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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教会所属法騎士パラディン編
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§ 第十九章 滅亡の狭間 2 §

§ 第十九章 滅亡の狭間 2 §



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆2◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……とうとうエルベリア本隊が来たか……」


ユーシスは悔しそうに呟いた。エルベリアの工作隊に散々掻き回された。そんな中、ユーシスはマサムネ、ラスコーをローヴァスから追いやった。だが、結果として、マサムネの智謀を宛にできず、そして、戦力としてのラスコーは独立という形で、自分たちに反旗を翻した。その対応に右往左往している間に、全てが決ししてしまった。


「全て……終わりか……」


そう思いながらも、心の奥底ではまだ何かしらの希望があると彼は考えていた。だが、現実は彼が思っているほど生易しいものではない。恵まれて育った。その環境が今、彼の首を締め付けていく。


「間もなく、エルベリア軍が陣を展開してまいりました。しかし、フエルテより北に突出することなく待機しています」


(! そうか……アイツらはまさか、ラスコーの独立を視野に入れていなかったのか……)


ユーシスは希望を持った。だが、彼は用心深かった。自分たちの軍が深追いした時、フエルテにいるラスコーが出陣してくるかもしれない、と。この彼の心理は正しくハーヴィスが狙ったものだった。ハーヴィスはラスコーを独立させることで、ローヴァスの勢力を削るだけではなく、勢いを殺す” 抑止力 ”にもなっていた。それが今発揮されている。


「よし、作戦は出来たぞ。東西ルート、エルベリアの連合軍に我らの大戦車を使い、一気に突き崩せ。南方ルートのフエルテには牽制の兵士を送る。奴らが出てこないようにしないとな」


ユーシスはそう言うと、各将軍を呼び寄せ、これから起こる戦闘に対しての説明を行った。将軍達は概ねその意に賛成した。だが、少し遠慮をしている風にも見える。ラスコーがいた時のような一枚岩の結束力が今のローヴァスにはなかった。若干の不安を感じながらも、ローヴァス将校達は、マサムネの開発した大戦車に希望を託した。


「我らにはこの大戦車がある。これがあれば、何でも破壊できる! これでエルベリアのひよっこ連合軍を叩き潰してくれん! 」


ユーシスが指名した総大将の言葉で、ローヴァス軍は鼓舞される。各将軍は東西ルート、そして南方ルート方に別れ、進軍していった。まず初めに南方に向かったローヴァス軍がフエルテに着いた。相変わらずフエルテは城塞都市という名前の通り、平原にありながらも天然の要害に守られていた。


「よし、我らはラスコー軍の牽制に当たる。直接彼らを攻撃する必要はないぞ」


将軍の言葉に彼らは頷く。そして、適当な場所で陣を築き、待機した。正しく無駄な行動であった。だが、そこには大戦車の姿はなく、そこはまだ、マシな判断は出来ていたかもしれない。

 一方東西ルートはほぼ半数の兵士を割いて、残り一万はローヴァスの防衛に残した。ユーシスはあくまで司令官として本城に残る。大戦車があればローヴァスは負けることがないとタカをくくっていたからだ。そして東西のローヴァス軍がエルベリア連合軍と程なくして遭遇し、戦いが始まった。


「よし、今中央の軍がラスコーを監視している今、思う存分奴らを叩き潰すぞ! 」


ローヴァスの軍隊長は大戦車を使い進む。この戦いでは大戦車は量産の体制に入っていたとは言え、練習する時間がなかった。思った以上に早くハーヴィスがローヴァスに侵入してきたからだ。慌てて防衛に兵を割く。そのおかげで大戦車の操舵訓練は遅々として進まなかったのだった。軍団長など、一部の者たちは熟練となっていたが、こういうものはどれだけ多くの兵士がこの操舵を熟知しているか。というのが問題である。


” 全て、ローヴァスには悪い方向にしか向かっていない…… ”


