§第五章: 悲運と別れ 2 §
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エリーシャ達は、予定通り、かなりゆっくりとしたペースでハーヴィスの故郷の村へと向かっていた。
そして、この馬車がセリスタの公族のものであることを隠すために、商人用の馬車として年季の入ったようにするため、わざと汚した。
「……ここが、ハーヴィスの生まれ故郷なのね……」
エリーシャは昔、ここでエドガーとともに何度も剣の稽古をしたことを思い出した。
(ちょっと、エドガーとの剣の稽古は思い出したくないわ)
毎日しごかれたあの日々を思い出し、顔色が悪くなりそうだった。
「エリーシャ様、お体の調子でも悪いのですかな? 」
大臣が心配そうに尋ねる。
「いいえ、大丈夫ですわ……」
慌てて、この村での思い出を考えないようにする。しかし、一瞬何か剣の稽古とは違った懐かしい感覚が脳裏をよぎった。
(なんだろう、今のは、気のせいかしら)
その時、エリーシャは一瞬の事で、全く意識をしなかった。
しばらくすると、村の繁華街を通り、中央の噴水を抜けると、人気がない一本の道となる。
「あいかわらず、ここはすごい森ですな」
大臣はこの森はあまり好きではないらしい、薄暗いのが気味悪いようだ。この道は森を囲むようにできており、一直線でエドガーの邸宅にいけなくなっている。
これはエドガー自身が考えたことであり、どんな意味があるのかは不明だった。そして、たっぷり一時間かけて、エリーシャ一行はエドガーの別邸に着いた。
「……懐かしいわね」
エリーシャはエドガーの別邸の正門へと足を運んだ。すると、エドガーの別邸を管理している老夫婦がエリーシャを見つけ、慌てて出迎えた。
「お、おお!! エリーシャ様……お久しぶりでございます!! 」
この老夫婦は、エリーシャが剣の稽古をしていた際、いつも彼女の身の回りの世話をしていた。
「お久しぶりです。おじい様、おばあ様、お会いできて嬉しいですわ」
優雅な身のこなしでエリーシャは老夫婦に挨拶をする。その姿を見て、老夫婦は感動のあまり、目に涙を浮かべていた。
「こんなに、大きくなられて、私たちはとてもうれしいです」
喜び涙する老夫婦をエリーシャは優しく抱きしめた。
「また会えるとは思わなかったですわ」
エリーシャと老夫婦はしばらく再開の喜びに浸っていた。感動の再開を終えたエリーシャは、改めて今回この別邸に来た理由を伝えた。
老夫婦もエドガーが拘束されたことを知っており、エリーシャがここに来たのは間違いではなかったことを伝えた。
「この国を一番愛していらっしゃるのはエドガー様です、あの方が拘束されるということはすなわち、
エリーシャ様を快く思っていない者がいるということですわい」
エドガーの別邸にて、エリーシャ一行はもてなされた。旅の疲れを癒す間もなく、エリーシャ達と、老夫婦は情報交換を続けた。
「わかりますわ、私は常に当事者でしたから……おじ様も何故ここまで執着なされるのでしょうか……」
「私たちは興味はございませんが、それほど魅力的だということでしょうな」
老夫婦はため息をついて頭を抱えた。
「エリーシャ様のように、国のために尽くしてくれる領主様が少ないのが、残念でなりません」
リビングはろうそくによる間接照明であり、少し暗かった。そのせいもあってか、部屋がとてもどんよりとしているような感覚に陥る。
「……ごめんなさい、こんな話を……」
エリーシャは申し訳ない表情をしながら老夫婦に謝った。
「いえいえ、私たちでよいのであれば、どんな相談でも乗りますよ」
「ありがとう、少し、外に出てよろしいかしら? 」
老夫婦の優しい言葉にエリーシャは感謝しつつ、部屋を出ようとする。
「姫様!! お外は危険でございます!! 」
大臣が止めるが、老夫婦は至って普通にしていた。
「大丈夫です、エドガー様はこういうことを見越して、この別邸を作られましたから」
「む? そうなのか? 」
大臣は少し納得できないような表情を浮かべたが、これ以上咎めることはなかった。
