§第一章: 騎士選抜トーナメント 1.2 §
特になし
『 Legend of the wars 』
ある日、一人の少年が運命的な出会いをした。そして彼の心に芽生えた炎……
その炎はまだ小さい……しかし、これが伝説を紡ぎだす意思の炎。
騎士選抜トーナメント、この瞬間から彼は表舞台に立ち上がる……
§第一章: 騎士選抜トーナメント 1 §
ここはセリスタ公国首都”セイレム ”本日は晴天なり”
いつになくこの街は熱気に包まれていた。そう、今しがた始まったのだ。
”セリスタ聖騎士選抜トーナメント”
この戦いは毎年行われ、幾多の名勝負を繰り広げてきた。そして、公国が始まって以来から続く伝統でもあった。コロシアムの中では市民、他国から来た貴賓、商人など身分は関係なく様々な人たちが列席していた。そして、一際目立つ席にはセリスタ公国の大臣、重臣、騎士団長などそうそうたるメンバーが列席していた。だが、真ん中の席には国家元首である、エルガ公爵がいるはずであった。今回は体調を崩している為、空席だ。 そんな事はお構いなしに会場のボルテージは上がっていく……
そして熱気が最高潮となった瞬間、お祭りははじまったのだった。
コロシアムの真ん中の特設ステージが会場のスタッフにより運び込まれ、スタッフ入り口から今回の戦いの実況を行う人物が現れた。
「皆様、大変お待たせいたしました。今年はこの大会100回目の記念すべき戦いが始まります! 」
オオォォォオオ~!!
会場からは溢れんばかりの大歓声が聞こえる。実況者はこの歓声をとても満足そうに聞いていた。そしてきりのいい所で司会を進行させた。
テンポよく開会の挨拶などを進めた後、特設ステージでは国歌が歌手により歌われていた。澄んだ歌声が聞こえる中、選手サイドの控え室でも空調を通して国歌が聞こえる。セリスタ出身の選手達はおもむろに胸に手を当てて歌声を聴いている。他国出身の者達は、澄んだ歌声に聞き入っているようだった。
「さて……今日の大会、優勝してやるか……」
歌声を聴き終えて気合を入れなおした男がいた。彼はエスラー=ファブリッシュ、今大会の優勝候補筆頭である。 彼は念入りに手入れした剣を鞘に入れなおし、剣の鍔に描かれた文様を眺めた。
彼のかつて所属していた騎士養成所の最優秀者に贈られる由緒正しい剣である。その剣を眺めているうちにふつふつと自信がわいてくるのだった。
このように、各選手達が心意気を新たにしている一方、会場はこれから始まる戦いを待っていた。それと同時に、卵型の楕円形の会場、選手の入口と向かい側の一番よく見える場所にいるセリスタ公国の重臣達も、待っていたのだった。
ある人物が訪れる事を……
「まったく・・・いつになったら来るのだ!! 」
不機嫌を態度で表している人物がいる。
「……もう少々お待ちください……エドガーさん」
「……フンッ」
この不機嫌を態度で表している男はエドガー=ライシス、セリスタ公国の騎士団長。他国で言えば将軍に当たる地位である。なだめているのは内政官の大臣である。実は今回、本来ならば出席していなければならなかった現国家元首の代わりに、出席をする予定の人物がまだ会場に到着していないという事だった。
「何ということだ……本当ならば、このような記念すべき日に開会の挨拶をして頂きたかったのだが……」
残念そうな大臣、しかし、既に大会は始まっている。その状態がエドガーにとって我慢ならなかったのである。
「チッ……城に戻ったら必ず説教してやる! 」
表情はまるで修羅の如くである。周囲がなだめているなか、会場では既に試合が始まっており、悲喜こもごもの結果をだしていた。そんな中、注目の戦いが今始まろうとしていた。
「右、ハーヴィス=リューン」
右側の通路から出てきた金髪の少年は、長身痩躯の軽装備の簡素な防具、利き手には普通のブロードソードに左手には小型の腕盾があるのみだった。はたから見ると無謀な格好といわざる終えない、そんな格好である。目の肥えた観客達もざわざわと何かを言っているようだ。大体は彼の服装についての批判的な事だろう。
本人は気にもせずにすっと立会いの位置に立った。しばらく間をおいて実況者は彼の対戦相手の名前を読み上げた。
「皆様長らくお待たせいたしました……」
その言葉を聞いて聴衆達もハーヴィスに対する会話を止めた。
