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第4話

「……え、加賀野くんって、放課後に寄り道したことないの?」

 俺のわがままで、ふたりきりのランチタイムは今週からめでたく週二開催になった。今日は記念すべき今週二回目のランチタイムだ。加賀野は俺が提案したことに不思議だと思っているのを隠さない顔をしていたけれど、最終的には頷いてくれた。踊り出したいような気持ちだったが、なんとか堪えたので褒められたい。

 ふたりきりのランチタイム中は七割俺が喋って、三割加賀野が相槌や返答をしてくれるという配分なことが多い。

昨日の放課後、仲良しメンバーでカラオケに行った話をしていたのだが、彼から返ってきた言葉に驚きのあまり手にしていた焼きそばパンがぽろりとこぼれ落ちそうになった。危ない危ない。慌てて残りの焼きそばパンを口に押し込んで、ゆっくりと咀嚼する。


 だって加賀野くん、彼女いたじゃん。

 あの夜に聞いた話とランチタイム中にそれとなく聞いた話から想像するに、おそらく二個上の科学部の先輩らしいことは分かっている。が、それ以上のことは未だに知らない。

 なんだか聞いてはいけないような、聞きたくないような気持ちになるから加賀野とは恋愛トークをしたことがないのだ。先輩と後輩だから、見られたら恥ずかしい……などという理由で放課後にデートをしなかったのだろうか。加賀野は気にしないタイプだと思うけれど、相手の先輩がそういうタイプだったのかもしれない。同じ学校で同じ部活らしいので、外には行かずに校内でデートをしていたのだろうか。虫食いでも知ってしまうと気になったものの、口を開くのが億劫で聞くのはやめた。


「……まったくしたことがないとは言ってない」

「でも、制服で買い食いしたりゲーセン行ったりしたことないんでしょ?」

「ないけど、特に困ってないから。むしろ、制服だと行動が制限される可能性があるくらいじゃないの」

「えぇー……合法的に制服でウロウロ遊べるのって今しかないんだよ」

「合法的にって……別に、高校卒業したあとに制服着てたって違法ではないでしょ」

「え、加賀野くんって大学生になっても制服着てウロウロできるんだ?」

「……するとは言ってない」

 はあ、とため息を吐きながらひじきの煮物を口に運ぶ加賀野を見やる。

 彼は和食が結構好きらしい。弁当に煮物が入っている確率が高いことに気がついて聞いてみたら「作るのが楽だから」と料理が得意ではない俺からすると驚くようなことを言っていたが、調理が楽というだけではなく好きだからなのだと思う。彼が弁当を口に運んでいるときに度々その様子を盗み見ることがあるのだが、表情の差を見ているとおそらく間違いではないだろう。


「ねえ、今日ってバイト?」

「休みだけど」

「あ、じゃあもしかして暇?時間ある?」

 思わず身を乗り出して聞くと、俺が言いたいことが分かったらしい。加賀野は数秒考える仕草をしてから「……少しだけなら」と返してくれた。


「やった!じゃあ今日の放課後遊ぼう」

「遊ぶって……どこ行くの」

「どこでもいいよ、どこ行きたい?加賀野くんが気になってるところがあるならそこに行く感じで、特になければ俺のおすすめ巡りしよう」

「おすすめって、カラオケとか?」

「お、行きたい?」

「歌うの、そんなに得意じゃない」

「そっか。加賀野くんの声きれいだから、歌声もきれいなんだろうな~って思ってたんだけど」

 脳内のいつか一緒に行きたいリストに追加して、今日の放課後の予定リストからは削除する。


「……おすすめでいいよ。カラオケ以外で」

「分かった。楽しみにしてて!」

「ほどほどに期待しておく」

 ふ、と笑った顔がいつもよりも幼くて、なんだか落ち着かない。そわそわしそうになるのをバレないように隠しながら口に押し込んだピザパンは、何故だか全然味がしなかった。


◇ ◆ ◇


「優真、今日バイトだっけ?」

「今日はなし」

「お、じゃあ遊び行くか」

「ごめん、今日先約ある」

 昼食後、普段からは考えられないくらいあっという間に時間が過ぎていって放課後になってしまった。放課後、加賀野と一緒にどこに行くかのプランがまだ完全には完成していないというのに。どうしよう。

