第3話 冷たい眼の女
「ユウコちゃん、今日はありがとう。助かったよ。マジ感謝」
「いえいえ。こちらこそご馳走になっちゃって」
「安い定食屋で申し訳なかったけど」
「が、いいの。安くて美味しい定食屋さん最高」
引越しもあらかた片付き、夕飯に定食をご馳走になった。タケト君の新居の近くで見つけた年季が入った店。結局、こういう落ち着いた雰囲気の店が一番いい。店を出て通りを歩く。日が落ちて間もない時間だが、既にほろ酔い加減のサラリーマンなどもちらほら見かける。
「わざわざ送ってくれなくてもいいよ」
駅に向かう私についてくるタケト君に言った。
「ちょっと付近の散策がてらに」
「ああ、なるほどね」
だいたいいつも、タケト君と話すと地元の話題になる。懐かしいローカルCM、方言や地元あるある。他愛もない話が、心地よく続いていた。
──……?
独特な匂いが立ち込める通りの角、人気のラーメンチェーン店の前を通り過ぎた時だった。
「タケト君?」
「なに」
「今の人」
「ん?」
「知り合いじゃなかったの?」
「え、誰」
タケト君は、振り向いて辺りを見回す。私も同様に振り向いた。
──うっ……
驚くのと同時に背中に冷たいものが走った。さっき、角のラーメン屋の脇に女性が一人で立っていた。私達と同年代だろうか、肩まであるストレートの髪は艶のある栗色、よく見かける量産型のファションでどこにでもいる最近のおしゃれ女子の印象。その子がタケト君を見て、優しく微笑んで会釈をした。タケト君は気付いてない様子だったので「知り合いじゃなかったの?」と私は問いかけた。で、タケト君と一緒に振り向いた。驚いた理由は、彼女の雰囲気が全く変わってしまっていたからだ。ついさっき見たやわらかく優しい笑顔とは違い、感情のない冷たい眼で私を見ている。タケト君には目もくれずに……
私は、首だけをゆっくり動かしてタケト君を見る。タケト君は不思議そうに私をじっと見ていた。
「誰よ? どこよユウコちゃん」
「え…………」
──ああぁ、そっちかぁ…… そっかぁぁ
「あ、いや。もうどっか行ったみたい」
そう言うしかなかった。女は見えてはいけないもの…… 他の人には見えていない。タケト君に言いたいけど言えない。信じてもらえないだろうし、部屋のこともあり気味悪がられるだけでなく、不愉快にさせてしまうと思った。あの部屋の違和感と、見知らぬ女は関係があるのだろうか? 気がつくと姿が視えなくなっていた。女はどうしてあんなにも冷たい眼で、私を見据えているのだろうか。
「ほんっとにありがとう。助かったよユウコちゃん」
「いえいえ。私もなんかあったらタケト君をこき使うから」
「怖っ! 覚悟しとこう。じゃあ気をつけてね」
「サンキュー。またね」
結局、タケト君には話さなかった。
──話せなかった……
駅のホーム。向かいのホームを通り過ぎる快速列車をぼんやり眺めていた。あの女の顔が頭から離れない…… タケト君の身に、何も起こらなければいいけれど。
このホームにも、あっち側の人達が混ざっているんだろうな。私はそれをわざわざ見分けることもしない。それは意味のないことだと思っているから。
──やっぱりだ……
駅に着いてしばらくたって、違和感を感じ始めていた。あの部屋で感じたような嫌な感じ。うまく表現できないが、凄く良くない感じ。世界が真っ黒な雲に覆われてしまうような不安感。今、襲ってくこの感覚は、タケト君の部屋よりもずっと色濃く感じる。なんだか体も重たくなってきた。
第4話に続きます。
よろしくお願いします。




