一面世界(サーファス・ワン)
◆
その世界は異質な物、異常な現象で溢れている異例な場所だった。
同じ浅葱色の髪をした兄妹は異世界という場所に来てしまったことを感じる。
アルファはまだ信じることができなかった。イマニクスの体のコックピットにいたノヴァンから告げられる事実に素直に驚いていた。
「私もまだ全部見てないんだけど…あったこれ」
ノヴァンは棒つきの飴を口に含みながら可視画面を表示し、様々な情報の詰まったファイルを展開する。そこには文章が書かれているファイルがざっと一万ぐらいある。その内容はこの世界のことについてが主になっている。
「私が読んだのはここまでで、これから魔法のことを読もうとしたんだけど…ていうかその前にイマニクスを調べようかなて」
アルファはノヴァンから聞いたことをもう一度確かめるためにイマニクスのデータの中にあるファイルに書かれた内容に目を通す。
世界の果てがない、一面しかない世界、サーファス・ワン。空に浮かぶ大きな星は月と呼ばれていて朝と夜を造る働きがあり、真上にある太陽は常にその場所にあり動かないのだという。これが本当ならここは太陽系、いや宇宙じゃない。
それに、この世界には魔法というものまであるらしい。科学ではない超常現象のような話。
周りを見渡すと星は空を浮いているし、雲は白色や緑色をしている。いや、もしかしたら地面が浮いていて島のようになっているかもしれない。物理学がまるで通用していないこの場所は自分たちの世界ではない。
「本当にどこなんだ…ここは、それになぜイマニクスにこんな情報のこってるんだ?」
「にいちゃん、とりあえずイマニクスは頭のコックピットで操縦して浮遊滑走で動かせるけど手足の細部はここで動かすみたい。歩くとか握るとかだね。つまりこのイマニクスは三人で動かすように設計されてるみたい」
三人で動かす戦闘兵器か。とりあえず、移動はできるみたいだ。イマニクスの手足の可動部にある八つの菱形に頭の三角形がいったが、あれは空中に浮かせる役目があるらしい。イマニクスの外見を思い出しながら自分でも考えを広げる。
「あの体の背の部分と両肩に付いている尾と翼はなんなんだ?」
「あれは、バランスを取るためにあるみたいだね、二足だから地面に足がつくときは不安定みたい、翼は飛ぶときの加速とか旋回速度を出すためにあるみたいだけど…」
なるほど。ノヴァンがイマニクスの機能が書かれたファイルを展開する。どうやら翼や尾は自動操縦でバランスを取るらしい。必要ならば体の操縦席から自由に動かすことができるが基本、自動がいいだろう。
「それと、やっぱり武装らしい武装はないみたい。ミサイルとかサーベルとか」
武装はなし。確かにそうだろう。先ほどの戦いで使った危険生命体専用の兵器、条痕色可視光線と明記されていた兵器の威力は危険生命体を一方的に消していた。いや黒く塗りつぶしていたように見えた。この兵器は物理に対してはあまり効果がないのだという。
「そうだな、少なくとも対人、兵器戦には作られていないだろう。戦闘機は元々昔の機能をそのまま搭載されていたからあるだけで爆薬なんてのは積んでいないから殺傷能力はあまりないが兵器を無力化はできるからな」
それを考えるとイマニクスの存在は危険生命体にのみ考えられているものだとわかる。
「あれ?これアップデートプログラム?新しいバージョンがあるよ?機械の中で作ったのかな?自動で更新はしてないみたい、導入する?」
それはXと書かれたプログラムだった。怪しいとは思うがどうやらそれはイマニクスのシステムが作り出したプログラムのようで害はないように見える。
