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ベビーシッター 交渉人・風祭佑之  作者: 志村けんじ


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6/13

交渉開始


 この一連の流れを受けて、捜査一課・第一特殊犯捜査・特殊犯捜査第一係で話し合われたのは、次の交渉人を誰にするのかということだ。


 もう。普通のやり方での交渉では、このような世間を騒がせることによって快楽を得ようとしている、愉快犯に対応することは困難だという結論に至った。


 だから、不本意ではあったが、この事件の交渉人として、当日は非番のはずだった風祭佑之かざまつりゆうすけが招集された。


 その風祭は、地下アイドルの推し活で、ミニライブを楽しんでいた。


「イエーーイ! みんな、サイコー!」

 そう盛り上がっていた。


 そこに警察の上司から、スマホに連絡が入る。


 それだけで、凄く嫌な気分になった。


 それでも、舞台の前から少し離れたところに移動して、その電話に出る。


「はい。風祭ですが。なにか?」

 そう。普通に聞いた。


「なにかじゃない!? 大事件だ! いまからすぐに現場に来い! すぐにだ!」

 なんの説明もなしに、いきなり怒鳴られた。こういうときは、決まってよくないことだ。


「それで、場所はどちらに?」

 仕方なしに、その場所を聞いた。


「池袋のワールドインポートマートビルにだ! すぐにだからな!」

 返事を返す前に、そう一方的に怒鳴られて電話を切られた。


 仕方なしに、ミニライブの途中ではあったが、風祭は外に出てすぐにタクシーを捕まえて、池袋のワールドインポートマートビルに向かった。


 タクシーの中で、可愛いキャラクターがプリントされたパーカーから、リュックの中に入っていた作業着に着替える。


 次にスマホに送ってもらった、現在の事件の状況のデータを確認する。



 そして現場のワールドインポートマートビルの前に到着してタクシーを降りると、ゆっくりと周囲を見渡す。


 まず目に飛び込んだのは、炎上して真っ黒焦げになった3台の車だ。 


 その内の1台の周りをゆっくりと回って観察する。


 特に気になったのは、後部座席からトランク部に掛けてだ。


 おそらくは、その下にガソリンタンクがあるからだろう。


 この事件の成り行きを見物している野次馬の数は、それなりに集まっていて、三人に一人がスマホのカメラを構えている様子。


 そして、各テレビ局のカメラも、全局来ているようだ。


 風祭は、左右の様子をゆっくりと確認しながらビルの中に入った。


 ビルの手前から入り口には、すでに規制線のテープが張られていて、館内は警察関係者以外は皆退去している。


 犯人たちによって、エレベーターが止められていることも、念のため確認する。


 通常のマニュアルでいえば、犯人の逃走ルートを少なくするために、警察の方でエレベーターを止めるというのはある。


 ビル全体の電力を全部遮断するというのもありだ。


 しかしながら、相手の姿がまったく見えない状況でそれをするのはリスクが高過ぎる。


 隣のプリンスホテルの屋上から、犯人を狙撃するという方法もあるのだろうが、その為の対処も犯人たちはきっと織り込み済みのはずだ。


 そして人質となっている人たちを救出する上で、一番怖いのは爆弾だ。


 おそらくは、屋上の何箇所かにも仕掛けられているはずだし、そう考えるのが自然である。


 非常階段を上り、ビルの管理室に到着する。


 みんな慌てたというよりは、イラついた様子だ。


「お疲れ様です」

 風祭は、社交辞令として挨拶した。


「まったく、おせーよ!」

 非番の日に呼び出されて、第一声がこれである。酷い話だ。もう少しねぎらいの言葉というのも掛けてもらいたいものだ。


 部屋の奥を見ると、最初に交渉を担当した三島幸利警視が、それ以上に不満な顔をしている。


「では遅ればせながら、犯人との交渉をやらせていただきます」

 そう言って、風祭は電話機に付けられたヘッドホンマイクを付けると、リダイヤルボタンを押す。


 そして1コール鳴る前に電話を切る。そして、もう一度リダイヤルする。


 そして今度は、1コール鳴ると電話を切る。そして電話を掛けるのをやめる。


 そこから5分間は、沈黙したままだ。そして、もう一度リダイヤルする。


 そして、もう一度電話を切る。また沈黙する。


 すると、向こうから電話が掛かってくる。


 だが、電話には出ない。受話器を持ち上げると、すぐに受話器を置いて電話を切る。


 そしてまた沈黙する。その約20秒後、また向こうから電話が掛かってくる。


 ここで風祭は、その電話に出た。


「はい。ワールドインポートマートビル管理室です。なにかご用件でしょうか」

 そう答えた。


「なるほど。今度の交渉の相手は、なかなか面白そうだ。名前を教えてくれ」

 そう聞いてきた。


「では、名無しの権兵衛さん。ボクにもあなたの名前を教えてくれないか。名無しの権兵衛のままだと、どうも呼びづらい」

 そう聞いた。


「ふふ。いいでしょう。教えますよ。僕の名前は、山元太朗」


「そうですか。ヤマモトタロウさんですね。失礼ですが、漢字ではどう書くのですか」

 そう聞いた。


「……。ヤマは、野山の山。元は、ゲンという字。太朗のタは、太い。朗は右側が月の字。それで、今度はあんたの名前も教えてくれ」

 ほんの少しの沈黙のあと、山元太朗と名乗る犯人は、そう答えた。


「僕の名前は、風祭佑之かざまつりゆうすけ。これからあなたと、最善の方法を見つけたい」


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