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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教皇国軍所属編
44/100

§第十章: それぞれの終焉 1 §

半年の不可侵条約を経て、再び戦争を起こしたエルベリア教皇国とローヴァス帝国。

互の腹を探り合いながらの戦いだったが、慢心のエルベリア、臥薪嘗胆のローヴァス両勢力の実力差は明らかだった。

だが、一人の男の存在により覆った。その男の名は……


” ハーヴィス=リューン ”


彼は双剣の使い手であり、阿修羅とも呼ばれていた。


「さて、ここがローヴァス帝国の首都だよ」

「オオ、ここがこれから俺が仕える国なのだな!! 」


ここは、ローヴァス帝国の居城前、ニコニコ笑う少年と、明らかに大げさな仕草をしながら手を広げる男がいた。少年はマサムネ、男は元エルベリアの総大将ガイストだった。


「フム、文化のエルベリアと武力のローヴァスというものの……この街はとてもいいところだな」


ローヴァスの民が聞いたら不快な思いをするような言葉を言う。隣の少年は意にも介さずニコニコしている。しかし、ニコニコしていた彼の表情が強ばった。予想外のことが起こったからだ。


「マサムネ!! 帰ってきたのね!! 」


その声で一瞬表情が固まるマサムネだが、ガイストがいるため、慌てて平静を装う。


「ん? あの子は……? 」


ガイストが反応する。マサムネは焦る心を抑えながら答えた。


「あ、あの子は……」

「ウフフッ私たちは恋人同士なのだよ!! 」


マサムネが答える前に、彼に飛びついて答える少女。そのテンションにさすがのガイストもたじろいだ。


「あ、え……えっと……」

「こ、恋人同士か、そうかそうか……」

「ち、違う!! 」


マサムネは平静を装うことができないほど取り乱しながら、否定した。その勢いにガイストはまた困惑した。マサムネは少女を引き剥がすと、改めて紹介した。


「え、えっと、この子は、僕の……そう!! 僕の双子の妹なんだ!! 」

「え~~そうなの? 」

「そうなのっ!! 」


二人のやり取りをガイストは見つめている。明らかに不審そうだ。


「ほ、本当だって……性別が違うからちょっと……」

「ふむ……」


ガイストは一応納得した表情をし、改めて、二人をまじまじと見つめだした。マサムネは一瞬鳥肌が立った。


「ま、まぁいいでしょ!! は、早く行こうよ!! 」


マサムネは少女に耳打ちをすると、ガイストに手招きをして、先を急がせた。ローヴァス帝国の居城の中は、エルベリアの城と比べ、やはり、簡素なものであった。これが文化のエルベリア、武力のローヴァスという言葉の由来とも言えるだろう。


「簡素だけど、広くて迷路みたいでしょ? 」


マサムネはガイストの表情を見透かすように、この城の特徴を話した。やはり、豪華さよりも、戦闘に特化した城のようだ。


「これはこれで、すごいな、本来の城の機能を遺憾なく発揮しているな」


ガイストは素直に感心していた。が、ここは、ローヴァス、まだまだ油断がならない。緊張した面持ちでガイストは案内された部屋に入った。部屋は簡素だが、それなりの気品を保っていた。取り敢えず、ガイストは賓客扱いのようだ。


(……取り敢えずは、第一段階は大丈夫か……)


マサムネがいなくなった部屋で一人、急に吹き出した汗をガイストは拭った。



「あ、マサムネ!! 」


彼女の部屋に入ったマサムネに少女は、駆け寄ってきた。そんな彼女をマサムネはため息を付いて制した。


「もう、勘弁してくれよ……本当に焦ったんだから」

「ご、ごめん、だって、久しぶりだったから……」


彼女は目に涙を溜めてマサムネを見つめた。その姿は餌を取られたハムスターのように愛らしかった。


「ま、まぁいいよ。ハヅキ、ただ、人前ではやめてね……もしかしたら変な誤解招くからさ」

「うん……わかった」


ハヅキと呼ばれた女の子は視線を落としながらも頷いた。しばらく二人は、離れていた間の話をお互いに披露していた。そして、しばしお別れの時間となった。


「じゃあ、そろそろ時間になりそうだから、行くね」


そういうと、マサムネはハヅキから離れていった。そして、彼女の部屋の扉を開け出る瞬間、彼はハヅキに振り返って、一言こう言った。


「ハヅキ、辛い思いをさせてごめんね……もう少し、我慢して……」

「うん、私じゃ無理だから、全部マサムネに任せる。私は我慢できるよ」

「……ありがとう……」


マサムネはハヅキの言葉を聞くと、すまなそうな顔をしつつ、出て行った。

 ハヅキの部屋を出たマサムネはさっきの暗い表情は捨て、普段のクールな姿になっていた。事前に皇帝であるグレゴールに密書を渡していた。そして、判断はお任せしますとしたためておいた。グレゴールの性格からして、どうなるのかは分かっていたのだが。