 最初にどこに行くかは決まっているので、そこに行ってからノリとタイミングで決めるしかない。かつて付き合っていた彼女とのデートプランを考えるときよりも時間がかかったし、頭を悩ませたけれど考えるのは楽しかった。加賀野が喜んでくれたり、楽しんでくれている顔が見たい。俺と一緒に過ごすのも悪くないなと思ってほしい。すぎた願いかもしれないけれど、心の中で思うくらい許されるだろう。


 友達からの誘いを断っているのを見ていた加賀野に「いいの?あっち優先してもよかったのに」と言われてしまった。楽しみにしていたのは俺だけだったのだろうか。肩を落として口を尖らせる。


「俺、そんなに薄情そうに見える?」

「違う、そういう意味じゃない」

「ごめんごめん、分かってるよ。気にしてくれてありがと」

 一輝とは昨日遊んだから、と返すと「カラオケ……」と小さな声が聞こえて、思わず笑ってしまいそうになった。

「カラオケ行く?」

「……行かない」

「ふふ、了解。違うプラン考えてるから、行こ」

「分かった」


 ふたりで並んで校舎から出るのはあの雨の日ぶりだ。あのときよりは加賀野の中の俺の好感度は上がっている、と思いたい。

「どうしたの?」

「や、こないだのこと思い出してた」

「こないだ?……雨の日?」

「そうそう」

「そういえばあの日、あれ以上は濡れずに帰れたの?」

「お陰様で。最寄り駅で傘買ったよ」

「そう」

 駅を超えて、学校がある方面とは反対側の改札口を目指す。落ち着いている学校側の改札口とは毛色が違って、そこそこ賑わっている繁華街が広がっている。わざわざ別の駅まで行かなくても遊べるので気に入っていた。どうしても顔見知りが多くなるから、人によってはデートだと気まずい可能性があるけれど。


「こっち側、来ることある?」

「ない。ほぼ初めて」

「よかった。じゃあどこ行っても新鮮かな」

「そんなに気にしてくれなくていいよ」

「でも、またとない機会……というか、加賀野くんと放課後一緒に出掛けるの初めてだから、楽しんでほしい」

「すでに結構楽しいよ」

「え、もう?」

「ほとんど経験したことがないからね」

 そう言う彼の顔を盗み見ると、表情には出てはいなかったものの、その目はいつもよりもきらきらしているように見えた。自分を優先しなくていい、なんて言っていたけれど、少しはこの時間を楽しみにしてくれていたらしい。胸の奥がぎゅうぎゅうと苦しくなった。いい時間にして報いたい。また遊びに行きたいと思ってほしい。そう思うのは、いけないことだろうか。


 小さく深呼吸をして、独りよがりな思考を頭のすみっこに追いやる。加賀野を見やると、心配そうな顔をしていた。

「小倉、もしかして具合悪い?」

「え、全然元気!黙ってごめん」

「いや……何か、苦しそうな顔してたから」

 じ、と顔を覗き込まれてぶわ、と顔に熱が集まるのが分かった。加賀野の瞳のなかいっぱいに自分が映っている。今までにない距離感になんだかどぎまぎしているのが分かって、彼には気がつかれないようにパッと顔をそらした。


「心配してくれてありがと、なんでもないよ。移動しよ」

「分かった。どこ行くの?」

「色々迷ったんだけど~……今日は、加賀野くんの初めてを埋めていこうかと思って」

「……言い方」

「え、ごめん、セクハラだった?」

「いや……ふふ、そんな焦んないでよ」

 声をこぼしてふんわりと柔らかく笑う加賀野を、一緒に過ごすようになってから初めて見た。俺の初めても埋められている。スタンプラリーをしていたらすぐに用紙がスタンプでいっぱいになるかもしれない。今日の裏目標はそれにしようか。


「ゲーセン自体、行ったことないんだよね?」

「うん」

「いろんなゲームが入ってる大きめのゲーセンがあるから、まずはそこに行こうかなって。慣れるまではちょっと耳が痛いかもしれないけど……もっと静かなところのほうがいいかな」

