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『 Legend of the wars  』   作者: 桐生清一
セリスタ騎士編
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§第三章: ノーブルブラッド 4 §


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 4 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ギルトは戦いの初めからもう結果が分かっていた。分かってはいたが、せめて、大切な兵士を一人でも多く救う事だけを考えていた。

 総大将になった将軍に対して、あまり口出しをするのははばかられるのだが、あえて自分が悪役になることで、この最悪の事態を回避しなければならないと思っていた。

一方総大将となった将軍は、自分が思いついた”華麗な戦略”に対していちいち文句をつけてくるギルトに対して忌々しいと思っていた。


「チッ、俺一人の方がやりやすいってのに、何であんな爺に……」


教皇直々に両名が任命された為、彼の意見をむげにできることが出来ず、計画が遅々として進まなかった。しかし、今まで、散々ギルトの言う事を聞いてきた彼にも、そろそろ限界が来たようだ。


「……ギルト将軍、そろそろ私の意見も聞いてはくれまいだろうか」

「…………」


ギルトはとうとうこの時が来たか、と思った。

出来る事なら、ローヴァスとの戦いを避け、政局の面に置いて相手に有利に立てれば……と思っていた。しかしそのような楽観的な意見など両者とも譲る事はないだろう。

ギルトは、目線を落し、地形図を眺めた。そしてしばらく思案する素振りを見せた後、答えた。


「よろしい、わかりました」

 

すると、総大将はこのような回答が出るとは思っていなかったため、非常に喜んだ。反対にギルトはもう打つ手がない。

打つ手はないのだが……


「その代わり、お願いがひとつある」


その言葉で、総大将の表情が明らかに曇る。まだ言い足りないのか、と言いたげである。


「今回の総大将が行う作戦の準備は私にやらせて頂きたい」


つまりは、現場監督ということになる。しばらく考え込んでいたが、これぐらいなら問題ないと踏んだようだ。


「わかった、それでいい。ただし、私の言う事には確実に従ってもらうぞ! 」

「……御意のままに……」


これ以上文句は言えないが、現場で動けばまだ望みがあるとギルトは思った。

総大将の考えたことはまず、相手と総力戦をする。相手側はまず様子見をするだろうと踏んでのこと。そのまま押し返す事が出来るならそのまま追撃、駄目ならば後退しつつ相手の隙を伺い、機会が訪れたらなら突撃をするという、いたってシンプルな内容だ。

正直、計略もへったくれもない。ギルトは総大将の話を聞いている振りをしつつ、状況が悪くなったときのことを考え、秘密裏に行動を起こした。

 まずは物見の兵が、先行し、状況を確認しつつ、進軍した。本体が着く前にギルトは物見の兵と同時に工作兵を忍ばせた。その工作兵は現場確認と共に様々な役割を担っていた。

そうして、総大将が気がつかないまま、工作は進んでいった。

 しばらく森の街道を通ると、森が開け、辺りは一面の草原となった。葦の草が生えており、見通しが悪い。だが、この辺りは頻繁に商人が通る為、道はそこだけ葦が刈り取られたかのように整備されている。

