない。ミニトマト嫌いだ。とはいえ同じトマト。ミニトマトをこれから3年間食べることが果たして自分にできるのか。
「それは…そうだな、悩むけど、でも卒業まで耐えられるといえば…」はっきりしないアンディ。
そして、エスターは四つ目を手に取りパクリと一口。ミニトマトに耐性がある人はいいよなぁ。
「あと一個、これを食べたら恋人の契約完了、私が契約者で、アンディ君が精霊だよ?」
「え?僕が精霊?」
「私が会話に乗せてるからね」
そっか、精霊との契約は会話がないと成立しない。会話をして真名を聞き出すことで契約完了。会話は契約者から話し始めるもので、契約内容も契約者が決めてから精霊との合意で決まる。コツは相手に先手を取らせないこと。会話に乗せるというのは手法の一つだ。
「じゃあ、そうしようかな、うんミニトマトはやっぱり無理、最後に食べたのは帝都の実家だけどあの味を思い出すと吐きそ…」
「うん、んーー酸っぱい。流石に五個は飽きるなぁ。じゃあ契約完了、これからよろしくねアンディ君」
「あ、でもセリー…」
「他の女の名前はしないの!じゃあ早速だけど今日の学院終わったらすぐ父様来るから学院門を出ないと…」
ま、いっか。エスターがいれば勉強とか教えてもらえるし、アルケミストにも推薦で入れそうだ。
アンディに楽しそうに話すエスター。
(その揺れる長い菫色の髪、微かに香るラベンダーの落ち着く香り。低身長に似合う小さな顔を見て、かわいい。なんて…)
「父様はぬいぐるみを箱にも入れないで手に握ってくるのよ?だから、いつもは学院門に来る前に駅で会っちゃうの、ここって田舎だから誰も利用する人いないし…て聞いてた?」
「え?あ、うん。カーター氏も親ばかだなぁ、あはは」
「そ、そうよね?ごめんね?アンディ君は普通にしてればいいからね?あ、なんなら父様を思いっきりおだててもいいわよ、ありのままのアンディ君を見せて見れば…」
(思ってほしいな)とエスターは心の中でずっと思っていた。
アンディはパスタを半分食べ終わりソースだけかけに食堂のおばちゃんのところへ行く。なんかの話もしているようだ。お辞儀もしている。
なにかあったのだろうか?エスターは自分のサラダに盛り付けてある赤くて丸いミニトマトを食べた。
「やっぱり私のほうが酸っぱい」
◆
「はあ、はあ、やっと坂に来た…もう、昼時じゃねえか…なんで誰も居ねんだよ帝都のはずれだとしても田舎すぎんぞ…」
アンドリューはうさぎ跳び状態ではなく、みの虫状態も難しく、ダンゴムシ状態で転がり続けて、朝にアンディとセリーヌが使っていた丘に続く坂の前まで来ていた。足音が聞こえる。近くの林の中にごろごろ転がり隠れる。
「おい!いたか!」「いや、いない!」「なんて素早いやつだ…余計生かしておけないな」
足音は散って遠くなる。
「なんでこうなったんだ…」
丘から投げ出され着地ができず体を動かすこともできなかったアンドリューは頭から地面に落下。頭をぶつけたが鍛えているので最悪、意識は失わずに自我を保つ。
しかし、問題が起きたのはそこからだった。目の前にテントがあった。誰かがここでキャンプをしていたのだろう。帝都のすぐ近くのはずれにある田舎の森でキャンプにはもってこいの場所なのだから。そこから現れる三人の剣を携えた男を見るまではそう思っていた。
「お前誰だ?」と言われ、「通りすがりです」と言い、「ここを見られたら生かしておけん、死んでもらう!」と言われ、振りかざす剣を意識が飛びそうな頭で転がり、躱し、他の二人も自分を殺しに剣を本気で振るのだから困ったものだ。もう4時間くらい逃げ回っている。大体ここは土地勘がないのでどこへ転がっているのかわからないのだ。
そうして、避けて、逃げてやっとここまで来た。
「確かセリーヌがもうじきここを通りかかかるはず…いやその前に…」
すると、耳の中がキィィィンと唸る。通信。セリーヌが来る前に通信すると言っていた。魔力通信機を使って学院の自室からかけているのだろう。
『聞こえる?アンド…』
「セリーヌ早く来てくれバカ親父のせいで殺されそうなんだ、丘に続く坂だ」
『な、何があったの?今学院門にいるから…』
がさっと後ろの林が揺れる。
「今ここから声が…い、いたぞーーー!こっちだ!へへへ!」
「くそ、見つかった早く…!」
通信はつながっている感じはするが応答がない。声を聞きつけた二人目がやってきた
「今度は逃がさん、お前は右、俺は左から突く!いくぞぉ!」
じりじりと相手は狙いを定める。剣から槍に変えていやがる。今度はよけられそうにない。とりあえず、相手に距離を取られるのを避けるため逃げるように転がる。が運が尽きたのか木に突っかかってしまった。突き出される槍。
一本目は僅かに開ける股で槍の先端を見極め刃ではないところを狙い挟み込む。二本目、腰のベルトの鋼で出来た留め具で弾き返す。腹に強い衝撃が来るが痛いなど言ってられない。すると、三本目の槍が頭の上からやってくる。三人目が来た。しかもこのタイミングかよ。その槍の先端を歯で挟み込み抑える。
「こいつ、なんで死なないんだ!」
二つの槍を抑えながらアンドリューは待つ。二本目の弾かれた槍が突っ込んでくる。流石にこれ以上はぶち破っちまうが…、
「もー…、しねよぉぉ!」
カンッと弾かれる槍の先端。その先端が粉々に砕け散る。あんぐり口を開けながら男は自分の槍を弾いた武器、人間を見る。両手を覆うような両刃形状の盾のような剣だった、その人物は帝都出身の貴族を表す強い金色の髪を風になびかせる女性だった。
「…セリーヌなのか?」
濃い金色の髪の女性は前髪が乱れてあまり素顔がわからない。だが、魔法学院の制服を着ていて自分を助けてくれるということは一つ年上のセリーヌ・スティーヴンなのだ。アンドリューが抑えている男二人の槍の柄を切断、いや武器が粉々に砕け散った。
「な、なんだこれは!?」
「アンドリュー無事?」
「あ、ああ、間一髪だ…」
こちらを一目見て目の前の男たちに両刃剣の先を向ける。
「その格好…あなたたちは貴族邸を襲った武装集団ですか?」
「くそ、変な武器使いやがって、魔法で攻撃しろ」
その女性の口から聞こえた声は感情を押し殺した低い声だった。相手は聞く耳はないみたいだ。三人は距離をとりながら錬成を始める。
三人の男の体の前に魔法を発動するために必須な展開式が現れる。その展開式の魔法は赤い、火の精霊を錬成している。
「展開式?そんな魔法で私には勝てません、もう一度聞きます…」
