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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
聖エルベリア教皇国軍所属編
33/100

§第七章: 乱世の覇者 3 §

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 3 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、東の攻略は順調かな? 」


玉座に座る男は漆黒の鎧に身を包む男に話しかける。すると、男はニヤリと笑い答えた。


「順調でございます。先の大戦で、後れを取った分、こちらで挽回させていただきましたゆえ……」


すると、玉座の男は苦笑いをしつつ、エルベリアとの不可侵条約が終了するまでに作戦を終了させるように告げた。


「はい、かしこまりました。ローヴァスの底力、お見せいたしましょうぞ……」


漆黒の鎧の男がそういうと、ローヴァスの皇帝は侍女達に、グラスのシャンパンを持ってこさせた。そして、周りの将軍や大臣にも渡す。



「では、ラスコー将軍の言葉を受け、勝利の前祝いだ!! 我がローヴァス帝国に栄光あれ!! 」


「栄光あれ!! 」


そういうと全員はグラスに入ったシャンパンを一気飲みし、高らかにグラスを掲げた。そして、シャンパンがなくなったのを確認すると、そのグラスを一気に床へ叩き割ったのだった。

 今、この大陸は、聖エルベリア教皇国、ローヴァス帝国、二つの国が乱世の覇者として、名乗りを上げている。先の大戦で、両国は痛み分けの決着を見た。その後、半年の不可侵条約を結んでいる。そんな中、ローヴァス帝国は今まで手をこまねいていた、港湾都市国家に対して、圧力を強める。そして、今まで睨みあっていたエルベリアの脅威がないこの時を狙い、一気に畳み掛けることとなったのだ。

大陸一の版図を持つエルベリアに対して、大陸一の軍事力を誇るのは、やはりローヴァス帝国であった。そして、ローヴァス帝国の元首はオスカーの従兄であり、かつての遊び仲間でもあった。今では権力争いをする強力なライバルである。

 名はグレゴール=メッシ=ローヴァス、気性の荒さで有名であり、またの名を” 獅子皇 ”と呼ばれていた。



「ギルト殿、港湾都市国家がローヴァスに屈したようです」


ギルトは、自分の執務室で、部下からの報告を聞いていた。


「ふむぅ……やはり、そう来るか。しかし、不可侵条約期限切れを間近にして、この状況……かなり前から彼らは計画を練っていたようだな」


ギルトは、報告した部下を退出させると、頭を抱えて、うめいた。近いうちに両国の命運をかけた大戦が起こるであろうことは明白だった。異様な緊張感をギルトは感じた。自分一人の力では、このような危機的な状況は回避することはできないだろう。


「せめて、せめて……ハーヴィス殿のお力があれば……」


ハーヴィスは全くと言っていいほど乗り気ではない。何もかも捨ててしまった力のない姿に見えた。その姿がまるで自分に似ているようで、とても残念だった。


「どうすれば、ハーヴィス殿は動いてくれるのじゃろうか……」


ギルトは、ゴールのない迷路にいるような気分になっていた。そして、時間切れが、自分を含めた全員の死亡、という逃げ道のないゲームオーバーだ。


「……考えてもしょうがないわい……」


エルベリアは今、結婚式という大きなイベントを抱えている。その勢いのままローヴァスに攻め込むという方法は、士気が高まるが、反対に、引き返すことができない選択肢であるのだ。


(また、一度負けないと、この国はわからんようじゃな……)


ギルトは、次の戦いで、沢山の命を、人生を終わらせることに罪悪感を感じていた。その日の仕事が終わり、ギルトは家に帰った。すると、三姉妹とハーヴィスが出迎えてくれた。


(……ワシの幸せ……それを守るために、ワシは……次の戦いで沢山の犠牲を強いるのか……)