しかし、いつ伏兵が来てもおかしくない状況、彼らは用心をしつつ進軍した。幸い敵からの奇襲はなかった。総大将は物見の兵士からの状況を聞きつつ草原の中心に向かった。

すると、草原の中心には、ローヴァス帝国と思しき大軍が見えた。総兵士数はエルベリアの方が断然多いようだ。この瞬間、総大将は勝てると踏んだ。

 その時、一人の漆黒の将軍と思われる男が漆黒の黒馬に乗ったまま、前に躍り出た。


「我は、ローヴァスの総大将なり! エルベリアのひよっ子ども! 我と一騎打ちするものはおらんのか!? 」


「…………」


エルベリア側は反応しない。数こそは相手より多いものの、一騎打ちとは聞いていない。それに、あの恐ろしいオーラを放つ相手と戦う気にはなれなかった。


「ふははっ! この腑抜けどもが! お前達などが束になってもこの俺を抜く事など出来ぬわ!! 」


ローヴァスの総大将の大笑いとともに、ローヴァス側の兵士達からも失笑と嘲笑の混じった笑い声が聞こえる。完全に相手を馬鹿にしているようだ。

ギルトはため息を付いていた。やはりこうなるだろうとは思っていた。まずあの将軍を倒せる人材がこちらにはいないのだ。直ぐにでも撤退できる準備をしておかなければ……


「何だ何だ!! お前達は!! エルベリアの魂はどうした!! 」


彼らの挑発に乗り、完全に怒り心頭なのは、エルベリアの総大将であった。彼がどんなに怒っても叫んでも周りの兵士達はうんともすんとも言わない。

余りの人望のなさ、士気の低さにギルトは戦わずして既に負けていると思った。そんな時、彼は思わぬ行動にでた。


「貴様!! 言わせておけば!! 私は聖エルベリア教皇国、総大将、ワッサー=マスカルなり!! 」


勢いで躍り出てきた。その姿を見て両軍はあっけに取られた。一人、相手の漆黒の将軍だけは笑っていた。そしておもむろに大剣を引き抜くとエルベリア総大将ワッサーに向けた。


「ほぅ、少しは骨があるようだな……フフッ、くるか? 」

「…………」


ワッサーは相手の一言で顔を真っ青にした。あんな大きな剣で受け止めようなら馬ごと切り殺されてしまいそうだ。すると彼は更に驚きの行動にでた。


「は……ハハッな、何を言っているんだ!! 私ほどの高貴な者がお前などと手を合わせるはずがないだろう!! 」


両軍は良く分からない問答で、目が点になっていた。そんな事もお構いなしに彼は続ける。


「私が戦うまでもない!! お前の相手は……ギルト……そう!! ギルト!! お前だ!! 」


「!! 」


急に話を振られたギルトは狼狽した。何故自分があのような男と手を合わせなければならないのか……しかし、ここで引き下がると兵士の指揮に触る。八方塞となった。


「なんてこった……」


独り言のようにギルトは呟き、そしてワッサーの隣に馬を進ませた。どうにかして、一騎打ちを引き分けにまで持ち込んで、そのまま兵士を逃げさせる算段をしなければ……と思った。


「ちぃと大変ですが、爺のお相手をお願いいたす」


ギルトがローヴァスの総大将の前につくと挨拶をした。すると相手は意外と礼儀正しく挨拶をしてきた。


「これはこれは、ご丁寧に、私はローヴァス帝国将軍ラスコーと申す。以後宜しく……」


(宜しく……か、これから死ぬかも知れぬ爺に対してよく言うものだ)


ギルトは愛用の槍を出し対峙する。そして掛け声とともに突っ込む。


「イヤアアァァ!! 」


ギルトの切っ先はラスコーの目の前で止まるそして、ラスコーは軽くその槍の切っ先をいなす。


「ムゥ……」


構わず振り続ける、ラスコーはあくまで防衛のみ、次第にギルトの攻撃が弱くなり、息が切れてきた。


そして切っ先が緩んだその時……


「フンッ! 」


切っ先ごと吹き飛ばすかのような一撃でギルトの槍は吹き飛ばされる。その勢いでギルトは落馬した。そしてラスコーの部下によりギルトは回収された。


「クッ……」


予想以上の強さにワッサーは慌てた。だが、まだ総兵士数では負けてはいない。気を取り直し、ワッサーは掛け声を出した。


「ま、まだまだ、数では我らの方が上!! 行くぞ~!! 」

「お……おお……おおおぉぉぉ……」


何だかすごく微妙な掛け声とともにエルベリア教皇国の兵士達が動き出す。完全に形勢は逆転しているようだ。そんな中突っ切るようにローヴァス帝国の精鋭兵は突撃を始めた。

紡錘型の陣営はそのまま伸びきったエルベリア軍を真っ二つに裂いた。そして二つに裂かれた陣営は一気に総崩れとなる。そうなるともう後は分断された兵士を潰していくだけだ。そのまま掃討戦に変更となる。