火の精霊を錬成し炎を顕現する。四大元素の中で一番殺傷能力が高い火の精霊は戦争に使われることが多い。本来は熱っして温める事で料理を作ったり、寒い時に暖を取るために暖かさを与えるためにあるはずの力なのに。
「あなたたちは貴族邸を放火した武装集団ですね?」
炎は三人が使う三種類の形で女性を襲う。渦、柱、直火。渦は広範囲の射程、柱は地雷型の近接、直火は遠距離の超炎熱。
その中を、女性は悠然と歩く。渦は風になり辺りに散り、柱は作動前に錬成を解かれ、直火は両手の両刃剣で切り裂かれる。魔法が女性に近づくたびに掻き消える。
「上位六属性…!こいつ、四大元素つかいじゃな…」
女性に光の速さで近づかれ両刃剣の腹で叩かれる。直火の魔法を使ったリーダー格の男はたちまち気を失い倒れる。残り二人。手を頭に乗せうつぶせになって足を丸めている。外周区の貧民が申し訳のないことをした時にする行為。どうやら命乞いをしているようだった。
「答えて。あなたたちが武装集団?」
こくり。声が出ないのか頭が小さく頷かれる。
「規模は?なんで外周区じゃなくてここに?」
「規模は知らされていません、外周区にも仲間はいるのですがここが最終合流地点で…」
「つまり、よくわからないということ?アンドリュー」
急に自分の名前を低い声音で呼ばれてアンドリューは戸惑う。
「へ?俺?てか怖いな、…セリーヌだよな?」
「縄貸して、こいつら最近帝都を荒らしている武装集団の一味みたいなの」
「なに?俺はてっきりくそオヤジの修行の一貫かと思ってたぜ、なら…よっと」
アンドリューはベルトの鋼で簡単な刃を作り縄のひと房を切る。そこからだんだん解かれていく。
「お前、最初から抜けられたのか?」
「当たり前だろ?ていうか、ただ転がる俺を剣とか槍を使っていじめといておかしいて気づかなかったのかよ?」
「それはしかたないわ、彼の頭の中。恐怖と憎しみへの憧れで埋まっている」
「なんだそりゃ?」
恐怖と憎しみは自分を虐げる敵という対象がいることで感じる感情だ。その対象に自分がなりたいという憧れ。自分がいじめられる役ではなく、いじめる役になりたいという憧れ。
それを伝えてあげたかったが友人には知って欲しくないとセリーヌは口を抑えた。
「とりあえず、それで縛っておじさまのところに行きましょ…」
「待てよ、お前その剣はなんだ?武術なんていつ習った?その喋りかたは何があったんだ?」
「そうね、見られたなら協力してもらえると、嬉しい、かな…はは、ごめんらしくないとこみせて…」
セリーヌの肩が震えていく。両手の両刃剣が実体を失うように消えていく。錬成で造った剣?
「はぁ…。あー腹減ったし、じゃあ話は丘の上で聞くよ、あのクソおやじにも言いたいことあるしな」
ありがと、と呟くいつものセリーヌ。この空気じゃ言えないぜ全く。縄で縛った2人を睨みながら歩かせ、気絶した一人をひきづって丘に続く坂を上る。
「なるほどな…」
「なるほどなじゃねぇよ!死にそうだったの!あのままセリーヌが来てくれなかったら…」
「でも、錬金で縄解けたんでしょ?それでやっつければよかったのに」
「あのな、俺は修行は嫌いだが諦めることはもっと嫌いなんだ。てっきり父さんの仕組んだ修行だと思ったの!だから頑張って午前中転がりまくったんだよ」
とても過酷な準備体操だった。茶碗に盛られたお米と木の実にしてはしょっぱいがご飯によく合う梅干しを頬張る。
「ごめんね、私がもっとはやく通信すれば…」
「あーセリーヌのせいじゃないよ、それはそうとそろそろ話してくれないか?」
「うん、でも、内緒にして欲しんだ、じゃないと学院卒業できないから」
学院卒業。ということはセリーヌが強力な魔法や武術を使えるのはでかい組織が裏にいるということだ。バカの俺でわかる、セリーヌのこんな顔は見たことない。
「ああ、約束する。それに俺にできることだったらなんでもするぜ」
「…ありがと、始まりはお母様からだったわ。」
セリーヌはアンドリューの言葉に勇気づけられ、重い口を開いた。
「確か精霊大戦の英雄…父さんの戦友になるのか?今は最高魔法研究機関の第一研究チーム、アルカレイドの主任で魔法のことなら誰よりも知ってる人だよな、星海の魔女だっけ?」
「うん、でもお母様はもう契約する気がなくて魔法使わないから。精霊死んじゃったんだって。だからその第二世代の私が引継ぎでお母様の役目を引き継いだの」
「役目?」
「魔女だな、彼女はこの世界の秩序をただすためを理由に精霊と契約していた。しかし、人の秩序はとても不安定なものだぞ」
魔女。聞こえが悪いあだ名だ。一般に魔法で悪いことをする女という捉え方をするが、偉人に当てるとその呼び名は立派に思える。
「うん。人って昔、それこそ精霊大戦より前に人同士で争ってたの。精霊という大きな敵を仲間、ううん、命令して使えるようにしてから人の世は便利になっていったけど紛争は絶えなかったの。紛争の理由は自国の経済資源を増やすために面積を広くとか、そんな世界を壊して自分が国の王になろうとした人たちが組んだテロとか。
だから、お母様は世界から紛争を無くすために魔法の適正による貴族制度を提言したの。魔法を使える者はいい暮らしを、使えないものは貧しい暮らしを。そうして貧富の差をつけることでまずは世界の紛争を無くしたの。それがたった三年の出来事よ。
でもそれは長くは続かなかった。二世代目、精霊を契約している者の生まれてくる子供はそれを受け継ぐ。契約をしていない、魔法が使えない者の子供は、受け継がないし契約もできない。それで魔法が使える者はその土地、場所の永遠の権力者。魔法を使えない者はその人に一生仕える。そんな社会が出来ていった。その人がいいリーダーならいいわ。そうじゃないと反感を買う。でもね、魔法を使えるか使えないかでは全然違うって知ってる?」
「ああ、魔法が使えないと砂漠で水も汲めないし、雪山で火も起こせない、普通の暮らしに当てれば風が荒れて海がシケって漁ができないとか、土壌が悪くて不況とかか?」
今のは精霊大戦で精霊と契約していない暮らしのことを例にした。現在ではそのような気象は起きていない。父と旅をして世界をまわったがどこも豊かに普通に暮らしている。しかし、それは表面上で魔法がつかないものは外周区という最低限の生活が保証された所で生活しているのが点々とある。この帝都はそれがよく現れている場所だ。
