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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教会所属法騎士パラディン編
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§ 第十八章 ハーヴィスの策謀 2 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆2◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



” エルベリアは今日を持って、ローヴァス帝国に宣戦布告をする ”


その言葉をエルベリアの国民は、聞いていた。国民たちも、セリスタ軍がエルベリアの首都エスターナへと入っている。その時点で戦争が始まると感じていた。だが、今回は今までのように侵略されるのではなく、侵略する方になる。その分国民たちは安心していた。自分たちが戦場の真っ只中になることだけは避けることができるのだから。


「さて、戦が始まるな」


城のオープンテラスで、大声を上げて宣言をしたオスカー。彼は満足そうにエリーシャに話しかける。相変わらず人形のようにコクリと頷く后。その姿を見ていると段々エリーシャに対しての興味が薄れていく。やはり感情を剥き出して突っかかる女が、いい。


「よし、演説は終わった。そろそろ演習している部隊に鼓舞の演説だな」


そう言うと、オスカーは退出した。ひとり残されたエリーシャはため息をついた。また、ハーヴィスがいなくなる。既に” ケリ ”をつけたものの、やはり寂しかった。

しばらくすると、演説のスタッフが現れた。オスカーの演説の次にエリーシャからも一言お願いしたいということで、来たらしい。


「后様。オスカー様の演説が終わり次第、よろしくお願いいたします」

「はい。分かりましたわ。直ぐにお伺いいたします」


正直” 后様 ”という言われ方は好きになれない。やはり自分自身、そういう境遇が好きじゃないからだろう。エリーシャはそんな思いをおくびにも出さずオスカーのいるところへと向かった。

オスカーは相変わらず雄弁に語っている。しかし、話がそれているようで、周りの兵士達は気勢を削がれた印象を受ける。大体三十分過ぎただろうか、やっとオスカーは演説を終え、早々に自分の部屋に戻った。スタッフの案内でエリーシャは演説を開始する。兵士達は皆エリーシャを見つめている。相変わらず人形のように綺麗な女性に皆意識を持って行かれているのだろうか。誰も言葉を発することがなかった。


「皆様、おはようございます」


エリーシャの透き通った声が聞こえる。すると、兵士達は鼓舞されたかのように挨拶をした。その姿をギルト、アクラムはエリーシャの相変わらずのカリスマ性を感じていた。アクラムは少し涙ぐんでいる。その心境はとても複雑だった。

エリーシャは左右、正面にいる兵士達をゆっくり、ゆっくりと見つめる。セリスタ軍は皆見知った顔ばかりだった。中には自分がいなくなってからの兵士もおり、分からない子達もいたが、大体は自分の知っている顔ばかりだった。その姿を見ていると、懐かしい感情とともに、あれだけの激戦を受けながらも常にほぼ無傷で生きてきたセリスタ兵士達。改めてハーヴィスの偉大さを感じる。


「さて、これから戦争が始まりますが、私はこの戦争を支持していません」


” ザワザワザワ………… ”


エリーシャの言葉で全員が動揺した。隣にいたスタッフ達も慌てた。しかし、エリーシャは気にしていない。


「支持はしていませんが、それと同じぐらい、私は貴方達を心配しております。私は戦場に赴くことはありません。そして、実際に戦争を経験することなく、この場に留まります」


その言葉を聞いて、ざわつきが収まる。エリーシャの次の言葉が気になり、皆彼女を見つめる。ハインツとマーチスは一瞬目配せをしたが、彼らはエリーシャの言おうとすることが分かった。それは、ハーヴィスとの関係が大いに関わっているということだろう。


「私は貴方達に戦争を頑張って、手柄を上げて帰ってこいとは言いません。そんな無責任な言葉を投げかけるつもりもありません。ですが、何があっても、私は皆様にお伝えしたいと思っています」


” 必ず、必ず生きて帰って、私に、いえ、家族達に自分の元気な姿を見せてやってください。お願いいたします ”


エリーシャは申し訳ないという表情とともに、頭を下げた。これが彼女の本心だろう。ある理由で、本当は戦争をしたくない。だが、戦争をするからには、叶わないかもしれないが、皆無事に生きて帰って欲しい。彼女の悲痛の願いだった。

エリーシャは頭を下げ終えると、とても優しい、人形とは違う優しい微笑みを見せた。エリーシャを知る全員はセリスタ兵士以外初めて見る表情でもあった。その笑顔で全て持って行かれた。


