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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教皇国軍所属編
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§第八章: 戦場の旋律者 4 §


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆4◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



エルベリア軍が正にローヴァス軍を駆逐しようとしていた時、予想もしないことが起きた。ローヴァス軍の援軍が訪れたのだ。その報を聞き、ギルトは驚いた。


「何!! 援軍じゃと!! 」


千載一遇のチャンスが消えていくのをギルトは感じた。それと同時に、ふとハーヴィスの伝言が頭をよぎる。


”” 敗戦を感じたら即座に逃げる ””


一瞬腰が砕けそうになる。しかし、ギルトは逃げなかった。それは、自分を信じて付いてきた部下達がいるのだから……


(ここでひるむわけには……)


ギルトは留まることにした。できるだけ沢山の部下を守るために……。


「ラスコー将軍!! 来ましたよ!! 」


マサムネの言葉で一気に薄れゆく視界が鮮明になる。ラスコーの気持ちが絶望から希望に変わった。


「よし!! 援軍が来た!! みんな一気に巻き返すぞ!! 」

「オオオオオ!! 」


兵士が一気にときの声を上げた。一方、ローヴァス軍を押していたエルベリア軍だが、反対に全く援軍が来ることがないと分かっている分、精神的負担が大きかった。


「クッ……やはり多勢に無勢か……」


ギルトは疲労で、段々と弱っていく軍勢が精神的にも押されてきたのを感じた。これこそ正に即座に逃げるタイミングである。しかし……


「これは……いかん……全軍包囲を解き、撤退せよ!! 」


ギルトの声に呼応し、軍勢は包囲を解いた。そして、軍勢は一気に退路に向かって陣形を合わせていく。ローヴァス軍は追撃の様相を見せなかった。そしてローヴァス軍はラスコー将軍を確保すると一気に撤退の態勢を見せた。


「よし……このまま逃げれるか……」


ギルトは少し安心し、兵士を一気に逃がしていく。その時、一瞬の油断があった。他の兵士を逃がすため、ギルトだけはしんがりとなり、ギルトの姿が露出してしまったのだ。その瞬間、ラスコーが自分の持つ槍を一気に彼に目がけて投げ放った。


「ムゥ!! 」


ギルトは一本の黒い影を感じ、引き払おうとした。しかし、それはとても重く、払った剣が砕け散った。そして、その槍はギルトの腕をかすめたのだった。


「ウグッ!! 」


鋭い痛みを感じ顔をしかめた。そして、その槍は馬の足もこすった。驚いた馬が痛みで暴れだす。その瞬間、漆黒の騎士が動いた。


「見つけたぞ!! 貴様は許さん!! 」

「ムッ……貴様は!! 」


漆黒の騎士はラスコーだった。彼は槍ではなく、剣を携え、突っ込んできた。対するギルトは馬を立て直し、砕けた剣を捨てる。そして、突き刺さっていたラスコーの槍を引き抜くと身構えた。


「行くぞおオオォォォ!! 」

「うおおぉぉぉ!! 」


ラスコーの剣とギルトの槍が交錯する。あまりの威力に火花が飛び散る。二人は勢いで獲物が跳ね返る。しかし、一寸早くラスコーの剣が動く。ギルトは槍で攻撃を防ぐ。ラスコーが攻勢に出る。ギルトは防戦一方。この姿は以前と変わらず、一方的であった。


「弱い!! 弱いぞ!! やはり貴様はロートルだな!! 」


ラスコーの言葉にギルトは返す。


「ワシはロートルじゃ!! しかし、貴様にはないものがある!! 」

「それがどうした!! 所詮力には勝てぬ!! 」


ラスコーは薄らわらい。しかし、ギルトは機会を伺っていた。そしてその時は来た。ラスコーが会話をしたため、集中が乱れた。その一瞬を付いてラスコーの剣を払うと一気に突きを放った。


「チッ!! 」


虚をつかれたラスコーは態勢を崩す。そのままギルトは槍でラスコーに打ち込む。しかし……


「ウグゥッ!! 」


悲鳴をあげたのはギルトだった。彼の肩口には一本の矢が刺さっていた。ラスコーは矢を放った方向を見る。すると、弓を構えていたのは、マサムネだった。彼は矢を打ち終えると、部下に指示を出した。


「今です!! ギルト将軍を確保してください!! 」


そう言うと、エルベリア兵が舞い戻るよりも早く、ローヴァス兵はギルトとラスコーを回収したのだった。そして、矢でエルベリア軍を威嚇しつつ撤退したのだった。その引き方はとても華麗だった。陣に戻ると、ラスコーはマサムネに詰め寄った。