「魔法が使えない者は帝都や星都、極東だと水の都だっけ?昔、精霊戦争で都市を守っていた大きな壁、今では精霊がとりついた魔獣から守る壁のすぐ内側に暮らす事になる。その地域は戦争の修復をするのに使う税金が今はないからと先延ばしでボロボロ。建っている家も地質が恵まれないからいつか崩れる家もあると聞くわ。」
「そうだな、水の都は水ではりめぐされているから魔獣の心配はないが精霊大戦の傷跡を世界遺産と言って残してるんだ、それで住むところがない人で溢れてたな、星都は都市全体がドーム状に覆われていて精霊大戦の被害は何もないが外は魔獣の巣窟だ。壊れることのないだろうと思う壁から魔獣の匂いや遠吠えが聞こえたりするのはぞっとするぜ
それを考えれば魔獣は比較的温厚で個体数が少ない帝都は恵まれてるかもな、見てきた外周区でもここが一番過ごしやすそうだ」
「そうね、多分だけどお母様はすでにこんな未来を想像していたのかもしれない。だから、自分の事を魔女なんて名乗ったのよ。わたしはそんな気がするの。」
それを聞いて父が頭を下げる。こんな父は初めて見る。
「とにかく、ウチの戦友が重役を娘のお前に押し付けたていうのは分かった、本当に迷惑をした」
「いいんです、それに自分の力で世界を平和にするのも悪くないと思ってるんです」
「それだ。それはどういう意味なんだ?あのとんでもない剣術や魔法は何のために得たものなんだ?相当の覚悟が必要だったはずだ」
「あれは…ごめん私からは言えない。信用とかじゃなくてお母様から借りてる物だから、私のじゃなくて…でも、覚悟はしてるよ。お母様が裏から仕入れる情報を私に流して根を潰す。今回は外周区に集まってるという情報だったんだけど…」
「待てよ今回?前もあったのか?その前も?何回もそれを止めてきたのか?」
アンドリューはセリーヌに詰め寄る。こくりと頷かれた。
「これだな、お前がごろごろしてて遅いから駅で買って来て読んでたんだ」
「なにしてんだよ…」とりあえず父から今日の日付の帝都新聞を受け取り広げる。その一面に書かれている内容。写真はなく目撃者の証言のみの内容だ。
「…金冠の魔女、そう呼ばれてるみたいだな」
「帝都情報局が勝手につけた呼び名だけど…なんか合ってるのかもしれない。魔女だもん私。秩序を正すために世界で起こる戦争の根を潰す役目。
帝都も世界も未だ大きな戦争はないけど、いつ、なにが、どんな風に火が点くか分からない。特に今帝都はすでに戦争が起こる直前だと思う」
「なるほどな…でもそういうのカッケーじゃねーか、俺は協力するぜ」
アンドリューは食べていた食器を置いて馬車の奥へ行く。そこから六つの長細かったり、短い鞘だけが付いたホルダーを腰に付け、一つの鞘に収められている刀を手に握り戻ってくる。
「これは極東の地で教わった剣術。七陣一刀流。俺はこれで星城騎士団に殴り込もうとしてたんだ」
「剣習ったんだ、って殴り込む!?」
「星城騎士団第十位、朱魔道騎士イグネイシャス。俺は極東の外周区で奴が部下を従えて人を連行するのを見た。しかもやり方は誘拐のような手口なんだ、その人はおとなしくついていったみたいだがな」
「連行?でも、なんで?星城騎士団が魔法を使えない人を連行するなんて…見間違いじゃないの?」
「そうだといいがな、顔は仮面で隠されてたしそのイグネイシャスを俺は実際見たわけでもないし、見間違いはあるかも知れない。だが、奴は星城にその人を連れ込んだんだ。部下はそこで返したが星城の中には少なくとも星城騎士団が3人は配備されいているはずだ。」
「転移結晶。星城騎士団が星城の行き来をするための魔道具、それで他の星城騎士に見つかる前にどっかに運んだ?星城には転移距離を高める魔法集中専用の部屋があるって聞くけど」
「星城の中に入るのは流石に父さんに止められてさ、何位が城の中にいて返り討ちになるかわからないし。とりあえず返した部下二人を捕まえて知っていることを吐かせたんだ。
そいつらが言うには朱魔道騎士は今日この帝都のはずれで集会が行われるということを言ったんだ。まぁ敵が吐く言葉だし信じられるわけないが待つことに損はないということで、俺の中では明日は星城に殴り込もうという覚悟で帰ってきたんだ」
手に握った細長い鞘から刀の刃を覗かせ刃を見る。鞘から少し抜かれた状態のそれは刀というより改造された剣という刀身だった。柄から先の刃は僅か15cmの所で一旦途切れて下に連ねるように小さく薄い刀身がまた15cm程で途切れまたそこからさらに小さく薄い刀身が連なっている一つ一つの刃が階段を作っている切れにくそうなデザインをしていて、鈍らの剣のようだ。
それを、馬車の外で縄に縛りつけた男、アンドリューを殺そうとした人間に刃をちらつかせる。
「じゃあ、飯の途中だがそろそろ吐いてもらおうか?ここで起こる集会ていうのとお前らの色々…」
「そ、それは死んでも言えない!言ったら組織に見捨てられ生きていけなくなるんだ!」
やっぱりこんな反応か。アンドリューは銀色の鞘から刀を抜き炎のような模様が施された赤い鞘に刀を差し替える。
「こいつは精霊の根を絶つ刀。空天の太刀。いまからお前の得意な火の精霊の存在を殺す」
「何言ってんだ?精霊を殺すだって?そもそも実体がないものを…」
構え、息を押し殺すように吐くタイミングと合わせ、一閃。目視不可の斬撃は契約した者しか見えない不可視の存在を捉える。チンッと刀の柄と鞘がぶつかる音が響く。
そして、男の様子が変わった。顔が怖ばっている。まるで、信じられないことが起きているということに声が出ない。
「斬った。もう一人のお前も魔法をまだ使いたいのなら…真っ当に生きたいならここで全て、吐いてもらおうか」
「うわぁぁあぁあああぁああ!!」
精霊を殺された男は発狂する。尋常じゃなく目が飛び出しそうな勢いだ。
それに対し、セリーヌが両刃の剣を顕現。その剣の腹で殴打する。手加減などなかった。
「これは、星の精霊が宿ってるから刃が触れるだけで体が粉々になるよ?」
そうして、男は情報を吐いた。しかし、あまりいい情報は得られず、ただ集会の時間は星刻5:00という情報を得た。
空に浮かぶ月、巨大な帝都と下の森を丘の上から一望できる場所でセリーヌとアンドリューは男からマントを剥ぎ取り潜入作戦をすることに決めた。
「そういえば、学院はいいのか?学校なんだろ?昼休みはとっくに終わってる気がすんだが」
「うん、もう学院で教わることってあんまりないから講義は出てないんだ。今日も寮の食堂で一人勉強やってたから、私がいないのは騒ぎになるかもしれないけどお母様が都合つけてくれるし、先生たちも優しいから」