エリーシャは別邸の外に出ると、ふいに、かつて剣の稽古をした広場へ行きたくなった。
「……不思議な気分ね」
ついさっきまで、思い出したくもない、嫌な思い出しかないこの土地でしかなかったのに。
「とても、懐かしいわね」
エリーシャは、少女時代に訪れたこの訓練所を見回した。今も昔も全く変わりがない。
「ここで、私は何度も落馬したわね……」
そう思った瞬間、エリーシャの眼前にかつての、少女エリーシャとエドガーが現れた。そして、エリーシャとエドガーは剣の稽古を始めた。
何度も何度も落馬したり、剣を落としたり、土を舐めた。
「ほんとに……いい思い出がないわ」
意地だけで乗り切ったあの時、ただがむしゃらに突っ切っていた。あの頃を……
(あれ、また何か、心に引っかかっているような)
エリーシャはまた不思議な感覚に包まれた。やはり、この場所で、何かをしていたような、そんな気がするのだ。でも思い出せない。
「あぁ、気になるじゃない」
エリーシャは、珍しく腑に落ちない気持ちで頭をかきむしったのだった。
その日以来、思い当るところで、エリーシャは不思議な感覚を思い出し、そのたびにやきもきしていたのだった。
そして、エリーシャ達が滞在して数日後、抜けだしたエドガー達一行がこの別邸へ来たのだった。エドガー達は、別邸にエリーシャ達がいることを知ると、急いで談話室へと向かった。
「エリーシャ様、ご無事で何よりです」
エドガーはエリーシャに挨拶をした。お互いに安否を確認したのち、エリーシャは早速、今のセリスタの状況を聞いた。
「とりあえず、この屋敷に避難したというのは正解ですな。エリーシャ様のお考えの通り、アリエル様は、セリスタを乗っ取る計画を実行いたしました」
「そう、ですか」
エリーシャは明らかに落胆した表情を浮かべた。やはり自分はまだ甘かったのだろうかと思ってしまったのだった。
「おじ様、もう私はこれ以上あなたを野放しにはできません」
そうぽつりと言ったエリーシャは無表情で、エドガーたちは思わず息をのんだ。しばらくエドガーたちはどうやってセリスタを奪還するか話し合っていた。
話はまとまらず悩んでいると、丁度ハーヴィスが戻ってきた。
「ただ今戻りました。騎士団長はご無事でなによりでございます」
「うむ、お勤めご苦労。情報収集をしたようだが、何か分かったか? 」
「ええ、アリエル様がご乱心されたのは確実のようです」
ハーヴィスは、自分がセリスタで集めた情報をまとめて皆に伝えた。話し終えた後、ハーヴィスはあることに気が付いた。
「え、あれ、どうしてここにキリカさんがいるのですか? 」
「ハーヴィス君、私が、ここにいるのは問題あるの? 」
「え……ないです、ただ、ここにいるのが不思議だったので……」
ハーヴィスは、普段より機嫌の悪いキリカに気押されされながらも聞いた。エドガーはかいつまんでハーヴィスに事情を話す。
「あ……そうなんですか……じゃあエスラーとは入れ違いになったんですね」
「え? 入れ違い? 」
ハーヴィスは、情報収集にエスラーも出していることを伝えた。
「ついでにキリカさんにも連絡取れるようにしたんだけどなぁ……」
「あ、そうなんだ」
キリカはハーヴィスの言葉を聞いて表情を和らげた。それにより、周りの空気が少し和んだ気がする。
「さて、本題に戻りますが、今回の戦いは、今までの”負の遺産を清算する”ということで行きたいと思います」
「負の遺産を清算? 」
皆が口を揃える。その姿をハーヴィスは見渡した後、話を再開した。
「全てを白紙に戻して、改めて、新しくセリスタを作り直したいと私は思っています」
ハーヴィスは地図を広げて、ハーヴィスは自分の考えた策を皆に伝えた。
「……本当に大丈夫なのか? これでは俺たちの国が全包囲されてしまうではないか」
アクラムは珍しく声を荒げて話した。しかし、ハーヴィスはアクラムの言葉に対して質問をした。
「では、アクラム騎士長はこれ以外の方法があるのですか? 」
「…………」
アクラムは押し黙った。どうすることもできないのだ。こぶしを握り締め、歯ぎしりをしている。
