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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
セリスタ騎士編
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§第一章: 騎士選抜トーナメント 3 §

鮮烈なデヴューを飾った男がいた。それは姫を守る騎士になるべく参加した、あの少年だった。かつての面影はなく、とても逞しく成長したのだった。

§第一章: 騎士選抜トーナメント 3 §



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 3 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ふと、気になった……ただそれだけだった。激昂していたし、何より相手の顔をろくに見ることなく負けたのだ。

これ以上くやしいことはない。とりあえず選手控えの宿舎がある、そこにその日参加した選手たちはいる。


「えっと……この辺りだっけ……」


エスラーはハーヴィスのいる部屋を探して彼のいる部屋に向かっていった。そして彼の扉の前に着いたと同時に心の準備ができる間もなく扉が開いた。


「うわぁおぅ……!! 」

「! 」


二人は出会い頭に遭遇した。二人とも扉一枚を隔てて相手がいると思っていなかったため、エスラーは奇声を発した。

しばしの沈黙の後、エスラーが声をかけた。


「……あ……あの……えっと」


あまりの気恥ずかしさに顔が赤くなっていく……


「……あ……エスラーさん……ですよね」

「へ……? 」


相手から予想外の返答を受け、また奇声を上げた。


「えっと……優勝候補筆頭なんで有名ですから、知ってます」


にっこりと笑うハーヴィス、意外な好青年ぶりにエスラーは変な”コリ”がほぐれたようだ。


「あ……うん、ハーヴィス……さんですよね……? 」


しかし、話すとまた固くなってしまう。そんな姿を察してか、ハーヴィスはよろしくと言うと、右手を差し出した。


「あ……よろしく」


彼の親しみ易さに何だか話しやすそうな感じがしてきた。しばらく握り合った後、ハーヴィスは剣を腰に下げたまま部屋を出ようとした。


「……? 剣を持ったまま外に出るのか?」


エスラーの問いに少し考えるような仕草を見せた後、ハーヴィス話した。


「ん~これは、ちょっとした儀式みたいなもので」

「儀式……? 」


少し考えたのだが、儀式というのにはまったく明るくない。


(そういえばハーヴィスは明日指名した人物と対戦試合をする予定のはずだ、もしかしたら……)


「あ~そうか、明日戦う相手に対する必勝祈願ってやつ?」


エスラーの答えに対して少し考え込む、気がついたようにウン、とうなづくと答えた。


「まぁ、そんなものですね……」

「?? 」

「あ……付いて来ますか? 」


渡りに船だ、儀式というものにも興味がある。


「うん、気になるし、ちょっと付いていくよ」


何だか、試合の時とはまったく違う。妙な親しみ易さがあった。二人は宿舎をでて、大通りではなく小道を通っていった。そして、街を外れ、草原に向かう。そして、道を外れると今度は小高い丘が見えた。そう、この丘からだとセリスタ公国の城が見える。街の蝋燭灯により城がうっすらと翳って見える。

 時間にして丁度夕日が落ちた辺り、ハーヴィスはおもむろに鞘から剣を抜き、剣を立てて構えた。


「えっと……」


声を出しかけたエスラーだが、ハーヴィスは黙とうしているらしい、しばらく見守ることにした。5分ぐらいしただろうか、彼は剣を下ろして鞘に入れた。そしてにっこりと振り返ると


「儀式は終わりましたよ」

「……え……」


よくわからなかった。


「な……何を……」


あっけにとられるエスラーに対してハーヴィスは一言


「……内緒です」


それ以上この件に関しては触れることがなかった。儀式も終わり、二人は夕食を一緒にとる事にした。しばらく歓談しながら食事をした。意外とハーヴィスは気さくであり、エスラーはとても付き合いやすかった。ご飯も終わり、酒場を後にした二人は夜風に当たりながら、明日のことを話した。


「なぁ……そういえば俺医務室にいたから分からなかったんだが……」


ハーヴィスは一瞬バツが悪そうな顔をする。エスラーはもう気にしてないと伝えた後で改めて聞いた。


「トーナメント優勝したらさ、指名した相手と対戦できるってあるだろ。誰にしたんだ? 」

「あ~……」


ちょっと考え込むように答えた。


「ん~……実は、今回は指名じゃなくて……相手から逆指名されたんだ……」

「……え……? 」


前代未聞の答えにエスラーはあっけに取られた。つまりは、ハーヴィスは対戦したい相手がいたものの、答える前に別の騎士から指名をされたということだ。しばらくエスラーは考えた。今までの歴史で、騎士側から指名をすることがなかったからである。

 

騎士からの決闘がある場合は……


・騎士の誇りを傷つけられた場合

・自分の守りたい相手がいる場合

・上司からの命令がある場合



などである。つまりはこの3つの中のどれかにハーヴィスは抵触したということになる。しかし、騎士から指名があるとなると、お祭り程度では収まらないようなそんな気がした。


