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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教会所属法騎士パラディン編
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§第十五章 来る春に汝は何を望む 4 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆4◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



私はいつも待っている。貴方が来るまで、時には忙しくて来ない貴方。でもいいの、私は来るまで待っている。ここで待っていたら、いづれ貴方は来るのだから。


「ん……最近来るの遅い……」


エリーシャはハーヴィスが来るのを待っていた。肌を合わせて以来、二人は毎日のように逢瀬を繰り返していた。ハーヴィスはこの行為に対して、危機感を抱いていたのだが、エリーシャは全く意に介していなかった。責任を持つ者と放棄した者その違いが如実に現れている。


「今日は……来ないのかな」


普段なら来ているはずの時間、なのにハーヴィスは来ない。それがエリーシャの心を締め付ける。今まで会えなかった分の思いを埋めるかの如く、彼女は積極的に動いていた。だが、彼女は軟禁状態、どんなに動こうとも、自分の部屋と限られた空間までしか移動できない。これだけはどうしようもなかった。


「できることなら、ハーヴィスのいる執務室に押しかけてでも行きたいのに……」


エリーシャはそう呟く。実はこの同時間、ハーヴィスはオスカーと、娯楽室にて、対談をしているだが、エリーシャに知る由はない。やきもきしていても始まらない。エリーシャは適当に使用人を呼んだ。


「エリーシャ様、如何なされましたか? 」

「いえ、特にございませんわ。……と言うより、ないので、貴女に私のお相手をしていただきたいのですわ」


エリーシャの言葉に若いメイドは恐れおののく。使用人と皇妃立場が天地との差がある。そのような高貴な方に自分がお相手など。という感じだ。そんな彼女を優しく微笑みかけ、エリーシャは席に座らせた。別にもう一人メイドを呼び、彼女はエリーシャの雑用をするということで、今日の仕事を免除させた。それにより、彼女は仕事があるから……という理由を潰された。孤立無援状態だ。


「あ、あああ、あひゃしは、にゃにをしたらいいのでふか? 」


あまりの緊張に普段の言葉とは全く違う調子でメイドは尋ねた。その姿を見てエリーシャは微笑ましくなる。


「そうね、じゃあ色々お話しましょう」

「お、お話……ですか? 」


少しメイドは落ち着いたらしい。そして、エリーシャは優しく話しかける。それに合わせて少しづづ彼女は打ち解けてきた。そして、彼女はメイド仲間の話を始めた。普段仕事のため、結構なメイドが猫を被っているらしい。真面目そうに見えて、実はサボりが好きな子や、しっかりしていそうなのにドジっ子な娘など、聞いていて退屈はしなかった。


「中々面白いですね。他にも面白い話があったら色々聞かせてくださいね」

「はい、かしこまりました」


エリーシャの方も面白い話を振り、彼女は段々エリーシャとの話に夢中になる。そうしていると、メイドはふと遠い目をして呟いた。


「最近戦争ばかりで私たちの心は荒んでしまいました。いつローヴァスに潰されるかもしれないと思いながら……」

「……そう、ね。私もそう思っていましたわ」


エリーシャは彼女の言うことに同調するように答えた。が、正直エリーシャは囚われになって以来、外界からの情報を遮断されていたため、それほど詳しくはない。それよりも、ハーヴィスを失った喪失感でしばらくは外界などどうでもよかった。それに比べると、今はとても充実している。それはいなくなったはずのハーヴィスが、また自分の元に戻ってきたから……


(メイドのこの子が話しているようなことが今、起きたとしたら、私も彼女のように思うかもしれない。すさんだ世の中、他国に滅ぼされるかもしれない恐怖を)


今のエリーシャはハーヴィスが中心に回っている。しかし、あくまでハーヴィスの意思ではなく、彼女の意思のもとで。彼女は思考が停止しているが、自分の周りの環境が変化することだけに関しては敏感になっていた。


「あの、エリーシャ様……」

「何かしら? 」


メイドは上目遣いでエリーシャの機嫌を確認しながら尋ねる。その姿に優しい笑顔で聞き返すエリーシャ。彼女はモジモジしながら言った。


「あの、エリーシャ様の近衛兵……パラディンのハーヴィス様。あの方は昔、エリーシャ様のいたセリスタのご出身とか。どのようなことをされていたのですか? 」

「ハーヴィスに興味がございますの? 」


エリーシャの言葉にメイドは顔を赤くして俯いた。そして、ハッとなると、両手を振って否定した。


「い、イエッ! そういうわけじゃないんです。確かに金髪がサラサラしてて、背が高くて、ほっそりしてるのにものすごく強くて、頭もいいのに、パラディンですけど……何よりも、強い意志を持った眼差しが魅力で……」

「クスッ……そうね。ハーヴィスの様な殿方はそうそういませんわね」


そう言われると、彼女は湯沸かし器のように湯気を立たせて黙り込む。大抵の一般女性はハーヴィスの様な男がいたら好きになるかもしれない。しかし、彼女はしばらくして口を開いた。


「確かに、確かに私たち一般の者から見ますと、あの方も雲の上にいるような素敵なお方ですが、好きとかそういうのよりも……」


” 何か、あこがれの対象として見ちゃうんです ”


憧れ、そういう目もあるんだなとエリーシャは思った。確かに今思い返すと、騎士になってから今までハーヴィスの成長を見届けてきた自分と、成長した彼から見てきた者の感想は違うはずだ。そうなると、彼のような人を盲目的に好きになる人もいれば、自分にないものを求める” 憧れ ”というのもできて当たり前かもしれない。