マサムネはガイストのいる部屋の扉をノックし、これから皇帝グレゴールとの面会があることを告げた。ガイストは着替えをした後に、ローヴァスの最高権力者と会うことになる。


「な、なぁ、俺たちは仲間だよな? 」


ガイストは以前、マサムネが言った” 仲間 ”という言葉が気になっているようだ。


「ええ、私たちは同じ仲間ですよ 」


マサムネはニッコリと笑うと先導しつつ、ガイストをグレゴールのいる謁見室へと案内した。謁見室の前に着くと、ガイストはしばし待つようにとマサムネに言うと、大きく深呼吸した。すると、彼の表情が一気に変わった。


(ふうん……ただの調子のいい人間というわけじゃないようだね……)


マサムネはガイストが思ったよりどうでもいい人間ではなかったということを認識した。そして、マサムネは扉を軽くノックすると、謁見室の扉を開いた。部屋はエルベリアのようなカラフルかつ、文明感溢れた色合いではなかった。ガイストが初めてエルベリアの宮殿を訪れた時は、初めてみるものの連続で感動した記憶がある。しかし、この城にはそう言ったものはないようだ。


「…………」


ガイストはしばし、謁見室の周りを見回していた。そして、その視線の先に、大柄な男が腰掛けているのを見つける。彼がローヴァス帝国の最高権力者グレゴールだと直ぐに分かった。


「グレゴール閣下、私は元エルベリアの士官、ガイスト=イルド=セントラと申します」


いささかオーバーアクション気味に歩き、彼の正面に立つと、胸に手を当て、膝まづいた。その姿を無言でグレゴールは見つめる。すると、補足するようにマサムネが答える。


「こちらの方は、今回の戦いにおいて、エルベリア軍の総大将を務められたお方にございます」


その言葉を聞くと、グレゴールはフムッといった趣でガイストを見る。そして一言尋ねた。


「で? この者はどうしたいと? 」


グレゴールから威圧的なオーラを感じる。ガイストを試しているようなそんな感じも受ける。マサムネは話を続けようとしたが、そういう雰囲気ではなかったので、あえて口を閉ざした。すると、ガイストはその威圧を感じていないかのような顔で答えた。


「はい、私は、先の戦いにおいて、ローヴァス帝国の鮮やかな戦略、戦闘、知略を受け、感服いたしました。今回の敗戦を受け、私、ガイスト=イルド=セントラはグレゴール様の元でお仕えいたしたいと思い、馳せ参じました」


マサムネは正直驚いた。この男の処世術はただものではないようだ。彼のことを全く知らない者だと、直ぐに彼を受け入れてしまうだろう……そんな受け入れやすさを感じた。これで、ギルトも直ぐに受け入れてしまったのだろう。


「そうか、ガイストとやら、我がもとで仕えたいと申すか」

「はい、全身全霊をかけ、このローヴァス帝国がこの大陸を統一するその力添えを致したく存じます」


ガイストの言葉を受け、グレゴールは微笑んだ。彼が、他の人間に微笑む、マサムネはそんな姿を初めて見た。驚きを禁じえない顔をしているマサムネに、グレゴールは話しかけた。


「マサムネよ。このガイスト、お前はどう受ける? 」

「え? ええ? あ、も、申し訳ありません……聞いておりませんでした……もう一度お願いいたします」


マサムネらしからぬ姿に、グレゴールは意外そうな顔をして、ニヤリと笑うとまた同じ質問をした。内心心臓が口から出かけたのを強烈な意思で押さえ込みながら冷静になろうとする。


「はい、そうですね……」


ひと呼吸して、マサムネは息を整える。その姿が普段見られない周りの者たちは、興味深げにマサムネを見つめる。マサムネは冷静になると、周りを睨みつけ、威嚇をする。周りの者があさっての方向に目を向いたのを確認してから改めて答える。


「コホン……私の意見としては、ローヴァス帝国の慣例から、投降したしたものには相応のモノが必要になると思います」

「……モノか。お前は何を必要とする? 」

「私と同じ条件でよろしいかと……」


マサムネは淡々と答える。ガイストは全く理解できていない。慌てて聞いた。


「お、同じ条件ってのは何だ? そんなこと聞いてないぞ」

「ええ、言ってませんでしたし……」


ガイストの顔から血の気が引いていく。こんなの俺の台本にはないぞ。とも言わんばかりの顔だった。グレゴールは少し考える表情をしてから答えた。


「それでは、マサムネと同じ条件を飲んでもらうとしよう。こちらの提示する賠償金、もしくはその命を持って償う。そのどちらかだ」


「…………え? 」


ガイストは一瞬何を言われたのか理解できなかった。その後、金もしくは命この両天秤にかけられたことに気がついた。そして、ガイストは賠償金の金額に驚いた。


「こ、こんな額、む、無理に決まってるだろ!! 」


この金額は個人で到底払えるものではなく、国家規模の賠償金に当たるものだった。マサムネは平然とガイストを見つめていた。すると、ガイストはすがるようにマサムネにしがみついた。


