§第六章: エリーシャの告白 1 §
内乱と侵攻全て一掃し、平和の道筋を示したセリスタ。しかし、彼らには新たなる試練が課される。その試練はあまりにも重く、そしてつらいものであった。
その結果、ハーヴィスの人生は急激に変化するのであった。
「さて、そなたたちの望みは何だ? 」
オスカーはひれ伏す5人の男たちに問いかけた。すると5人は口々にこう言った。
「我々の地位を安泰に!! 」
エリーシャはこの言葉を聞くだけで虫唾が走りそうだった。自分たちの国の事よりも自己の栄達と安全、あまりにも自分勝手である。
「フム、そうだな……エリーシャ姫はどう思うかな? いや、エリーシャ公」
オスカーはセリスタの公爵になって日が浅いエリーシャに問いかけた。エリーシャは冷たい目線を投げかけながら彼らを見つめた。すると彼らは、命乞いをするような顔で見つめ返した。
「……申し訳ありませんが、この件に関して私は口を挟む気はございません……」
一刻も早くこの気分の悪い裁判を終わらせたかった。なにより、セリスタに戻り、平和に暮らしたかった。その言葉を聞いたオスカーは眉をひそめた。
「……この5人はそなたの連合国の一員でありながら、セリスタを欺き、攻め込んだ奴らだぞ? いいのか? 」
オスカーのこの物言いはまるで、エリーシャを試しているかのような感じを受けたが、そんな些細なことはどうでもよかった。
「はい、全ては宗主国でございます、オスカー様に委ねたいと思います」
するとオスカーはニヤリと笑った。エリーシャは、その顔を見て一瞬寒気を感じる。
「あいわかった。この件は私が受けよう……それでは判決をいいわたすか」
エリーシャのフォローがまったくなく、そして、命運はオスカーに委ねられた。その現実を受けとめることができず、彼らは狼狽えていた。
「さて、お前たちは、私の国と、ローヴァスの戦いの際、どうされた? 」
判決を言い渡すといいながら、彼は5人に質問をした。答えにくい質問をして、じわじわと追いつめる。そんなオスカーの性格もエリーシャは嫌いだった。振られた5人は互いの顔を見合わせる。
「え……えっと……あの……それは……」
真綿で首を絞めつけられるような気分を味わいながら、彼らは逃げるための言葉を必死に探す。その姿をとても愉快そうに見つめるオスカー。
「で? 協力する気はなかったと? 」
「え、えっと……ですから……」
オスカーは急に鋭い目線を投げ出す。
「協力する気はあったのか? なかったのか? それだけを聞きたいのだ」
「…………」
「おい!! どちらかはっきりしやがれ!! 」
「ひっ!! ひぃぃ!! 」
彼らは脂汗をたっぷりかきながら、逃げ道を必死に探す。すると一人が答えた。
「は、はい!! あ、ありました!! ありましたとも!! 」
その言葉を引き金に、全員が口々に協力する気があったと言い出した。その必死な姿がとても痛々しい。
「ほぅ……あったのか……」
「は、はい!! 」
5人は声を揃えて答える。エリーシャはこの茶番劇がとても鬱陶しかった。答えは見えている。すると、オスカーは笑いだした。その姿に全員が”ホッ”とした顔になる。
「ハッハッハ、ふざけるな!!! 」
笑い声から急に怒号が響き渡る。その声に全員の体がビクッと固まる。エリーシャは吐き気を感じた。
「協力する気があって何故セリスタと一緒にこねぇんだ!? エリーシャ公が留守の時をねらって攻め込んだ!? どういうことだ!! 」
追い詰められた5人は顔を青くしている。そんな中、一人が必死に答えた。
「セ、セリスタを攻撃したのは……そ、そう!! アリエルが城を乗っ取ったからだよ!! 」