” ウオオオオオオ!! ”


ひと呼吸置いて、そこにいる兵士たち全員が声を上げた。今までにないぐらいに彼らの士気は上がった。そして、彼らの心には” 必ず生きて帰っていく ”という言葉が心に刻まれた。


「……やっぱり、エリーシャ様はすごいな」

「ああ、エリーシャ様は人の心を掴む天才だな」


ハインツとマーチスは納得する表情で微笑んだ。一方、アクラムは号泣して大声を上げていた。

 やはり、セリスタの兵士がほぼ無傷で生き残れてきたのは、ハーヴィスの策謀はもちろん、エリーシャの笑顔があったからだろう。そうでなければ、途中で彼らは瓦解し、小国セリスタの命運は既に、尽きていたかもしれない。


「俺達セリスタが経験したことを、エルベリアも受けている。エリーシャ様とハーヴィスが一緒だったら、今頃セリスタはどうなっているんだろうな……」


ハインツの呟いた言葉は周りの兵士達の声でかき消された。

エリーシャの演説も終わり、兵士達は意気揚々とエルベリアを後にした。彼らの向かうところはもちろん宿敵ローヴァス。エリーシャにとってはどうでもいい存在ではあった。正直言うと、彼らも元をたどれば、エルベリアと同族のようなものだ。くだらない争いごと、主権争いの結果、このような状況を招いたのだ。彼女から見ると、大国同士の傲慢な態度が引き起こした騒乱という思いがあった。


(そう言えば、あの広場にハーヴィスの姿がいなかった気がする……)


エリーシャは戦争に向かっていく兵士達の安否を気にしていながらも、ゆっくりと彼らを見ていた。しかし、ハーヴィスの姿がなかった。エスラーも見えなかった気がする。

多分、エスラーがいないのは出かける当日に、馬から落馬して” 一人パイルドライバー ”でもしているのだろう。

そう不謹慎な事を考えていると、マリアから報告があった。


「エリーシャ様、是非エリーシャ様にお会いしたいという……エリーシャ様にそっくりな方がお忍びで来られました……」


マリアは夢でも見ているかのような表情で話した。エリーシャに似た女性、それは彼女しかいないだろう。エリーシャの心は深く波打った。マリアにはその女性に自分の部屋に来てもらうように伝え、早速服を着替えた。まるで、彼女の存在は自分にとってエルベリアとローヴァスの様な気がするのは気のせいだろうか。

エリーシャがそう思っていると、再びドアのノック音と共に、マリアとエリーシャにそっくりな女性、アリアが現れた。久しぶりに見る彼女は幼さが無くなり、更に大人の女性の姿になっている。益々、エリーシャに似てきた。


「お久しぶりです。エリーシャ様、アリアでございます」


アリアはエリーシャの前でも臆することなく、優雅に挨拶をした。その姿はエリーシャと変わらない感じだった。マリアとエリーシャは呆然とする。その姿をアリアは微笑んで対応する。今、エリーシャの部屋は不思議な空間に包まれた。マリアから見ると、まるで二人のエリーシャが対峙している。そのような感覚だった。


「……アリア様、急な来訪に少し戸惑いましたが。何か御用ですか? 」

「ええ……そうですね」


アリアは受け答えをするとチラリとマリアを見る。それを受けて、エリーシャはマリアを退出させた。改めて二人になる。


「お人払いありがとうございます。……あの方は? ただの使用人の方ではないような気がしました」

「ええ、あの子は、私と気が合いますの。私達は義姉妹の関係を結んでいますわ」


エリーシャの言葉にアリアは納得した。あまりにも自分とエリーシャが似ているために彼女は冷静さを欠いていた。それはそういう事だったということだ。自分の義姉に似た女性がいたということに……


「お答えありがとうございます。用件でございますが、見たところ作戦の内容をお知りではなかったようですので、お伝えしようかと思いました。私も詳しくはないのですが、もう既にハーヴィスはこの街にいません」

「! ど、どういうこと? ずっとエルベリア軍とセリスタ軍で合同演習をしていたのではなくて? 」


エリーシャは驚いた。既にハーヴィスとの距離を置いていた為、彼がここに来ないことは理解していた。しかし演習前に彼自身この街に居なかった。それはつまり……


「エリーシャ様もご理解頂けたようですね。ええ、ハーヴィスは今回の戦いの調略を完遂するため、先兵として、戦地に赴きました」

「そう、ですか……」


エリーシャは心をかき乱された。未練を断ち切ったものと思いながらも、今目の前にいるアリアにはハーヴィスが居る。それだけで彼女が羨ましく、妬ましかった。本当なら自分と、と思えば思うほど辛くなった。不意に表情がでてしまう。それをアリアは見逃すことがなかった。