「ううん、行ってみたい。せっかく小倉が考えてくれたんだし」

 案内よろしくね、と言う小倉は俺のことを信頼してくれているらしい。胸の奥がぽかぽかとあたたかくなった。その信頼に応えたい。楽しかった、と思って貰える一日にしたい。……いや、したい、じゃなくて、しよう。


 歩き始めてほどなくして、行き慣れたゲームセンターに辿り着いた。加賀野は家庭用を含めてゲーム全般をほぼしたことがないと言っていたので、直感的にできるものがいいだろう。レースゲームから案内することに決めて、エレベーターに乗り込む。

「耳、大丈夫?」

「びっくりしたけど、大丈夫。賑やかだな」

「すぐ慣れると思うけど、階によって賑やかさも違うかも」

「そうなんだ。これから何するの?」

「まずはー……あ、ついた」

 目的階に到着して、エレベーターから降りる。一階よりも照明が暗く、音が大きいフロアだ。加賀野は大丈夫だろうか。不安に思いながら振り向くと、興味深そうにきょろきょろと辺りを見回していた。ホッと胸を撫で下ろす。


「加賀野くん、こっち!」

 いつもよりも大きめの声で彼を呼んで、その手を引いてレースゲームが設置されているエリアへと向かう。幸運にも先客はいなかった。

「まずはこれからやろう」

「レースゲーム?」

「そう!子供もやってるのをよく見るし、直感的にできると思う。アクセル踏めば進んで、あとハンドル切るだけだよ」

「なるほど……」

「あ、途中でアイテムボックスがあるんだけど、取ってからこのボタン押せば使えるから。対戦相手のこと邪魔したり無敵状態になったりするんだけど……やってみたほうが早いと思う」

「分かった」

 隣同士乗り込んで硬貨を入れる。ピースをしている俺と真剣な顔をしている加賀野が画面に映し出されて「え、写真表示されるの?」と驚いた声が聞こえた。少し恥ずかしそうな顔をしている。新鮮な表情に、またひとつ脳内のスタンプ帳が埋まった。


「……難しい」

「でも、悪くなかったじゃん」

「一位のひとに言われても……」

「あはは、慣れてるから」

 レースが終わって、そんなことを話しながら筐体から離れる。彼は大変不服そうな顔をしているが、初めてプレイするのに中間くらいの順位だったのでセンスがあるほうではなかろうか。


「あ、今度俺の家で練習する?家庭用のゲーム機、うちにあるよ。犬もいるよ」

 どう、どう?と勧誘すると「もう友達になったし、ね?」といたずらっぽく笑いながら言われてどきどきした。そういう顔もするんだ。


「……え、俺たちずっと友達じゃなかったの!?いつから友達になれた?」

「秘密」

「えぇー気になる……」

「ほら、次は?何教えてくれるの」

「そうだなー……あ、じゃああれとか」

「これ、バスケットボールゲーム?」

「そうそう、シュートするだけだから簡単だよ。対戦する?」

「現役バスケ部相手に……?」

「ハンデありでいいよ!俺は左手のみで、ハードモードとか。加賀野くんはノーマルかイージーでいいよ」

「……それは、流石に下駄を履かせすぎじゃない?」

「あ、燃えてきた?」

 普段クラス内で一緒のグループで過ごしているというわけではないものの、体育でグループを組む機会がちらほらある。体育はそんなに本気でやっていないと言ってはいたが運動神経はいいほうらしく、なんでも卒なくこなすタイプだ。勉強もできて運動もできて知的で静かな彼のことだ、きっとモテているのだろう。

 結構面倒見がよくてやさしいので、彼のそういう面を知ったら更にモテるだろうと容易に想像できる。何故か意識的に他人と壁を作っているらしい加賀野の良さを周りのひとにも知らしめたい気持ちと、独占していたい気持ちで揺れる。俺って性格悪かったんだな、と自分を笑った。


