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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
セリスタ騎士編
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§第二章: バラ戦争 4 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 4 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 異変が起きたのは丁度、ハーヴィスがトーナメント優勝してから一年ぐらい経ったときのこと。

ハーヴィスの双剣は十分馴染み出し、更に、以前助けた商人の助力もあり、右腕には取り外しが出来るボウガンをつけて貰い、戦いの幅が更に広がった。

 彼は助けられてから、しばしばハーヴィスと親交を重ね、珍しい話や、面白い話をしてくれた。途中、エスラー、ハインツも加わり、暇があると近くまで護衛役をしたりなど、良好な関係を築いていた。

 そんなある日、いつものように皆で、集団剣技に関する勉強会を行っていると、あの商人が訪ねてきた。


「いやぁ、皆さんお元気ですかな? 」


草原でよく話をしている為、会う機会が増えた。三人は軽く会釈をすると、商人と話を始めた。そして、いつものように面白い話をしてくれたのだが、彼はひとつだけ気になることを話した。


「最近、この国のアリエル侯爵が頻繁に他国と交渉をしているらしいとの話を聞きました」


三人はきな臭い雰囲気を感じた。三人を代表してエスラーは尋ねる。


「……えっとつまり非公式ですか? 」

「まぁ……そうだろうな、公式の席だと彼ではなく、エリーシャ様になるだろう」


三人は顔を見合わせた。かなり危険な話を聞いたような気がする。この平和な国がいつ戦乱にまみえるかと思うとゾッとした。


「でもまぁ……あくまで噂だがな、気をつけてはおくんだぞ」

「あ……はい、情報ありがとうございました」


商人は手を振るとセリスタの繁華街へと消えていった。彼を見送った後、三人は頭を抱えた。


「おい、どうする? 」

「いや、わからん……」

「考えても仕方がないと思うが……」


結論は全くでなかった。エスラーはらちがあかないと思った。


「ま、俺たちだけでも注意しようぜ」


その言葉に二人は頷く。とにかく今の段階では自分達は何も出来ないということだけは分かったのだった。

 その後、ハーヴィスは他の二人と別れ、部屋に戻った。剣技以外あまり知識がなかった事から、少し勉強をしようと思い、世界地図を広げてみた。世界地図というが、表立った国以外は地図は詳細ではなく、大まかな地形図と言う感じであった。大型の船は一部の港湾都市国家が牛耳っており、この大陸の外は全くの未開の地である。


(……まずは自分のいる国を探さないと……)


ハーヴィスは目を細めてみる。地図の南側に6つの小さな国のまとまりがあり、中心にセリスタの国があった。丁度他の国はセリスタを包むように凹の字になっている。

そして、その上にはこの大陸で一番の勢力を誇る聖エルベリア教皇国があった。丁度この国は地図の中心から西側を支配している国だった。

そして首都のエスターナはこの大陸の宗教”聖エストリア教”発祥の地で、巡礼者で多く賑わう、大都市であった。


「うっわぁ……大きいや……」


セリスタ公国を20倍以上にしてみても足らないぐらい大きい。正直こんな大きな国とは関わりあいたくない。そして、東側にはエルベリア教皇国と対立しているローヴァス帝国があった。この国はとても好戦的な国であり、武力のローヴァス、文化のエルベリアと呼ばれていた。

 過去、この国同士は同じ国だったらしい。しかし、跡継ぎ問題と、その家同士の確執から分かれたようだ。この二つの国家は紋章に”赤バラ”と”白バラ”で飾られているのが特徴だ。

 資料を見ると、主家がエルベリア教皇国の一族で、分家がローヴァス帝国、親戚一同はローヴァスにおり、エルベリアに跡継ぎがいない場合は、ローヴァスの親戚から親族投票により決定される……とのこと。

