第四話『眠れる刃』
「……こんなことになるとはな。」
私の名はマービン・ファントル。
この学園の校舎で剣術を教えている教師だ。
あの件の後、病室で安静にしているモートンの容態を確認しつつ、信乃くんが退学処分にならないよう奔走していたら、あっという間に数日が過ぎていた。
あの試合を仕組んだのは私だ。
だが、まさかあんな結末になるとは思っていなかった。
彼の噂は以前から耳にしていた。
外界人に虐められ、授業にも来なくなった生徒。気持ちは理解できるが、このまま不登校を続ければ、二年後の卒業時には職も与えられず、学園を追い出されるのは目に見えている。
身元不明、親の支援もない。
剣の技量もなければ、扱える魔法もない。そんな状態で野に放り出されたら、ろくな未来が待っていないのは明白だった。
なんとか彼をやる気にさせられないか――そう考えて、食堂にいる彼をしばらく観察していた。
すぐに確信した。
彼は九条美優に好意を寄せ、そしてモートンに強い敵意と嫉妬心を抱いている。
この嫉妬心をうまく利用すれば、動かせるかもしれない。
そこで、稽古に来ていたモートンを呼び止め、相談を持ちかけた。
「モートン、お前は九条美優と付き合っているのか?」
「えっ? いや、付き合ってませんけど……どうしたんですか、急に?」
「実はな――」
……まさか、それがあんな発見につながるとは思わなかった。
間違いなく、彼には素晴らしい才能がある。
もしかすれば、英雄の領域――人類最高峰に至る可能性すら秘めているかもしれない。
引きこもらせて腐らせるには、あまりにも惜しい。
どうにかして、我が稽古部屋へ誘い込めないものか……。
「……まだ少しヒリヒリするな」
モートンに華麗なる勝利を収めた後は、安定の引きこもりライフを満喫する――そのはずだった。
だが現実は、数時間ものあいだ全身を激しい筋肉痛のような激痛が襲い、あまりの痛みに失神するほどだった。
目を覚ましても、苦痛は収まらない。
呻き声と涙が止まらない俺のもとに、ミネルバ先生が駆けつけてくれた。
彼女はすぐに病室へ行き、痛みを和らげるポーションを持ってきてくれた。
本来なら国が七割負担し、残り三割は自腹――だが今回のポーションは高価で、俺の支給額の一か月分に相当する代物だ。
それを、彼女は迷わず自分で払ってくれた。
……これには、感謝しかない。
多少は痛みが和らいだが、その日は結局、食事も取れず眠ることもできなかった。
それから数日。
痛みはだいぶ引き、むしろ晴れやかな気分さえ感じる。
何かから解放されるような感覚――ただの痛みの消失ではない。
もっと高みに近づいていくような、あの時モートンを倒した瞬間と同じ、内から湧き上がる感覚だった。
喜びと高揚感に包まれながら、俺はベッドに潜り込み、そのまま眠りについた。
そして再び俺が力を振るうのは――それから一週間後、異世界版の修学旅行でのことだった。