ユーシスは大戦車を投入して、周りの者には自信満々の様相だったが、一人になると途端に不安になっていく。ハーヴィスという男がどういう者か分かりかねている。マサムネ、ラスコーの悪い噂などはザルのように流れてきた。しかし、ハーヴィスという男は何故かエルベリア第三の実力者、パラディン、策謀家、双剣の達人そう言った表面的なものしか情報は流れなかった。そのせいで、ハーヴィスという男が分からない上に、その不安が更に” 恐怖 ”という名でユーシスを襲ってきた。


「クッ……ハーヴィス……貴様……どれだけ俺を苦しませるんだ」


両膝がガクガクと揺れていく。不可解な謎、恐ろしさ、そして何よりもこの真綿で首を絞められるような焦燥感。まるで、自分があの男の手のひらで踊らされているような感覚だった。それが何よりも我慢できない。

この怒りが何とかユーシスを支えていた。そんな最中、兵士からの情報が流れる。


「ユーシス様、朗報でございます。敵は我々の大戦車に恐れをなし、逃げ回っているとのことです」

「そ、そうか! 分かった。そのまま進撃していくように伝えろ」


ユーシスはそう言うと口の端を釣り上げた。


「ク、ククク……ま、まだまだだ……俺はお前の手のひらで踊っているわけではないのだ……」


ユーシスは狂者の形相で笑い出した。しかし、その次の日、彼の高揚した感覚は一気に消え去る。


「報告致します。我ら大戦車隊、敵の卑劣な落とし穴により、足止めを喰らいました。その後、弓矢攻撃により撃破され、押し戻されたようです。


「なん……だと! 」


ユーシスは顔を青ざめながら報告を聞いた。ユーシスはさすがにこのままローヴァスの城にいるわけには行かなくなりそうだ。情報の伝達と指示を出すには外に出るしかない。ユーシスは連絡が取りやすいフエルテ側の南ルートの本陣に赴いた。すると、周りの将軍は皆青い顔をしている。ユーシスがロクターナから本陣に来るという情報を受けて、各将軍が集まってきたのだった。


「ユ、ユーシス殿……どうすればいいのだ……」


ローヴァスの総大将は震える声でユーシスに聞いた。ユーシスは厳しい顔をして考え込む。表面は取り繕っているのだが、内面は動揺でいっぱいになっている。


(どうする? どうすればいい? 何度も何度も考えたが……やはりこれしかない……)


本陣に向かう途中もずっと考えていた。やはりどれだけ考えてもこれしかないようだ。そう結論に達したユーシスは皆に改めて作戦を伝える。


「さすがはハーヴィス率いるエルベリア軍……予想以上に我らは被害を出してしまった。大戦車に過度の期待を寄せてしまった結果とも言える。この反省を踏まえ、我々は改めて作戦を皆に伝える」


そう言うとユーシスはローヴァスの将軍達に指示を出した。東側は待機し、突出しない相手を睨み据え、そのままでいること。そして、中央はあくまで、東西両ルートの連絡のために残す。問題は西側ルートだ。こちらが重要になる。西側ルートは本隊であるエルベリア軍が陣を張っている。東側のセリスタ軍は精強な軍隊だ。しかし、エルベリアは数のみの軍隊。そこに活路がある。


「指揮をしているものはハーヴィスだが、主軍はあくまでエルベリア軍を率いるギルト将軍だ。彼は老練な将軍だが、エルベリア軍の練度が足らない分、まだ奴の思い通りに動かせないだろう。そこを突く」


そう言うと、ユーシスは地図を開く。ハーヴィス達が見ていたような単純な草原地図ではなく、ローヴァス帝国の持つしっかりした地形図だった。ローヴァス西側はどちらかというと、土民が生息する聖なる山があるため、そこの部分は広大な樹海が広がっている。そこを利用しない手はないということだ。情報によると、エルベリア側はろくな地形図を持っていないとのこと。


「我々には詳細な地図がある。地の利は我らにある。そこを利用して、あいつらの本陣、奴らの言う” 大本営 ”を急襲し、奴らの食料を根こそぎ奪い尽くす。相手が動揺し、逃げ出したら再度突撃を開始する」


「オオオオオ!! 」


ローヴァスの将軍達は勢い立った。ユーシスからの作戦は相手を突き崩すのに有効であり、食料の欠乏。つまり補給線の遮断こそ今回の戦いのキモとなる。それはかつてマサムネを窮地に追いやった策だった。