「左手のみのハンデでいいよ」

「それ、後悔しない?」

「しない」

「負けたほうが飲み物おごりにする?」

「いいよ。そのかわりって言ったら何だけど、追われるより追うほうが得意だから先にやってもらってもいい?」

「分かった。モードはどうする?合わせるけど、初めてだしイージー?」

「それだと小倉はつまらないでしょ。ハードでいいよ」

 加賀野は案外負けず嫌いなところがあったらしい。彼のやる気に火をつけた責任は取ろう、と手は抜かないで真剣にプレイすることに決めて、硬貨を投入した。



「お疲れさま。加賀野くんって、バスケも得意なんだねえ」

「普通レベルだよ。ハンデありなのに負けたし」

「まあ、これでもレギュラーですから」

 笑う俺とは対照的に悔しそうな表情を浮かべる加賀野を連れて休憩スペースに移動する。加賀野は負けたと言っているが、大差で勝ったわけではない。前に友達とプレイしたときよりもスコア差は小さくて、追い抜かされるのではないかとどきどきしたのは内緒だ。


「何飲みたいの?」

「加賀野くんは?」

「俺?スポーツドリンクにしようかな」

「了解」

 スポーツドリンクを二本購入して、片方を手渡す。「お金……」と支払おうとする加賀野を静止して「今日、付き合ってもらってるお礼」と返すと少し不服そうな顔をしたあと、小さな声で「……分かった」と言って受け取ってくれた。ふは、と笑いが漏れる。加賀野は俺と違って性格がいい。ひとの好意を無碍にしないところは彼の好ましい部分のひとつだ。


「次何する?気になるのあった?」

「まだ何があるのか分かりきってないけど……ぬいぐるみ取るやつとか」

「ああ、クレーンゲームやったことない?」

「うん」

「ちょっとコツがいるけどやりに行こうか。欲しいのあるかな」

 フロアを移動してクレーンゲームコーナーを巡る。お菓子の大容量パックやファンシーなぬいぐるみ、アニメキャラクターのフィギュアやおもちゃなど、色々な景品が所狭しと並んでいた。何か特定のものをゲットすることが目的ではなくてただ単に遊んでみたいのであれば、難易度を下げた設定にされているサービス台にチャレンジしたほうがいいかもしれない。

 そう考えながらサービス台を探していると、加賀野がとある筐体を覗き込んでいることに気がついた。中の景品に視線を向ける。


「犬のぬいぐるみだ。これ、欲しいの?」

「すごい欲しいってわけじゃないけど……これが一番気になった」

「じゃあこれやってみる?」

「うん」

 大きいぬいぐるみは初心者には難易度が高い気がするものの、欲しい景品があるのであればそれにチャレンジするのが一番だろう。硬貨を投入して真剣にクレーンゲームと向き合う加賀野を見守る。六回のチャレンジ中、段々と精度が上がっていっていたことに感心した。勉強が得意な彼は全般的に学習力が高いのだと思う。


「無理だった。待たせてごめん」

「見てるのも楽しいよ。俺、これ続きやってもいい?」

「いいけど、取れなさそうだよ」

 気遣う視線を感じつつも気付いていないふりをして硬貨を投入する。少しずつ移動させて、無事六回目で獲得口に落とすことに成功した。


「え、すごい。獲れた」

「実は得意なんだ。はいどーぞ、あげる」

「小倉が獲ったのに、いいの?」

「いいよ。これ、加賀野くんのために獲ったんだし」

 僕のこと大事にしてね~と犬のぬいぐるみを動かしながらアテレコすると「変な声」と言って嬉しそうに笑ってくれた。大きな犬のぬいぐるみを抱きしめるように抱える加賀野をじ、と見る。うん、よく似合っている。写真を撮りたいと言ったら怒られるだろうか。


「あ、そうだ。プリクラは?」

「プリクラ?」

「撮ったことある?」

「ない」

「やった。じゃあプリクラ撮ろ」

「え、男二人で?」

「記念記念。その子と加賀野くんが出会ったのもさ、残しておこうよ」

 加賀野は少し考える仕草をしてから「そういうことなら、まあ……」と頷いてくれて、心の中でガッツポーズをする。俺もそんなにプリクラを撮った経験は多くないものの、やり方は分かる。プリクラコーナーに移動して、人がいなかった筐体を選んだ。