居心地がいい場所なのだろう。アンドリューはそんな平和な場所があって、セリーヌに与えられて良かったと思っていた。丘から見える森を指さす。
「俺が落ちた場所はあそこ、テントが張ってあるからわかりやすいと思うが森の中だ。迷って彷徨ったりしてたら勘づかれちまう。いいか?この作戦は隠密って言ってな…」
「大体わかるよ、仲間のフリをするんでしょ?それにアンドリューはそういうの苦手そう」
「いやいや、こう見えても俺はフェイスフェイクが得意でね、て話してる暇ないよな、もう三時、早めにテント周辺を探索して武装集団の情報をきかねーと…」
不意に手を握られる、びっくりして振り向くとセリーヌが握ったことに気づいた。
「転移魔法使うから手を握らないと行けないんだ」
「そ、そっかじゃあ頼む。転移魔法か、さっきはそれで助けに来たのか?」
「ううん、転移魔法は集中するのに時間かかるから走ってきたの、そのほうが早いし」
なるほど。って魔力通信機がある自室から走ってきたのか。そいつは早い。少し自分という人間がどれほど大切に思われてるか考え感動する。
「天そっか、あ、俺の刀て隠せたりできるか?」
「うん、光の屈折を曲げて見えなくする、あ、顔の形とかは変えられないからね?だからマントかぶらないとね…」
光の屈折を曲げて人の視認情報を操作する魔法まで使えるのか。しかし、それは透過しかできないようだ。二人はマントを頭に被り手を握る。
「ところで、セリーヌの武器は星の魔法なんだな、刃には触れないようにするよ」
「うん、アンドリューのも精霊殺すなんて残虐だけど、契約した精霊は死んだら生まれ変わるもんね、悪い人に使われるくらいだったらそのほうがいいかも、あ、私の精霊は殺さないでよね?」
「わかってるって、てか俺の剣は四大元素の精霊しか殺せないから星とか上位は大丈夫」
と言って、アンドリューはセリーヌの横顔を盗み見る。目を瞑って繋いでない手を胸に置き集中している。両手の方がもっと集中できるだろう。いや、今はこの方がいいか。
「それに、アンドリューも精霊が見えるようになったんだ?」
「ああ、ちょうど一年前だったな、それでこの剣技を選んだんだ」
「3世代目の人は年を重ねると見えるって言うの、私は前からだけど同級生にも見え始める人がで初めて分かったの
これを魔法学院にいる間に論文にして母様のアルカレイドに提出するの。そうすれば、コネとか七光りで入ったとか言われないし、手伝ってくれてる人も一緒に入れてもらえるようになるから」
「そうなのか」、「それはすごいな」とアンドリューはつぶやいてそのことを考えてみるがよくわからない。昔から魔法は苦手なのだ。それと学校のことも。
話題を変えよう。これから転移魔法が行われるから準備をしないといけない。心構えとか色々、セリーヌに聞いてみよう。
「転移ってどんな」自分の口から出た言葉が途切れる。
「感じなんだ?あれ?」そして、パッと変わる景色。そこにはテントが10個ほど建たれている。人もまばらだがちらちらと居る。
「着いたよ、じゃあ情報集めよっか?」
もう着いたのか。今更ながら気づく。心構えとか特に要らなかったな。
「お前さんたち、さっき転移でこなかったか?もしかして今回の助っ人さんてのはお前さんたちか?」
すると、後ろから声をかけられた。体がびっくりして敵陣だということに改めて気付く。
それは、随分と年が過ぎている初老のじいさんだった。こんな人まで武装集団に参加してるのか。
それとこのじいさんが言う助っ人というのはおそらく…。
「いや、転移の白い光を見たんでな。長く生きると物知りになる。確か星城騎士団の一人とか言いましたかな?聞いていたとおり髪色が貴族ぽいですな、ここでは隠して歩くことを推奨しますぞ」
やっぱり、どうやらこちらを星城騎士団第十位、朱魔道騎士と間違えている。星城騎士なら転移魔法の魔道具を持っている。しかし、好都合かも知れない。いつの間にか握られていた手を離しているのに気づきアンドリューは隣を見やると、
[そうだ、この赤い炎が証]
握っていた右手の指先に火を灯し空中に走らせ火の文字を描いていた。朱魔道騎士、確か赤色の火の精霊を基本とした魔法が得意で戦闘の面でも様々な種類の火を用いて戦う魔法使いだ。
[お前にここの案内を頼みたい]
あくまでこっちが上。話のもって行き方としては合ってるがやはり昔からよく遊んでいたセリーヌがこんなことをしてるのは違和感がある。しかし、火の精霊使いか。放火は武装集団が行ったと聞いたが引っかかるものがあるよな。
「ほう、わかりました。とはいえ、五時の集会までは暇ですしなぁ。集会はあちらの一番でかいテントの中で行います。」
じいさんが指差す先にほかのとは大きさが違うテント。
「良ければ私のテントに来ますか?息子が精霊をもらったと聞いております。信じられない話ですが本当に助かっておるのです」
「精霊をもらった?」
「うん?」
しまった。つい声が出てしまった。こうなったらしゃべれる設定だということにしとくか。
「じいさん、精霊をもらったてなんすか?」
「いや、もらったのは息子ですし…というかそちらの騎士団の方からもらったと聞いております。お付きの方なのにしらないのですか?」
[息子の様子を見たい、あれは暴走したりするからな]空中に火の文字で書かれる言葉。
「そうですか?暴走ですか?ではこちらです…」
すまん!セリーヌ!心の中で何度も言いナイスフォローサンキューと思う。
それは他のテントより小さいテントだった。二人ほどしか入れない就寝専用のテント。
「おい、チャスお前の客だあの火の精霊をくれたとか言う…」
「イグネイシャス様か!おいおい!おじいちゃん!水を用意だ!俺らの恩人なんだぞ全く…」
テントから出て来る男、なかなかに鍛えている風格をしている。歳は20くらいか。じいさんは近くに流れる小川に水を汲みに行く。
男は顔を隠しているセリーヌとアンドリューを見てアンドリューの方に握手を求める。反射で手を握る。
「すまないねイグネイシャスさん、しかしわざわざ俺に用なんてどうしたんだい?それに少し痩せてないか?確か極東に出向いたとか、そのせいかい?そもそも、今日はここには来ないっていってたんじゃ?」
「………」
「飯が不味くて食べる気も起きなかったとか?いつも酒ばかり飲んでいるから飯じゃなくて酒に浸かってたのかい?」
「………」やばい、どうすりゃいいんだ?だいたい朱魔道騎士役はセリーヌだろぉぉ!
