§ 第二十章: 新しき平和と均衡 2 §
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆2◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「エリーシャ様。こちらでよろしいでしょうか? 」
アリアとマリアは色とりどりの服を着てエリーシャの前に出た。エリーシャは可愛い義妹達の姿に微笑んだ。その姿に二人は釣られて笑い出す。最近アリアはエリーシャとよく一緒にいるときが増えた。ハーヴィスが戦争に出ていると言うのもあるが、何よりアリアがエリーシャに告白をして以来、彼女達の距離はとても近くなった。エリーシャの部屋までの誘導は常にマリアが行っている。
「ウフフ、貴女達とても綺麗よ」
エリーシャはアリアの頭を撫でる。それにアリアは甘えるように喜んだ。その姿をマリアは見つめていると、やはり、彼女達は本当の姉妹にしか見えない。最近アリアは育ち盛りなのだろうか、身長が伸びた。見た目はエリーシャと変わらなかった。更に大人びて、色気が出てきた。そしてエリーシャの真似を続けてきたのだろう。気品も出てきた。マリアの前でよくエリーシャの物まねをするのだが、ほとんど遜色ない。
「マリアも、とても綺麗よ」
不意にエリーシャはマリアの頭を撫でる。アリアのように素直に甘えることができないマリア。そんな彼女を愛おしそうにエリーシャは撫でた。頬が熱くなる。目が潤んでエリーシャを上目遣いで見つめる。すると、エリーシャは「もぅ~可愛いっ! 」と言いながらマリアを抱きしめた。エリーシャの大振りな胸に押し当てられマリアは窒息しそうになるが、とても気持ちが良かった。すると、アリアも「ずるい~私も~」と駄々をこねた。その姿をニコニコしながらエリーシャは二人を抱きかかえて愛しんだ。
「ねぇ……エリーシャ様。ハーヴィス達うまく行ってるかな? 」
アリアはエリーシャの心臓の鼓動を聞きながら尋ねた。するとエリーシャは首をかしげながらも答えた。
「そう、ね。私の予想ではハーヴィスは元気にローヴァス帝国を侵攻していると思うわ」
「そうなのかな? ケガとかしてない? 」
不安そうな表情のアリアにマリアはこの子はとても優しい心根の子だと思った。
「ケガ……してるかもしれないわね。でも、彼は絶対に勝つわ」
エリーシャは常に凛としている。優しさも持つが、溢れ出す気品が常に出ている。公の場にいるときの彼女は人形のように無表情だ。自分たちがいる時だけ、彼女は本来のエリーシャを見せてくれる。それがとても嬉しい。
「もうしばらくしたら報告が来るわ。その時にまたお教えします。今はこの時間を楽しみましょう」
「「はい! 」」
二人は頷いた。名残惜しそうに三人は体を離した。そして、机と椅子、テーブル掛けなど部屋の真ん中に設置をすると、既に用意していたティーポットを真ん中に置いた。三人はこれからティータイムに入る。
「あ、今日は珍しいお菓子を持ってきましたの。旧港湾都市国家の職人様がお作りになられた天下一品のものだそうです」
アリアは綺麗な包み紙に覆われた箱を丁寧に開いた。マリアとエリーシャは何があるのか気になりジーッと見つめている。アリアが箱を開けるとそこには綺麗な月餅があった。
「これは……なんですの? 」
「ええ、これは月餅と言うお饅頭だそうです」
「お、おまんじゅう? 何それ? 」
エリーシャの質問にアリアが答え、マリアは首を傾げながら復唱した。この饅頭は丸い。そして、表面には焼印があるようだ。四種類と真ん中に大きなものがあり、五種類の焼印の絵柄があった。これはお菓子だけではなく見た目にも楽しめる逸品のようだ。
「あ、これって……東西南北で表現されているね。その国の特徴が焼印されてるみたい」
まじまじと見ていたアリアがそう言う。改めてみると、箱の隅に東西南北が文字で書かれており、月餅の箱の上が北、左が西、右が東、下が南を表しているらしい。つまりはこの饅頭がひとつの大陸を表していると言うことだろう。
南を見てみると、セリスタのようだ。セリスタの懐かしい城が焼印で再現されている。これを見るだけでエリーシャは昔の記憶を思い出し、自然と微笑んだ。
そして西、これはエルベリア教皇国、エルベリアの誇る教会の絵柄が焼印されている。細かい細工まで焼印にあり、見事なものだった。
東はローヴァス帝国。彼ららしく、騎馬兵が雄壮に走る様が描かれており、後ろの背景がロクターナ城だった。
北は北方王国のようだ。森が生い茂った中に見える小川と畑、後ろには北方王国の主城が望めた。
真ん中の大きな饅頭はなんとハーヴィスの顔だった。そして彼の後ろには武神阿修羅がおり、とても立派なものだった。この饅頭を見る限り、この作者は東西南北全てをこのハーヴィスが統一するだろうという傲慢な思想の元に作られたと思われるものだった。
だが、ここにいる女性陣は沸き立った。彼女達の知る人物が饅頭として焼印されていることに興奮していた。こういうものが商品になるということは今、それだけハーヴィスという男の知名度はとても高く、今流行りの人物ということだろう。
「早速食べましょう。あ、この北の奴はシンプルね。美味しいわ」
マリアが食べたものは、こしあんというもので、シンプルな中に爽やかな甘味が広がるものだった。素朴ながらも口当たりが良く、水分が少ないため、緑茶とあわせて食べるととても美味しかった。
