最後のデート
翌週末待ち合わせ場所に行くと、そこにはすでに
誠君が待っていたようだった。
少し早めについたつもりだったので驚いたものの、
私を見て満面の笑みを浮かべた彼にドキっとしてしまった。
自身の感情に驚きながらも挨拶を交わすと、
彼に自然に腕を組まれて歩き始めた。
平静を装いながらエスコートされているうちに
徐々に距離が縮まってきている気がした──
そしていつの間にか二人きりの空間ができあがっていたように感じられた。
本当の恋人同士みたいで不思議な高揚感が沸き立つ。
だが、どこか罪悪感にも囚われてしまっていた。
「今日だけは、美咲のつもりでいてもらえませんか?」
誠君が申し訳なくしながらも懇願してきたので、
私は小さくうなずくしかできなかった……
その瞬間彼が嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
その笑顔に、つい微笑み返してしまったものの、
すぐに我に帰り慌てて目線を逸らした。
(なんだこの感情は? いや…俺は男だ。
ただ美咲のフリをすればいいだけだ……)
そう思った矢先、手を握られたことに気付くとさらに動揺してしまった……。
その後レストランでランチタイムとなり、
二人してパスタを堪能しながら談笑を楽しんだ。
ウィンドーショッピングを満喫したりと充実した時間を過ごしているうちに、
いつの間にか日が暮れかけており、解散の時間となってしまった……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
帰り道沿いの公園ベンチに座っていると肩に手を置かれ引き寄せられた。
唇が触れ合う寸前でハッとなって抵抗するも力強く抱きしめられ
身動きが取れないまま唇を重ねられてしまう……
柔らかい感触と共に舌が侵入してきて、口腔内隅々まで舐め尽くすような
濃厚なキスに頭がぼうっとしてくる……
「ダメ……だ……こんなこと……」
弱々しい拒否の言葉を発するも全く意味を成していないどころか
むしろ煽っているように受け取られているのではないかと思うくらい
情熱的な求め方に圧倒されてしまっていた──、
「僕は本当に君が好きだったんだよ……」
誠君はそのまま耳元へ顔を寄せてきて甘い吐息を吹きかけたり、
軽く噛んで来たりしてくるので、ぞくりと全身鳥肌立ちつつも、
どこか心地良さも感じている自分に戸惑いを隠せなかった。
「ごめん……もう少しだけ」
懇願するような眼差しに負けてしまい受け入れようとしてしまう自分自身を
悔いる気持ちもある一方で、期待しているような心境でもあり、
複雑な思いを抱きながら身を委ねていた。
ようやく正気に戻り、慌てて突き飛ばすように引き剥がすと
乱れた衣服整えながら怒鳴るように言い放った……
「こんなのは駄目だ、私は美咲じゃなく美咲の父だ……
だから君とは婚約破棄を……」
(そうだ……これ以上関係を進めては、
美咲のためにも彼のためにもならない……)
冷静になって考えれば当然の結論だったはずだし、実際にそうしようと
していたはずなのに感情が制御できずに暴走してしまいそうになる……
誠君も息を弾ませて興奮していたものの冷静さを取り戻したようで、
静かに語り始めてくれたのだった──。
「そうですね……僕達の関係は終わりになるんでした。
未練で求めてしまい、ご迷惑をおかけしました……」
悲しげに笑いながら謝る姿を見て、
胸が痛む一方どこかホッとしている自分もいた……
こうして誠君と美咲の最後のデート。
俺にとっては誠君との初めてのデートは終った。
婚約破棄については両家族(美咲/雄一郎、俺の妻、誠君、誠君の両親)が
集まる場で正式に話し合う事として、この日は帰路についた。
帰宅した俺はろくに妻とも話さず、風呂に入った後は
自室(美咲の部屋)に籠り、ベッドの上で誠君の写真を見つめて放心していた。