[彼、病気なんです。顔も酷くて、喉を痛めてて代わりに通訳で私が来ました。同じ炎使いなので安心してください]
「そうなのかい?病気か、どうりで痩せて、元気ないし、それにしても炎文字で伝えるなんてなかなかな趣向だね」
[まぁな、お前も元気そうだしもう行くわ、さいなら]えーーーーー!話終わらせんの早っ!
「おう、今度は元気な姿で来てくれよ、話したいこといっぱいあんだからな」
いいのか、それでいいのか。セリーヌとアンドリューはひとまずテントが密集する場所から離れる。暗くなる森にはいっていく。
「なんか危なかったね」
「お、おう、まじすまん」
「いんだよ、それに私こういうの慣れてるから、いつもは一人だから心細くて」
「俺、邪魔ばかりしてね?」
そんなことない。と言ってのけるセリーヌ。それにしても、よくいろんな状況でとっさに思いついて行動する。それに、ミスばかりする自分を叱らず、むしろ褒めてくれている気もする。
「今ので色んな情報分かったね」今ので?そうだろうか?
「えーと、武装集団は20歳から60すぎのじいさんまで幅広い層からの人員で、目的のイグネイシャスは酒飲みでお喋りな奴ていうことか?」
「火の精霊をもらったとか言ってたよね?精霊の譲渡て聞いたことないけど…。それに俺らの恩人、家族を表してるのかな?他にも精霊を譲渡した人物がいそうだったし、あの小さいテントは貧しい外周区で売ってるのに酷似してた。それに、息子さんの方も私の髪色を見てもあまり驚かなかったし、朱魔道騎士は平民の出かな?」
アンドリューよりすげー推理してた。
「とりあえず、俺は黙ってたほうがいいよなぁ」
「とにかく、五時の集会に参加してもっと情報を聞き出しましょう」
「了解」とマントを再度羽織りテント周辺に行こうとするアンドリュー。その肩を掴まれる。
「あのチャスさんて人、イグネイシャスはここには来ないって言ってたわ。新しいマントで変装して時間まで待機だよ」
「りょ、了解…」
アンドリューは自分は戦力になっているのか情けなくなり、二人きりになったら話そうとしていたことを話せずにいた。
◆
頭部が合体したイマニクスの操縦席への入口は後ろだった。というのも、イマニクスが合体してから操縦席から出たことはなかったからだ。合体前の六面体だった時は前も後ろもわかなかったが後ろだったらしい。
あまり覚えていないが、この世界に飛ばされた時、今にイマニクスの中でアルファは気を失っていたがノヴァンはずっと起きていたのだという。
ノヴァンに聞く限り当時の状況は、外の映像が真っ黒に染まり、条痕色可視光線の出力が限界まで引き上げられ暴走していたという。異常な状態だった。
そんな中でアルファは気を失っていて、ノヴァンは一人操縦席で状況を見守って約五分後、画面の黒が消えて代わりにこの世界の色が見えたのだという。
イマニクスの頭部操縦席でもイクスは応答してくれた。どうやら、体の操縦席と繋がってるみたいだ。こちらの方が二人用の席が用意してあるので見えやすい。
操縦席の中に浮かんでいるイクスの言葉が表示され続けている可視画面に書かれている文字を見ていた。
危険生命体はこの世界の救世主を探していました。危険生命体はこの世界で精霊と言われ存在しています。
しかし、人類は危険生命体を敵とみなしていたのでそれを最適化。
よって、危険生命体が有していた情報に危険生命体と戦うのに効率的な兵器を設計、開発を実行しました。
「にいちゃん、どう思う?これ私の最後の質問の答え、なんかさ…」
「ああ、どうやら俺たちは危険生命体を勘違いしてたのかもな」
危険だと。人類の敵だと。確かに危険生命体は戦闘機や火星を囲んで行動不能にしていただけだ。実際、アルファの初戦闘でも戦闘機は大破されたのではなく通信が途絶えただけ、火星の環境は人にこそ出会わなかったが普通に森や海があった。
しかし、わからない謎がひとつ増えた。危険生命体は救世主を探していた?そのために俺たちの世界に現れた、俺たちに助けを求めていた?
