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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

踏まれたい男達

作者: 空花玲奈
掲載日:2026/06/23

俺はD社に勤めるエリートだ。

Dズニー?

いやいや、それはマズい。

ここでは、まぁ、D通とでもしておこう。

今日もまたクライアントにプレゼンがある。

クライアント?

まぁ、日本を代表する家電メーカーPとでもしておこう。

そろそろプレゼンの時間だ。

一瞬で終わらせる。

なんてったって俺はエリートだからな。

 

「——以上が新型シェーバーの宣伝案です。ご満足いただけましたでしょうか?」


「神野君、実に素晴らしい。さすがT大主席だけある。」

 

P社の髪の薄い担当が贅肉のついた手を叩き、俺を賞賛する。

俺は爽やかに作り笑顔を浮かべ、ハゲ親父に頭を下げた。

ハゲ親父は立ち上がると会議室の扉の前で振り返り、突き出た腹を叩くと、剃り残しがある口元で笑い俺に言った。

 

「唯一残念なのは君がうちの社員じゃないことぐらいだよ。うちに来る気はないかい?」


冗談じゃない、俺が落ち目の家電メーカーなどに行くわけないだろう。


「ありがとうございます。考えておきます。」

 

心の中とは裏腹に満面の笑顔で答える。

これが、D通流だ。 

腕につけた高級時計を見ると、ジャスト午後7時を指している。

完璧だ。

コートに腕を通し、エレベーターを降りると後ろに建つ汐留のビルを見上げる。

午後7時を過ぎて、煌々と灯るビルの窓を見ると俺は思った。

出来の悪い奴らだ。

無能共を鼻で笑うと、いつもの銀座のバーへと向かう。

白髪頭のバーのマスターが俺の顔を見ると声をかけた。


「いらっしゃいませ、神野様。」


その時だった。

俺の目に飛び込む、カウンターに腰掛けた段差のついた長い髪、スカートからスラリと伸びた長い足の女。

俺はゴクリと唾を飲み込むと心の中で呟いた。


(んほぉ、あのヒールで踏まれてぇ……。)


すかさず女の隣に座るとマスターにいつもの酒を注文する。


「お待たせしました。神野様。」

 

マスターに出された酒を口にしながらチラリと横目で女の顔を見る。

薄口ながら色白の端正に整った顔。

俺は紳士的に女に話しかけた。

 

「失礼、あまり見ない顔だね。この店は初めて?誰かと待ち合わせかな?」


「あ、いえ……仕事の帰りで……。」


高すぎず低すぎない声で女が答えた。

思わずニヤけそうになる。

 

「ああ、失礼だったね。私はD通でクリエイティブディレクターをしている神野司。」


「D通さんなんですね。私は出版社でファッション誌を担当している黒木麗華と申します。」


少し驚いた顔で黒木が答えた。

これがD通ブランドだ、家電メーカーでは不可能だろう。


「なるほど、だからお洒落なんですね。」


そう言うと照れくさそうに黒木が下を向いた。

もちろん、俺も下を向く。


(この白い太もも、そして、細く長い足。この女にヒールを履かせ、踏まれてぇ……。)


その時だ。

ポケットの中のスマホが震える。

スマホを取り出し、ラインを見ると白鳥から連絡が来ていた。

ため息をつくと、俺は黒木に話しかけた。


「やれやれ、仕事だ。じゃあ、また。」


黒木が答える。


「ええ、また。」

 

脈アリだ。

黒木に背を向けると、俺は声を潜め、笑い、店を後にした。


「神野司——ッ。D通だか、T大だか知らないけど調子に乗るな——ッ。アホ、バカ、マヌケ——ッ。」


白鳥が長い足に履いたJimmy Chooジミーチュウの細く尖ったヒールで全裸の俺を踏みつける。

以前の興奮は何処へやら……。

確かに白鳥は若く美しい。

感情だ。

感情を感じないのだ。

芝居がかった罵倒では、もはや俺は興奮しないのだ。

その時、俺の脳裏に黒木のヒールのビジョンが見えた。

 

(ああ……あの女……あの女のヒールで踏まれたい……。)


「ああッ、逝く——ッ。」


俺は思わず大声を上げた。








神野司、昇天————

 


ベッドの横で抱きつく白鳥が俺に話しかける。


「ねぇ、司。今日は早かったわね。」


「そうか……?」


まさか言える訳があるまい。

他の女を妄想して逝ってしまったなどと。


「どうしたの司。ところで私達そろそろ……。私も、もう29だし……。」


まさか、この女、俺と結婚したいのか?

俺はずっと踏まれていたいのだ。

まして、こんな芝居がかった女など。


数日後、俺は再びいつものバーへと向かった。

カウンターには宝石のようなビジューのついたヒールを履いた黒木がいる。

Manolo Blahnikマロノブラニク靴のロールスロイス。

最高だ。


「ねぇ。」


その時だ。

後ろから白鳥の声が聞こえた。

振り返ると頭に激痛が走る。

俺は頭を押さえ、背中から地面に倒れ込んだ。

バッグを持った白鳥がJimmy Chooの

細く尖ったヒールで俺を踏みつける。


「浮気なんて許さない。死ね、死ね、死ね——ッ。」


鬼の形相で踏みつける白鳥を見て俺は思った。

 

(やれば……出来るじゃないか……。)


最高だ。








神野司、昇天————

 


そこには全身アザだらけの惨めな中年男の死体があった。


「藤堂警部、被害者の名前は神野司、D通の社員だそうです。」


「なるほど、鷹宮君。実に素晴らしい。さすがT大だ。」


この程度のことはエリート刑事の俺には簡単すぎることだった。


「ところで何故、この男は笑いながら死んでいるのかね?」


「さぁ、俺には理解出来ませんね。こんな惨めな中年男の考えなど。」


苦笑するしかなかった。

当然のことながら俺には理解出来ない。

理解出来る訳がない。

何故、この男が笑いながら死んでいるのかなど。

まぁ事実、こんな惨めな中年男などエリート刑事の俺にとってどうでもいいことだった。

これで事件解決だ。

とっとと帰って、飲みにでも行きたいものだ。

仕事が終わり、いつもの飲み屋に向かう。

ドアを開けた時だった。

セミロングの美しい黒髪に細く長い足の女がいる。

俺は思った。

 

(んほぉ、あのヒールで踏まれたい……。)


俺は女の足を見つめると、ゴクリと唾を飲み込んだのだった。

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