表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベビーシッター 交渉人・風祭佑之  作者: 志村けんじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

終結


 一方で、風祭たちも、おおよその準備が整った。


「林隊長。ボクに銃を貸してもらえますか」

 風祭は、SATの第二小隊の隊長である林義政警部補に、そう言った。


 林警部補は、ホルスターから、SIG226 E2オートマチック拳銃を抜くと、安全紐を外して、そのまま風祭に渡す。


 このSIG226 E2という拳銃は、特殊部隊向けの操作性が高い、高性能の拳銃だ。


 林は風祭に、別で用意していた防弾チョッキを渡す。


 風祭は、防弾チョッキを受け取って、少し考えると、作業着の下にそれを着た。


 風祭の役目は、人質たちの代わりに死ぬことではない。安全に人質たちを救出することだ。


 その役目を、完遂かんすいしなければならない。


 既に各警察官たちが、配置についている。


 約束の時間、23時の3分前になって、風祭は山元に電話を掛ける。


 同時に館内放送で、山元との電話の内容を流す。


「山元さん。どうやら、ギリギリ間に合いました。これから身代金の、現金3億2400万円を渡したいので、上り専用のエレベーターを動かしてくれないか」

 そう頼んだ。


 山元は、目で仲間に、その指示を出す。


 山元たちは、警視庁・技術班によって、エレベーターシステムに介入できるようになったことは知らない。


 1階に停止したエレベーターのドアが開き、そこに1億円ずつ入ったケース3つを横に倒して置き、そこに残りの2400万円を3つに分けて、ケースの上にそのまま置く。


「いま、エレベーターの中に置いた。上で確認してほしい。もし、心配なら5人全員で確認した方がいい」

 そう言った。


 犯人たちも、そう言われると、そのことが気になってしまう。


 だからといって、このまま持ち場を離れるわけにはいかない。


 それでも、どうしても気になって、2ヵ所の防火扉の前にいた犯人2人と、 水族館の屋外の出入口にいた犯人1人は、少しだけ持ち場を離れた。


 風祭とSATの隊員は、連携してそのタイミングを見逃さなかった。


 2ヵ所の防火扉を静かにスライドさせて開けると、隊員の1人が、爆弾の前にいる10人の人質男性に、「声を出さないように」と、人差し指を立てて口の前に持っていきジェスチャーで伝える。


 次に、2人の隊員が、結束バンドで繋がれた10人が転ばない程度の力で引っ張り、内側の方に引きずり込む。


 そこで、爆弾に目掛けて、泡消火器を掛けたあとすぐに、水族館内に向けて、視界を奪うほどの大量のドライアイスの煙を、静音モードにしたサーキュレーターで流す。


 この2ヵ所のタイミングは、屋外の防火扉の方が先で、その20秒後に屋内の防火扉から、水族館内に流す。


 そのことに持ち場を離れていた犯人3人が気づいたとき、屋外にいた犯人1人と、それに慌てて屋外の出入口に飛び出した犯人の1人の上半身の複数箇所にレーザーポインターの赤い光が当たる。


