§第十六章 最後の決戦 2 §
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「ほぅ、そろそろ戦いが始まるのか」
二人は大聖堂東支部にいた。ローヴァスとエルベリアの大戦の話をしているらしい。どこかで、ハーヴィスが話していた内容が漏れているようだ。その内容はほぼギルトと話をしていた事と同じだった。
「それでは、そろそろ俺はローヴァスに行っておぼっちゃんにも話ししてくるぜ」
「ああ、任せた」
立ち去る男にニヤリと笑いながら話しかけたその男は、聖エルベリア教の東支部の司教だった。彼の名は” アントニオ=アルベリウス ”と言った。
「やっとエルベリアとローヴァスが動き出すか。とは言っても、セリスタとの合同演習をした後に侵攻するか……もう少し待たないといけないな。のんびり待つか」
一人東支部の大聖堂にいた。いづれ、この大聖堂だけではなく、北東、南東他の支部もローヴァスに寝返るだろう。そう思うと段々顔がにやけてくるのだった。
「ワシはいづれ、大司祭に、最後は教皇になってみせるわぃ」
表の顔はアントニオ、裏の顔はA・A。彼はエルベリアとローヴァス両国を潰すことを考えていた。
十数日後、ハーヴィス達が計画している情報がローヴァスの青年将校の耳に届く、その情報はありえないほどの早さだった。
「そうか。とうとうエルベリアが動き出すか……しかし、今のローヴァスでは相手の先手を打つとか考えていられない。出来るだけ、エルベリアに対して時間がかかるように話を付けて欲しい」
「分かりました。A・A様にお伝えしておきます」
男はそう言うと、「もう一つお話が……」と言うと、男に一つ耳打ちをした。その情報は彼の表情を一気に青冷めさせた。
「……その話は、本当なのか? 」
「ええ、さる情報筋から聞きましたので、その話に偽りはございません」
男の話を聞いた彼は尚早に駆られながらも、出来るだけ平静にしようとしていた。その姿を情報を与えた人物は見つめている。
「……情報はソレで以上か? 」
「はい、また情報を仕入れましたらお伝え致します」
そう言うと、情報を提供した男は去った。一人になった男は頭を抱えた。色々あった疑問がこの情報で集まった。そして一つに紡がれる。
「いづれ、奴を排除せねばならぬな……」
男は敵意を顕にし、しかるべき時を伺っていた。
「う~ん。これでいいかな? 」
マサムネはチョメ助と一緒に図案を考えていた。スケールと筆ペンを使って計算しつつサラサラと書いている。計算しているのがマサムネ、描いているのはチョメ助だ。その姿をラスコーとハヅキが見ている。
「……すごいな。計算してるマサムネもすごいが、それに合わせて書いてるチョメ助の器用さがありえねぇ……」
「すごいよねぇ。チョメ助趣味で物をよく作ってるから。日曜大工レベルなんて優しいものよね」
何もしていない二人は只々、その姿を目を見張ってみている。マサムネはそんな大したことじゃないという顔をし、チョメ助はニコニコしながら描き続けている。
「簡単だよ~やるべきことが分かってたらそこに数字を入れるだけだからね」
「僕は言われたことを図面に描いてるだけだし。マサムネの方が大変だと思うよ~」
いや、二人共スゲェだろ……とラスコーは思っていた。今彼らが作っているのは次世代兵器。兵士よりも沢山いる馬を利用してあるものを作ろうとしていた。それが完成すれば、エルベリア軍が攻め込んできた際、多大なダメージを与えれるだろうというマサムネの発案から作られている。
「さて、これが出来たら少ない兵士で多くの敵を倒せるね。ローヴァスを守れると思うよ」
マサムネはハキハキしながら計算を続けている。それに合わせてチョメ助がサラサラと描いているが……全然分からん……
「大丈夫だよラスコー。僕たちは港湾都市国家のこと好きだけど、ラスコーがいるローヴァスも……大好きだよ。だからどんな事情があっても僕は、ラスコーのいるローヴァスを守ってみせるから……」
マサムネは顔を赤くしながらラスコーを見ている。彼女のそんな健気な姿がラスコーを感動させる。
「バ、バカヤロウ……恥ずかしいじゃねぇか……」
ラスコーは恥ずかしさをごまかすために後ろ頭をポリポリ掻いていた。その姿をチョメ助とハズキはニヤニヤして見ていた。
「よっし、これで出来た。後は作って実走させてみるか」
「じゃあ皆集めて試験機作るよ~」
突貫工事で集まった人員達はみるみるうちに試験機を作った。数時間でできるとか、チョメ助の指導力は本当にすごいものだった。本人も張り切って作ってるし。
「よし! これでいいと思うよ。後は走らせて微調整したらそれに合わせて量産するだよ」
「さすがチョメ助、早くできたね」