だが、後の人たちの評価を見ると、彼らは結局マサムネと同じく、大戦車の威力のみを過信した為、手痛いダメージを負ってからの策であると酷評されている。

 早速、ユーシスは工作部隊を編成し、エルベリア大本営に放った。その間、東は睨み合い、そして、西側は小競り合いをしていた。今回は大戦車を突出させる方法ではなく、マサムネが初めに提唱していた布陣を取り入れていた。


先陣   早がけ軽騎馬

中陣左翼 重騎兵隊

中陣右翼 重騎兵隊

中陣   大戦車

後陣   重騎兵隊

といった布陣だった。軽騎兵で索敵をしつつ、重騎兵で相手を蹴散らし、大戦車で突撃をするという恐ろしい陣形だった。後陣は戦局の収拾に当たる。マサムネらしい攻防索敵一体となった万能の陣だった。

 小競り合いとは言え、この突撃は強力だった。エルベリア軍をかき回し、混乱させ、一気に相手をフエルテ南側に後退させた。この突撃はさすがのギルトも予想していなかったらしく、とにかく逃げるしかなかったという。 それを聞いたユーシスは満足そうに頷いた。


「フフ、このユーシス、我らローヴァス軍はあのような烏合の衆には負けぬ」


まるで、この布陣を自分が提案したかのような言い方だった。しかし、この逆境を覆しているのはユーシスだった。策を練ったのはマサムネだったが、実行者はユーシス。全て彼の手柄となっていた。

 ローヴァス軍は突撃しては睨み合いをし、突撃を再開する。そんな繰り返しだった。ギルトはこのような混戦の中でも、持ち前の老練さを駆使し、軍を統制していた。彼はエルベリア軍の被害をよく食い止めていた。そして、うまくいなして行った。そんな中、ユーシスの工作部隊の一部が報告に戻ってきた。


「我が工作部隊は首尾よく大本営に入り、そこにいた守備兵を尽く打ち取り、食料を強奪しました。間もなく、大本営に火の手が上がると思います」


「よし、この報告を待っていた! 全軍突撃を開始しろ! 」


ユーシスは報告を聞くと、東西の諸将に伝達を送り、突撃を再開した。その突撃の布陣はマサムネの考えたあの方法である。それにより、落とし穴の効果は大幅に激減した。索敵の軽騎兵が犠牲となるが、それに合わせて突撃の微調整をしつつ敵軍に突っ込んだ。正しくその姿は最強の軍ローヴァスそのものだった。


「ひるむな! ここが踏ん張りどころだ! 相手の突撃をいなしながらも交戦せよ! 」


東軍のハインツとアクラムは必死に声を上げた。さっきのような児戯のような突撃ではない。決死の突撃だ。さすがのアクラムでもひとたまりもない。精強と謳われるセリスタ兵もローヴァスと相性が悪く、いい様に掻き回される。彼らは必死に逃げながら、機を見て弓、槍などで交戦した。


「報告致します。ロムルス・レムス隊のレムス隊長が討ち死にされました! 」

「なん……だと! 」


アクラムは驚いた。しかし、レムスが打ち取られても、懸命に対抗するロムルスの報告を受け、アクラムは歯を食いしばりながらも耐えた。


しばらくすると、大本営が煙を出した。それを合図に東西の軍は総崩れした。エルベリア・セリスタ連合軍はそのまま全力で全員南側に退避した。東軍は南側の草原地帯のある方向へ向かう。

ローヴァス軍はそんな彼らを掃討するかのように進軍する。


そんな中、エルベリア軍の西軍の進行方向は大本営側。それを見た西側のローヴァスの将軍達はタカをくくった。


「よし、奴らは自ら退路を絶った。そのまま突っ込むぞ! 」


逃げ回るエルベリア兵を蹴散らしながら雑に追いかける。そして、彼らは大本営に着いた。


” だが、そこでは信じられない光景が広がっていた ”


驚くローヴァス軍、これはハーヴィスの策略だった。ここの戦いは戦局を左右する程の激しい凄惨な地になるのだった。


以降 3


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