 その赤い光は、ドライアイスの煙の中から現れた、SATの隊員だけでなく、別のビルの屋上からも伸びていた。


 SATの隊員は、無言のまま、「カチャ」っと、MP5サブマシンガンを、犯人に向けて構えた。


 犯人たち2人は、この時点で、すぐに無駄な抵抗することはせずに、持っていた猟銃用のショットガンを捨てた。



 水族館のエレベーターの扉の前には、山元と、もう1人の犯人が、エレベーターが上ってくるのを待っている。


「チン」

 という、到着音と共に、扉が開くと、そこには待っていた現金が置かれている。


 3つの横に倒されて置かれたケースの上には、600万円ずつ裸で、100万円の札束が置かれている。


 山元は、それを見て、ニヤリと笑った。もう一人も、その現金の札束を見て、興奮が抑えきれない。


「ヨッシャーー!」

 と、堪らず奇声を上げた。


 山元が、エレベーターの中に入って、その現金を取ろうとすると、非常ベルが水族館内に鳴り響く。


 水族館の奥の方から、白い煙が立ち込めて、一方通行の通路全体を包み込む

 山元が、そのことに気が取られて、エレベーターの中から出ると、その瞬間、扉は閉まって、そのまま下に下りていった。


「なに、ボケっとしてんだ!? 見てこい!」

 そう山元は命令して、もう1人が慌てて、白い煙の中に入っていく。


 そこに、風祭からの電話の着信。


「どういうつもりだ!? 風祭! 人質がどうなってもいいのか!?」

 すぐに電話に出ると、そう脅した。


「やれるもんなら、やってみればいい。おそらく、もう爆発はしない」

 そう返す。


「どういうことだ!?」


「もう気づいているかもしれないが、これは火災による煙ではありません」


 そう風祭に言われて、山元は、この煙から延焼している匂いがないことに気づいた。


「くっそぉーー!」

 山元は、爆弾の遠隔操作の起爆スイッチを出すと、トグルスイッチを入れる。


 しかし、何度「カチャカチャ」と、レバーをONに倒しても、爆発音がしない。


「この煙は、ドライアイスの煙。つまり二酸化炭素の煙です。あなたも知っているように、酸素がなければ、爆発はおろか、物は燃えない」

 風祭は、諭すように、山元に説明した。


「風祭ぃーー!」

 どうしようもない怒りが、山元に込み上げる。


 だが、このままむざむざ引き下がるわけにはいかない。


 山元は、4人の仲間を見捨てででも、脱出することにした。


 脱出ルートは、消防隊が入る為に設置されている外壁にある非常用進入口の窓だ。


 この窓を破壊して、ロープで地上まで降下するラベリングで脱出する。これが当初からの逃走ルートだ。


 その為に、最初にドローンを使って、隣のビルにいたSATの隊員を排除して、近づかないようにしていたのだ。


 風祭も、これには気づいていないだろうと思った。


 急いで、その非常用進入口に向かう。


 その白い煙を掻き分けて向かう途中、居るはずの人質たちの姿が一人もない。


 非常用進入口の前に来ると、一人の男が立っていた。


 山元は、その男を見て、すぐに風祭だとわかった。


「これはこれは、風祭さん。お初にお目にかかります」

 山元は、白々しい口調で言った。


「山元さん。もう諦めてくれないか。もうあなたに逃げ道はない。あなたの4人の仲間は、武器を捨てて大人しく投降してくれた」

 そう言った。


「なら、どうやって、武器を捨てさせた」


「簡単だ。映画のように、レーザーポインターを使って、警告させてもらった」

 レーザーポインターを、敢えて使用したのも、一瞬の判断で戦意を喪失させるための風祭の作戦だった。


「普通、実際には、目立つレーザーポインターは使わないものだが、ここは銃社会ではない日本だ。銃を捨てさせるのには、それで十分だ」


「彼らに、自分の命を賭けるような覚悟がないことは、身代金の話に乗った段階でわかっていた」


「死に急ぐ人間は、金など必要としない」


 山元たちは、すでに風祭一人に負けていた。


「だから、山元さん。あなたも……」


 風祭が最後まで言い終える前に、山元は改造拳銃の銃口を風祭に向ける。


 山元は悔しさのあまり、風祭に向けた銃口を一度天井向けて、一発発射する。


 その一発で、冷静さを取り戻そうとしたのだ。


 しかし、その山元に、風祭が構えた銃口が向いている。


「諦めてくれないか。ボクはこれでも、FBIで対人射撃の訓練を受けている。成績は、AAダブルエーだ。マトは外さない」


 風祭の言った、AAダブルエーとは、A評価の上で、スナイパーのAAAトリプルエーの下。つまり、かなり優秀な成績だったということだ。


 山元にも、素人に毛が生えた程度の、自分の実力では、目の前の風祭には敵わないことはわかっていた。


 だから、自ら「死」を選ぶことにした。


 それが自分に残された、「最後のプライド」だと思った。


 銃口を右のこめかみに当てて、目をつぶる。


 山元が、最後の覚悟を持って、引き金を引こうとしたとき、風祭の銃から発射された一発の弾丸が、山元の右手の甲を撃ち抜いた。


 その衝撃で、手から離された改造拳銃が、床を滑るように転がる。


「死んで、どうする!」

 風祭は、心からの声で叫んだ。


 風祭の銃声を聞いたSATの隊員数名がやってきて、山元に拳銃を構える。


「うぉっ……うぉーーっ!」

 山元は、床に顔を突っ伏して、号泣した。


 もはや山元に、戦意などなかった。



 夜になっても、街灯とネオンの明かりが照らす池袋の街の中、手錠をされた5人の犯人たちが、ワールドインポートマートビルから連行されて出てくる。


 風祭も、山元の左後ろを歩いていた。


 風祭は、これで担当から外れるはずだが、主犯格である山元には、この事件の全容を、すべて自白してもらう必要がある。


 一体、何の目的があって、このような大それた事件を起こしたかを究明しなくてはならない。


 規制線が張られた外に、その様子をうかがっていた、一台の大衆車が停車していた。


 色の濃いスモークフィルムが張られた、助手席側のリアガラスが下がると、そこから、レミントンM700ライフルの銃口が出てくる。


 風祭は、その殺気に気づいた。


「みんな、地面に伏せて!」

 とっさに、風祭はそう叫ぶ。


 次の瞬間。山元の眉間が、そのライフルから発射された弾丸で撃ち抜かれる。


 その大衆車は、急ぐわけでもなく、静かに夜の街の中に消えていった。


 すべての全容を知る、山元太朗容疑者は、その後、被疑者死亡のまま検察庁に送検された。


 今回の事件は、人質たちの中から一人の犠牲者も出すことはなかったが、真相は未だ謎のままだ。



※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは、一切関係がありません。


最後までお読みいただきありがとうございます。思いつきで書いたものだったので、続編を書くつもりはありませんでしたが、続編のシーンが頭に浮かんだので、今後続編を投稿する予定です。仮題は「ベビーシッター 交渉人・風祭佑之 -メトロノーム-」です。暫し、お待ちください。


3月27日(金)より、ホームコメディの「女子プラモ部」を、火曜・金曜の週2回投稿していきますので、こちらも読んでいただけると嬉しいです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