「おい!! 何故俺の一騎打ちの邪魔をした!! 」


詰め寄るラスコーにマサムネは言った。


「だって、負けそうだったじゃないですか……」

「う……そ、そんなことは……」


ラスコーは言いよどんだ。確かに、危機的状況ではあった。だが、確実にやられたというわけではない。なお食い下がろうとしたラスコーに、マサムネはため息をつきながら話した。


「……冗談ですよ。それよりも、早くギルト将軍を確保する必要があったんです……彼を餌にしたかったからさ」

「餌、だと? 」


訝しげなラスコーにマサムネは言った。


「うん、ギルトさんはあの人を引き出すのにうってつけだからね。エルベリア兵が戻る前に回収しないとこちらも被害が出るし、仕方なかったんだよ……ごめんね」


マサムネは舌をチロッと出して謝った。その姿は中性的な少年の印象がとても強く、ラスコーはドキっとした。


「う……い、いや、こちらこそ……助かった。ありがとう」


そう言うとラスコーは顔を赤くしてそっぽを向いた。マサムネは”アレ? ”といった表情で彼を覗き込んでいた。

 しばらくすると、二人の前に捕縛されたギルトが連行されてきた。鎧は全て剥がされ、囚人の服を着せられている。怪我したところはちゃんと手当をされていた。


「あ、ギルトさん、ようこそ。僕は今、ローヴァス帝国の総大将をさせて頂いています。マサムネといいます」


マサムネの自己紹介に、フンと鼻息荒く対応する。その姿にラスコーはムッとした。


「貴様!! 捕虜の身でありながらその応対はなんだ!! 」

「いやいや、大丈夫だよ将軍」


ラスコーをなだめるマサムネ、少しムスッとした顔のまま押し黙るラスコー。相変わらずそっぽを向き続けるギルト。


「さて、ギルトさん、これからどうしますか? 」


マサムネから変な質問が来た。一瞬顔を曇らせるギルト。マサムネの質問している意図が計れずに戸惑っているようでもあった。しばらく考えた後、ギルトは言った。


「……生き延びて、祖国に帰る。それだけじゃ」


「…………」


ギルトの答えを聞いて、マサムネはとても意外そうな顔をした。


「へぇ……ギルトさんの口からそんな答えが出るとは思わなかった。てっきり殺したければ殺せって言うもんだと……」


少し考えるような素振りを見せるマサムネ。そして、ギルトの顔を見て、尋ねた。


「例え、ここで生き延びても、それ以上の苦しみがあっても……ギルトさんは生き延びるのですか? 」

「……ワシは愛する者がいる……その者たちが安心して暮らせる世の中を作るまで……死ねぬ……」


マサムネの質問に、ギルトは答えた。


「そう……ですか。もしかしたら、あなたは尊敬に値する人かもしれません」


「!!? 」


ギルトやラスコーそして、連行してきた兵士達全員が驚いた。マサムネは、急に片膝をつき、頭を下げたのだ。


「な……な……」


ギルトは、マサムネの行動にどうしていいのか分からず、ただただ驚くばかりだった。そして、マサムネは下げた頭を上げると、ギルトに話した。


「ギルトさん、これからしばらくここにいてもらいます。一週間ぐらい様子を見て……あなたを解放させていただきます」


「え!!? 」


この部屋にいる全員が驚きの声を出した。ギルトも同じ声を発した。ラスコーは驚きながら反論した。


「何故こいつを開放するのだ? 意味がわからん!! 」

「ちゃんと理由はありますよ」

「そ、そうなのか? 」


マサムネの言葉にラスコーは押し黙る。そして、その理由を聞きたそうな顔をしていた。その姿が、餌をねだる犬のようでもあった。その姿にマサムネは少し吹き出した。


「クッフフフ……あ、ごめんなさい……」


思わず声が漏れて顔を赤くするマサムネ、どう反応したらいいのか分からずただただうろたえているばかりだった。その姿にラスコーは更にドキッとしてしまった。


(お、俺は一体、一体どうなってしまったんだ……)