「そうだな、新しい手がかりが見つかるかも知れない…インストールタイムは一時間か…なら、俺はその間に周辺の探索と食料を探してくる、何かあったら俺に連絡してくれ」
そう言って、アルファは左腕につけていた時計を見せながら操縦席を降りようとする。
「うんわかった。あ、でもちゃんと通信が届くかテストしてみるね…」
そう言って、ノヴァンは自分のポニーテールを結っているリング形状の髪飾りに浮かんでいる歯車型のホロダイヤルにタッチする。
「そのケータイ使いにくくないか?」
「そう?私は気に入ってるよ、デザイン好きだし、ていうかにいちゃんが誕プレでくれたものじゃん。選んだの私だけど」
それならいいが。しかしわからない。最近の女性は機能性よりデザイン性を重視するからノヴァンが何を欲しがるかわからないので、誕生日に欲しい物を買って上げたが、それは髪を自分の好きなように自由に留めることができる髪留めと携帯電話機能が合体したものだった。普通なら腕時計型が主流なのでアルファもそれを好んで使っているがノヴァンはそれを選んだのだ。
「ならいいんだ、ただよく目の届かない所に手を伸ばして操作できるなと思っただけだから」
「簡単だよ、歯車の大きさを覚えて触ればどの調整装置かわかるしモニターは目の前に可視するように設定してるし」
そうか。とアルファは腕時計の可視画面に目を向ける。やがて一通のメールが着通。内容は[お肉食べたい]だそうだ。
「ちゃんと受信できたね、それじゃいってらっしゃい」
「行ってくる」とアルファは短く言い残してイマニクスから飛び降りる。高さは約14メートル。しかし、アルファにとってそれは高いとは感じない。地面に体全体を使って綺麗に着地し周辺を見やる。森が広がっている。イマニクスから見下ろした感じだと森はどこまでも続いていたが空に浮かぶ星がある場所の下は暗くなるのだという。
それならば、とりあえず星の下には人がいるのかもしれない。たどり着けはしないが星の下の方角を目指すことにした。
胸ポケットの飴玉を探る。その数が減っていることに気づいた。
「そういえば、操縦席の中に殻が落ちてたな…」
◆
ノヴァンは一人でイマニクスの調査に没頭していた。10を越える可視画面を目の前にこの世界の魔法というものを調べていた。
数多のファイルの魔法事項、魔法とは、から読み始める。
魔法は精霊を集めて起こす奇跡というものだ。精霊の種類はこの世界を構築している物質や元素の数だけ存在しており、主に火、水、風、土の四大元素。さらに火の精霊という括りの中でも数え切れない程の精霊がいるという。それは人の数だけ増えていくので数に限りはないとも書かれていた。
魔法を使うためには精霊との契約は必須で契約後は死んでも次の世代に受け継がれて生まれ変わるので無限なのだという。
「ふーん、それじゃあ親が精霊と契約してたら子供もそれを受け継いでて魔法が使えるんだ」
人が魔法を使えるようになったのは現在から20年前の精霊大戦の最中だ。昔、人と人とが戦いあっていた時に、世界の果てから現れた精霊との戦争だという。人の争う対象が精霊になったという戦争に終止符を打ったのは10人からなる人達だった。
精霊戦争は人が劣勢を極めていたが、その10人の行動で精霊との会話に成功し戦争は終わり、この世界に平和が生まれたのだという。
「精霊ねぇ、人と争ってたって、なんか私の世界の危険生命体みたい」
そうして、この世界が形造られたが魔法を扱える者は限られていた。それは、精霊との契約が問題となっている。これは、人が決めるものではなく精霊が決めるもので契約を断られる者は当然魔法の行使ができない。それが社会の差を決めることになっていった。