「今大会の有望株、そして優勝候補筆頭がまもなく登場いたします! 」
更に聴衆が固唾を呑む。
「左、セリスタ公立騎士養成学校最優秀者エスラー=ファブリッシュ! 」
彼の名前が読み上げられると同時に拍手喝さいが沸き起こる。まるで”待ってました! ”と言わんばかりの盛り上がりようだった。下馬評は明らかにエスラーの方が上だ。観衆の思いとは裏腹にエスラーは少し不満だった。
(……なんだあの服装は・・・舐めてやがるのか……)
そして相手の無表情、それがさらに彼の怒りに油を注いでいた。
「ふっざけんな……」
そう呟いた後、彼は剣を高々と上げて宣言した。
「……秒殺だっ! 」
その宣言を聞くと観衆たちの興奮はMAXになった。エスラーの宣言を聞いてもハーヴィスの表情は変わらない、それが更に彼に苛立ちを感じさせた。
(直ぐに片付けてやる!! )
剣を構えて開始を待つ、ハーヴィスは構えを見せていない。その姿はあまりにも無防備だ。
「始めぇ!! 」
掛け声とともにエスラーは剣を振り上げ走り出す。一撃で倒して見せると一の太刀を見せる。 が……しかし、彼が剣を構えて一歩踏み出したとたん世界が消えた……
そして試合終了の声を聞くことなくエスラーはハーヴィスに敗北したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 2 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
意識が揺らいでいる、何がなんだか分からない……気分が悪い
……何がおきているのかまったく分からない……
しばらくすると、意識がハッキリしてきた。
「え……ここは……」
気がつくと、エスラーはベッドに横たわっていた。状況が分からなかった、何故自分がここにいるのかと……。
「……やっと気がついたようだね、大丈夫か? 」
聞いたことがある声に状況が何となくわかった。
「あ……俺……負けたのか……」
頭に異常は無い、腹部に軽い鈍痛があるようだ。
「イッチチ……」
「大丈夫か? エスラー」
「ああ、大丈夫だハインツ……」
ハインツと呼ばれる少年は、慌てる友人を制した。しばしの沈黙の後、エスラーは友人に質問した。
「あ、あのよ……俺さ……どうやって負けたんだ……? 」
ハインツはあ~やっぱりこの質問が来たか……という顔をした。少しいい辛そうに顔をしかめた後に答えた。
「一撃……腹部に柄で一撃……それで負けた」
「え……? 」
エスラーは友人の予想外の返答にその一言しか出なかった。
「とにかく……早かったんだ……」
ハインツはとても悔しそうに話した。ハインツの説明によると、エスラーが激昂し、一の太刀を振るいながら一歩踏み出した瞬間、対戦相手の姿が消失したという、それと同時に、エスラーの懐に彼の一撃が炸裂していた。ということだった。
「俺は……お前に優勝してほしかった。友人だし、才能に溢れているお前が誇らしかった」
握りこぶしが震えている。
「……正直お前を見て、うらやましいと思った。不公平だとも……」
こぶしから力が消えて宙ぶらりんになった。ハインツはとても悲しそうな顔をしている。
「あ……いや……」
不意にエスラーから声が漏れた。何故だろう自分が負けたはずなのに、相手を慰めようとする不思議な気持ち。
「大丈夫だよ、俺がいい加減な気持ちで戦いに挑んだからさ。次は負けねーから! 」
友人からでた意外な言葉にハインツは驚く、そして直ぐに彼の気持ちを察した。
「……ああ、そうだよな……お前が油断してただけだな、次なら勝てるさ! 」
二人で馬鹿笑いをしながら次回の対戦について花を咲かせていた。 その時、トーナメントでは優勝者の勝ち名乗りを受けていたのだった。
「あ……ありえん……」
この言葉を発したのはエドガーをなだめていた大臣だった。他の観客達も同様だった。
ついさっきまで酷評していた観客達の顔は青ざめていた。自分達が自慢げにけなした相手が勝ち名乗りを上げたからだ。そして戦った相手はあの優勝候補筆頭のエスラーである。その相手を一撃で倒したのだから、完全にハーヴィスはダークホースと化していた。そんな周りの思いとは裏腹に、エドガーは興奮していた。正直ここ最近の騎士選抜のトーナメント戦というものに対して刺激がすくなかったからである。