「あ、そ、それより、理由を教えてくれ」


サラッとラスコーは助け舟を出した。その言葉にマサムネは軽く咳払いをすると、説明を始めた。


「あ、はい……コホンッ……えっと、何故開放するのかというとですね……」


マサムネの説明を聞くうちに、周りの者たちはため息をついた。そして、話の終盤になると、さすがにこれは酷いと思ったのか、顔を青くする者もいた。


「……というわけで、ギルトさん……よろしくお願いいたします。貴方の言葉が本当かどうか、試させてもらいます」


マサムネの言葉に、ギルトは覚悟を決め、頷いた。


「とりあえず……これで、奴が出てくればいいんだけどね……」


マサムネがそう呟いた。ギルトは、奴とは誰なのか、すぐにわかった。


「だが、この老ぼれを助けに来るとは……思えんがな……」


苦し紛れのように答えたギルトに対して、マサムネはニヤリと笑って答えた。


「さて、どうなんだろうね。以前貴方と会った時、彼は助けに来たけど……」


マサムネの意味深な言葉で、ギルトは疑問符が浮かび上がったが、自分がローヴァスに拘束された時、一度会ったあの少年を思い出した。


「まさか、あの時の……」


ギルトがそう言うと、マサムネは指を立ててこれ以上話すことはないとジェスチャーすると、ギルトを監禁するよう指示した。


立ち去るギルトを見つめながらマサムネは考えていた。


(エルジングでのあの活躍、僕は忘れてないんだからね……絶対に君と手合わせをしてやるんだから)


かつての、薔薇戦争を思い起こしながら、マサムネは闘志をたぎらせていた。


 しかし、無情にも時間は経ち、約束の一週間となった。そして、ローヴァスの兵士達に護衛されるように、ギルトはエルベリアに送還されることとなった。捕虜としての送還ではなく、ギルトは丁重に、そして、鎧、武器など、全て揃った状態で戻ってきた。



「……ギルト将軍、よく戻って参った……」


ガイストはかつての人懐っこいイメージとはかけ離れた。無表情で、ギルトを見据えていた。ギルトはこれから起こるであろうことは全て、マサムネから聞いている。もしかしたらそれ以上のモノが待っているかもしれない。しかし、引くわけにはいかなかった。


「不肖、ギルト、戻ってまいりました」


ギルトが挨拶すると、ガイストは胡散臭そうな顔をしつつ尋ねた。


「……ところで、何故帰ってきた? 」

「え? 」


ガイストの質問の意味が分からず、間の抜けた返事を返してしまった。


「え? ではない!! この裏切り者が!! 何故送還されてきたと聞いているのだ!! 」

「用済みの為に戻ってまいりました」


ギルトは普通に答えた。だが、ガイストの表情を見る限り、この理由では収まることはないだろう。


「用済み? こちらのエルベリアでも貴様は用済みだ!! 捕虜服ではなく、将軍の正装で戻ってくる奴など信用できるか!! 」


「…………」


ギルトはこうなることは分かっていた。取り敢えず、前者が本心、後者が建前だろう。ガイスト本人、怒りで自分が言っていることも区別できていないのだろう。やはり、マサムネの言ったとおりだった。


「反逆者ギルトを拘束しろ!! 拷問を持って、反逆したことを自白させるのだ!! 」


「…………」


ギルトは目をつぶった。これから起こるであろう非道なこと、それを耐えきる。それが、今まで自分が踏み込めなかった、弱い自分との決別であると思いながら。ギルトは兵士達に連行された。そして、部屋から立ち去る瞬間、ガイストから思いもよらない言葉を言われた。


「あ~そうそう、ギルト君、君の指揮していた軍団だがね……」


勿体ぶるようにガイストは微笑みながら答えた。


「戦争途中に戦線離脱したということで、逃げ延びた兵士全員を極刑に処したよ」


「!! なん……だと!! 」


ギルトはあまりの衝撃に、意識が瓦解しそうになった。絶望の表情を浮かべるギルトを、満足そうに覗き込むガイスト。その姿を見て、ギルトは呟いた。


「……この……外道が……」

「ん? 今なんと言った? 」


うまく聞き取れなかったガイストがニンマリとしながら尋ねた。それを首を振って答える。


「なんでも……ござらん……さっさと連行していってくれ……」


ギルトは顔を落とすと、兵士に連行されていった。ギルトがいなくなると、ガイストはいつもの人懐っこい表情になった。そして、ある人物からの使者という男に会いに行ったのだった。


「さて、ハーヴィス……貴様も俺の踏み台になってもらおうか……」


ガイストは不敵に笑いながら部屋を出ていった。まもなく、エルベリア、ローヴァス両軍の戦いが始まる。仕掛けたのはローヴァス、砦を奪う勢いは持たず。ただただ、威嚇するのみ。だが、これでよかった。


「さて、愚か者の害虫を駆除しますか……」


マサムネはそびえ立つ砦を見つめながら答えた。いつまでたっても現れないハーヴィスに業を煮やし、手っ取り早く戦争を終結させることにした。ラスコーはその後の戦後処理を行う。そんな中、挑発を受けたエルベリア軍が動き出した。


「いつまでも醜い旋律は好きじゃないんだ……綺麗に奏でさせてもらうよ!! 」


マサムネは勝利を確信しつつ、ローヴァス本陣を後にした。



 第八章END





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