戦争終戦後、魔法を使えるか否かで仕事が決まり、使える者は需要が有り金を稼ぎ貴族へ、使えない者は途方に迷い仕方なく小さな仕事へ。そしてそれは生まれてくる子供に対してもそうだった。使える者は国の役人へ、使えない者は誰もやりたくない力仕事へ。
「魔法社会ていうこと?それじゃあ、魔法使えないとこの世界じゃ生きてけないのかな?」
ノヴァンはそう思い、歴史はともかく精霊との契約の仕方を調べる。もしかしたら、精霊との契約に成功したら魔法を使えるのかもしれない。
四大元素の精霊は人や物に宿るためにそこから奪うかたちとなる。現在での新規の契約の方法はその精霊と会話をして真名を聞き出すこと。
他の上位精霊は世界の何処かに神殿がありそこで試練を受け認めらることが必要だ。
「うーん、奪う?でも他人の使っているの使いたくないし、物もあるてことはそれから契約すればいいのか、でも契約するならこの上位精霊ていうのはかっこいいなぁこれと契約したいよね、どんなのあんだろ」
上位精霊。その存在は不確かなものがまだあるが、存在が確定されているのは六種類。月、星、空、時、光、闇の精霊。どれも契約するには神殿での試練を受けなければいけない。
さらに、四大元素からなる精霊とは違い上位精霊には個体数が少ない。これは、契約に成功する少なさと生まれながらに宿す子供の数も少ないことが比例している。
「上位精霊は六つか。それじゃどちらにしろ契約は今すぐはできないのかぁ…もしかしたらそこら辺の石にでも宿ったりしてるかな、あれ?もう導入終わってる?」
まだ導入開始から15分くらいしかたっていないが新しいプログラムが立ち上がっていた。それを更新する。
すると、他の可視画面とは違う様式で文が読みやすい配置の可視画面が現れる。
『X起動。イマニクスの自動更新を開始。残り40分。初めまして、わたしはX。イマニクス及びその搭乗者をサポートするプログラムです。』
「なにこれ?もしかして、私に話しかけてる?」
『はい』と表示されている可視画面。そういえば、このイマニクスは人が設計したのではなく機械が設計したという話を思い出す。ということは、このプログラムがイマニクスを設計したのだろう。
「えーと、イクスさんでいい?違うなぁイクス?でいい?」
『お好きにどうぞ』なんか機械的だなぁ。機械だから仕方ないけど。
「じゃあイクスで。それでいきなり本命聞くけど、なんで私たちはここにいるの?そもそもイマニクスてなに?」
『質問を二つ確認。一つ目の返答。あなたたちはイマニクスの持つ人の思考を顕す黒い力と人の意思を受け取る白い力との反発で起きた宇宙規模の超次元転移でこの世界に来たのです』
思考を顕す黒い力?人の意思を受け取る白い力?そういえば、イマニクスの操縦席を囲っている装甲が白と黒だったのを思い出す。
それが反発して宇宙規模の超次元転移でここにやって来た。ということはここは元の世界ではなく次元を超えた異世界。
『二つ目の返答。イマニクスは危険生命体の殲滅を目的として設計された機体です』
それは知っている。ノヴァンは別の可視画面を持ってきてそれを見せつけながら質問。
「それだけ?聞き方間違えたかな?ならなんでイマニクスにこんな情報がのってるの?これは何?」
『それはこの世界の基本的な情報データです。イマニクスの設計はこの世界にあったものを参考として作られたのでこの世界の情報ものっているのです。現在提示されている情報は10年前の情報ですので更新を最優先します』
このイマニクスの設計はこのシステムが組んだものではなくこの世界にあったものだという。ということは、この世界にはイマニクスを設計した者がいる?