「……お……お前、何をしたんだ……」


ハーヴィスは事の次第をエスラーに話した。


「お前……俺を一撃で倒した後に、エドガー騎士団長を挑発って……つまりはこの決闘の条件の全てに当てはまってるということだよな……」


呆れると言うか、すごいというのか、エスラーには全く想像できない行動だった。


「……で、相手は誰なんだ? 」


しばらく考えた後にハーヴィスは苦笑いした。


「……名前忘れた」

「……」


目が点になるエスラーに対して慌てて答える。


「あ~名前は忘れたけど、相手はとても体が大きくて、強そうだった! 」


体が大きい……騎士団は結構体が大きい人がいる。しかし、ハーヴィスに強そうと言わせるほどの相手となると一人心当たりがあった。


「……アクラム……アクラム=ハイランダース騎士長か? 」


ハーヴィスは相づちを打つと同時に頭を激しく上下に振った。


「……まじか……」


エスラーは思った以上に厄介な相手にこの言葉しか出なかった。エスラーの表情を感じ取ったハーヴィスは若干顔を曇らせた。彼の表情から相手は相当強いと感じたようだ。


「そっかぁ……やっぱり強いか……」


ふぅ……とため息をつく。 エスラーはハーヴィスのそんな姿を見てふと気になったことがあった。


「……なぁ……アクラム騎士長を知らないって事は、本当は誰を指名しようとしてたんだ? 」


エスラーの質問にハーヴィスはスラスラと答えた。


「うん、エドガー騎士団長だよ」

「!! 」


エスラーは愕然とした。命知らずというのだろうか、下手したらアクラム氏より性質が悪いとしか言いようが無かった。


「へ、へぇ……命知らずだな……あの方はアクラム騎士長を倒したことあるんだぞ」


ハーヴィスはそれを聞いて目を輝かせた。


「それは……すごいなぁ、どうやって勝ったんだろう」


エスラーはその当時の戦いを説明した。ただし、彼らの手合わせは騎士選抜トーナメントの優勝者指名の戦いであった為、今の実力は分からないとのこと。


「やっぱりパワーファイターなんだね……」


戦いの最中に扉を剣で叩き割った逸話を話しているとハーヴィスは冷や汗を出しながらブルブルと震えるポーズをした。


「……そんな人を倒したエドガー騎士団長に勝負を挑もうって……頭がおめでたいな、本当に……」


デスヨネ……とも言わないばかりの顔をしてからハーヴィスは答えた。


「うん、やっぱり、越えられない壁を越えてみたい……それが今の俺の目指してる所なんだよ」

「??? 」


意味が分からないというエスラーに対してハーヴィスはニヤリと笑った。


「まぁ、いづれわかるよ」


ポンッと肩に手を置いて笑いながら立ち去ろうとする。エスラーは、少し深入りしすぎたのかもしれないと思ってしまった。思ってしまったが、ここまで関わったからには、明日のアクラム戦についても聞いておきたかった。


「あ……待てよっ……アクラム騎士長との戦いはどうするんだよ」

「……ん……」


ハーヴィスは頭を捻った後、笑いながら話した。


「なるようになるかな……」

「……えっ」


エスラーは返答に困った。つまりは普段どおりということだろうか。


「結局は、相手がパワーファイターなら、こちらもパワーで対抗するのがいいとは思うんだけどね……」


自分の二の腕を見せた。


「ほら……アクラムさんと力比べして到底勝てるとは思えないから、スピードで対抗するしかないかなと……ね」


至極当然といえば当然だった。


「とりあえず……相手がグーで来るならこちらはパーで包み込むって感じかな……」


語尾辺りでは少し不安そうに話していた。エスラーは当たり前のように答えた。


「定石ではな……でも実際に飛んでくる石を紙で受け止めても貫通するぜ」

「だよねぇ……」


しばらく無言で二人は歩く。辺りはすっかり真っ暗だ。大通り以外はほぼ人気はない。

エスラーは考え込んでいたが、どう考えてもハーヴィスには勝ち目がなさそうな気がしていた。

宿舎の前に着いた辺りでハーヴィスがエスラーに一言言った。


「まぁ、相手が重装備で来なかったら何とかなるよ」


重装備だったらどうするんだ……と思いながらもエスラーは答えた。


「ああ、そうじゃないことを祈ってるよ」


二人は何故か笑い出した。暗い夜の中では結構声が響く、そんなこともお構いなしに笑った。


「あ……悪いな……友人でもないのにこんなに気安く話して……」


エスラーは普段こんなに砕けたことがなかったので、急に我に返ってしまった。そんな彼にハーヴィスは笑顔を向けて右手を差し出した。


「そんなことないですよ、これからもよろしくお願いします」


少し戸惑いつつも手を握り返す。


「ああ、よろしくな」


二人は改めて握手を交わした。この二人の出会いは、良くも悪くも、ハーヴィスの人生を大きく変えたのだった。


  夜は更け、運命の戦いが始まる。

 

 以降 4


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