「お、お前は俺の仲間……そ、そうだ!! 仲間なんだろ!! だ……だったらさ、た、建て替えてくれよ!! 絶対に払うから!! な、な!? 」


「建て替える? 」


「そ、そうだよ!! いいだろ? 」


ガイストは上目遣いで、マサムネを見上げてくる。その表情は卑しい犬が、誰彼構わず餌をねだっているようなそんな醜悪な顔だった。見ていて吐き気がしてくる。


「残念ながら、私にはそのお金建て替えれるほど持っていませんよ」


「!!! だ、だって!! お前、俺と同じ条件だって言っただろ!! 」


「ええ……そうですね」


マサムネは頬を軽くポリポリ掻きながら答える。その表情にガイストはぶち切れた。


「て、テメェ!! 騙しやがったな!! ぶっ殺してやる!! 」


ガイストはそう言うとマサムネを突き飛ばし、懐から取り出したナイフでマサムネに斬りかかる。その彼のナイフはグレゴールの投げられた錫杖により吹き飛ばされた。


「グックッ……」


手を押さえ、グレゴールとマサムネ両方を睨みつける。これが彼の本性だろう。うまく、周りに入り込み、自分の思い通りにしなければ気がすまず。うまくいかなければ消してしまえばいい……それはいわゆる全能感というやつだった。


「残念だな……初め、そなたのことは少しは骨があるかと思ったのだが……」

「……え? 」


グレゴールの言葉に素っ頓狂な声を出すガイスト。そう、これは言われた相手を試す意味もあったのだ。ちなみにマサムネの時は、その莫大な借金を知略で返すと豪語し、グレゴールに認めさせたのだった。


「僕と貴方は仲間だって言ったでしょ」


呆然としているガイストを護衛の兵士が拘束する中、マサムネは無表情で言った。


「それはね、” 自分の国を捨てた裏切り者 ” ってことでさ……だから僕たちは仲間だったんだよ」


「!!! 」


ガイストはマサムネのその言葉を聞くと、肩をうなだれた。その姿を見て、グレゴールは改めて、ガイストに言い放った。


「……ということだ。ガイスト、お前はこれから死刑と張り付けした後、死後は市中にてさらし首にする。最後は塩漬けでお前の祖国に御中元してやろう」


「!! い、嫌だ!! 嫌だ!! やめてくれ!! 俺はまだ、まだ死にたくない!! 」


グレゴールの言葉を聞くと、ガイストは暴れだした。まだ生の執着があるようだ。そんな彼の姿を見つつ、マサムネはガイストの顔を思いっきり殴りつけた。


「グフッ!!? 」


「……あの世で、ギルト殿に目一杯謝ってこい!! 」


何故、マサムネはこのようなことをしたのか、よくわからなかった。ギルトは最終的には生きていたのだが、この時のマサムネは知る由がなかった。その姿に少々驚きながらもグレゴールは泣き叫ぶガイストを牢獄に連行するように指示した。そして、ガイストの泣き叫ぶ声が聞こえなくなった後、グレゴールはマサムネに尋ねた。


「マサムネ、ギルトというやつは、お前にとってなんなのだ? 」


そう言われると、マサムネはとても寂しそうな顔をして、答えた。


「僕と……僕と正反対の、 ” 自分の国を最も愛する者 ” です」

「……そうか、死ぬとは、残念なことをしたものだな……」


グレゴールからそのような言葉が出るとは思わなかったが、これは彼なりのマサムネを気遣った言葉なのだろう。どんなに非情な人間と言われても、やはり彼も心を持った人間だったのだ。

 そして、しばらく国の今後について話をしていた時、ローヴァス帝国がエルベリアに止めを刺すことができず。退却してきたという報が届いた。それは、ローヴァス帝国の最大の好機を逃した報でもあった。

マサムネとグレゴールは顔をしかめたが、両者の思いは違っていた。グレゴールはおめおめと戻ってきたことに対し、マサムネは自分の待っていた相手が戦場に来ていた。ということだった。


(……クソッ!! 何で、僕がいなくなってから来たんだ!! ハーヴィス……次は絶対に、絶対に倒してやる!! )


マサムネは、決意を新たにし、対ハーヴィスの策略を練る為、自室に戻ったのだった。



後日、ガイストは2日張り付けにされ、処刑された。その後、塩漬けにした顔を市中にさらされ、エルベリア教皇国に対して挑発行為を行う。晒首にされたガイストには皮肉を込めてこう言われた。


”自分の国を捨てた裏切り者の末路”


……と。 

 

ガイストは、再びエルベリアとの戦争が起きる前、ローヴァスからの贈り物として、彼の首が贈られたという。その時に彼の口に挟まれた一枚の紙にも同様の言葉が綴られていた。



以降 2


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