「それじゃあ…なんでその設計が私たちの世界でできたの?この世界と私たちの世界はどこかで繋がってたてこと?」
『危険生命体を解析した結果、このイマニクスの設計と危険生命体の対抗策、もうひとつの世界の存在が確認されそれを人類用に最適化したのです』
「危険生命体がこの世界の存在を持ってきたということ?それじゃあ危険生命体はこの世界にいたということ?」
そこで、ノヴァンの腹が小さく唸る。飴ばかり舐めていても腹は満たされない。最後にご飯を食べたのは元の世界での施設での昼食だ。一日は経っている。他の戦闘機なら非常食が積んであるがイマニクスにはない。
気分が悪くなり横たわる。可視画面に更新される文字。イクスからの返答だ。読む気が起こらない。
「うわぁ、なんかややこしいけどさ、じゃあこのイマニクスてこの世界の物なんだ、とりあえず後はにいちゃんが帰ってきたら質問しよ…」
貧血で倒れそう。髪飾りの通信機能で兄にメールを送る。腹減って死にそう。と。
◆
木々が倒れる。周りの静けさが喧騒と変わり近くの鳥や動物がその場から逃げていく。
森の中を歩き進むと様々な動物や植物と出会った。角が生えたライオンや牙がむき出しの草。これらはとても危険だがアルファにとってはそうでもなかった。手持ちの実弾と光線の二つの仕様が施された拳銃。長さ2メートルまで伸ばすことが出来るレーザーサーベル。空気中の水素と化学反応を起こし水素爆発を起こすガスが詰まった特殊強化手榴弾。それらを使い、森の生き物を駆逐していく。必要な部分を剥ぎ取っていく。
「木星の生態系に近いな」
施設にいた時の仮想訓練で木星の生態系を再現したサバイバル訓練を思いだす。しかし、襲いかかる動植物はここまで凶暴ではなかった。とはいえ、的が大きいために苦戦はしない。厄介なのは元の世界も変わらない蛇や虫といった目に見えにくい個体は危険だがそれは周囲に展開している音波レーダーで常時注意をしているので今のところ大事はないが、
カチッ。片手で構えていた銃からの光線が地を這う蛇の体を焼き切る。
「小物は近づかれたら対応はできないからな。うん?ノヴァンからか」
アルファの腕時計にメールが来る。その内容を見て帰ることに決める。まだ20分しか経っておらず、原住民との邂逅もないが仕方ない。探索はまた別の時間にしよう。もうすぐ帰ると簡単に返す。
とりあえず、食べられそうなものはたくさんあった。肉がちょっととほとんど果物だがこれで満足するだろうか?それらが詰まった網を引きずり道を引き返す。着信。
『この世界とかイマニクスについては大体わかったよ、世界地図もあったし詳しいことは食べてからで』
了解。戻る道は木々を倒してきたので分かりやすい。しかし、そこで信じられないものを見た。
巨大なトカゲ。いやその姿は作り話で出てくるもはやドラゴンといった感じだ。大きさはイマニクスの二倍くらい緑色をしている。いや、周りの森と同化している?あれだけの大きさなのに周りの木々が倒れていない。それにいつの間にここに現れたのだろう?音波レーダーは今頃になって存在を捉える。
とりあえず、様子を見て観察をしていると自分が倒していった木々を立て直していた。木の折れた部分を持っている。そこにドラゴンの腹の中から全身を法衣で包んで顔を隠した人間が歩いて現れた。木のつなぎ目に光を灯し修復している。
「なるほど、あれが魔法か。しかし、悪いことをした気分だ。ここは素直に謝って情報を得よう」
アルファは観察をやめてその場に出て行く。
「すいません、聞きたいことがあるんですが!」
「………」
その人間はアルファの声に振り向いた。近づいても法衣に隠された顔は見えず、応答もないので男か女かもわからない。だが戦う意思はないようで修復に使っている手を下ろさない。
「道案内とか聞きたいこととかいっぱいあるんですけどいいですか?」
「………」こくりと頷く相手。聞いていいということだろう。
「人が居る場所はどこですか?それと、これは勝手に持って行っていいものですか?」
「………」こくりとアルファの倒していった木々の向こう側を指差す相手。どうやらあっちに人が居て、これは持って行っていいのだろう。
「ありがとうございます」
礼を言って足早にアルファはその場を立ち去った。とりあえず悪い人ではなさそうだが相手の力量がわからない。少なくともあのドラゴンには勝てない。戦う気はないが、あれがこの世界の基準なのだとしたらこの世界の人間はとんでもなく強いことになる。
