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2話


 なぜかしら。

 城下へ引っ越してきてから、私のことをぶりっ子とか、猫被りとかいう人が多いのよね。

 もともとお父さんの仕事の都合で、1年程度ここに住むだけだし、都会観光とか勉強のために家族総出で引っ越してきたけど…都会の人って暇なのかしら。

 私が住んでいた村では、あまり見たことのない光景。奥さま方の井戸端会議。お嬢さん方のお茶会。

 実りがあるのか…ないのか…。

 まぁ、立場によって必要なことって違うから私が無駄だと思っていても貴族の方には死活問題になるくらい重要なことっていうのもあるわよね。きっと。



 なんてことをぼんやりと考えながら、お城までの道を隣で歩いているイルディの自慢話やその他の噂とかをニコニコと聞き流す。


「貴族の娘というのは、アイリーンのように純粋な心を持っていない。すぐに他の女性をそれとなく蹴落とすことに必死で…」


 云々カンヌン。

 あぁ…男の人のお喋りってどうしてこんなに癪に障るのかしら。

 5分とそのお口をつぐむことができないのかしら。

 イライラとした内心を隠、微笑みながら、少し戸惑っている風に、私は眉を寄せる。


「私だって、イルディがいうほど良い人ではないのよ。それに、お嬢様達は貴方の気を惹きたいのよ」

「ふんっ…。僕の気を惹きたいというのなら、アイリーンのように控え目に可愛らしくしていればよいというのに、なぜあんなにキンキンと頭に響くような声や、ねっとりとし鼻につく声をだすのだ」


 それは控え目にしていたら貴方の目に留まらないだろうし、高い声は少女らしい媚の売り方だし、鼻につく声は大人の色気を意識してるんだと思うわ。…言わないけど。


「よくわからないけど、もしも私が好意を寄せている人にそんなことを言われたら…きっと悲しいわ。だからイルディ、お願いだからそんなことを言わないで?」

「もっ!!もちろんだよ、アイリーン!!僕は君に対してそんな失礼なことを言えるわけがないじゃないか!」


 や、だから。

 私じゃなくて、未来の貴方のお嫁さん候補のお嬢さん方に、だからね。

 あぁ、なんだかこの国の未来が不安だわ…。


「ふふっ、イルディがもっと優しくなったら、きっと女性のみなさんにもっと好かれるわね。素敵なことだわ」


 言わないけどね。

 この態度が女の子に嫌われるんだろうけど、これも処世術だからね!

 王子様のおかげで色々と特別扱いしてもらえてるんだし、リップサービスくらい、しとかなきゃ!


 ニコニコと彼の話を聞きながら歩いてたけど…顔面の筋肉が強張ってきたところで、やっと城門に到着した。


「お帰りなさいませ、殿下」

「なんでお前がここにいるんだ」


 イルディ…もうお城だから殿下かな?

 お城の敷地に入った瞬間、音もなく現れた簡素な事務官用の制服を身に着けた男性をみて殿下は嫌そうに顔を顰める。

 そんな表情を意にも介さず、ほぼ無表情で男性、クロウ・バネッサ子爵はパサリと1枚の紙を殿下の眼前に突き出す。

 肩上で綺麗に切り揃えられた白銀の髪がキラキラと輝き、前髪で少し隠れているピジョンブラッドの瞳が呆れた様子で細められた。


「どうして本日中の書類を机の抽斗にしまわれたまま外出されたのかは、知りませんが」


 ちらり、と私をみて小さくため息をつく。

 ああぁぁ、すみません。

 仕事が終わったと聞いたからついてきたのに!

 ビックリして思わず殿下をみると、気まずそうに唇をとがらせている。


「本日はわたしも私用があるのであまり時間がありません。至急、執務室へお戻りください」

「だが、せっかくアイリーンがきてくれたというのに!」

「彼女のことは騎士団の第4隊長にエスコートを手配しました」

「なぜよりにもよって!」

「本日、非番であったことと、彼女とは親しくしている様子でしたので。…アイリーン嬢もそれでよろしいか」

「あっ、はい。もちろんです。殿下、お仕事はしっかり終わらせてきてください。早めに終わりましたら、庭園でご一緒しましょう?」

「アイリーン…あぁ、わかった。さっさと終わらせてくるから、決してあの男に気を許しては…ぅぐっ!」


 私の両手を握って必死に言い募る殿下の首根っこを摑まえて、クロウ様は頭一つ分低い殿下をズリズリと強引に引きずっていく。一瞬、殿下の声が、ぐぇっと詰まって気もするし、引きずられている間も喉が苦しそうに見えるけど、気づかないふりをして、クロウ・バネッサ子爵様へ深く頭を下げる。


