第6話 微笑み
弁当屋のカウンターの前で、優しく微笑む店員。見覚えがある顔。そう…… あの日、冷たい眼で私を睨んでいた女。でも、あの女はあっち側、つまり幽霊とかの類ではなかったのか? ここに居るのは正真正銘、生きている人間で間違いないだろう。実際に弁当屋で働いているし、タケト君と会話もしている。
私は、またあの眼を…… あの薄ら寒い感覚を思い出す。
「ユウコちゃん、決まった?」
「あ、うん。じゃあ唐揚げ弁当で」
「おっ! いいね。グッドチョイス! じゃあ唐揚げ弁当とハンバーグ弁当お願いします」
タケト君が注文してくれた。
「はい。唐揚げとハンバーグね。佐伯君、ハンバーグ好きだねぇ。いつもありがとう」
「えっ。あ、うん」
「お友達も、どうもありがとうございますね」
女の言葉は、どこか引っ掛かる。「いつもありがとう」って、まだ二、三回なのに? 女の勘だけど、この人はおそらくタケト君に好意を持っている。同年代の男女が一緒にいれば、カップルの可能性だってあるはず。でもこの人は、わざわざ「友達?」って聞いてきた。「彼女?」の方が自然なような気がする。そして、やたらと『ともだち』と強調するような、決めつけるような言い方をしてくる。まるで、そうじゃないと「許さない」と言わんばかりに。
「ありがとうございました」
愛想よく微笑む女の顔は、私には薄気味悪く感じた。あの日見たあれは、何だったのだろうか。幽霊ではなかったのか。
「タケト君、さっきの店員さんってさ」
「ん? あぁ、日野さんね」
「日野さんって言うの?」
「うん。高校の同級生なんだよ」
──ああ、そういうことか。
「でもさ、ほとんど話したことないんだよね。なんとなく顔知ってる程度。高校出てから、こっちに来たことも知らなかったし」
「ていう割には、ずいぶん親しそうだったね」
「そうなんだよね。偶然あの弁当屋で会ってからさ、やけに気さくに話しかけてくれてさ。高校の頃は、あまり目立たない印象だったんだけど」
「ねぇ、タケト君。あの子ってさ、タケト君のこと好きなんじゃない?」
「えー、まさかー。そんな訳ないでしょ。だって、ほとんどしゃべったことないんだよ」
タケト君はマイペースで鈍感で、ちょっとビビリだ。まぁ、そこが彼の良い所ではあるんだけど。
「タケト君のこと、追っかけて地元から出てきてたりして……」
「もう、やめてよユウコちゃん。ある訳ないじゃん」
そう言ってケラケラ笑うタケト君。
その時、私は嫌な気配を感じて振り向いた。タケト君もつられて振り向く。なんと、振り向いた先にあの女が立っている。あの冷たい眼で、また私を睨んでいる。
「どした? ユウコちゃん。誰かいたの?」
──あぁ、そうか。またか。
タケト君には見えていない。私には視えている。ということは、そういうことか。
──え、待って。あれってもしかして……
第7話に続きます。
どうぞよろしくお願いします。




