対抗策
この館内放送を聞いて、人質たちも、山元の4人の仲間たちもざわついた。
この風祭の提案を飲めば、報酬より4000万円も多い、一人頭6000万円も手に入れることができる。
そして、人質を一人も殺さなかったら、もっと安全な逃走ルートも確保される可能性がある。その上で、計画通りの逃走ルートを使えばいいのだ。
そして、人質を殺さなかったら、時効までの10年だけをを我慢すれば、警察から一生逃げ回る必要はなくなる。
4人の同志たちの気持ちは揺らいだ。
そこへ、血相を変えた山元が、チケットカウンターの女性スタッフを引きずってやって来る。
「お前たち、まさかやつの提案に乗るわけじゃないよな?」
まず入口側を守っていた2人に睨みを利かせる。
その山元の怒りに満ちた血走った目に、2人は黙って頷く。
山元は、他の人質のところに女性スタッフを放り込むと、自分もその人質たちがすし詰め状態の中に入っていく。
「邪魔だ! どけ! 道を開けろ!」
人質たちも、その山元のあまりの激昂に無理やり道を開ける。
「お前ら、なにをサボってる!」
山元は、出口側にいた2人が、なにか話し合いをしているのを見て、声を荒げた!
「す、すみません。ただ、あの風祭の話に乗った方が、得なんじゃないかと……」
「ふざけんな! お前たちの意志は、そんな軽いものだったのか!」
「いえ。違うんです。そのやつの提案を利用した方がいいのではと」
「利用?」
その言葉を聞いて、山元も一瞬考える。
「どういうことだ?」
「だから、やつの提案を逆手に利用するんです。我々なら、できるはずです」
そう。一人が提案した。
山元は、それを聞いて頭をフル回転させる。どうすれば、あの風祭の上をいけるのかを考える。
その妙案が浮かんだ。
「良いだろう。そのやつの提案に乗ってやる」
山元は、そのあとのことを想像して、ほくそ笑んだ。
♢
この大掛かりな人質事件の犯人たちが、何の目的や報酬もなしに、こんな大胆なことをするわけはないと、風祭はそう考えていた。
だとしたら、絶対に彼らを支援している者がいるはずだと思った。
先ほど屋上で狙撃中を構えていたSATの隊員を攻撃したドローンは、一般の市販品を改造したものかもしれないが、明らかに戦闘攻撃用のドローンだ。
その被害状況から察するに、少し威力のある花火程度の爆発力と推察できるが、警察に対して屋上から撤退させるための威嚇としては十分だろう。
報告では、3機のドローンが使われたそうだが、その大きさから、もう複数機のドローンが用意されていてもおかしくはない。
そして、水族館の防火扉の内側に仕掛けられている爆弾は、屋内の非常口と屋外の非常口の1か所ずつ。
このビルのに入る前に、外の乗用車の爆発のあとをみる限り、あの残っていた匂いからも、あそこまで炎上したのは、おそらくはガソリンに引火したことによるもの。
だから、防火扉の内側に仕掛けられた爆弾も、その類だと推測される。
ただ、引火性が高く、揮発して爆発するガソリンは、本当に怖い。それは間違いない。
彼らの当初のこのビルからの逃走ルートはどこだ。そう考えた。
♢
山元たちは、背の高い男性たちを30人ほど集めて並べた。
各々10人ずつに分けて、それぞれの両手を太い結束バンドで数珠つなぎに繋ぐ。
そして、先ずは屋内の防火扉の内側にその10人を立たせて、もう10人を屋外の防火扉の前に立たせる。最後に屋外の出口のところに10人を立たせる。
その命令は、簡単な指示と散弾銃を突き付けるだけで十分だったが、風祭の誘いの言葉に人質が勘違いして惑わされぬように、しっかりと脅しはしておいた。
これが風祭に対する山元の第一の対抗策である。




