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序章・崩れる日常

――やっと目が覚めたんだね。

随分とお寝坊さんじゃない……


優しい声がした。


重たい(まぶた)をこじ開けると、視界の奥がぼんやりとしている。

涙を浮かべながら、それでも笑おうとしている少女が、すぐ目の前にいる。


その表情が、ひどく懐かしい気がした。


「……」


声をかけようとして、言葉が見つからない。

名前も、場所も、どうしてここにいるのかも分からない。

ただ――胸の奥に、言いようのない後悔と焦燥…そして最後には安堵が残っていた。


少女は何かを言おうとして、結局、何も言わなかった。

その代わり、そっと手を伸ばす。


触れられる直前――


――ピピピピピッ!


無機質な電子音が、世界を引き裂いた。


「……っ!」


編田トオルは、ベッドの上で跳ね起きた。

妙な夢だったが、とてもリアルにも感じた。

しかし時間の経過とともに、どんな夢だったかは、もう思い出せなくなっていた。


スマートフォンの画面に目をやると、約束の時刻が迫っていることを告げていた。


「……最悪だ」


起き上がり、深呼吸を一つ。

胸の奥に残る、妙なざわつきは消えない。


今日は幼馴染と会う約束をしている。

彼女とは幼稚園から大学までの付き合いだが、恋人関係というわけじゃない。

けれど、今日こそ自分の気持ちを伝えると決めていた。

……大事な日だ。


リビングに向かうと、両親と妹が揃っていた。


「あ、お兄ちゃん大丈夫なの?沙希さんとのデートに遅刻しちゃうよ!」

「違うって言ってるだろ」

「はいはい、さぁ早く準備する!」


冷やかし混じりの言葉を背に、トオルは手早く出かける準備を終わらせ家を出た。


空は穏やかだった。

少し風が冷たいが、嫌な予感を抱くほどではない。

しかし現実とは時に冷酷なものである。


――ドンッ!


突然、遠くで爆発音が響いた。


足が止まる。

遅れて、どこかから悲鳴が聞こえた。


「(……何だ?)」


突如ポケットの中で、スマートフォンが震え、体が少しびくっとなる。


『トオル! 今どこにいるの?』

『なんかどこかで爆発みたいな音がしたけど、そっちは大丈夫?』


「俺は大丈夫。そっちは?」


『こっちも今のところは……でも、念のため気をつけてね。ニュースになってないか見ながら待ってる』


「分かった。すぐ行く」


通話を切った直後――


再び、爆発音。


今度は近い。


視線を上げると、自宅のある方角から、黒煙が立ち上っているのが見えた。


「……っ!」


嫌な予感する。


走り出しながら、妹に電話をかける。

呼び出し音だけが虚しく鳴り続ける。


繋がらない。


その時、再び着信。

表示されていたのは、[雨音沙希]…待ち合わせいている幼馴染の名前だった。


「もしもし? ごめん、家の方から爆発音と煙が――」


『トオル!!』


沙希の鬼気迫る声に、何かが起きていると嫌でも確信させられる。


『絶対に、絶対にこっちに来ちゃダメ!!』


「え? どうした?」


『変なのがいるの……変な格好したやつらが……人を……』


息を呑む音。

言葉が続かない。


「落ち着いて。そこから離れろ。後で合流しよう」


沈黙。


『……トオル……ありがとう』


震える声が電話越しに伝わってくる。


『………ごめんね…。トオルは…どうか……!』


激しい衝撃音の後、通話は切れた。


「……沙希?……沙希!!」


何度かけ直しても、繋がらない。


走る。

息が切れる。

視界の端に、異様な光景が飛び込んでくる。


切り裂かれた遺体。

喰い散らかされた肉片。

爆発とは無関係の、明らかな殺戮の跡。


吐き気をこらえ、家へ向かう。


玄関のドアは破壊されていた。


中に入ると、両親は無残な姿で倒れていた。

血の匂いが鼻を刺す。


そして――


「お兄……ちゃ……」


異形の生き物に掴まれた妹が、かろうじて声を絞り出す。


「逃げ――」


言葉は、途中で途切れ……


妹が、目の前で、喰われた。


「――――――!!!」


理性が吹き飛ぶ。


殴りかかる。

だが、反撃は一瞬だった。


床に叩きつけられ、視界が暗くなる。

全身が悲鳴を上げている。



――家族を殺したものが、憎いか?


頭の中に、声が響いた。


「……誰だ」


――目の前の悪魔を、その手で葬りたいか?


「……当たり前だ」


――ならば立ち上がれ。ワシが力を貸してやろう。


「……やってやる……!」


血を吐きながら、叫び、立ち上がる。


「許さない…!!お前は必ず殺す!! 刺し違えてでもだ!!」


悪魔が嗤う。


「ほう……人間が、まだ生きていたか。しかし、その気配…どういうことだ……」


「お前を殺すまで、死ねるか!!」


「このグシオン様を殺すだと? できるものなら――」


拳がグシオンの顔を歪める。


「な……人間のどこに……!」


「俺の命に代えても…お前を殺す!!」


トオルの命を込めた一撃が胸を貫き、グシオンは崩れ落ちる。


そして、トオルもまた、その場に倒れる。


力が抜けていく。

視界が暗くなる。


やり遂げた達成感。

救えなかった無力感。

そして、彼女に伝えられなかった想い。


やがて静寂が身を包む。


暗闇が、すべてを覆った時――


再び、あの声が聞こえた。


――さて……どうやらお主は見込みがあるようじゃの。

この物語に登場する全ての人物・団体・悪魔は、実在のものとは異なるフィクションです。


もしよろしければ、どうかこの先の物語も読んで頂ければ幸いです。

宜しくお願い致します。

ご覧頂き、誠にありがとうございました!

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