第零話
短いですが読んでもらえれば嬉しいです。
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よろしくおねがいします。
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「……………」
そこに声はなかった。ただ、規則的な寝息だけがあった。
外は既にその日の活動が始まっていて、いつものように雑然とした街並みでいい具合に混沌として薄暗かった。
工房は主を中心に真円状に機械やら工具やら、珍しいところではキャンバスまでが広がるに任されていた。
そして円の中心には腕まくりした白衣に身を包んだ水色の頭をした男が胡坐を組んだまま睡眠に没していた。
気圧が下がりきったであろう発光筒はその役目を果たさず、故に工房の奥、主が『研究所』と呼ぶ広さにしてタタミと呼ばれる藁板換算三枚分ほどしかないそこにはおよそ明かりという物がなく、水色頭の彼がいるそこには微かに隙間のある出入り口から洩れる一条の光だけしかなかった。
研究所にはワケのわからない物も多く転がっていたが、反面ワケの分かる物も転がっていた。
その内の一つ。
古ぼけて、もはや表紙に何と書かれているのかも判別がつかないほど外見的にはボロボロになったノートだった。しかし、外見に反して中身には黄ばみすらなかった。おそらく、ボロボロになっている外側の部分がよほど強靭な出来になっているのであろう。
ガラリ、と。
研究所の扉が開いた。
水色頭がもしも目を醒ましたなら逆光で良く見えなかったであろうその人影は左手の袖がブラリと垂れている。腕がないのだ。
髪の色は薄暗い真紅。目の色も緋色。見える肉体的な外見は赤のイメージが強い、そんな女だ。女は視線を下げた。
視線の先には古ぼけたハードカバーのノートがあった。
「…。これかい、昨日アンタが言ってた『忘備録』ってヤツは」
口の端には形容しがたい表情が浮かび、眼光だけはやけに真剣な色をたたえていた。
「じゃ、約束通り読ませてもらうよ。」
そう言って、女は研究所の扉を元通り――否、今度こそ一切の光が入らないように締切り、出て行った。
手には古ぼけたノートがあった。
水色髪の男は、ついぞ目を醒まさなかった。
…扉を閉めた途端、バフっという音が研究所から洩れてきた。
水色髪の男の身体は胡坐ではなく寝転んで眠る事を選択したらしかった。
次回へ続く
あとがき
本作「Change Ling」の原案者に聞いた所、開示していない設定がそれなりにあったようで初期プロットが崩壊した。
崩壊してしまったものは仕方がないし、原作にあたる「the origin」は原案者の頭の中で完結したまま具象化の可能性が著しく低く、さりとてその世界設定は強固であるがためにヘタに原作世界のアナザータイプを書こうとしても設定から外れるような描写を原作者が「ありえない」と、どこかの物理学の准教授みたいな事を言い出しそうなので原作の舞台に手を出すのは怖い。
ってなワケで、世界観は共有するものの、舞台とする都市を変えてみた。
『可能性という世界』『ありえるかもしれない世界』そういう視点で、原作に登場するキャラクターを掘り下げるスピンオフ小説に仕立てる事とした。
って、そもそも水色頭のキャラは私のオリジナル漫画を出典としたお遊びキャラなので「Change Ling」世界における彼がどういう経路をたどって原作の舞台となる都市に来たかについては私が捏造してもさほど問題はないという風に考えたと言うのもあるのだが。
まぁ、御託は良いとして、そんなワケで、物語らせて頂きます。
お付き合い頂ければうれしい限りです。