「すみませんでした、子爵様」

「いえ、あなたが望んだ訳ではなさそうですので結構です」


 素気無い声で遠ざかっていく彼へ、私は必死に、ずっと気になっていたことを問いかける。


「あのっ…!と、トールディア・テリデント公爵令嬢は、いかがお過ごしでしょうか…!?」

つつがなく。」

「わかりました!ありがとうございます!!」


 深く、ふっかーく頭を下げてお礼を言う。クロウ・バネッサ子爵様はこちらを一瞥もせず、重たい荷物を引きずりながら城内へ入っていった。



 あぁっ!

 今日はなんて僥倖ラッキーなのかしら!

 奥宮のお庭を拝見できるだけじゃなくて、憧れのお姉さまのことをお聞きできるなんて!



 お姉さま。

 トールディア・テリデント様。

 バルバ帝国のテリデント公爵様のただお1人ご息女様。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

 そんな表現だけではまだお姉さまの華麗で優しくて、端麗で、色香のあるお姿を知らしめることなんてできないわ。

 胸下まで緩やかに波打つ白金プラチナブロンドのおぐしは太陽の下でも、月の下でもキラキラと輝いている。

 眉の上で程よく切り揃えられた前髪の下には静かな青灰色の瞳が知的に麗しく、スッと通った鼻筋に、唇は少し厚くぽってりとしているのが麗しいかんばせに僅かな色香を加えている。

 さらにはそのお体も、とても女性らしい綺麗なライン。

 身に着けているドレスもさり気なく品がよく、けれどとても女性美を強調したお姿には同性すら頬を染めてしまう。

 もちろん、私もその1人だったわけだけどね。



 実は私、というか我が家は、テリデント領内にある小さな村にある。

 テリデント公爵様はとても領民思いで、6代前に遡ってもずっと領民のために、10歳から3年間の義務教育期間を設けて、学舎を建てたり、専門知識を得られる高等学舎や図書館をつくったり、道路、乗合馬車、下水、治水、療養施設などの設備を拡充してくださっている。もちろん、図書館や療養施設は使用料も取られるけど、高等学舎や図書館は成績優秀者への費用免除制度もあるし、療養施設は収入に応じて手当の給付もある。

 徴収される税も確かに他よりも多いかもしれないけど、それを考えても類い稀な公共サービス!

 もちろん治安もいいし、自治のための青年団もしっかりと機能している。


 はっきりいって、バルバ帝国内で1番住みたい土地といわれているのが、実はテリデント領なのですよ!(鼻高々!!)


 そしてそのテリデント様一族の中でも、随一といわれているのが、隠しようもない、トールディア様なのです!!


 あぁ、もう、なんて素敵なのかしら。いつも心の中でお姉さまと呼んでいるから、つい口からでてしまいそうになるけど、私とお姉さまでは身分も頭の出来も、立ち居振る舞いも雲泥の差。

 幼い頃、村の苛めっ子たちに泣かされていた私を領内視察でいらっしゃったトールディアお姉さまが助けてくださったのが私たちの出会いであり、始まり。

 私に、やられたらやり返せ!右頬をぶたれたら左ほほをぶてばいい!!と発破をかけて、負けるなと教えてくださったトールディアお姉さま!

 やり返したら万倍返しされて、泣いていた私に、とてもお優しい微笑みとともに、頭を撫でて怪我の手当てをしてくださり、こっそりと苛めっ子に釘を刺《報復》してくださったトールディアお姉さま!!

 齢6歳にして、私は8歳のお姉様に対して胸の高鳴り…そう、初恋を知り!

 献身という言葉を胸に刻みました!

 私はトールディアお姉さまのために!



 全てはトールディアお姉さまのために存在するのです!!!



 あ、興奮したら鼻血が……。





アイリーンは残念な子です。

乙女ゲームの美形主人公なのに村ではトールディアへの愛を開けっぴろげにしているので、異性は若干引き気味(苦笑

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