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第2話 告知義務


 タケト君には私の変な能力のことは言ってない。そもそも、親以外ほとんどの人にしゃべったことがない。よくある話だが、どうせ気味悪がられて避けられる。そのことに、ずいぶん早くに気付けてよかったと今は思う。


「実はさ、俺も聞いたんだ」

──えっ…… 

「ほら! やっぱり気になるところあったんだ」

「待って待って。内見でもなにもなかったよ。ほんと、別になんにも。だいたい俺、霊感とかないし。ただ、ちょっと前から流行ってるじゃない。事故物件? そういうの。本とか映画とかサイトとかもあってさ、あんまり気にしてないんだけど冗談半分で聞いみたんだ。『もしかしてこの部屋って……』ってね」

「それでそれで?」



 タケト君の話はこうだった。

「きましたか……」

 駅前のたまたま選んだ不動産会社。担当してくれた『渡辺』という中年の男性。やや細身の彼は、ヘアースタイルは短く整えられ、高級そうなスーツが様になっている。接客中ずっと保っていた人懐っこい笑顔を、一瞬だけ曇らせタケト君の質問にそう答えた。

「きましたかって…… なんかあるんですか?」

 タケト君は恐る恐る渡辺の顔を見つめた。渡辺はタケト君の視線をそらすように横を向き、気持ちを落ち着かせるように鼻から息を吐いた。

 

「えっ! ちょっと待ってください! 冗談でしょ」

 動揺を隠そうともしないタケト君に対し今度はしっかりと目を合わせた渡辺は、カウンターテーブルの上で指を組む。

「実はですね……」渡辺は声を落とした。


「ん゙、うん゙!」

 言葉を遮るように、渡辺の背後から大げさな咳払いが聞こえた。タケト君は思わずカウンターテーブルに両手をつき、腰を浮かせ上半身を倒して渡辺の背後を覗き込んだ。後方のデスクには渡辺と同年代であろうか、やたらと目と口が大きく、はつらつとした印象の女性が座っていた。先ほどコーヒーを出してくれた人だ。

「渡辺さん。そういうのだめって言ってるでしょ」

「ははは。すいません店長。ついつい」

「学生さんだからって、大事なお客様なんですから」

「わかっております」

「ごめんなさいね。この人、若いお客さん来ると…… ほんとにもう」店長らしい女性はにっこり笑う。


 二人を交互に見るタケト君を見て、渡辺はまた人懐っこい笑顔に戻る。


「え…… どういうこと……」

「どうもすみません。いや、最近とても多いんですよねぇ」

「事故物件が…… ですか?」

「いやいや。事故物件かどうかを聞いてくるお客様ですよ。ここ最近、特に増えましたね。」

「そうなんですか。で、あの……」

「大丈夫ですよ。お客様に見ていただいた物件は全く問題ありません。こちらも滅多にそういう物件をお勧めはしませんよ」

「事故物件って、あるにはあるんですか」

「まぁ、あるにはあるんてすが…… でも私の経験上、そういう部屋であっても実際に住んで何かあったとかはないんですよね。不思議と」

「そういうもんなんですね」

「もしかしたらお客様、霊感とか?」

「ないです! 全然。興味本位て聞いただけです。でもよかったぁ」


「お客様。こちらとしましても、しっかりとした告知義務があります。心理的瑕疵物件と言いますが、法的に定められてますので安心して下さいね」そう言って店長は口が裂けるほど口角を上げた。


「後の手続き等は、メールをお送りしますので確認下さい。どうぞよろしくお願いします」

「ありがとうございました。お気をつけて」

 渡辺と店長の挨拶に、タケト君は妙に気恥しく目を合わすことができず「どうも〜」と変な感じで店を出た。


「と、まぁそんなところですよ」

 タケト君はビビリのくせ、不動産屋にカマをかけたことを後悔したと言う。

「不動産屋のお墨付きだから。なんの問題もございません!」

「あぁ、そうですか。ようござんしたね」


──そうなんだよな

 住むのはタケト君なんだから、タケト君がいいのならいいのだ。私の余計なお世話だった。それにやっぱりなにも視えない。ただただ『なんか、嫌』なんだ…… 



第3話に続きます。

よろしくお願いします。

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