§第二章: バラ戦争 1 §
セリスタ聖騎士選抜トーナメント、覇者ハーヴィス=リューン、彼の戦いは伝説となった。しかし、その伝説はまだ一握り、彼の伝説はここから始まる。
§ 聖騎士ハーヴィスがここに参る §
「フゥ……」
ため息ひとつ、腰を下ろす。仕事が終わり、いつもの酒場にいる。目の前にはもう既に出来上がったエスラーがいた。
「よぉ、きょうの仕事はどうだ?」
ビール片手にご機嫌だ。
「ん~……まぁ普通だ」
「そうかそうか!! それはよかったぁ~」
「……元気な人だ……」
最近、ハーヴィスはエスラーとよくここで食事をしている。ハーヴィスは聖騎士候補生、エスラーは騎士候補生としてセリスタに入った。
特に、両者に区別はないのだが、トーナメントで1~3位になった者は聖騎士候補、それ以外の一般は騎士候補生と呼ばれていた。
ハーヴィス、エスラー、両者は先週、騎士選抜トーナメントにおいて、初戦激突をした。その後、縁もあり、この様によく話すようになった。
流石に、騎士養成学校のエリートだけに、様々な知識を持っており、ハーヴィスにとってとても頼りになる存在になっていた。
「今日中々楽しいことがあってなぁ~」
今日あった仕事の話をしている。とても楽しそうだ。
「お前さんはどうだ? 」
「そう……だな」
分からないことがあるとエスラーはそれを察して色々と自分の体験談を話しつつ振ってくる。
「やっぱり、剣技の型がとても難しいかな……」
エスラーにとって当たり前の答えであった。普段の動きから型というものに慣れていないだろう事は分かっていた。
「……だろうな……」
しばらく雑談しながら夕食をとった後、大通りを歩きながらふとエスラーが言った。
「……今剣を交えてみるか? 」
「……え? 」
ほろ酔いながらもエスラーはにやりと笑いながら剣の柄を揺らした。
「大丈夫だ、お前が何故剣技の型が難しいのか教えてやるだけよ」
「……すまない」
「いいってことよ……」
二人は城の見える草原へと歩いていった。
草原に着くと、二人は対峙し、ハーヴィスは聖騎士の剣技で、エスラーは養成所で受けた特殊な構えをして軽く手合わせをした。
……のだが……
「……ハァハァ……」
「どうだ? こういうことだ」
ハーヴィスは直ぐに息が切れてしまっていた。反対にエスラーはフラフラしながらも余裕である。ハーヴィスは剣を構えて、対峙をした。
反対にエスラーは剣を片手に持ち、横向きに構える。全く隙が見えない。しばらく二人は対峙した後、剣を交えた。
よろけるハーヴィス、仁王立ちするエスラー、つい先週の戦いの結果とはかけ離れた正反対の状態であった。
「……やっぱり……無理なのか……」
ひざを突いて息を切らせる。エスラーはカッカッと笑いながらあぐらをかいた。
「まぁな~無理だ」
「え……? 」
ふぅ……と一回息を整えた後、エスラーは改めて答えた。
「お前はな、そんな簡単な型に収まるやつじゃねぇんだよ」
意外な言葉にハーヴィスは驚いた。
「だが、ここで諦めるんじゃない、聖騎士になるには、剣技の”いろは”はできないと、馬鹿にされるからな……つまりは、この国自体が馬鹿にされるってこった」
かなり重い言葉を受け、ハーヴィスは落ち込んだ。
「でもな、ある程度できたら……それでいいんだよ……正直な」
「え……」
「俺も、剣の型を全て知ってるわけじゃない。基本の型は知ってるけどな……だが、本当の戦いでは役には立たない」
振り返るとにやりと笑った。
「だからある程度でいいんだ。本気で打ち込む必要はないんだよ」
エスラーの思いやりのある言葉に正直嬉しかった。
「まぁ、分からなかったらいくらでも教えてやるよ、その代わり……」
指を立ててにやりと笑う。
「……いい酒あったら進呈してくれ……」
……いつもの彼に安堵と共に何かが抜けた気がした。
その日から、ハーヴィスはエスラー、ハインツを従えて剣技の練習に明け暮れた。特に剣技の型に関しては二人とも秀逸であり、とても参考になった。そして剣の練習を始めて2ヶ月余り経ち、ハーヴィスの剣技は様になってきた。 そんなある日、剣の実践練習があった。
木剣で一体多数で戦うシーンを想定しての訓練だったが、ハーヴィスは言われたとおりに型を使いつつ、相手を捌いていた。しかし、違和感を感じていた。
剣で薙ぎ払い、そして盾で受け止め後退しつつ戦う相手と常に正面で向き合う……そんな些細な動作だったのだが、やはり違和感を感じた。不思議に思いながら訓練は終了し、次の多数に入る為に待っていると、エスラーとハインツに呼ばれた。
「ん~やっぱ違和感ありそうに戦ってるな……」
「え……わかるの……? 」
「ああ……わかる。動きに問題はないんだが、モーションごとにお前の顔にゆがみが出てた」
エスラーはよく観察しているものだと感心した。
「教官達は気づいてないけどな、毎日練習してるからわかるんだわ」
ウンウンとハインツも頷いている。二人はとてもいいコンビだ。そして、ハインツは人差し指を立てながら答えた。
「ハーヴィスにはもう一本剣がいるよね……」
ハーヴィスが違和感を感じていたことをズバリと言い当てた。
「今度さ、俺の先生で双剣を使う人がいるから、紹介するよ」
このハインツが提案した双剣のスタイルは、後に、ハーヴィスの代名詞となるのだった。
以降 2
第二章始まりです。よろしくお願いいたしますm(_ _)m