第5話 安心……
──やばいやばい…… どうしよう。
外観は小綺麗でおしゃれな、今風のアパートを前にして足がすくんだ。前回に増して嫌な感じがする。タケト君の部屋の周りを、言いようのない違和感がつつみ込んでいる。でも、何も視えない。何も居ない。とにかく『なんか、嫌』なのだ。
「ユウコちゃん?」
「え」
「なんか顔色悪くない?」
「あぁ、ちょっと疲れたかな。昨日あんまり眠れなくて」
「え! 大丈夫なの」
「うんうん。平気平気」
──とにかく、部屋の中を確認しなくては。何もなければタケト君を安心させることができる。何もなければ……
「じゃあ、どうぞユウコちゃん」
玄関を開けて先に中に入るタケト君を背中を見ながら、気付かれないように深く息を吸い込む。
「ね、普通でしょ。いたって快適なんだよね」
「うん……」
「ま、俺は霊感とかないんだけどね」
タケト君は呑気に笑っている。
玄関から見て左側にバス・トイレ、右側にコンパクトキッキン。奥のリビングは日当たりが良く、夕方に差し掛かった時間でもとても明るい。
「どうかな」
「うん…… まぁ」
「ユウコちゃんはあんなこと言ってたけどさぁ、めっちゃ居心地いいんだよね」
「……そうだね。ごめんね、変なこと言って」
タケト君は私を連れてくることで安心したのか、またいつもの他愛もない話題が流れる。ほとんど会話の内容は入ってこず、タケト君の言葉は雲がふわふわ浮かぶように、ワンルームの空間を彷徨っていた。私の言葉さえも。
「よし! じゃあ、また駅まで送りますよ」
「うん。ありがとうね」
──駄目かもしれない。
これは、やばいかもしれない。とても良くない気がする。やっぱりうまく言い表せないないけど、不安の塊のような『違和感』を感じる。何かがいるわけではない。どうしょうもなく落ち着かない。こういうことは時々あった。でも避けて関わらないように、今まであえて見過ごして来た。でも友達の身に何かあったらと思うと、さすがに安心できない。
──伝えるべきか……
「ユウコちゃん、弁当買って帰ったら? 奢るよ」
──また不安を煽って、タケト君の平穏を乱してしまう……
「ユウコちゃん?」
「え? あぁ、なんだっけ?」
「弁当。食べない? 奢るよ。美味いんだよここ」
「え、いいの! ゴチになります!」
「どうぞどうぞ」
タケト君のアパートから駅までの、ちょうど中間あたりにあるお弁当屋さん。引越してからすでに、二、三度利用したらしい。確かに値段も安くて食欲をそそるサンプル写真と、店の奥から鼻に届く美味しそうな匂い。
「こんにちは」さっそく常連気取りのタケト君。
「あ、こんにちは」若い女性店員が応える。
「ユウコちゃん、なんにする?」
「うーん。悩むなぁ」
「お友達? 佐伯君」
「ん、そうそう友達、友達」
タケト君は、女性店員の問いに私を見ながら応えた。
「へぇ、こんにちは。いらっしゃいませ」
もう名前まで覚えられてるの? 二、三度来ただけなのに? 私はそんなことを思った。「あ、どうも」と、挨拶に応えながら彼女を改めて見た。
──なんで……
第6話に続きます。
どうぞよろしくお願いします。