「じゃあ私は東の奴を……あ、これは、おいしいけど、何か皮が入ってる。でもモチモチしてて美味しい」
アリアが食べたものは粒あんである。こしあんと違い、小豆本来の美味しさが感じられる。こしあんのようなすっきりした甘味ではないが、その分もっちりとした甘みがあり、人によってはこういう美味しさが好まれている。水分が少ない餡を使うこの饅頭としてはかなりめずらしいものである。
「それでは私は南のものを頂きましょう。あ……これは松の実とくるみですわね。面白い味ですわ」
エリーシャが食べたものはあんこに針葉樹の松の実、胡桃を混ぜたもので、月餅を作る文化ではかなりポピュラーなものである。松の実のコリコリとした食感が珍しく胡桃の独特の食感が楽しめるなど、面白い中に美味しさのあるものだった。
しばらく三人はこの月餅を分け合いながらティータイムを楽しんでいた。そして、西側の月餅に入る。こちらはナツメ餡が入っており、甘酸っぱい食感を楽しめた。世の中にはこんな面白いお菓子があるのかと皆は満足していた。
そして最後はハーヴィスと武神阿修羅の焼印がされている月餅だ。これをナイフで切り取って中を見てみると女性陣は感嘆の声を上げたのだった。
「うわぁ……とても綺麗」
「色とりどりのゼリーなのかしら? 中がとても綺麗」
「あ、これってドライフルーツですね」
アリアとエリーシャが驚いている中、アリアがそのあんこの中にある色の付いた粒を食べてそう言った。
「ええ? ドライフルーツってこういうものにも使われるんだ。すごいね! 」
アリアは目を輝かせた。珍しいお菓子だけに興味は尽きない。とても有意義なティータイムとなったのだった。
「はぁ~幸せ」
三人はしばらく雑談をしつつ色々と話をした。つい最近までのエリーシャにはなかったとても貴重な時間だ。この時間にアリアも加わり、更に賑やかになっていった。そんな中、アリアはある提案を持ちかけた。その提案は退屈を持て余していたエリーシャにとって渡りに船だった。そして、アリアは今までの自分の訓練の成果を見せる日が来たと張り切ったのだった。
「フフッ、ハーヴィスの驚く顔が目に浮かびそう……」
アリアは一人舌をチロリと出していたずらっ子の如く笑ったのだった。
彼女たちがティータイムをして三週間ぐらいがたった頃、ハーヴィスがローヴァス帝国を滅ぼし、凱旋するという情報が伝わった。それにより、エルベリア教皇国に対して弓を引ける力のある国は無くなり、この大陸は聖エルベリア教皇国を筆頭に平和が保たれることとなった。
「おねぇ様、やっと、やっと私達に心休まる平和が訪れましたね! やっぱり、ハーヴィス様はすごいですわ」
「そう、ね。ハーヴィスはすごいわね」
マリアが踊るようにエリーシャに話しかけた。その姿を微笑みながらエリーシャは答える。だが、この戦争の発端はハーヴィスと自分の不倫から始まったということがあるだけに、若干複雑な思いが合った。しばらくすると、アリアからも情報が伝わり、三人で手を取り合って喜んだ。
これで平和が訪れる……そう思うと、少し心が休まる気がする。この戦争で失われたものが沢山あった。お互い潰し合いの様相を呈しており、周りの国は静観をし、隙あらば介入をしようとしていた。そんな中、ハーヴィスという” 誤算 ”がこの大陸の平和を一気に加速させた。それが結果的に他国を介入させることなく、聖エルベリア教皇国対ローヴァス帝国という図式のみで戦争が行われたというシンプルな構図となった。他の国は静観しているうちに終わった為、歯噛みしているかもしれない。何もしないうちにエルベリアがこの大陸の支配者となったのだから。
「あと一ヶ月ぐらいでハーヴィスがエルベリアに戻ってくるようですね。大部隊なので、少し動きが遅いようです」
「う~んやっぱり早く帰ってきてほしいなぁ。待つのは嫌だよ」
マリアの言葉に少し頬をふくらませながらアリアが言う。その姿をエリーシャは微笑むように見つめていた。つい最近まで自分はアリアのその態度が許せないぐらいに視野が狭くなっていた。今はそれが反対に彼女の素直さであり、魅力であることが分かった。おかげで彼女を微笑みながら見つめるほどの余裕が出来た。いづれ、エリーシャはハーヴィスを束縛したことを謝罪しようと思っている。結果はいい方向に進んだが、下手すれば二人は破滅の一歩を進んでいたかもしれない。かなり危ない橋を渡っていた。今思うと身震いがするほど怖いものだった。
「そうね~早くハーヴィスに会いたいわね。アリアが羨ましいわ。私はそうそう会えませんもの」
「大丈夫ですよ。おねぇ様も直ぐに会えますから」
「……ありがとう。アリア、大好き」
「私もおねぇ様が大好きです」
二人は手を取り合ってニコニコ笑っている。そんな中、一人除外されたマリアは無理やり二人の手を握って言った。
「私も混ぜてくださいっ! 」
彼女の必死の形相にエリーシャ達は笑ったのだった。
遂に大陸に平和が訪れた。今まで彼らが望んだ春。それが今訪れた。それにより、彼らは夢と希望が溢れ、それが彼らの生活を一変させる事となった。街には活気が戻り、更に経済は加速した。戦争で疲弊した国力が回復していく。平和な時間、それは疲弊した国を癒し、国力を蓄える大切な時間である。
いづれ起こるかもしれない新たなる戦争。それが起きないように、彼らは努力していくだろう。
” 永遠ならざる平和のために…… ”
以降 3