下手をしたら、こちらの戦いの行方よりも、いまだ到着すらしていない姫様の動向のほうが気がかりだったりするほどであった。
「フム、今年のメンバーも小粒揃いですね……」
「フンッ小粒なぞいらんわ! 大粒を出せ! 」
大臣のつぶやきに対してまで、不機嫌モードで無茶振りをしているほどだった。
そんな中、会場を揺るがす事が起きた。それは普段見られない選手のパフォーマンスだった。剣を高々と上げて声高に一言。
「……秒殺だっ! 」
優勝候補筆頭の男、エスラー=ファブリッシュの宣言だった。エドガーは一瞬”オッ”となった。
(ただの剣合わせの軽い行事にこんな行動をするとは骨があるやつだ)
少し興味が湧いて彼らの試合に集中することにする。 緊張も何も無く会場は興奮に次ぐ興奮で彩られていた。
そしてその刹那、会場の観客、当のエスラーそして、歴戦の騎士エドガーまでもが予想だにしなかったことが起きた。
「始めぇ!! 」
その一言と同時に両者が動き出す。だが、動いた速度があまりにも違いすぎた。エスラーが一の太刀を振るわんと剣を振り上げたと同時にハーヴィスが急加速で接近していた。
そしてエスラーが一歩踏み出した瞬間既に懐に入っていた。そしてエスラーは力なく剣を振り込み前のめりで倒れた。
あまりに一瞬のことで全員の歓声が消えた。……と同時にざわめきが聞こえ出した。おそらくどうしてエスラーが倒れたのか把握できなかったのだろう。その中でハーヴィスがどのようにしてエスラーを倒したのかはっきりと見ている者がいた。
「……あやつ……やりおるわ……」
思わず興奮し、笑みがこぼれる。久しぶりに小粒より大きいものを見つけたらしい。少し機嫌が良くなったようだ。喜んだのもつかの間、エドガーの顔は険しくなる。それはエスラーを倒したハーヴィスが今度は剣を空に突き立て勝利のパフォーマンスを行ったのだ。
「……な、何がしたいのだ……? 」
大臣がうろたえている。するとその空に突き立てた剣をとある人物に向けて突き出した。
「……!! 」
エドガーの顔が怒りへと変わる。そう、ハーヴィスは事もあろうに、聖騎士軍団長であるエドガー=ライシスに剣を突き立て、挑戦を表明したのだった。
「……よかろう……この挑戦受けてやる……」
怒りで挑戦を受けようとする団長に対して周りの者が慌てて静止を促す。そんな中、一人の男がエドガーに言った。
「……お待ちください、あの男は私がたたき伏せてごらんにいれましょう……ただし……この戦いに優勝してからの話ですが……」
その言葉を聞いてエドガーは笑い出した。
「フッフフ……ハハハッ!! それはいい!! 」
ひとしきり笑い終えるとすっきりしたのか全ての対応を”彼 ”に任せた。
そして、このやり取りの後、ハーヴィスは見事優勝をしたのだった。
「勝者、ハーヴィス=リューン!! 」
優勝筆頭候補を一撃で倒したというインパクトはとても甚大であり、ほとんどの対戦者達は戦意を喪失していた。中には勇敢な者もいたが、勇気と無謀は違う。予想通り軽くあしらわれていった。
結局は観客全ての予想を覆したダークホースは完勝する形でこの大会を締めくくったのであった。
実況者と女性が優勝をしたハーヴィスに駆け寄り、手早く表彰台を設置させた台に立ち上がらせた。
後日、準優勝決定戦があるのだが、その後の戦いも用意されていた。
それは、トーナメント優勝者と、その優勝者が指定した騎士との対戦権が得られるというものであった。
余程の事が無ければ指名した騎士との対戦ができるのだが、今回はその装いは違っているようだ。
優勝カップと記念品をハーヴィスに渡した後、実況者は毎年のお決まりのセリフを言った。
「さて、優勝された貴方は……どの騎士様と対戦されたいのですか~~!? 」
この言葉を聞いて、会場の観客達は、初戦の時の剣を突き立てた相手を想像していた。そしてその予想は当たっていたのだが……
「……」
「ちょおおおおっとまぁああったああぁぁ!!! 」
トンでもない声が会場に響き渡った。ハーヴィスも言葉を飲み込んでしまった。この雰囲気はただ事ではなかったのだ。
そして、振り返ると選手入場口には見たこともないようなとんでもなく大きな男が立ちはだかっていたのだった。
以降 3