もう言葉尻など気にせずに答える。その言葉に合わせて、全員が口々にアリエルが全ての元凶であると答える。その姿を嬉しそうに聞くオスカー、もう楽しくてしょうがないようだ。
「そうか……ならば、何故、お前たちは仲間割れをした? 」
更に冷や汗がでてくる。
「そ、それは……せ、戦場にいた将軍達の責任だ!! 俺たちは関係ない!! 」
完全に自分の保身しか考えていない発言だ。すると、オスカーは眼を細めてさらに問い詰める。
「では、エリーシャ公が戻られても、戦闘を続けたというが……どういうことかな? 」
「…………」
5人は黙った。実は秘密裏に、アリエルがセリスタを占拠した際、領主がエリーシャに戻っても、セリスタを攻め込む指示を、各将軍に通達していたという事実があった。それを知らないハーヴィスではなく、ちゃんと報告書に提出してあった。
「そ、それは……」
言葉に詰まる5人、しかし、同じように将軍のせいにする領主がいた。
「こ、これも……これも現地の将軍が下したことなんだ!! 全権は将軍がもっている!! 我々は軍に指揮権はない!! 」
厚顔無恥な発言にエリーシャは頭を抱えそうになる。彼らのやってきたことは全て、ハーヴィスの報告書に書いてあった。発言すればするほど、自分の首を絞めている事が、彼らには全く分かっていなかった。
「そうかそうか~」
オスカーは嬉しそうに聞いている。この状況でも、必死に蜘蛛の糸にぶら下がろうという彼らを、見て楽しんでいるとしか思えなかった。
「よし、お前たちの発言を聞いて、判決は決まったぞ!! 」
ニコニコ笑いながら彼らに話しかける。機嫌のよさそうなオスカーに一縷の望みをかけて彼らも精一杯の愛想笑いを浮かべる。ニコニコ笑っていたオスカーは判決を下した。
「お前たちの所業に対して、聖エルベリア教皇国の宗主として、判決を下す……」
しばしの沈黙、あきれるエリーシャと、真剣に自分たちが救われると考える5人。ニコニコ笑いながら答えたオスカーは、目を見開いて言った。
「バカ野郎!! 誰がお前たちを助けるか!! お前たちは打ち首晒し者の刑に決まってるだろうが!! 」
「え……え? 」
5人は一瞬自分たちの言われたことを理解できずにいた。しかし、エルベリアの兵士が連行をしようとした瞬間自分たちがおかれた状況が分かったらしく、必死に命乞いを始めた。しかし、オスカーは嬉しそうに彼らを見つめるだけだった。
この空気に耐えきれなかったエリーシャは、裁判が終わると、挨拶もそこそこに、この場を立ち去ったのだった。
「フゥ、も、もうこれでいいよな? 」
沢山の買い物の荷物を持ちながら、エスラーは話す。しかし、声を掛けられた本人は気にしない。
「いつまで買い物するんだよ……」
エスラーは、エルベリアの首都へ一緒についてきたキリカと買い物をしていた。そして、数か月放置をしていた罰として、買い物の付き添いを命じられたのだった。
「いいじゃなぃ~そんなこと、あ!! これもいいな!! 」
エスラーはため息をつく。そんな時、丁度二人組の女の子達が、エスラーの姿を認め、声をかけてきた。
「あ!! あの時の格好いい騎士様だ!! 」
「あ、本当だ!! 」
二人はとても嬉しそうにエスラーに近づく。
「え……? 」
(ちょっとまて……あの子達は誰? あんなちっちゃくてカワイイ子とか……胸の大きな女の子を俺が知らないはずがねぇ!! )
エスラーは、一生懸命脳内にある女性電子手帳を開く。しかし、思い当たらない。そんな彼の事を全く気にせず、彼女たちは黄色い声を上げる。
「あの時はありがとぅ~あの時から私……騎士様の事……キャッ!! 」
小さなカワイイ女の子は顔を真っ赤にして両手で頬を押さえる。
「べ、別に……あの時の事……感謝してるわけじゃないんだからねっ……でも……ありがと」