 かなり複雑で頭がパンクしそうだったのだが、根気よくその資料を読み込んだ。


「フム……今両国は、前教皇がローヴァス帝国からの者により、不可侵条約を締結中……か」


この資料ではそう書かれているが、あくまで書かれているだけであり、やはり緊張はあるのだった。


「宗教なのに、教えよりも権力か……」


宗教は誰も平等に……とかかれている割に、余りにも矛盾を感じさせる世界であった。


「姫様はこんな不条理な世界で、何を思っているんだろう」


不意に出た”不条理な世界”という言葉は、ハーヴィスの、今の世界に対する不満でもあった。疲れを感じたので、そのままベッドに入ると眠ることにした。

 次の日、訓練が終わり、いつものように草原で剣の練習をしていると商人に声を掛けられた。


「これから帰るよ」

「お疲れ様です」


三人は敬礼をして挨拶をした。商人はにっこりと笑うと一枚の紙切れを渡した。ハーヴィスが受け取ると同時に商人は答えた。


「……これは情報屋の連絡だ、彼の話によると、この辺りで厄介なことが起きるかもしれん」

「ど、どういうことですか?厄介なことって…… 」


三人は驚いた。商人は真面目な顔をすると話を続けた。


「今、エルベリア教皇国において、現教皇が危篤状態らしいのだ」

「!!! 」


恐ろしい情報を聞いたかもしれない……三人はこれからこの土地で起こるかもしれない大きな戦を想像した。


「それでな、俺はエルベリアに向かうことになった」

「……え、危険じゃないですか……?今は……」


ハインツが慌てる。しかし商人は答えた。


「危険でもな、俺は商人だ、生きていくために行くんだよ」


生きていく為、それは何物にも変えがたい言葉であった。


「そう、ですか、気をつけて行ってください」

「ああ、それでな……」


ハーヴィスに渡した紙切れを指差した。


「情報屋なんだがな、俺の親友でな、俺に何かがあったら連絡してほしいんだ、それとその情報屋に伝えておくメッセージも同封してあるから。それを伝えてやってくれ」

「え……」


商人は頭をポリポリ掻くと言った。


「あんまり、言いたくないけどな……娘を預かってもらってるんだよ、だからな、その為の……なんだな……」


三人はそういうことか、と安堵の表情を浮かべる。てっきり怖い情報を横流し……とかに利用されるかと思ったのは内緒である。


「まぁあんたらが信用できるから渡すんだ、よろしく頼むよ」

「はい、わかりました」


ハーヴィス達が了解の言葉を伝えると満足そうに微笑み、そして彼は行商の旅へと向かっていった。エスラーはニヤニヤしながら独り言で


「娘さんがいるのか……是非情報屋に提供してもらわねば……」


馬鹿らしいので二人は突っ込まずにおいた。


 ハーヴィス達が商人と話をしているとき、エリーシャのいる城では慌しい状態が続いていた。それは、現教皇が死去したかもしれないと言う話だった。

それにより、各勢力が動き出したと言う。その中、露見したことがあった。それは、エリーシャとは別件で、非公式と言うことでセリスタ正規の使者と言う者が、セリスタ周辺に密書を贈っているらしいとの事であった。


「一体……誰がそんなことをしたと言うのだ……」


エドガーは憤慨していた。その密書と言うのは、しっかりと現当主エルガの印がしてあるものであった。と言うことは、犯人はエルガではないかとなる。しかし、彼は今病状に伏せており、そんなことをする意味がない。それに全権をエリーシャに託している。

そうなると、本部の幹部レベルの者が動いたとしか思えなかった。そうなると怪しいのが、エリーシャの叔父であった。彼はエリーシャから世継ぎの権利を剥奪されている為、その逆恨みを何度も受けていた。真っ先に疑うべき人物だった。


「これは……いかがいたそう……」


エドガーは頭を抱えていた。確かに、アリエルはエリーシャを嫌ってはいるが、確かにエルガ公爵の前で、権限放棄を行っている。それを考えると、余り想像はしたくなかった。


「……申し訳ないけど、本人から聞くしかないわね……」


エリーシャは決断した。父のエルガ公爵の見舞いの為にまだ彼はこの城に滞在している。聞くのは今しかないのだ。

 しばらくするとアリエル侯爵は謁見室に来た。明らかにエリーシャを憎らしそうに見つめている。そして、連行したエドガーに舌打ちをした後、椅子に座った。今回エリーシャはアリエルに配慮し、円卓で会話をすることにした。出来ればこれ以上刺激はしたくなかった。


