表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
セリスタ騎士編
6/100

§第二章: バラ戦争 3 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 3 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


エリーシャ達は騎士団の訓練所を回り終えた後、見舞いの為に、父のいる寝室へと向かった。その途中ある人物と出会った。それはエリーシャの父の弟で、叔父に当たる人物だった。


「これは、これは、エリーシャ姫、兄上に御会いですかな? 」


エリーシャは軽く会釈をすると満面の笑みを浮かべ


「ええ、そうですわ、アリエル様、父には会われたのですか? 」


少し、眉を歪めたが、平静を装う赴きで答えた。


「……ああ、ついさっき面会を終えたところだよ、それではまた」


そそくさと立ち去る。アリエル自身は隠し通したと思っているだろうが、エリーシャは彼に嫌われていることは分かっていた。何故なら、本来跡継ぎは男であり、一人娘のエリーシャは跡継ぎとなりえない。しかし、聡明で、本当に国のことを思いながら執政をし、更に民にも愛されている。そのことから、あまりパッとしない弟に跡を継がせるよりも、国を存続させるのに必要なエリーシャに後を継がせようと現公爵は考えたのだ。

 だが、このまま兄が死ねば自分に権限がある、と思っていたアリエルには我慢がならなかった。それに気がついていたエルガ公爵は、体調を崩し始めてから、何度も何度も、アリエルに血族ではなく、国を良い方向に進める為にエリーシャを跡継ぎにすると説いた。兄の精一杯の言葉にアリエルは神妙な面持ちで聞き続けた。

 そのかいがあり、何とかアリエルは、権利をエリーシャに譲り、表面上は収束していた。だが、内心面白くない為に、エリーシャが跡継ぎになって以来、彼は皮肉を言うようになっていた。

正直鬱陶しいのだが、エリーシャのほうは社交性があるので、どんなことを言われても満面の笑みで返すことができた。

   

  ……が、どうやら、その態度も気に食わないらしい。


 アリエルが立ち去った後、エリーシャ達は父の寝室へと向かった。エドガーや、他の付き添い達は部屋の外に出てもらい、部屋の中は二人になる。

エルガはこの数ヶ月で更に痩せていったようだ。年相応とは思えないほど頬にしわが寄り、老人の姿になり果てていた。何度見ても、やはりこの姿は胸が苦しくなる。エリーシャは自分の大好きな父親がみるみる弱っていくのが耐えられそうになかった。

 いづれ、父とも別れの時が来る……そう思いかけたのを無理やり押し込め最愛の父親と話をした。

その日は特に、エルガからは話はなく、体が弱って行くことへの不満話であったが、一方、エリーシャは今回の執務に関することや、騎士の訓練場であったことなど話した。

 エリーシャが興奮気味に話をしていると父はとても嬉しそうに微笑みながら聞いている。父親が元気だった頃には見られなかった表情だ。常に、


 ” 上に立つには慢心することなかれ ” 