胸の大きな女の子は目線を背けながらも耳まで赤くしながらツンツンと話す。その時、あの酒場での乱闘を思い出した。
(あ~、あの時の子たちか……制服じゃなくて、私服だからわからなかったわ……)
「あ、ああ!! 気にするな!! 」
エスラーは、忘れていたことを誤魔化すため、自信たっぷりに答える。その言葉で、更に彼女たちのテンションはヒートアップする。
「次、お店に来たら……めいいっぱいサービスしてあげるからねっ!! 」
ロリっ子はちっさな体を一杯に背伸びしつつアピールする。
「べ、別に、あんたが来ても、嬉しくないんだから……」
胸の大きな子は、相変わらず目をそむけたままツンツンと話す。
「でも、お酒なら付き合ったげる……」
胸の大きな女の子はそういうと、小さな女の子の手を握り走り去る。
「え? え~っちょっと待って!! あたしまだ話したいよぉ~ねえぇぇ……」
遠ざかる彼女たち、まるで台風のようだ。そして、嵐は消えた。……はずだった。
「ねぇ……今の子達……アンタの何? 」
嵐の前の静けさ……? とでも言うのだろうか、とても低い声で聞こえた気がする。
「え、えっと……なんだろうね? 」
エスラーの首筋に汗が垂れていく。キリカはとても笑顔だ。
「……何? 」
もう生きた心地しなかった。エスラーは今、修羅場というものを味わっていた。これが、セリスタの騎士達に代々伝わることとなった伝説の戦いの始まりだった。
その日から、エスラーが何を言っても、彼女は一言 ” 何? ” としか言わず、とても怖かったという。そして、エリーシャが戻ってきても、キリカの機嫌は変わらず、事情を知らないエリーシャは常に彼女の前では ? マークがついていた。
エリーシャ達がエルべリアの国に滞在して数日後、広場では、かつての連合国の首脳陣であった彼らが市中引き回しの後、処断された。オスカーからは是非参加してほしいと言われたが、エリーシャは固辞した。もうこれ以上、自分の知っている人間が死ぬ姿を見たくはなかった。そんな彼女を不思議そうに見つめるオスカー。
それが次第に、オスカーの中で、エリーシャの存在が、興味から別の感情に変わっていったのだった。彼らが処断されてから、改めて、エリーシャにオスカーから返答があった。それは、ハーヴィスが思い描いていたものであった。
「エリーシャ公、今回、我等が処断した元連合国の領土は、一時、聖エルベリアが管轄いたす。しかし、南の広大な領地は私の手におえないのでな……」
そう言うと、彼は1枚の紙を広げて言った。
「今回、聖エルベリア教皇国に対して、協力してくれた御国に対し、新たに手に入れた元連合国領土は、そなた、セリスタ公国の領地として、改めて任命いたす」
その言葉を聞いて、エリーシャは一瞬笑顔になりそうになった。しかし、そこは押さえて答える。
「はい、謹んで、その儀、お受けいたします」
そして、オスカーが出した紙に署名をして、改めて、セリスタは連合国全ての領地を手にしたのだった。
エリーシャは、自室に戻ると頬を赤く染め、やっと訪れた平和に歓喜した。
これで国が安定し、自分の仕事が一段落したら、次は……。
(次は……私……)
ふと、ハーヴィスの顔が頭に浮かぶ。するとエリーシャの顔全てが真っ赤になった。
「や……やだ……私……何を考えてるの!! 」
父との最後の別れの際に言われた言葉まで思い出し、舞い上がる。しばらく枕で顔を覆った後、エリーシャは決断した。
「……もう、いいんだよね? お父様……」
エリーシャは、来るべき時を考え、覚悟を決めたのだった。
以降 2
第六章を終えると、ハーヴィスのセリスタ騎士編が終了となります。第七章からはニート編が始まります(ぇ




