「独白」
厨二設定を満載にした小説です。
ゴミを見るような目で見てくだされば本望です。
俺、更級 ユウヤの殺人は特に躊躇いのないものだった。
いや、もしかしたら少しは、本当に少しはあったかもしれない。
それは相手に対するものではなかったけど。
結局は、自分に対するものだったろうけど。
やはり自分の環境を決定的に変えることは躊躇した、はずだ。
しかし自分の世界を変えることは微塵にも躊躇しなかった、はず。
そう言う意味ならば、結局のところ、自分は社会不適合者だろう。人間失格かもしれない。あの本を読んでいないからわからないけど。自分から見てみれば、聞いてみれば、評価してみれば、自分は自分で自分自身を定めることができる。
自分は、人間でいるべきじゃあない。
多分。いや、きっと。
そういう気持ち整理ならぬ精神統一をしたことで、いやしたところで、自分はようやくその行為を行った。人間として、人間社会として一番ではないかもしれないけれど、それなりの禁忌になることを行った。
年齢16歳。職業、高校生。
そんな自分の人生初、『人殺し』を。
特に理由があったわけではない。いや、自分としては理由があったつもりではあったけれど、いろいろあったけれど、例えば百人に聞いてみれば百人中百人が皆、「そんな理由は理由にならない」「それぐらいの理由で」とか言うのかもしれない。
いや、やはり百人とも、「どんな理由があろうとも人殺しをするのはいけない」というのだろうか。つまり、というかやっぱり、特に理由なんかない、いらないってことになる。理由を思い出すことも面倒だ。
それでも理由を挙げるとすれば、意味なんてないってことをしていたとしても挙げるとすればなら、「生きるため」である。
実際、殺した相手は特に面識もない。そこら辺を歩いていたそこら辺にいるサラリーマンだった。中肉中背で――特に必要のない情報か。とにかく、普通の家庭を持っていそうな帰宅途中のおっさんだった。悪いことをしていなさそうな人。特に一度見ただけでは、十度くらい見なければ5分後くらいにはすぐに忘れてしまいそうな人だった。
標的としては申し分ない。特に基準を決めていたわけでもない。とりあえず今日を凌ぐほどのお金を持っていそうな人を標的としてみた。大金を持っていれば幸運、と考えていたぐらい。
その人を見たのはあたりが完全に暗くなってしばらくしたころだったし、そして人気のない道だったから、始めての人殺しとしては地味ではあったけれど気にしてもしょうがないことなので、とにかく尾行してみた。しかしこちらは探偵ごっこをしているつもりはないので、どんどんと距離を詰めていき、おっさんの左側を追い越しざまに持っていたボールペンをこめかみにでも突き立ててみようとした。それはもう突き刺す勢いで、貫通させる勢いで、右手を振りぬいた。ブツリと音を立てて、それはおっさんの眼球に刺さる。どうやらこめかみに刺さる前に振り返ろうとしたみたいだ。これは誤算。どうでもいいミス。しかし声をあげられてはたまらない。おっさんは眼球に刺さってから2秒ぐらいすると左目を手で覆い悲鳴を上げようとした。それで人でも来たら面倒なことになると思い、その前に左手に持っていたカッターナイフで喉を切り裂く。切り裂くというより力かせに喉を引きちぎる感覚に近かった。切れ味からして見たら当たり前かもしれない。日本刀じゃあるまいし。早々紙を切るがごとくの感覚では人の体は脆すぎるというものだ。どうでもいいけれど。喉をやったため、おっさんの口からは「ゼヒューッ、ゼヒューッ」という排水溝ポンプさながらの音しか出ない。喉からは血液しか出ないし。
このまま放って置いても絶命するだろうけど、万が一でも変なことがあったら困るので最後に頭を掴んで壁に叩きつけておいた。一回でおっさんの意識が消える。これでいい。あとはおっさんの服を探り、内側から財布を取り出す。そしてちょっとした作業。あとは用済み。これがどうなろうと知ったことじゃない。次にすることはとにかくそこからエスケープ。走って殺人現場から離脱した。
それからというもの、家という休眠所を所有していないので一時拠点としている寂れた公園にある、これまた錆びれた大きな遊具に入る。雨は防げるが寒さは緩和できないこの物件は、朝になろうが昼になろうが夜になろうが一向に人が来ず、果たして自らの役割を全うしているのかどうか怪しい公園にある。自分としては願ったり叶ったりの良いところであるわけだが。
感想としては、その時全力で走っていたので思考することができなかったけれど、今ならとりあえず考えられる。
と言っても、やはり特になかったけれど。
疲れてはなかったし(走るのは疲れたけど)、人殺しによる罪悪感などはなかった。後悔もない。ただもっと楽に殺せるかも、という反省はあったけれど。それだけ。
それっきりで今日の人殺しのことは頭から離れた。もうすでに頭の中ではどうでもいいカテゴリになっていのだ。
さて、一番重要なのははっきり言って人殺しではない。
財布の中身である。これで俺の生活が決まるのだ。
たしかこの初めての人殺しで得たお金は5600円だった。可もなく不可もなく、印象に残りづらい金額だ。
見れば財布の中に写真が挟まっているのを覚えている。写真にはおっさんとその家族が写っていた。言っちゃ悪いけど、あのおっさんには勿体ないほどの美人な奥さんに、二人の子供が笑っていた。おそらく兄妹だろう。
そういえばと考えてみた。この初めて殺したおっさんにもやはり家庭はあったのだ。そしておっさんは多分この家族の暮らし、生活を支えていただろう。その支えを失って、この家族はいったいどうなるのだろうか。
………どうでもいいか。
二年経った今でもこの家族がどうなっているかは知らないし、興味ない。
生きていようが、死んでいようが、別の人と結ばれて幸せに暮らしているか、どうしようもなく不幸になっているか。
確かめる術は今になってはもうないし、できれば幸せに暮らしていることを切に願っておこう。願うだけならタダである。
さて、次の問題は今の自分の状況だ。
返り血は出来るだけ浴びないつもりだったが、もちろんその努力もしたが、やはり喉を掻っ切っただけに返り血が半端ない。
幸運なのは黒い革ジャンを着ていたことかもしれない。よく見ないと血が判別しにくいし、何より洗いやすい。公園には噴射型水道もあったことだし。血を浴びた顔をも洗いたかった。べとべとして気持ち悪い。
ここら辺の人のとおりが少ないのは本当に救いである。誰かに見られたらアウトだ。警察に見られるのは最悪。最近の警察は優秀だと聞くし。
ここからの行動の順序からすれば、次はコンビニで弁当でも買いに行くつもりだったんだけど、そんな俺の順序は間もなく崩れ去ることになる。
正直に言えば、手持ちにある所持金が無くなりそうになったらまた人殺しをするつもりだったのだけれど、それも崩れ去ることになった。いや、これは現在にしても継続中ではあるかもしれない。
とにかく、この初めての人殺しをした一日は、思いもよらぬ一日になる。
偶然、本当に偶然、公園に来た少女、『玉藻』によって。