目的
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風祭は人質たちを救出するための、物理的な方法も考えていた。
まず第一に考えるのは、爆弾の無効化だ。
通常、手榴弾のような爆弾というものは起爆による爆発の威力ではなく、その爆風による破片の飛散によっての対象物の破壊が目的である。
だから映画などでは、その破片を避けるために身を屈めたり、伏せたりするのだ。
そして、通常の爆風というのは、上に向かって拡がっていく。
昔、事故があったのは、貯蔵施設内で舞い上がった小麦粉などの細かい粒子に引火してしまって、大きな爆発を起こしてしまう粉塵爆発だ。
山元ら犯人たちが使用している爆弾が、もしガソリンを使用しているとしたら、持ち運びの点を考慮して、使用しているガソリンの量は、おそらく1~3リットル。
それを噴霧させて、そこに着火させれば、それだけである程度大きな爆発は起こすことができる。
そしてこれも推測ではあるが、人質たちを殺すしてしまうことは想定されていないはずだ。
そんなことは、あの山元の美学に反するはずである。
風祭は、山元の異常なまでの自身の作戦に対する美意識と高過ぎるプライドが気になっていた。
山元の素顔は、デジタル処理されたフェイスマスクによって覆われてはいるが、あの自信満々の語り口調と、ポロシャツの下の鍛え上げられている身体つきから、彼は極度に自信をプロデュースするナルシストだと推測していた。
山元に限らず、一般人でも、やたらと自身の鍛え上げられた肉体をアピールする男性は、その傾向が強い。
そして山元は、はじめからすべて予定調和としてわかってやっている確信犯であることは間違いない。
他の4人の仲間も、山元ほどではないにせよ、おそらくはなんらかのプロフェッショナル・特別な技術の専門家である可能性が高い。
そして、その4人の仲間たちの心を、どう委縮させて、決して逆上させない交渉の方法を考えていた。
風祭がこの状況の中で、三島警視が判断した、水族館内の防犯カメラが物理的に破壊されているとの判断を確認するためにも、風祭はその確認を急がせていた。
もし、ただ単に一時的に映らないようにしていたのであれば、こちらに付け入るチャンスは多くなる。
この建物内の防犯カメラを見たところ、いわゆる如何にも防犯カメラのような設置のされ方ではなく、あくまでも目立たないように設置された外部からの遠隔操作が可能のPTZドーム型カメラだったからだ。
但し、これも彼らの手により、完全に掌握・コントロールされている可能性は高い。
だからここは、警視庁の技術班に頑張ってもらうしかないのだ。
そんなことを考察している中で、警視庁のホームページに、サンシャイン水族館で人質になっている人たちのデータが、期限の3分前に送られてくる。
人質の数は全員で108人。これをこの短時間で送ってきたというのは、驚異的な速さだ。
なぜなら、この人質たちは、予定調和としてではなく、無作為に選ばれたはずの人質の可能性が高いからだ。
だがそうなると、人質たちの危険性は逆に増す。
それは、人質たちを殺害して、その隙に逃げる算段の可能性もあったことを示唆しているからだ。
人質たちの身元がすぐに特定できなければ、それだけで捜査を攪乱して、更なる時間稼ぎをすることも可能だ。
そして風祭にも、山元たち犯人の本当の目的は、まだ見えない。
これが自暴自棄や自爆テロのような信念で行われたものであれば、事件は多数の犠牲者を出して取り返しのつかないまま終わっていたはずだ。
しかし、山元は未だに真の目的を明かしてはいない。
何の目的もなく、このような大それた犯罪を犯すことはあり得ないのだ。
そこへ、山元の方から電話が入る。
「風祭さん。データの方は時間前に届きましたよね?」
風祭は館内放送のマイクのスイッチを入れる。
「もちろんです。早速、身代金の方は用意させてもらいます」
「それは結構なことで。ではこちらからも条件を出させてもらいます。身代金を用意するまでの時間は、今日の23時まで。それ以上は認めません。以上です」
それだけを言って、山元は電話を切った。
その時間まで、あと2時間と少し。あまり時間がない。
何人かが腕時計で時間を確認した人質たちにも動揺が広がる。
山元は、この人質たちの姿を見て、堪らずほくそ笑んだ。




