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5


 ロアに色々準備する前にとりあえず自分の腹を満たすことにした。ロアに昼食を全て与えたので、自分の分はなくなった。さすがに昼を抜くのは、18の男子にはキツイ。キサラギは定食屋に寄ることにした。


「いらっしゃいませー。ってキサラギ君!?」


 もう一人の幼馴染みであるアナシスが出迎え、目を丸くした。


「どうしたの? いつもおばさんのお弁当だったよね」

「いや、ちょっと足りなくなっちゃって。いっぱい働いたからかな」


 そう言うと、アナシスはクスリと笑みをこぼした。


「お疲れ様。日替わり定食もってくるね」


 幼馴染みに嘘をつくのは気が引ける。自分を信じて疑わないアナシスを見て罪悪感を抱いた。

 そうしてしばらく待つと、ほかほかのご飯に汁物、白身魚の香草焼きが出てきた。


「どうぞ、召し上がれ」


 アナシスは定食屋の娘である。木こりの仕事をしているキサラギや刺繍の仕事をしているロアと違って労働時間が明確に定まっている。だから、昼食を共にするという約束はキサラギとロアだけのものとなった。15になってからそれほど会わなくなったアナシスはたまに訪れるキサラギを歓迎してくれる。ーーそんなこいつにロアが脱獄していることを隠すべきなのか。


 アナシスもきっとロアのことを心配している。ロアがこの村にいることを教えたら驚くだろうし、怒るかもしれないが、やはり喜ぶだろう。あまり誰かに言いふらすべきではないことは分かっているが、彼女ならいいではないのだろうか。


「なぁ、アナシス……」


 口を開くと仕事中のアナシスがこちらに駆け寄ってきた。


「なぁに?」


 微笑むアナシスにロアのことを伝えようとした。伝えようとしたのだ。


「いや……、何でもない」


 口からはロアのことは一言も出なかった。アナシスは首をかしげて、仕事に戻った。

 何故だかアナシスに教えたくないという気持ちが働いた。忙しそうだから、とか、ロアのことは秘密にするべきだから、とか、後から言い訳はポンポン出てきたが、本当の理由は何だか知っていた。

 まだ、二人でいたいという独占欲。だって、ロアには今俺しか頼る人がいないのだから、と汚い気持ちが溢れた。


 舌を噛み、自分で後悔した。だからあの純粋な幼馴染みに敵わないのだと思い知った。二年もの歳月を経て、やはり自分でも物寂しく感じていたのかもしれない。

 キサラギは自嘲気味に笑った。



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