「俺が誘ったし、多く出すよ」

「いや、これ獲って貰ったし俺が払う。さっきのドリンクのこともあるし」

「気にしなくていいのに」

 俺の言葉は聞こえていないふりをした加賀野が硬貨を投入する。パネルを操作して、案内に従って撮影ブースに移動した。


「これ、ポーズとかどうすればいいの」

「適当にピースとかでいいよ。指定されてるやつやる?」

「……うさみみ」

「ぴょんぴょん」

「……」

「加賀野くん、笑顔笑顔!」

 片腕に抱え直したぬいぐるみに片手を押し当てて、うさみみポーズを取っている加賀野に頬が緩む。素直なんだか、素直じゃないんだか。

 撮影用のおすまし笑顔ではなく爆笑している自分と、真顔が多い加賀野がプリントされているシートをじっと見る。プリクラを撮るときにこんなに笑ったのは初めてだ。


「はいこれ、加賀野くんの分」

「ありがとう」

「シール、スマホに貼ってくれる?」

「は?」

「冗談だってば」

 バッグから取り出した手帳に丁寧に挟み込むのを見守る。彼は何をするときも動作がきれいだ。


「加賀野くんって手帳でスケジュール管理してるの?」

「基本的にはそうしてる」

「おお、なんか分かる。加賀野くんっぽい」

「アプリも使うけど、文字書くの嫌いじゃないから」

「日誌の節はありがとうございました」

「いいよ、気にしなくて」

 手帳をバッグにしまうのを見届けて「まだ、もうちょっと時間ある?」と聞いてみる。時間が過ぎるのはあっという間で、ゲームセンターの外に出たらもう空が暗くなり始める時間帯だった。加賀野は腕時計を確認して「あと少しなら」と返してくれた。


「お腹すかない?」

「ちょっと。でも、もうすぐ夕飯だし……」

「高校生男子、すこしぐらい買い食いできるでしょ~」

「まあ……」

「じゃあクレープ食べない?近くにおいしいお店あるんだけど、加賀野くんって甘いもの好きでしょ」

「俺、言ったっけ?」

「聞いてないけど、一緒にご飯食べてたら分かるよ」

 自分へのご褒美なのか、プリンやシュークリームを買ってデザートとして食べていることがある。弁当を食べているときと比べて幸せそうな表情を見るに、甘いものが好きなのだろうと思っていた。当たりだったようだ。


「放課後クレープ、経験済?」

「……初めてだけど」

「ふふ、やった」

「まだ続いてたの、それ」

「うん。これからも続けるつもり」

「えー……」

 クレープ屋さんに到着してすぐに、加賀野の視線はラインナップ豊富なメニューに釘付けになっている。俺は甘いものは好きでも嫌いでもないので、おかず系のクレープでも甘いクレープでもどちらでもいい。時間帯的におかず系にしようか、と思いながら加賀野と一緒にメニューを眺める。


「決まった?」

「……迷ってる」

「どれ?」

「このプリンのやつと、ブラウニーのやつ」

「じゃあ、俺そのどっちか頼むよ。そしたら二つ食べられるでしょ」

「え、でも」

「いいからいいから。どれ頼むか決まってなかったし。すみませーん!」

 受け取ったクレープを手にベンチに二人と一匹で並んで座る。端から見ると少しばかりファンシーかもしれない。誰にどう見られようが気にならないのでどうでもいいけれど。


「はい。加賀野くんどうぞ」

「俺のも」

「いいの?」

「俺だけ貰うってフェアじゃないでしょ」

「気にしなくていいのに……お言葉に甘えようかな」

「ん」

 控えめに一口だけ齧らせてもらった。生クリームの甘さとチョコレートソースの甘さが口のなかいっぱいに広がる。たまに食べるとおいしく感じる。前に食べたときよりもおいしくなっている気がした。


「あー楽しかった。加賀野くん、今日どうだった?」

「楽しかったよ。俺ひとりじゃ今後も経験しなかったかもしれないし……今日はありがとう」

「よかった!また遊んでよ。うちに来るとか」

「はは、考えとく」

「俺たちもう友達いいじゃん」

 ね?と顔を覗き込んで聞くと、不意をつかれた顔をしてからすぐに「そうだね」と笑ってくれた。

 今日一日で、これまでに見たことがなかった加賀野の表情をたくさん見られてうれしい。昨日よりも仲良くなれたのは気のせいではないだろう。

 もっともっと仲良くなりたい。そう思っても、たぶん今の加賀野なら許してくれる気がする。今日が終わってしまうことに寂しさを感じながら、ランチタイムよりもゆっくりとクレープを口に運んだ。

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