マサムネも満足そうだ。出来たものは馬を三頭。両サイドと真ん中に設置させた、いわゆる戦車というやつだった。真ん中の馬は戦車の中に入り、顔は露出した感じになっている。後ろから人が一人立ち、操作できるようになっている。二人いるともっと複雑な動きができるものだが、一人でも操作できるようになっている。戦車の方はというと、真ん中の馬の両サイドに角があり、そのまま突撃して周りのモノを吹き飛ばすようにできている。
「これは……すごいな……完全にローヴァスを象徴する最強の兵器だな」
ラスコーは驚きつつ、このローヴァスの象徴となる建造物を眺めていた。そして、予定通り、戦車を実走させ、その結果、皇帝グレゴールの了承の元、量産化が決定した。
これにより、ハーヴィスが考えていた野戦の戦いに対して、ローヴァス帝国は大きな楔を打ち込んだこととなった。
戦車の量産化が決定した後、チョメ助はこの量産化に合わせて、工場を作り、そこの責任者として指導をしている。その為、彼が忙しくなった。チョメ助がいない状態で作戦会議が始まる。
「さて、これから仮想エルベリアによる、ローヴァス侵攻作戦の対策を行います」
マサムネはラスコーと、他の将軍達と共に作戦会議を始めた。
「それでは、ローヴァスにエルベリアが侵攻した際、どのように攻撃をしてくるのかシミュレーションしたいと思います」
「異議あり」
マサムネの言葉に対して直ぐに将軍からの異論があった。マサムネはそれを想定しているかのように動じることなく、将軍の意見を聞いた。
「まだエルベリアが侵攻作戦を始めていないのに、直ぐに対策する必要はないのではないかな? この演習にコストがかかる。無駄ではないのか? 」
「いえ、それはございません。対策と言うものは、” 常に最悪を想定して備えよ ”です。事が起きてからでは対策ではありません。それは事後処理と変わりがありません」
将軍は押し黙った。他に異論があった将軍たちもマサムネのその言葉により、反論の余地がなくなったようだ。一様に押し黙り、今後の動向を見定めているように見える。そんな姿をマサムネは内心ため息をついていたりする。
(正直、僕の作戦に文句を行った上で、理路整然と代案を言える人がいたらいいんだけどな……これじゃあ僕一人のプレゼンと全く変わらないし……)
そう思いながらも、対エルベリアの予想進路図を伝えた。
「さて、僕の考えるエルベリアの対ローヴァス侵攻路は三行路となります」
地図を広げると、西、正面、東の三方向が矢印で示されている。将軍達はその行路を見つめている。これでマサムネの考えた作戦が分かればいいのだが……
「……この件に異論はないですね? 」
「「「…………」」」
将軍達は押し黙っている。やっぱり意見はないのか……と考えていると、一人意見具申をする者がいた。
「失礼ですが、本当にこの三方向なのでしょうか? 私はそう思えませんが……」
「ユーシス将軍、何か気がつかれたようですね。どうぞ」
ユーシスは立ち上がると三方向ではなく、真ん中に×印を真ん中に入れた。他の将軍達は驚いている。マサムネも” ハッ ”とした。
「マサムネ軍司令殿、私たちを馬鹿にしないでもらいたい。このような引掛けを我々にするのは少々見くびられているようで、私は我慢ならない」
「……さすがです。ユーシス将軍……僕は馬鹿にしていない」
” この作戦は僕にも気がつかなかった…… ”
マサムネの言葉に全員が唖然となった。ユーシスはニヤリと笑った。
「エルベリアはもうただの烏合の衆ではない。只々突っ込んでくるだけと思うのなら……もうマサムネ軍司令は既に負けを算段しているとしか思えん」
ユーシスの言葉で、周りの将軍たちも慌ただしくなる。マサムネも下唇を噛んだ。
「それでは次の作戦をお願いします。また意見があれば、具申しますよ」
マサムネは馬鹿にしたような表情に苛立ちを感じた。しかしグッと堪える。
「……それでは、次に移ります」
将軍達のマサムネを見る目が変わったような気がする。ラスコーはこの雰囲気の変わりように気がついた。しかし、ラスコーには何もできない。この状態に歯噛みした。マサムネは進行を続ける。
「ユーシス将軍の意見に合わせて、軌道修正します。ふた方向エルベリアは攻撃をし、正面は途中で進行を止めると思われます。それは……さっき我々が正面で決戦をするとエルベリアが読んで動いていたのを逆手に取り、正面にある都市で籠城するからです」
この説明でユーシスの功績が見られる。マサムネは少し顔色が悪い。始めの時の勢いがない。
「そして、両サイドのいづれかで我々の軍を撃破した部隊が正面にいる我々の軍を挟撃すると見られます。そして、包囲殲滅をした後、エルベリア軍は我々の城、ロクターナ城を包囲し、攻城してくるでしょう」
エルベリアの方針を一気に説明し、次はローヴァスの作戦を伝える。
「なので、我々も兵を三方向に当て、対抗しようと思っています」
「意見具申あり」
マサムネの説明が終わるまでもなく、またユーシスから意見が来た。マサムネの口がヒクつく。だが、ここで子供のように駄々をこねるわけには行かない。ユーシスの意見を聞く。