それに、木々を倒した犯人を探しているわけではなく修繕が目的というのも気味が悪かった。人間ではないみたいな。いや本当は人間ではないかもしれない。この世界は魔法や精霊という者が存在するくらいなのだから非人間がいてもおかしくはないだろう。
それより、ノヴァンが腹を空かして待っている。今後の方針は食事の後から決めよう。
料理はとても質素なものだ。
周りの草、木々を集めてレーザーで火を起こし持ち歩いているサバイバルキットから透明なビニール袋を用意し、一通りの食材を加熱処理。角が生えたライオンの肉を火であぶって焼いた角刺し焼肉。牙がむきだしている草の茹でサラダ、果物は陽性か酸性か、甘味か苦味かで分けて毒味してから美味しいと感じたのだけを選抜した。結果、バナナのように外側を剥いて芯だけを食べるキノコ、中身だけを絞り電気分解を施して塩化物イオンの反応がする液体だけを抽出し持ち合わせの塩胡椒で味付けしたドレッシング。
とりあえず、安心安全のこの世界で初めての食事だ。
「なんか、まさにザッ異世界フードだね、んぐんぐ」
「こんなことで死にたくないからな」
ノヴァンは幸せそうに角刺し肉をほおばっている。それが、一番美味しいらしい。とりあえず、まだ使ってない肉を乾燥させて燻製肉にするか。
それでも、野いちごやぶどうといった元の世界でも食べていた果物があってよかった。味は基本的に同じで、むしろ天然なのかこちらの方が甘くおいしいと感じた。おかげで、料理を作っている時間にノヴァンが腹を空かして死んでしまうところだったのだから。
ちなみにアルファは三日は水だけでも生きれるように鍛えているのでどうということはない。
空を見上げる。まだあたりは明るく太陽が陽を差している。探索の時間はまだまだありそうだ。
「こっちに帰る途中に人…か分からないが、会った。あっちに人が住んでいるらしい」
アルファは向こうを指差す。なにせ東西南北も分からないのだ。木の年輪は複雑な幾何学模様だったり横縞だったし、一面の世界だから磁力針も反応を示さない。
「じゃあ、そこまでとぼっか?こっちはイクスが起動してなんでも聞けるよ、さっきにいちゃんに見せた情報はこの世界から10年前の情報だからそれを更新するのに1時間も掛かるんだって」
「イクス…それがこのイマニクスを設計したプログラムの名前か」
「それは違うみたい。設計はこの世界にあったのを使ったんだって、だから設計者は別にこの世界のどっかにいて…えーと、設計情報がどこから流れてきたかて言うと危険生命体を調べたらそれが分かったんだって」
変な話だ。それだと危険生命体はこの世界から発生したということだ。それなら、
「この世界も危険なのは変わらないか…」そう言って、サラダを手に取る。
「にいちゃん、肉食べないの?」
「俺は残った分を食べるさ、それに燻製にして明日の分もとっておきたいからな」
「ふーん、なんかにいちゃんて徹底してるよね、それって誰にでもそうなの?」
「…どうだろうな、あまり人と関わるのは苦手だし、そうだな。今のところはノヴァンにだけなら特別扱いはしているかな」
「特別扱い?そういうことじゃなくて、にいちゃんは、誰にでも、そうやって、強がっているの?」
一瞬、アルファはノヴァンの言っていることが分からなかった。返答の考えが思いつかない。
「弱い自分は誰にも見せてないの?私は見たことないなぁ。にいちゃんて私より先にあの施設に入ってたよね?孤児院の頃に居たおにいちゃんはどこに行ったの?」
「ノヴァン、お前、何を言っているんだ?俺は俺だ。人は変わるものだし、昔の俺は…もう思い出だ」
「ふーん、そう。じゃあ、もう言わないでね、私の名前。私はノヴァンだから、本が好きな幼稚なわたしは…思い出」
そう言い残し、最後の肉に手を付ける。両手で二つも手に取る。残る肉はない。
「にいちゃんが食べないから悪いんだよー?じゃー飛びながら話をきこっかー」
さっきの話などなかったようなテンションで喋る妹。
「……そうだな、ノヴァン。…肉は燻製にする分もちゃんととってあるから気にするな、明日も食べれる」
「ありがと、さすが私のにいちゃん」
そう言ってノヴァンは立ち上がりイマニクスを見上げた。
いつから、ノヴァンはこうなったんだろう。孤児院から施設へ移った時。施設から名前を付けられた時。兄のアルファが変わっていたことに気づいた時。いつか。それはわからない。
角差し肉を食べながらワイヤーでイマニクス頭部の操縦席に行く妹の着るオレンジ色のパーカーの後ろに悪戯のようにぶら下がっている名札。
「それでも、お前はどこかクリスのままだな」