「危険生命体はなぜ救世主を探していたんだ?それはどんなやつが当てはまるんだ?探し出したらどうやって連れて行くんだ?」
『救世主は危険生命体と一面世界を存続させるのに必要不可欠な要素であり探すのは彼らの義務でした。
救世主の条件はある一定以上の知能を有した生物が当てはまります。
不明。魔法が関与されていると推測します』
存続させるのに必要不可欠な要素、知能を有した生物、つまり人間がこの世界を存続させるために選ばれたと言うわけか。そして、連れて行く方法は不明。自分たちもこのイマニクスの機能で飛んで来たのだから方法はあるのだろう。
「奴らが俺たちの世界に現れたのは50年前、その頃、いやもっと以前から救世主を探していたことになる。この世界と俺たちの世界は同じ時間で進んでいるのか?」
『情報にはありませんがこの世界の時間基準、星刻は地球時間と全く同じで進んでいるので一日の時間帯は同じです』
そういうことを聞いたわけじゃないが、時間軸は同じかは分からないらしい。
外の景色が操縦席の周りに映る。地上の森や岩だらけの映像から空の暗い雲や巨大な星の映像に変わる。時間帯が同じならこの暗さはもう夕方に近い。
「よし起動完了、はいはい、じゃ次私質問ね」
どうやらノヴァンがイマニクスを動かしたようだ。アルファの席からでは機体を動かすことはできない。通信やあらゆる物体の活動を阻害する指向性兵器を使って照準を定めやすくする。いわゆる支援のみの席だ。
「ここは平和?ていうか、危険生命体のさがしてる救世主はこの世界に連れられてどこにいるの?」
ノヴァンの質問は的を得ていた。この世界の情勢は知っておきたかったし、救世主として連れて来られた人たちに会えればなにか情報が得られるかもしれないからだ。
『質問を二つ確認。平和とは人間目線で答えていのですか?』
「いいよ、あ、わたしたちの世界基準での文明レベルもよろしく」
『質問の変更、追加を確認。現在サーファスワンは平和です。文明水準は30世紀ほどです』
30世紀。まだ人類が宇宙に進出して居住していない宇宙世紀が始まる前だ。アルファが知ってる限りだと35世紀から宇宙世紀が始まった。それから自分たちの時代は宇宙世紀5050年。1世紀は100年と数え、自分たちの時代と合わせると5550年前になる。
その時代に機械はあったのか、どんな暮らしをしていたのかという想像は兄妹たちにはできなかった。ただ、人類は地球だけに住んでいた時代で個体数は少なかったということが分かった。
『二つ目の返答。救世主となった生物は転生してこの世界に現れます、なので出現場所、生息場所はわかりません』
転生?して現れる?これがイマニクスの情報にも載っていない魔法というものだろうか。
「現れるって生まれ変わるってこと?それが魔法?それってわたしたちは転生してここに来たってこと?」
『質問を多数確認。一つ目の返答、不明。二つ目の返答、不明。三つ目の返答、あなたたちは転生ではなく超次元転移で飛んできました』
「あーもーもどかしいいなぁ、人と話したい!つまりこの世界のどこかに全部知ってる答えてくれそうな人間がいるんだよね?不確定でもいいから教えてくれる?」
ノヴァンが同じ質問の答えを聞いたという感じでイラついていた。それに不明が連続で書かれたのもある。アルファはこのノヴァンの質問内容だとまた不明と書かれると思っていた。しかし。
『定かではありませんが最有力候補はサーファスワンのどこかにいるイマニクス設計者及び関係者等、名前はアバラン、カーター、スティーブン、クリスタ、アルドロイドという五人の人物です』
「アルドロイドだと!」「にいちゃん、それ誰?」
アルドロイド博士と言われていた。忘れもしない名前。イマニクスの指示通り体を組立、完成させ危険生命体との戦いを命じた男。耳障りな高い声が思い出される。ノヴァンは誰なのか忘れているようだ。それとも名前を知る機会がなかったのか、単純に興味がないのか。
他にも名前が挙がっているが聞き覚えはない。ただ、一人だけアルドロイドという名前は覚えがある。
「そいつはこの世界にいるのか?」
『不明。しかし、イマニクス設計関係者の名前欄に表示されているので挙げました』
つまり、体を組立、完成させたのをイマニクスが情報に設計関係者と記録したのを、表示された人物という事で書いただけの不確定な推理だったのだ。
推理?そういえばこのXというプログラムはAIなのだろうが随分機械らしくない返答をする。
「そうか、ならいんだ。この世界にアイツがいたら俺は…」
許さない。とアルファは思ったが口には出さない。そういえば、この世界に来る前にアルドロイドと話していたということを思い出す。それは断片的で最後の方はあまり覚えていない、おそらくその時に気を失ってしまったのだろう。ただ、ノヴァンを戦争に巻き込んだことは覚えていた。
「どうしたの?にいちゃん?こいつ知り合いなんでしょ?」
「いや、なんでもなかった、気にしないでくれ」
イマニクスは空に浮かぶ今にも落ちそうで巨大な月と呼ばれる星とは真逆の方向に進む。
「ならいんだけどさ、今は少しでも情報が欲しいんだからね?そういえばこの先に人間がいるかわかる?できれば規模とか建物とか分かる?」
『この先、10キロ地点で多数の生命反応を感知、人間のものだと思われます、数は100人程。周辺は大きな塀で囲まれた建物、少数の居住地があります。それとは別に少し先で巨大な熱量を感知。精霊による魔法だと思われます』
「魔法!?ねぇにいちゃん!魔法だって、バトってんのかな?とりあえず近くに行って見物に行こうよ?」
イクスの表示する文字を見てノヴァンは興奮しているようだ。確かにこの世界で生きるためにも必要不可欠な魔法というものがどんなものだというのはアルファも気にしている。だが、森であった人物。ドラゴンを連れていたあの法衣姿の人間を思い出す。
「ああ、遠目からな。イクス、遠視でその場所から離れた5キロ地点から人間がいる場所とその熱量がある場所の映像を映せるか?」
「えー近くがいいのに…」
『可能。了解。映像を遠視で画面に映します』
まだ五キロ地点ではないが三つの映像が可視画面に表示される。
一つ目は、自分たちの世界で言うと学園もしくは欧州で世界遺産に認定されている宮殿に似ている。そして、人間を確認する。アルファの着ている制服と似たような服を着ている人が多い。
二つ目の居住区は小屋や木造の家、牛や羊が見える。田舎と呼ばれる食料の生産地に似ていた。いや、おそらくそれだろう。この世界と自分たちの世界は案外似たものかも知れない。
三つ目は、森の中だった。とはいえ、先ほどアルファが潜った森ほど複雑ではなくある程度の手入れがされている程だ。レジャー用にしてはぼろぼろなテントが見える。そこで一部分だが燃えている箇所があった。
「あの燃えてる所、あそこ詳しく映してよ」
その場所の倍率が上がり詳しく映像に映り出す。二人の男女を50を超える大勢の人間が囲っていた。
「やっぱり戦ってるみたい、あの二人ボコられてんのかな?あれ?でもそんな感じじゃない?」
状況は数の差で二人の男女には不利な様に思えていたがそうではなく、二人の男女の方が場を圧倒していた。大勢の人間の前に赤くて丸い薄い模様が浮き出している。そこから、炎が生まれて女にぶつけている。
「あれが魔法か。しかし、なぜ戦っているのか気になるな」
そこで、横目でイクスの可視画面も確認していたアルファは文字が更新されたのを見た。
『一番画面でも熱量を感知、映しますか?』
「頼む」
一つ目の映像がスクロールし映像が切り替わる。それは、建物の後ろの方で火事のような現場だった。人間が消火活動に当たっている。だが、さらに火事はひどくなり建物や人間を飲み込んでいる。
「お、あの二人全部倒しちゃったよ?おっと?テントからなんか出てきた」
「ノヴァン、一つ目の映像を見ろ、どうやらこれは日常的なものじゃないみたいだ、あのでかい建物に急いで向かうぞ」
三つ目の映像に気を取られていたノヴァンは一つ目を見て驚く。
「オーケー。救助活動?するの?わたし的にはこの犯人捕まえたいんだけど、まぁ現場にいそごっか」
イマニクスは燃え始めている赤い塀で囲まれた大きな建物へと空を滑走して向かっていく。
「そうだ、俺からひとつだけ聞いておきたいことがあった、なぜ俺はイマニクスの黒い珠みたいなハンドルを動かせないんだ?」
それは、今ノヴァンが動かしている真っ最中のイマニクスの操縦装置。
[それはあなた様の人の思考を顕す力が足りなく、人の意思を受け取れなかったのです]
「なんだそれは?」
「簡単に表記します。あなた様のイメージ力が足りなく黒装甲が起動不良、本機の白装甲が反応しなかったのです」
「だってにいちゃん頭固いんじゃないの?ふふっ」
妹に笑われていた。イメージ力が足りない?