「……で、急に呼び出して何のようだ?」


アリエルは不機嫌を態度で表しながら聞いた。


「ええ、アリエル様も既にご存知で御座いましょうが、これを見ていただけるかしら? 」


エリーシャは一枚の4つ折にされた紙をアリエルに見せた。胡散臭げにその紙を覗くと、アリエルは酷く狼狽した。


「な……何だこれは……わ、私は知らんぞ!! 」


紙を破り捨てた。まるで何かを隠しているようだ。


「……申し訳ないですが、あれは複製でございます」


全てを見透かしたように無表情のエリーシャはアリエルに答えた。


「……全て、話していただけますか? 」


いつもは満面の笑みを浮かべるエリーシャが無表情で突き刺さる目をしている。アリエルは背筋が凍るのを感じた。



   ””お前は、あの子、エリーシャとは器が違うんだ””



今更兄の言っていたことを思い出す。確かに、今自分の前にいる彼女は自分の器とは全く違う。遥かに大きかった。


「……申し訳ない……本当に申し訳ない……」


急に弱気になるアリエル、そして、洗いざらい吐くことにした。


「……実は、私は莫大な借金を抱えているのだ」


うなだれたアリエルはとても小さく見えるほど縮こまりながら答えた。


「少し前に、ローヴァスの都のロクサーナにて、賭け事に手を出してしまった」


その言葉を言うと顔面を手で覆った。


「仕方なかった……借金を返すには……俺がこの国の後を継がないと……返せなかったんだ!! 」


興奮気味に、自分がやった悪いことを恥ずかしげもなく暴露していく。エリーシャとエドガーは内心聞くに堪えなかった。涙ながらに語る叔父にエリーシャは聞いた。


「……それで、各国に密書を送っていたと言うのですか? 」

「……ああ、実は、他の連合国にも融通して貰っててな……俺が後を継いだらいくらでも返してやる……と」


余りの生活の乱れっぷりにため息が出そうだった。自他共に厳しい兄とは対照的である。


「それで、叔父様はどうしたいのですか? 」


これ以上乱れた生活のことは聞きたくなかったエリーシャは単刀直入に質問した。その質問にワラをもすがる様な態度でアリエルは答えた。


「……金を……借金を立て替えて頂きたい……」


完全に観念したのか、今自分が一番してほしいことをエリーシャに伝えた。エリーシャはもう正直彼とは関わりたくないと感じていた。


「わかりました。それではその借金を全て私が立て替えましょう……」

「な、なんですと!! 」


アリエルは喜びいさみ、反対にエドガーは口をあんぐりと開けた。


「ひ、姫様……なりませんぞ!! 民の大切な資源を……」

「お黙りなさい、エドガー、貴方には今、発言の権利はありませんわ」


低い、威厳にも満ちたその声にエドガーは静かになる、表情を見ると明らかに納得できていない顔だ。

しばらくして、上機嫌で帰るアリエル候を見送ったエリーシャは、怒りで震えるエドガーに話しかけた。


「……嫌でしょ。今の話……」

「…………」


エリーシャはエドガーの手を取った。


「エドガー、私のことは嫌い……? 」

「え……あ……」


急に投げかけられた質問にエドガーは狼狽した。しかし、次の言葉でエリーシャが尋ねた理由が分かった。


「もう……私は、一人の姫様じゃないの……この国の……」


エドガーはエリーシャの言いたいことがわかった。一刻も早く、アリエルと手を切るべきだと。

そうしなければ、今後この国は立ち行かなくなるだろうと、不本意ではあるが ”手切れ金” ということで彼の借金を立て替えたのだ。

エリーシャの手を握り返したエドガーは優しく微笑んだ。


「もう、私は、姫様の言うことしか聞きません。私の判断よりも、きっと姫様のほうが、正しい判断ができるでしょう」


その言葉を聞くと、エリーシャは嬉しそうに微笑み返した。


「エドガー、ありがとう……」


この時は、一国の主ではなく、普通の女の子に戻っていた。


 


 以降 5



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