「三方向は頂けないと思います。ニ方向、両サイドで十分だと思います。兵の分散は我々にとって数の不利を招くもの、そうではございませんか? 」
「…………そうですね。その方がいいと思います…………」
歯切れが悪くマサムネは応える。将軍達の違和感がさらに顕著になる。マサムネは完全に居場所を無くした。ユーシスに揚げ足を取られ、マサムネは顔色が完全に悪くなっている。
「……両サイドで対抗をし、その後、両サイドで勝てば、その勢いで正面のエルベリア軍を潰し、その後、本陣を叩く。それで戦いは終わると思われ……」
「意見具申あり」
マサムネが言い終える前に、ユーシスから更に追い討ちを掛けるような意見具申が出た。もうマサムネは変な汗をかいて、精彩を欠いている。ラスコーの目からでも分かる。マサムネは今、” まともにものを考えられる状況ではない ”と。
「概ねその作戦でいい。いいが、詰めが甘い。マサムネ軍司令。ここはエルベリア軍を燻りだし。正面の軍を孤立させた上で包囲殲滅がいいのではないだろうか? 」
「? 」
マサムネはもう思考が追いついていない。予想外のことで動揺が激しく、直ぐに気がつくことも気がつかない状況になっている。ラスコーの胸が締め付けられる。
「おやおや、軍司令殿ともあろう方がこのようなことを気がつかないとは……戦争に置いて、補給線を断つのは定石ではございませんか? 」
「!! 」
マサムネはこの作戦の重大な欠陥に気がついた。というか気づかされた。
「本陣を急襲し、補給線を断つ。それにより、両サイドの戦いをより勝利に導き、しかる後、正面の軍を孤立させ、包囲殲滅。軍師殿ともあろう方が、このようなことに気がつかないとは、ね」
「…………」
マサムネは顔を真っ青をしている。少しでも突つかれたら倒れてしまいそうだった。ユーシスはニヤリと笑っている。マサムネは震える唇で一言言った。
「そ、それで、合っています……」
完全にマサムネが負けた状態で対策会議は終了した。将軍達の目は異端者であるマサムネを軽蔑の眼差しで見つめながら退席していった。会議室にラスコーと二人きりになったとき、マサムネは倒れた。慌てて、地面に倒れそうなマサムネをラスコーは抱きかかえる。
「ラ、ラスコー……ありがとう」
「……大丈夫か? 」
ラスコーの言葉にマサムネはうんと頷いた。だが、顔色が青く、脂汗をしこたまかいている。大丈夫に見えなかった。ラスコーはマサムネを自室に連れて行き、休ませる。しばらくすると、マサムネは気がついた。
「あ、僕、気を失ってたんだね……」
「……ああ、マサムネ……本当に大丈夫か? 」
マサムネは大きく深呼吸をすると、もう一度頷く。そして、自嘲気味にラスコーに話しかけた。
「僕さ、戦車ができた時点で舞い上がってた。細かい部分をおざなりにして、決戦という言葉に酔いしれていた。冷静じゃなかった……少し、考えたら直ぐに分かったのに……」
「マサムネ……」
マサムネは悔し涙を流した。ラスコーは、そんなマサムネを抱きしめた。ラスコーの暖かい胸にマサムネは「あ……」と声を上げる。
「気にするな。確かに今回はユーシスにしてやられた。だからどうした。今はただの対策だろ? 」
「……うん」
「お前は人間だろ? 精密機械のように動けない。体調もあるし、うまくいかないこともある。計画通りに動けないこともあるだろう。だが、気にするな」
” 俺がどんな時でもその不利を覆してやる! 任せろ ”
その言葉を聞いて、マサムネは自分一人だけじゃない。そう思えた。そう思うと、体の不調がみるみるうちに回復した。
「ラスコー、ありがとう。やっぱり、ラスコーを好きになってよかった……大好きラスコー!! 」
そう言うと、マサムネは顔を真っ赤にして、ラスコーに抱きついた。ラスコーも優しくマサムネを抱きしめる。ラスコーの暖かい胸に顔を埋めていると、幸せな気分になれる。でも、今回はそれだけでは物足りない。しばらく抱きついていたが、マサムネはラスコーから少し離れると、濡れた瞳でラスコーを見つめ。その後、目を瞑り、少し口を尖らすようにラスコーを見上げた。
「ラスコー……お願い」
「……あ、ああ。俺も、マサムネのことが好きだよ」
そう言うと、ラスコーは軽くキスをした……が、マサムネは激しくラスコーにキスを返した。予想外の動きにラスコーは慌てるが、このキスはマサムネの不安だったようだ。ラスコーはマサムネに合わせて彼女のキスを受け入れた。
「……ラ、ラスコー……」
キスを終えると、マサムネは顔を真っ赤にした。恥じらう姿がとても可愛い。ラスコーはマサムネの頭を優しく撫でる。その時、ラスコーは直感した。
(この戦い、もしかしたら、我々が負けるかもしれない……)
だが、それはそう直感しただけ。マサムネのように理詰めではなかった。なので、敢えて、マサムネに告げなかった。いや、告げられなかった。
こんなに幸せそうなマサムネを前に、そんな事を言えるわけがなかった。
以降 3