「確かに、普通こんな機体が空をエンジン無しに飛ぶわけない。それに、二足で歩いたり立つことはありえないと考えているからか…」
しかし、それをアルファに理解しろというのは難題だと思った。
「やはり、俺には乗れない」
「そうなの?」
ああ、と首肯する。それを認めたら昔の空想や理想を描いていた昔の自分を思い出しそうになるからと口には出さないが心で思った。
俺はアルファ。
施設でもらった名前は自分を戦士に変えていた。
◆
星刻5:00。
辺りは暗くなりそろそろ空に星海が現れる時間。学院の授業が終わり部活動や委員会で夜まで暇を潰す時間。まだ入学したてのアンディはまだどこの部活動にも入っていない。ケンジーは報道部だ。エスターもまだどこにもはいってない。
「よし!行こう!早くしてよ!僕とカーター氏の会話の時間がなくなっちゃうよ!」
「そんなに急がなくても父様は逃げないわよ、アンディ君はホント父様すきね…ていうかなんであんたもついてくるの」
キッ。とエスターはアンディの向こうの隣を睨む。
「俺も帝都に用事あるんで、それに夜は仕入れどきなんだぜ?」
学院廊下を歩いてアンディとエスターは一緒に手をつないで駅への道を歩いていた。
「でも、雰囲気作りて大変だね。これじゃ付き合ってすぐな感じだよ」
「じゃあ肩くっつける?」
ピト。と体を寄せてくるエスター。
「そそ、そういう意味で言ったんじゃなくて、何ヶ月も一緒にいるとあだ名とかそういうのつくじゃん」
「えー?アンディ君は…アンディ君でいいと思うけどなぁ」
「そいや、なんで君付なんだ?セリーヌさんも君付けだし。ぜひ参考資料として聞きたい」
アンディとエスターが一緒に歩いているのにも関わらず話に突っ込んでくるケンジーは何なんだろう?
「そうね、他の男子に比べて年下な気がするからかしら、大人じゃないっていうか、子供?」
「僕、子供として見られてるの?」
「あ、僕って言ってるから?それに金髪、髪型、身長、趣味とか、でも元々セリーヌさんが君付けで読んでたからかな?」
とりあえず全部ね。とメモを取るケンジー。それは何の参考資料になるんだろうか?
「たぶん、セリー姉さんが君付けで呼んでるからだよ、昔から帝都の学校でも先生たちに君付けされてたし」
「またセリーヌさんの話。それに、君付けの理由決め付けてるし、私が君付けで呼んでるのはアンディ君の全部が…」
「えーエスターから話に出してきたんじゃん、じゃあほかの話をしよ。魔道具の話」
エスターはセリー姉さんの話をすると不機嫌になる。だから、あだ名の話の時も名前を出さなかった。今回はエスターから名前を出したのにアンディからその名前が出ると不機嫌に。女の子は難しい。
「じゃあ俺から質問していいか?魔道具てどうやってつくんの?魔法て精霊の塊なんだろ、それじゃあ魔道具に使われている鋼やクリスタルとかに封じてんのか?なんで魔道具て名前なんだ?」
一気に質問を浴びせられる。さすが報道部。きっとケンジーの将来は魔法とは関係ない帝都情報局が一番似合ってる。それでもアンディは得意げな顔でその質問に答える。
「魔道具は主に魔力媒体と展開式で出来てるんだ。魔力媒体は動力を生む装置、展開式はその容器と呼ばれてるね。書かれた展開式の内容の通り精霊を錬成するのが魔力媒体。錬成された精霊を演算、固定するのが展開式。あとはデザイン性で人が使いやすいように取っ手をつけたりボタン式にしたりしてるね。消耗品だからいつか魔力媒体の魔力が切れて使えなくなっちゃうので魔道具ていう名前なんだよ」
「でも、最近の研究は魔力媒体を必要としない永久に使える魔道具を開発してるのよ、動力を得るために手で直接回したり、精霊が魔法で作り出した力を魔導力ていうのに変換していつでも使えるようにしたりね。魔力媒体が無いぶん、かなり複雑で作るのに時間もかかるのよね」
エスターの補足だ。アンディも魔道具の情報誌で最新情報をいつもチェックしている。特に、魔導力は2、3週間前に発表された超最新情報だ。とても効率よく動力を得られるので小型化に成功すれば、帝都と学院をつなぐ駅の電車、自動車という人が歩くのを自動で進んでくれる馬車の代わりになるものを作れるのだそうだ。
「へぇ、でも魔力は人と精霊が契約した時に得られるものだろ?なら魔力媒体は人でもないのに精霊と契約して魔力を得てそれを動力にしてるのか?」
「魔力媒体の中には人の魔力が詰まってるんだよ。だから、製造者によって魔法の質が違う。魔道具の裏面とかに製造者の名前が書かれてるから今度気にしてみてよ。」
「ちなみに、私の父様が作った魔道具は100レアの価値が有るわよ?」
「ひゃ、100レア!?そいつはすげー!これから俺が稼ぐ相場の100分の1くらいじゃねーか!エスター様は成り上がりの貴族じゃなかったわけなー」
「…それどういう意味よ?」
エスターがジト目でケンジーを睨む。でも100レアは確かにすごい。平民が普通に朝、昼働いて得られる年収だ。魔道具は使ったら無くなる消耗品で原材料もそれなりに高いので儲からないという。なので、魔法の質が時価を決めることが結構ある。
ということは、あのぬいぐるみもそれぐらいの価値があるのだろうか?非売品だと思うけど。
「朝投げたぬいぐるみは…いや、あれは値段なんてつけれないか」
「あのぬいぐるみ?父様が勝手に作るけどファンシーショップで売ってるわよ?」
「え!?そうなの?知らなかった、よし今度の休みに買いに行く!」
「いやいや、お前ファンシーショップて女子ばっかの店だぞ、しかも帝都で男性禁止指定エリアになかったか?」
「そ、そうなの!?そっか、だから情報誌にものってないんだ」
「別に買わなくてもいいわよ、部屋にあるの…あ、あげてもいいし。それに値段も高いからおすすめできないし」
