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ベビーシッター 交渉人・風祭佑之  作者: 志村けんじ


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12/13

陽動


 現状で風祭が必要とするピースは、まだ全部揃わない。


 人質たちの身柄を安全に迅速に確保することと、山元たち犯人の説得、もしくは拘束。


 それを一度にできるためのピースが、全部揃わなければダメだ。


 そんな考察の中、その待っていた、最初のピースが揃った。


 PTZドーム型防犯カメラの復旧だ。


 これはひとえに、警視庁・技術班の努力に他ならない。


「みんな、ありがとう」

 風祭は、ビル管理室で目的を達成してくれた技術班たちに、深々と頭を下げてお礼を言った。


 まず、これまで映っていなかった2ヵ所の防火扉の前に、10人ずつ男性の人質たちが両手を結束バンドのようなもので数珠つなぎにされている。


 その人質たちの前には、小型の機械のような物が置かれている。


 おそらく、これが爆弾なんだろう。


 もし、風祭の推察した、ガソリンを使用した爆弾であれば、その大きさから使用しているガソリンの量は、おそらく1~1.5リットル。


 たったこれだけの量でも、圧縮を掛けて引火させれば大炎上の爆発を起こすことは間違いない。


 それなので風祭は、被害を最小限に抑えるための、ある作戦を行うことにした。


 それを行うためには、絶対にあるものが必要だ。そうと決めた風祭は、至急指示を出す。


 そしてもう一つ。この作戦には、すべての動きを連携で行う、チームでの行動が絶対条件だった。


「申し訳ない。ここに来ている、SATチームの隊長を、至急呼んでください!」

 そう指示を出す。


 そこにいた警察官たちの中には、結局SATによる強襲を掛けるのかと思った者もいたが、そうではない。


 それは、銃器を持った犯人を、話による交渉のみで放棄させることは、基本不可能だからだ。


 それなので、犯人たちが諦めて、銃器を放棄する手を打つのだ。


 それは相手が犯罪者であっても、「命」というものを最大限に守るというのが、風祭が警察官として根ざした信念にほかならない。


 風祭は、そのあと自分が考案した人質救出作戦の内容を、この場にいた全員に、丁寧に説明する。


 もちろん、それは100%安全だとは言い切れないが、最大限、安全に配慮されたものだった。



 風祭は、山元が指定した約束の時間まで1時間を過ぎて、山元に電話した。


「山元さん、風祭です」

 風祭は、まるで近しい人に電話したときのように、山元に話し掛ける。


「どうかしたんですか、風祭さん」

 山元も、同じように応える。


「申し訳ないが、山元さん。もう少し時間をくれないか。約束の時間までに、現金を用意できそうにない」

 そう頼んだ。


「ダメだね。こちらは約束を守った。今度はそちらが約束を守る番だ」

 山元は、そう言って、ほくそ笑む。


「わかった。できるだけ善処はする。ただ、少しだけ遅れるかもしれない。そのときは、ほんの少し時間をくれないか」

 そう、丁寧にお願いした。


「いいでしょう。他ならぬ風祭さんの頼みだ。では、遅れる際は、事前に電話をください」

 山元は、勝ち誇ったように言った。


「わかった。ありがとう。そこで、こちらもこのビルからの電話ではなく、スマートフォンから掛けたいのだがいいだろうか」

 そう頼んでみる。


「いいでしょう」


「では、その電話番号を伝えておくので、よろしく」

 風祭が、その電話番号を伝える。


「では、この番号からの電話。お待ちしています」

 山元は、これで勝利を確信した。



 時間が22時を過ぎて、水族館内のスピーカーから、癒しのメロディーが流れてくる。


 人質たちは、その音が流れてくる方に耳を向けた。


 ずっと張りつめていた空気に、もう疲れ切ってしまっていた人質たちの心に、少しだけ安らぎを与える。


 逆に山元は、なにか起こるのではと警戒した。


 しかし、そこから30分過ぎても、なにも起こらない。


 てっきり、風祭たち警察が、なにか仕掛けてくるかと思ったが、そうではないようだ。


 山元をはじめとする、5人全員が安心しきっていた。


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