「大丈夫です、騎士長、その件に関して私も色々と仕掛けをしています、まずは、全ての膿を出す為にセリスタの街は包囲される必要があるのです」
ハーヴィスの言葉に全員納得はできないが、それしかないと言った表情をしていた。そして、皆が意見を出し尽くしたあと、全員はエリーシャに視線を注いだ。
「わかりました。この件に関して、ハーヴィスに任せます、ですが、ハーヴィス……」
エリーシャはハーヴィスに鋭い目線を向けた。
「セリスタの住民を傷つけることだけはしないでください」
エリーシャは、その鋭い目線の奥にある深い悲しみをハーヴィスに向けた。
「はい、確約はできませんが、私の指示に従う領民を傷つけることだけはいたしません」
「…………」
エリーシャは表情を曇らせたが、一応は納得したようだった。
「ふぅ、私どうしたらいいんだろう……」
エリーシャはいつもの訓練所に顔を出していた。そして事あるごとにある胸のつかえにやきもきしていた。すると、その訓練所にハーヴィスが現れた。
「エリーシャ様、ここで何を……」
エリーシャはビクッと肩を震わせると、ハーヴィスに振り返った。その時、ハーヴィスの目には、かつての少女エリーシャが振り返ったようなそんな感覚に包まれた。
「……すごい、久しぶりだ……」
ハーヴィスは、思ったことを不意に口に出してしまった。
「え……どういうこと? 」
エリーシャに問い詰められた。
(あっ、しまった……)
ハーヴィスは顔が真っ青になり、全身に変な汗があふれ出す。蛇に睨まれたカエルのように硬直していると、エリーシャはさらに問い詰める。
(もう、逃げられん……)
ハーヴィスが戸惑っていると、エドガーが訓練所に現れた。
「やっぱり、ここにおったか……」
「エドガー……」
エリーシャはエドガーの姿を認めたが、直ぐにハーヴィスに問い詰める。そんな姿をエドガーはにやにやしながら眺めていた。
「ふむ、やはり、お前だったか……」
しばらく二人の問答を見つめていたエドガーは答えた。その言葉に反応したエリーシャは今度はエドガーに問い詰めだした。
「お前って……どういうことですの? 」
エドガーは珍しく目を丸くした。
「やはり覚えてないのか、あいつはリューン坊やだよ」
「……え? 」
エリーシャは、思い当たる節があるような感じがした。しばらく考えたとき、エリーシャは”ハッ”となった。
「ルーン? 」
この言葉を思い出した。そう、エリーシャとハーヴィスは一度だけ、子供のころに出会っていたのだ。
「……はい、お久しぶりです……エリーシャ様」
まだ子供だったため、エリーシャはリューンと発音できずに”ルーン”と言っていたのだ。ちゃんと言えないため、結局はハーヴィスの名前から” ハー ”となったのだ。すると、エリーシャの心のつかえが一気になくなり、全てが明るみなった。
「……ルーン……会いたかった……」
エリーシャは、子供のころに出会った少年を思い出すように、その言葉を出した。
「いじめられっこだったのに、よくここまで強くなったな」
エドガーはハーヴィスの肩を叩いた。全ての事情を知っているエドガーは、楽しくてしょうがなかった。
「え、ええ……」
下手に強くなった理由を知られたくないハーヴィスは、言葉を濁していた。そんな中、エリーシャは、あふれ出す感情に戸惑いながらも、自分の初恋の相手がハーヴィスであったことを、嬉しく思っていた。
数日後、ハーヴィスは計画を実行するために皆に事細かに指示を出していた。そして、ハーヴィスはエリーシャにも指示をだしていた。エリーシャはとても嫌そうな顔をしていたが、最終的には承諾した。
そして、計画を実行する前日、エスラーがボロボロになりながらも、エドガーの別邸に戻ってきた。
エスラーの姿を認めたキリカは、早速エスラーに問い詰めていた。しかし、しばらく揉めていた彼らは、キリカの納得により事なきを得たようだった。
その後、エスラーは安眠を約束され、作戦実行の時には体調を万全にすることができた。
かくして、セリスタ奪還作戦が始まるのだった。
以降 3