と説いていたエルガはどんな時でも気を抜くことはなく、エリーシャの前でも凛としていた。

そんな父の姿が好きだったエリーシャには、憧れの存在でもあった。なので、この表情は嬉しい反面、徐々に父が弱っていくのが分かる為、悲しい気分も感じていた。

 しばらく話をした後、エリーシャは退席することにした。


「……それでは、これ以上はお体に触りますので……失礼いたします」


エリーシャの退席の声を聞くと少し寂しそうな表情をしながらエルガは軽く手を振った。


「ああ……頑張るんだよ……」

「っ……はい」


少し、グッと来た……体調を崩し始めた頃は、君主たるもの……の一言は必ず入っていたのだが、今日聞いた言葉は何故か、エリーシャの心の奥深い部分に刺さった。

噴き出しそうになる感情を抑え、部屋を出る。

 部屋を出ると、エドガーだけが扉の前にいた。部屋を出たエリーシャの瞳に一筋の光を見つけ、慌ててハンカチを渡す。


「あ……エド……」


エドガーの優しさを受け、抑えた感情が出そうになる。しかし、止めようと思えば思うほど、涙が溢れていくのだ。


「……姫」


エリーシャはエドガーの胸に顔を埋めると声を殺しながらも泣き続けた。


この後、セリスタは混乱の海に落し込められることになるのだが、エリーシャにはまだ、このことを知る由もなかった。




「ふぃ~いいお湯だぁ~」


 丁度エリーシャ達が立ち去った後、ハーヴィス一行は訓練の汗を流す為に、浴場にいた。エスラーは風呂が好きなのか、ぬるめのお湯に浸かり鼻歌を歌っている。


「そおぉれこそが~我が騎士道~」


……歌っているやつは養成学校時代の校歌とか、センスがなかったりする。ハインツは苦笑いをしていた。


「アイツ……歌うまいのに……あんなのしか歌わないんだよな……」


本当に残念歌手である。二人は苦笑いをするしかなかった。まぁ、うまいからいいんだけど、いいんだけどね、違うんだな……何かが……。

 実はこの風呂に入る前、ハーヴィスは、二人が予想しなかった言葉を呟いていた。




「俺……師匠と……握手したんだな……」




 この言葉は、現実では全くありえないことであった。それは、公で、エドガーが使う剣技というのは、ほぼ騎士剣技であり、どんなに指導するときも、それしかしないのだ。ましてや、今までのいきさつから、エドガーは全くと言っていいほどハーヴィスを知らなかった。

 そしてエドガーと距離の近いエリーシャもあずかり知らぬ所でもあった。


「なぁ……やっぱり気になるぜ……さっきのセリフは何だよ」


鼻歌を中断してエスラーは聞いた。ハインツも気になるようで、横でウンウンと頷いていた。ハーヴィスは”ん~”と軽くうなった後に、複雑な表情を浮かべながらも答えた。


「俺、子供の頃にいじめられっ子だったんだ……」

「「はあぁぁ!! 」」


二人は急に飛んだ話をするハーヴィスに驚いた。しかもいじめられっ子……今から考えると全く想像できなかった。


「イヤイヤ……昔から強かったんじゃないの……? 」


ハインツは絶対にあり得ないと言う表情をして聞いた。


「違うよ、俺のいた村はイスカラっていう村なんだ。エドガー騎士団長の別荘があるんだよ」

「……あ~そういうことか、それで子供の頃のお前に剣を教えたってか……」


エスラーが勝手に想像したストーリーを繰り広げる。


「……違う……」

「…………」


ハインツも冷たい目で彼を見る。するとエスラーはとても大人しくなった。そして態度でお話をドウゾ……と言っている。


「……それで、俺がいつものようにいじめられて、逃げ込んだ森が……実は、エドガー騎士団長の私有地だったんだ。」


あの時を思い出すかのように遠い目をしながら語るハーヴィス。


「その時に、まだ幼い姫様と、騎士団長が剣の稽古をしてて、それを見よう見まねで覚えたんだ」


「……まじか……」


エスラーは冷や汗を感じた。正直ハーヴィスのしていた剣技は、相手が出した剣先をカウンターの要領で絡め取り、軌道を変えるものである。見よう見まねでそうそうできる技ではない。


「一ヶ月ぐらいかな、合宿してたみたいで、それを過ぎたら急にいなくなったから……」


少し寂しそうな顔をする。ハーヴィスの哀愁に満ちた姿を見て、エスラーは思った。


(つまり、アイツが騎士団長を憤慨させてまで挑戦しようとしたのは、師匠に自分がどれだけ成長したのかを報告する為でもあった……ということか)


この件がバレるとハーヴィスはただでは済まないと思うのだが、やはり、ここまで目ざましく成長をしていると、エドガーもまんざらではないだろう。


「……握手するぐらいだもんな……」


独り言で、エスラーは納得した。ハインツは一人でニヒルに笑うエスラーをジト目でしばらく見た後、ハーヴィスに言った。


「とりあえず、あの剣技をした後に、エリーシャ様と騎士団長があわただしくなったから……この件はここまでにしよう、絶対に誰にも話さない」


ハインツの言葉に2人は同時に頷いた。

 その後、話がひと段落し、ハーヴィスたちは部屋に戻った。そして次の日に備えて、剣の手入れなどを行う。ハーヴィスは久しぶりに上機嫌だった。何故なら、子供の頃に憧れたエドガーと手合わせできたのだから。そして、最近ハーヴィスの手入れする剣は二本になっている。それは来るべき双剣の準備でもあった。

 普段は、騎士の剣技の手前、右と左を入れ替えて感覚を磨いていた。後は、非番の時に、ハインツの紹介してくれた先生から双剣の手ほどきを受けたりしていた。何もかもが順風満帆でとても充実し、何より自分が強くなっていくことが実感できた。そして、まだ未熟だが、エドガーとの戦いで可能性があることが分かった。とても大きな収穫だった。