若干笑顔が曇る。しかし、直ぐに笑顔を取り戻す。家族のだんらん、三姉妹は今日起きたことを互いに報告する。ギルトはそんな時間が好きだった。


「急にアリアが料理を手伝いたいって言い出したのよ~」

「ほぅ……どうしてまた? 」

「何か、好きな人に……」


「わあああわぁわぁわああぁぁ!! 」


三姉妹はとても賑やかだ。その中で雄たけびをあげているのはアリアだ。最近彼女は気になる男性ができたらしい。ハーヴィスとしては少し寂しいと感じていた。


「へぇ、好きな人、か……アリアの料理食べれる奴は、幸せ者だな」


ふと、ハーヴィスが答える。すると、三姉妹は一気にハーヴィスを覗き込む。


「え……え? 何? 」


急に場の雰囲気が変わったことにハーヴィスは狼狽えた。しばらくすると、三姉妹は思い思いに表情を崩した。


「……まったく……もぅ……」


エスタシアは少しあきれ顔。


「うーん、ちょっと違うんだな……」


ミレディアは苦笑い。


「…………」


アリアは顔を赤くして俯いた。


「……ハーヴィス殿は……ふぅ……」


ギルトはハーヴィスの新しい一面を見て、あまりの鈍さに頭を抱えた。


「え、えっと……ちょ、ちょっと……外の風に当たってきます」


ハーヴィスはこの場所にいづらくなり、早々に立ち去ることになった。ギルトは、ハーヴィスのいなくなる姿を確認した。


「はぁ、なんなんだ……あの雰囲気は」


ハーヴィスはまた、小川の流れる丘で座り込んでいた。正直、何故あそこで場の雰囲気が悪くなったのかわからなかった。


「ハーヴィス殿……」


ふと後ろからギルトの声が聞こえる。振り返ると少しバツが悪そうな顔をしつつ、ハーヴィスの元へ来た。


「すまんな、後をつける気はなかったのだが……」


ギルトは頭をかきながらハーヴィスに近づいた。無論、後をつける気がなかったというのは嘘だった。しばらく時間を置いた後に、保留していた答えを聞き出そうとしていた。


「ええ、大丈夫ですよ。気配でわかりましたから」


ニコリと笑って、ハーヴィスは答えた。ギルトは、気配が分かっていながらも自分を招き入れたハーヴィスに驚いていた。と同時に怖くなった。


「……いや、あの時のな……」

「はい、その答えを聞きに来たと思ってましたが……まだ……」


ハーヴィスは頭を落として、すまなそうにしていた。


「そう……か」


ギルトは、まだ答えが出ないことはわかっていたが、やはり残念だった。すると、ハーヴィスは一言言った。


「結婚式が……結婚式が終るまで、決心がつかないので……すみません」

「わかった、こちらこそすまんな」


ふと、ハーヴィスはエリーシャの事が好きだったことを思い出した。と同時に自分のために、ハーヴィスを不幸に招き入れるということに改めて気が付き、更に罪悪感にさいなまれたのだった。


(……もう、ハーヴィス殿が入りたいという” 意思 ”を示すまで声をかけるのはよそう……)


ギルトは、腹をくくった。ローヴァスとの戦いで自分が命を落としてでも、守らなければと思っていた。


「あ、おじい様!! ここにいたんだ~探したんだから」


息を切らしながら、アリアがギルトを認め、走り寄ってきた。月夜の光で反射する彼女の髪は、普段の金髪ではなく、銀色に輝いて見えた。


「おお!! すまんなアリア、少し話をしていた」


ギルトはアリアに振り返り、話しかけた。すると、アリアは走りながらも首をかしげた。


「え? どなたとお話を? 誰なの? 」


小川のふもとに着くと、座り込んでいたハーヴィスが見えた。


「!! え!! ハーヴィス様……だったの!? 」


アリアは急に走りを止めて、顔を赤くした。行儀悪く話をしていたことが恥ずかしかったようだ。


「あ……おじい様……ちゃんと状況を教えてください……」


急に大人しくなり、言葉も丁寧になっていた。そんな姿が妙に可愛い。その姿が、エリーシャに似ているだけに、ハーヴィスには尚更だった。


「はは!! アリア、普通に話していいよ、俺も普通に話してるんだから」


ハーヴィスは笑いながら話す。すると、アリアは顔全体が赤くなる。


「だ……だって……わ……私は……」


ギルトはニヤリと笑って話した。


「そろそろ、アリアも背伸びをしたい年頃だということだよ、ハーヴィス殿」


「!! お、おじい様!! 」


アリアは両手を振り回して、ギルトの胸板をポカポカと殴りだす。力自体が弱いので、そんなに痛くはない。ギルトは最近猫かぶりだった末っ子が無邪気になる姿を見て、顔の表情が歪む。


