表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第七話『約束と懸念』


俺はあの一件のあと、気づけば「もしかしたらあいつ、かなり強いんじゃね?」と噂されるようになっていた。


周りの評価は変わったけど、俺自身の生活はほとんど変わらない。授業をサボっては部屋に引きこもり、ゴロゴロしているだけだ。


――まあ、ひとつだけ変わったことといえば。


「お前、授業相変わらず来ねぇのな」


「面倒くさスミス」


今まで一人で食べていた食堂の時間に、なすびと並んで食べるようになったことだ。


それに加えて、俺に話しかけてくる奴も増えた。もちろん、鬱陶しい奴もいる。


「おいオメェ、あんま調子乗んなよ〜」


そう言って、俺を押して煽ってくるチャラい男――はま。


「うるせぇ、この野郎!」


顔を軽く殴ってやったら、そのまま失神した。


もちろん、良いこともあった。

その最たる例は――。


「ねぇ、快くんって実はすごく強いって本当?」


九条美優が、俺に話しかけてくれたのだ。

前までなら存在を認識されていたかすら怪しく、話しかけられるなんてまずなかったのに。


「いやまあ……ちょっとだけどね」


内心では鼻の下を伸ばしていたと思う。


「良かったら、今度の遠征、一緒に行きたいな」


そう上目遣いでお願いしてきた。


「あ、あぁ……もちろん良いぞよ」


あまりの可愛さに見惚れて、思わずたどたどしく答えてしまった。


「ぞよ? なにそれ」


くすっと微笑んで、そう返される。


「あ、いやその……ごめん」


緊張のあまり口をついて出てしまった言葉。恥ずかしさと「何言ってんだ俺……」という気持ちで顔が熱くなる。


「ふふっ、いいよ全然。――とりあえず、約束ね」


最高の瞬間だった。

その日の夜、嬉しさのあまり自分の部屋でガッツポーズしながら「やったーー!」と叫んでしまった。


思い出すだけで、自然と笑顔になっていた。


「……お前、また美優のこと思い出してただろ」


なすびが、呆れたように呟く。


「いいだろ、別に!」


「まあな。実際、嬉しい出来事だし」


「嬉しいと言えばさ、ワンチャン俺の支給額とか扱いとか良くなるよな? 来月から」


「ワンチャンどころか、確定事項だろ」


「やったぜ! ……ってか、この異世界ってケチだよな」


「ケチ? それはどうだろうね」


横から口を挟んできたのは、イソギンチャク。

モートンと同じく俺たちと一緒に転移してきた奴で、転移前の記憶がほとんどなく、名前も周りが付けてやったものだ。


「あぁ? ケチだろ。こんな不味い飯、今も食わされてんだぞ」


「いやいや、君は分かってない。今の環境がどれほど恵まれているか。中世ヨーロッパみたいな古い時代の世界で、僕たちのように親の支援も大した才能もない者に、無条件で二年間も食事と学ぶ機会を与えてくれるんだ。これは国力が相当豊かでないと成り立たない」


「めんどくせぇな〜。だいたい、『才能がない』って一括りにするんじゃねぇよ!」


長ったらしい話に、イラつく。


「……でも、この意見には一理ある。医療関係の魔法の代金とか、ポーション代とか、国が七割負担してるしな。制度も現代的で進んでるって思ってた」


なすびは真剣に頷く。


「そうだ。僕はこの世界の歴史や情勢を調べるのが好きだから分かるが、このゼル神王国の生活水準は他国と比べて群を抜いている。恐らく、その最大の要因は――この国で“神人”として崇拝されているゼルリウスという存在だ」


「ああ……授業でもやたら名前が出てくる奴だろ。呼ぶ時に“様”を付けないと、めちゃくちゃ怒られるから気をつけろよ」


「へぇ……そうなんだ」


俺は話を聞きながら、ぼんやりとそう思っていた。授業にほとんど出ていないから、ゼルリウスについて詳しくは知らない。

ただ、思い返せば――ミネルバ先生も彼を“素晴らしい存在”と称えていた記憶がある。


しばらく俺たちは、国についてあれこれ話しながら飯を食い、そのまま部屋に戻った。


聞いている最中はピンと来なかったが、布団に包まってから閃いた。

――ゼルリウスは、神話の神々すら凌ぐ“無敵”の存在と認知されているらしい。


もし、本当にそいつが実在するのなら。

あの時……俺に力を与えたのは――。


しばらく考えているうちに眠気が勝ち、また気が向いたら考えようと思って目を閉じた。


この疑問の答えを知るのは、まだ先のことになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