「エリーシャ様……ですよね。未練がないはずはありませんわ。私も同じ立場なら、同じ行動をしていましたもの。……全部ハーヴィスから聞きました。というか、私が問い詰めたのですが」


「…………」


エリーシャは顔を赤くして俯いた。そんな彼女の手をアリアはそっと取った。驚くエリーシャにアリアは見つめる。とても真剣な目だ。


「エリーシャ様。誤解なさらないでください。私は貴女を責めるつもりはありません。今回は私が貴女の事を知っていたから。私の知っていることをエリーシャ様にお伝えしたいと思ったのでお伝え致しました」


そう言うと、アリアはエリーシャから一歩引いた。そして、優雅に周り、そしてにこやかにお辞儀をする。可憐な少女の装いを保ちながらも、その姿は――


” まさしくエリーシャのようだった ”


アリアはエリーシャに微笑んで呟いた。


「エリーシャ様、私はずっと貴女を見ていました。貴女を見続けるハーヴィスを通して、私は貴女を想像していました。化粧も頑張りました。貴女の出てくるイベントには必ず出席して、貴女を見つめていました」


” 今の私はどうですか? 少しでもエリーシャ様に近づけましたか? ”


アリアは言葉の最後には少し顔を伏せて、不安そうな表情をした。その顔がとても愛らしい。自分もそのような表情をしてみたい。そう思った。


「すごく、似ていますわ。まるで私のよう……でも私も貴女を見ていた。憧れじゃなくて、嫉妬と羨望の眼差しでしたが……」


エリーシャの言葉にアリアは頷いた。分かっています。とその顔は語っていた。そう、アリアとエリーシャ、お互いにお互いを嫉妬と羨望の眼差しで見つめ合っていた。その経緯が違うため、結果は変わってしまったのだが、根底は似ていた。


「私も、エリーシャ様には嫉妬と羨望の眼差しを持っていました。私は少しでもエリーシャ様に近づきたかった。ハーヴィスに私を見てもらいたくて。でも、ハーヴィスは私を私として見ている。でも、それが返って不安になるのです」


アリアとエリーシャはお互いに顔を伏せた。お互いに同じ不安を持っていたのだろう。エリーシャにはアリアの不安がよく分かった。だからこそエリーシャも顔を伏せたのだ。しばらくの沈黙の後、アリアは言葉を続けた。


「エリーシャ様、前に私の言った言葉覚えてますか? エリーシャ様の事が好きだって」

「……ええ。覚えています」

「あの言葉は本当です。エリーシャ様の事が好きだから、モノマネの様な事をしました。ハーヴィスの事が好きですが、同じくらい……エリーシャ様の事が好きです」


アリアから衝撃の言葉を聞いてエリーシャは驚いた。どういう事だろう。しばらくの沈黙の後、アリアは更に言葉を伝える。


「お爺さまを助けてくださった時のエリーシャ様、とても慈愛に満ちて、素敵でした。私は、ハーヴィスの事を知る前から、エリーシャ様の事を憧れて、……大好きでした。だから言わせてください」


” エリーシャ様、大好きです。そして、ハーヴィスと会わせて頂いて感謝しています。エリーシャ様に何かあったら必ずエリーシャ様のお力になりたいです ”


自分と似た少女の涙混じりの告白。エリーシャの心は揺れ動いた。それと同時にずっと彼女を嫉妬で見つめていた自分が恥ずかしくなる。そんな自分を好きだと言ってくれる彼女、そんな素直な彼女にエリーシャは心惹かれた。エリーシャはアリアの手を取った。そして囁くように言う。


「ありがとう。こんな私でも好きになってくれて。私も……私もアリア、貴女のように素直で愛らしく生きたかった。……私もアリア、貴女の事が好き」

「エリーシャ様……」


二人は抱き合った。まるで、片割れの自分が一つになったような、そのような不思議な感覚がした。こんな気持ちは初めてだった。


 その後、エリーシャはアリアに改めて義妹マリアを紹介した。彼女は赤の他人だったことに驚きつつも、納得した。そして、エリーシャ、アリア、マリア。この三人の出会いはこの後の運命を大きく左右する出会いであったのだった。



以降 3



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