「あ、ああ!! 」


アリアは、ふと、ハーヴィスの存在を思い出し。更に慌てる。その姿がとても愛らしい。凛としたエリーシャばかりしか見ていなかったハーヴィスは、アリアの行動全てが、ギャップのある姿に見え、とても新鮮だった。


「アリア、大丈夫だよ」


混乱するアリアに、ハーヴィスは優しく微笑む。その姿を見て、アリアは全身が硬直する。そして、ハーヴィスは立ち上がって、アリアの頭を撫でる。


「いつものアリアが可愛いんだから、無理しなくていいよ」


見る見るうちにアリアは、目の焦点が合わなくなり、顔がまた赤くなる。


「え、ええ……そ、そんなこと……わ!! 私帰る!! 」


変な語尾になりながら、アリアは脱兎のごとく帰っていく。ポカンとするハーヴィス、ギルトは目が点になっていた。


(ハーヴィス殿……そなたは天然ジゴロの才能があるようじゃな……)


ギルトは、ハーヴィスの天然ぶりに更に畏怖したのだった。

 


次の日、オスカーから改めて、結婚式をした後、士気が落ちないうちに、ローヴァス遠征を始めるという意思を伝えた。それにより、戒厳令は解かれ、エルベリア国民にローヴァス侵攻作戦が伝えられることとなった。


「……やはり、そうなるんだな……」


ハーヴィスは、そうつぶやいた。しかし、ハーヴィスはこの戦いに参加する気はなかった。この戦いに参加するための意義を感じ得なかったからだ。


「ハーヴィス様、やっぱり、戦争……起きるんですね……」


一緒に、オスカーの演説を聞いていたアリアはつらそうな顔をした。アリアの父は彼女が物心つく前に、戦争で死んでしまった。父親の顔を知らずに暮らしてきていたが。やはり、寂しさというものがあるのだろう。無意識に彼女はハーヴィスの腕に絡みついていた。


「……怖いです……おじい様が、またいなくなったりしたら……」


ハーヴィスはハッとした。アリアの育ててくれた祖父のギルトは先の大戦で、囚われの身になっていたのだ。総大将が戦死している中、彼は運よく生きていた。


「……そう……だな。戦争は怖い……」


彼女の背中に軽く手を当てた。しばらく、彼女はハーヴィスにしがみつきながら辛そうにしていたが、ふと、ハーヴィスに密着していることに気が付き、慌てて離れた。


「あ、ああ、ああああの!! こ、これは何でも!! 」


「?? 」


アリアの百面相に、ハーヴィスは首をかしげる。そのハーヴィスの姿に、アリアは右手で、胸を押さえ、顔を真っ赤にした。


「な、何でもない!! 先に帰るから!! 」


アリアはそう言うと、慌てて走って行った。


「え? なんなんだ……? 」


ハーヴィスは走り去る彼女の姿を呆然と見ていた。演説は終わり、会場は撤収していた。しかし、その後ろでは、数日後に始まる結婚式の準備が行われていた。オスカーとエリーシャの結婚式である。


「……俺も、帰るか……」


ハーヴィスは、結婚式のための準備をしている催し物のセットから背を向けた。その時のハーヴィスは、まるで、いじめられた後の少年の姿と同じであった。


 数日後、エルベリアでは盛大な結婚式が行われた。国を挙げてのイベントのため、とても大きな祭りだった。それに合わせて、侵攻を開始する軍隊も編成されている。しかし、出征する数日後、ローヴァス帝国側も、エルベリアに対抗すべく、驚くべきことを始めたのだった。



以降 4



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