これはもう完全にエルベリアの敗北としか見れない。

 そんな中、落馬して気を失っていたギルトは目を覚ました。両手は縛られ、自由が利かない。


「……捕まってしまったか……これでは……」


目の前はすでに戦場ではなくなっている。かなり後ろまで後退したようだ。そしてあたり一帯ではエルベリア兵士が無残にも倒れていた。


「おお……何という事だ……」


見るも無残な戦場跡を見て、自分の力不足を嘆いた。


「こうなることは分かってたよ……」


遠い目をしながら男は答えた。その男は鎧を着てはいるが、それほど戦いに向いているような人間ではなさそうだった。


「さて、あんた、兵士を助けたいんだろ? 」

「!! お前は……誰だ」

「さすがに、捕縛は解けませんけど、あなたの思いを届けて差し上げます」

「…………すまん」

「いいえ、いづれ、あなたを助けてくれる人物が現れるはずですから……その人を守ってあげてください」

「……! その、人物とは……」

「さあ、そこまでは……早くしないと、手が付けられなくなるので……失礼しますよ」


彼は剣を持つと、他の陣営警備をしている者に話しかけ、そのまま戦場へと向かった。ギルトは何が何だか分からなかったが、その男にいちるの望みを掛けたのだった。

 しばらくすると、戦場から悲鳴が増えてきた。そして戦場からは大きな音がこだました。


「ど、どういうことだ……」


捕縛されている為状況がわからない。そして、その爆音と共に、草原の奥が騒がしくなる。そして、草原の奥からじわじわとオレンジ色の光が見えた。


「こ……これはまさか」


これは、ギルトが施していた策略であった。そして炎はエルベリアとローヴァスを引き離した。そして、両軍の戦いの初日はこれで終了した。

 次の日、引くと思われていたエルベリアが今度は巻き返しを目論み、突撃を開始した。早朝からの突撃で、若干奇襲に近いものがあった。しかし、歴戦のローヴァス帝国軍はあっさりとエルベリア軍を退けた。そして、両者は、エルジング草原を中心に睨みあう。

 エルベリア軍は初期戦以外、自陣に留まるようになり、戦いは長期化するものと思われた。そして、にらみ合いのまま一週間が過ぎた。

初戦はやられたものの、エルベリア軍は良く守った。そしてその姿が何故か、ローヴァス側にとって援軍を待っているような姿に見えたため、思い切って突っ込む事が出来なかった。そしてタイミングを失って待機しているうちに思った以上に時間を掛けてしまったというわけだ。

しかし、援軍は来なかった。無駄な時間を割いたことに、ローヴァス帝国の将軍は怒り心頭だ。

 この待機の一週間、この間に逃げておけばよかったのだが、それをしなかったエルベリア軍は完全に逃げることができなくなった。そして、本気で突っ込むローヴァス軍により陣は潰れ、兵は散り散りとなった。結局、ローヴァス軍は時間の無駄をしてしまったが、ほぼ完勝という形で、この決戦を終えた。

 その時、エルベリアの兵士の一人が、逃げ惑うワッサーを捕まえ、殺害し、その首を持って、祖国に戻った。


この件は、エルベリア兵士が殺したのではなく、ローヴァス帝国との戦いでの戦死として、報告されたのだった。


 そして、その情報がハーヴィスのいるセリスタにもたらされ、一同は予想通りのことに頭を抱えたのだった。エドガーは苦笑いをして尋ねた。


「さて、私達がした下準備も無駄になってしまいましたな……どういたしましょう」


エルベリアが戦争で負けたという事により、完全に世界の風はローヴァスに傾いていると言ってもいい。一国だけエルベリアを支持したセリスタは窮地に陥ったというわけだ。


「……完全に私達は孤立したわ……このままだといつ他の連合国に寝首をかかれるか分かったものじゃない……」

「私の意見のせいです……」


とハーヴィス。その事は関係ないとエリーシャは首を振る。


「違うわ、最終決定は私よ、だから私に責任がある」


暗い空気が、辺りを支配する。その沈黙を破るように、ハーヴィスは言った。


「エリーシャ様、まずは国民の不安を取り除く事が先決だと思います」

「……そうよね、まずはやるしかないわ……」


そして、エリーシャはまず国民の不安を取り除く為、動いた。ハーヴィス達もエリーシャの施した防衛策の為に動き出す。こうしてセリスタは応急ながらも街全体を守りこめるような街づくりを始めた。

その姿を、一人の男が見つめている。


「……ふんっ、いまいましいやつらだ……」


ハーヴィス達が行っている事に対してただ、罵倒するだけだった。

 そして、そのような最中、セリスタにとって悪い事は重なり、エリーシャの父親、エルガの容態が急速に悪化しだしたのだった。


 そしてその報により、セリスタの国は更なる過酷な運命を背負う事となる。


以降 5





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