エスターは握った手を強くしている。別に痛いとかではないが息苦しくなる。なにか反応した方がいい感じ。
「あ、あのぬいぐるみってカーター氏が作るくらいだし何か工夫してあるの?魔道具だったり?」
「ふふ、鋭いわね?購入した人にしか伝えないことなんだけど、ぬいぐるみの毛糸を40%鋼の鉄線60%で編んで、中身も綿20%鋼80%なの、錬金でぬいぐるみの鋼に魔法を付与させれば防犯グッズになるのよ?重さは女の子の腕力を考えてぬいぐるみ自体を小さくしてるから投げるのにちょうどいいのよ?」
「こえーよ!ファンシーなぬいぐるみを凶器に変えんなよ!てか、だから売れないんじゃねえの?」
「確かに、だからあんな痛かったんだ…」
…と、話してると駅が見えてくる。周りには帰宅するのであろう学院の先生や職員の人たちが居る。混雑ではないが帝都の居住区の駅は前に進めないくらい混雑してるのだ。
「しかし魔道具かー、俺なら魔法練習とか、魔法の精度を上げたいから魔道具使うよりも自分で魔法使うぜ?その方が金かからないからお得だしな。そもそも、魔道具てなんで作られたんだ?」
「それは…」
「ふむ、それは私がお教えしようか」
急にどこかから低い男の声が聞こえてきた。その声の出処は右か左かを忘れてしまうほど耳を通り過ぎていた。
「あ、父様、この子が私の彼氏なの、どう?」
エスターが父様と言う人物はエスターの目の前に居た。だが、
「は?エスターちゃんは誰と話してんの?」
きょろきょろと周辺を見回すケンジー。アンディはしゃがんで膝をついて座り手を差し出す。目線を合わせるためだ。エスターもしゃがんだ。
「ア、アンディ・カーティスといいます、どうかよろしくお願いします」
「ああ、君がエスターの。こちらこそよろしく、クレイグ・カーターだ」
ケンジーはしゃがんだアンディの前で握手のような行為をしていた者を見て驚きのあまり棒立ちになる。そこには小人サイズの人間が立っていたのだから。
人形が着るような紺色のスーツ姿で、菫色の髪を七三で分け、マイルドな顔立ち。まさに童話で出てくる小人のじいさんたちの律儀で礼儀正しいバージョンの人が居た。
「こ、こいつがカーター氏!?ちっちぇーー!」
アンディは手をグーにして隣の棒立ちになった足のすねを穿つ。相手は痛い痛いと後ずさった。人は外見より中身だ。ケンジーは外見派だった。こいつ呼ばわりしたのは本当に反省して更生して欲しい。
「すいません、カーター氏。こいつただついてきただけなんで…」
「いや、構わないよ。よく言われるものさ、それで魔道具がなぜ生まれたか、それを聞きたいんだろ?」
カーター氏は以外に優しい。情報誌の研究チームのインタビューにも彼が怒った事は一度もないと有名だ。
「魔道具はね、全ての人が魔法を使えるようになるため生まれたんだ、貴族が四大元素全てを使えるように、平民が得意な魔法を使うように、それを外周区に住む人々も使えるようにね」
それは、情報誌で何度も取り上げられている言葉だ。カーター氏の格言の一つ。それを本人を前に聞いている。なんて幸せなんだろう。落ち着いた声が耳を流れる。
「しかし、魔道具は一つ作るのに大量の手間とお金がかかる。それを作るために今は工房を建てたり貴族の間で売って、人員を確保、教育したり資金を稼いでるのさ。外周区の人に無料で提供するのにはまだまだ時間がかかるかな。もう少しで新しい分野も開くからこれからも応援をして欲しい」
カーター氏は魔道具で世界を平和にするという理念をもとに今日も作り続ける。と情報誌の最後に書かれていたのが頭に浮かぶ。
「なるほどね、そんな深い訳が…」
「カーター氏!僕やっぱり我慢できません!サインください!…あ、ペンペン…まさか、忘れてきた…?」
アンディは制服のポッケや下に来ているシャツの中を調べる。ない。どこにもない。なかった。
「それなら、このぬいぐるみをあげよう」
「え!そんな!それはでき…んぐぐ」
「そうね!父様のぬいぐるみをもらえるなんてアンディ君やったね!」
「そうか、ならどうぞ、大切にしてくれると嬉しいね」
言葉を言おうとしたら口を塞がれた。カーター氏のポケットからぬいぐるみが差し出される。それを受け取る。少し小さかったが鋼が詰まってるので重く感じた。
「てか、防犯用なのに大切にするものなのかよ…」
ケンジーが何か言ってるが気にしない。そもそも、ケンジーがなんでここにいるのだろう?
カーター氏が手でスピーカーを作り娘のエスターを手招きをする。
「…大丈夫、今日は三つ持ってきた。お前の分もあるから心配するな」
「と、父様…」
顔を赤らめたエスター。何を言われたのだろう?
「ていうか、ケンジーそろそろ駅向かった方いんじゃない?精列車がでるよ?」
「おーそうだな、じゃいくかな」手をふって駅に向かうケンジー。
「父様もそろそろ行ったほうがいんじゃない?私はほらアンディ君とら、ラブラブなんだし、このあとも予定あるんだから」
え、そうなの?そっか、カーター氏はぬいぐるみを直接届けに来たのとエスターの顔を見に来ただけで、心配させてぬいぐるみを作らせるのが目的だったんだ。
「ふむ、そうだな。ところで今日はキャンプファイヤーでも学院でしてるのかな?やけに火の精霊が多い感じがするのだが」
キャンプファイヤー?確か、草や木々を丸太で囲って火をつける遊びだっけ?
「いえ、そんなのをする予定は学院になかったはず、ね、エスター?」
「ええ、でも父様が言うなら…」
すると、駅から人が何人も出てきた。どうしたのだろう?ある者は学院への道を走り、ある者は歩いて風の精霊を錬成している。やがて、ケンジーが駅から出てきた。こちらに向かって来ている。
「おい!アンディ!学院が!学院が燃えてんぞ!」
「…なんだって?」
星刻5:30。その時はすでに始まっていた。