「ふぅ……でも、いつになったら姫様のことを守れるようになれるんだろう……」


少年の頃に立てた誓い、それがいつになったら果たされるのか、全く分からない。

嬉しい事もあれば、やきもきする所もある、今はまだあせってはいけないのは分かるのだが……いても立ってもいられなくなるそんな時があるのだ。


「今日は気分が高揚してるな……早く寝ないと……」


そう思えば思うほど眠れなくなる。仕方なく、宿舎をこっそりと抜けて、いつもの丘に出掛けた。 草原で仰向けになりながら、星空を眺める。とても綺麗だ。まだ暖かさが残る夜はとても気持ちがよかった。

 ふと寝返りをうったその時、道の奥で見慣れない馬車が動いていた。そして彼らは馬車を静かに、そして早く移動させようとしていた。

まるで夜逃げをするように……。そんな時、その馬車に追っ手が来た。


「オイ、見つけたぞ!! 」

「捕まえろ!! 」


交互に声が聞こえてくる。なにやらあわただしい。さすがのハーヴィスもただ事ではないと思った。

捕らえられた男は商人風の姿であり、相手は山賊のように見えたのだが……


「さあ、例のモノを出せ!! 」


男が言うと、彼は必死になって首を横に振る。その例のモノというのはとても大切なものなのだろう。4人ぐらいの男達が寄ってたかって一人の商人に詰め寄っている。まるで、昔の自分がやられている様な、とても嫌な風景だった。

耐え切れずハーヴィスは歩き出した。


「てめぇ、いい加減にしねぇとやっちゃうよ? 」


懐から物凄い形の半月刀を出す。見るからに物騒だ。


「んん~ん!! 」


歯を食いしばりながらも必死に抵抗する。そんな彼を男は苛立ちを隠さずに吹き飛ばした。


「やっちゃってからこの中探すかぁ、じゃあな!! 」


男は半月刀を振り上げ一気に振り落とす。商人風の男はもう駄目かと思い、目をつぶり覚悟を決めた。


「…………」


しかし何もおきない。永遠とも思えるような沈黙の後、改めて商人風の男が目を開けたとき、そこの世界はついさっきとは全く違っていた。

4人の男たちは倒され、そしてその中心に一人の細身の男が立っていた。

 月がある為、周りは明るく、彼の姿は月の光を浴びて白銀のようにきらめく神のように見えた。

息を呑んで見守っていると、男は右手を差し出した。


「大丈夫ですか? 」


澄んだ優しい声に安堵の息が漏れる。


「あ、ああ……ありがとう」


腰が抜けていたので、馬車の荷台に座らせてもらう。そして落ち着いた所で改めて彼の姿を見た。


「あれ……あんたは……ハーヴィスさんじゃないか? 」


そう言われた青年はにっこりと笑った。


「はい、そうです」


商人風の男は物凄く驚いていた。ついさっきは名も知らない山賊に襲われていたのに、今はかのトーナメントの覇者であるハーヴィスが助けてくれたのだから。


「お~あんたの姿見てたぞ。強かったな」

「恐縮です……」


しばらく興奮した商人風の男とやり取りを重ねた。彼はやはり商人であり、今はセリスタ周辺の都市を回り商いをしているらしい。


 その後、倒れている山賊を回収し、衛所に引き渡した。


「あ~ハーヴィスさんは帰っていいよ。どうせ宿舎抜け出したんだろ? 」


見透かされていたようだった。ハーヴィスは顔を赤くしながら頷いた。


「なら私に後は任せなさい、君はもう帰って寝るんだ」

「はい……それでは失礼します」


ハーヴィスが挨拶をして立ち去ろうとしたときに商人はにやりと笑ってこう言った。


「あんたの活躍、楽しみにしてるぞ、頑張れよ」


他愛のない言葉だったがとても嬉しかった。

 ……その後、商人が衛所で手続きをしているとき、何気なく男が通りかかった。衛所の兵士は4人組を監獄に入れたりなど、右往左往しており、彼の存在に気がつかなかった。

そして、その男は気にもせずそのまま衛所を通り過ぎたのだった。


 


  以降 4


今の予定、休日に不定期時間で更新いたします。4月からまたスケ変わるので代わり次第お伝え致します(。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