「憧れ……ね。ハーヴィスに対して私はそう思ったことがないわね」


エリーシャがそう言うと、メイドの子はキョトンとした顔をした。そして、しばらくして何か分かったように言った。


「失礼ですが、エリーシャ様がハーヴィス様に対してあこがれを持たなかったのは、エリーシャ様のお立場が上だったという事や、ハーヴィス様に対して対等の存在でいらしたからではないでしょうか? 」

「ああ、そういう事ね」


メイドの言った言葉で合点がいった。自分が上の立場からハーヴィスの成長を見届けていたからそうなったのだろう。彼女の説明で分かった。この子は思ったより聡明な子かもしれない。ふと、エリーシャは微笑みながらメイドの子の頭を撫でていた。髪の毛は思ったよりフワフワしていて気持ちよかった。


「あ、やん……エリーシャ様。急に、な、何……ふわぁぁぁ……」


メイドは初め驚いて抵抗しそうになったが、思ったより気持ちよく、抵抗がなくなり、気持ちよさそうにエリーシャからの頭ナデナデを受け入れた。目を閉じて、頬を赤くしながらも、リラックスした顔で受け入れている。その姿がとても可愛く見えた。


「ウフフ。可愛い……」


「え……ふぇ? え!? ハッ!! 」


エリーシャの頭ナデナデに酔いしれていた彼女はエリーシャの言葉で正気に返った。慌ててエリーシャの頭ナデナデから頭をどける。そして、必死になって頭を下げた。


「も、申し訳ございません! わっ私は……」

「……大丈夫よ。ただ貴女が可愛いなと思っただけよ」


彼女は顔を真っ赤にして「え、エリーシャ様に可愛いって言われた」と頬に両手を当てていた。その姿がとても初々しい。ふと、彼女の名前をエリーシャは知らないことに気がついて尋ねた。名前はマリア=ローサと言うらしい。まだここの仕事を始めたばかりだという。通りであまり見たことがなかった。彼女の話によると、エリーシャはメイドの間で美人で綺麗ということで人気のようだ。なので、そんなエリーシャと話ができる自分はとても幸せ者だと言っていた。


「美人で、綺麗か……私はむしろ、貴女のような女性の方がいいわ」

「え? ど、どどどどうしてですか? 私のような平凡な女性なんて……」


エリーシャは首を横に振る。その姿にマリアは不思議に思った。しかし、彼女の次の言葉で分かった。


「私はどんなに美人でも、綺麗でも……貴女のように自由じゃない……いつもこの部屋の中で軟禁。それだけじゃない。好きな人と結ばれることすら叶わない……」


マリアはエリーシャの深い悲しみを知り、驚いた。静かで、いつも彫像のように感情を見せなかった、人形のような神秘的な彼女はこの深い悲しみにより作られたということが分かった。何故なら、今自分の前にいるエリーシャはマリアの目の前で、感情の起伏を晒しているのだから。だが、やはり、人形のような彼女は綺麗だったが、今の感情を見せる彼女はさらに魅力的でとても美しいと思うのだった。


「自由じゃなく……好きな人と結ばれることすら……できない」


その言葉を反復するだけで胸が押しつぶされそうになる。このエルベリアで仕事を始めるにあたって、マリアは教皇オスカーとエリーシャの結婚式を遠巻きながら外で見ていた。とても華やかでお祭りのような結婚式、いづれ私もできることなら……と思っていた。だが、あくまで自分の好きな人との夢だ。自分も好きでもない人と結婚するなんて考えられなかった。それが分かった途端、マリアはエリーシャに対して特別な感情を持った。それはまだ彼女自身分からなかった。


「エリーシャ様……ありきたりですけど。ものすごく可哀想に思いました……私には耐えられません」


しょんぼりと俯くマリア。そんな彼女にエリーシャは言う。


「でも、今は大丈夫。私は大丈夫よ……」


エリーシャの笑顔で彼女も自然と笑顔になった。そっとエリーシャは彼女を抱きしめる。まだ幼くか弱い彼女、ふと守りたくなる。そんな娘だった。彼女も素直にエリーシャに抱きつく。頬を染めながら呟いた。


「私、姉妹なんていない、一人っ子だから分からないですけど。お姉様がいたらこんな感じなのでしょうか……とても暖かくて幸せな気持ちです」

「私も、一人っ子だから分からないわ。……それなら、二人、この部屋にいるときは姉妹にならないかしら? 」


エリーシャの提案に彼女はとんでもないという表情になるが、エリーシャは彼女に妹が欲しいことを伝えると、頬を染めながら、嬉しそうに頷いた。二人はしばし抱き合う。寂しさが薄れていく。とても穏やかな気分になった。その時、マリアは静かに言った。


「平和な時代にお姉さまに会いたかった。そしたら、いつ死ぬなんて気にせずに会えますもの……」

「そう、ね。私もそう思うわ。でも、大丈夫。きっと平和は来るわ……」


エリーシャは小さな声で、必ずハーヴィスが平和に……と言った。マリアには聞こえていない。その時、エリーシャは平和とは何かと考えた。


” 私の思う平和、それは、権力の拘束、足かせのない、自由な世界。そして、ハーヴィスと共に生きていくこと…… ”


エリーシャの目には、絶望と共に、かすかな希望が覗いていた。



以降 5


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