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美咲の婚約者

美咲の婚約者・桐谷誠(きりたに まこと)が見舞いに来たのは、

退院して1ヵ月後のことだった。


我が坂本家と桐谷家はかつてはご近所の仲だった。

誠君は今年で30歳だから美咲とは7歳差。

所謂、歳の離れた幼馴染といったところだろう。


美咲は誠君にとても懐いていた。


あれは美咲が中学生の頃だっただろうか……

桐谷家仕事の都合で転居となった。


誠君と美咲は交際をしてはいなかったが、

離れる事に対して、美咲の落ち込みは相当だった。


俺達は両家で話し合い、2人を婚約者とすることで、

今後離れても交流が続くようにしたのだった。


誠君は既に実家を出て働いているが、勤務先の都合で美咲とは気軽に

会える距離では無かったが常に連絡を重ねて深い関係を続けていたようだ。


今回の事故の件を受けて、誠君は美咲の側に居る為に

わざわざ転勤してこちらに戻ってきたらしい……


誠君の美咲への深い愛が理解出来る。

それだけに、これから俺が打ち明ける話はなんと残酷なことだろうか……


「心配したよ美咲……」


街中のカフェテリアで向かい合う誠君は30歳らしい端正な顔立ちになっていた。

俺にとっては久しぶりの再会だが、彼は魅力的な男性になったなと私は思った。


彼と美咲の写真を部屋でいくつも見つけた……

美咲と彼が、どれほど想いあってたか分かってはいる。


しかし、今の俺は外見は美咲だが中身は違う……

男であり、美咲の父だ……彼の美咲への想いを受け入れることはできない。


「誠君……今日は来てもらえて嬉しいよ」


そう言いながらコーヒーを一口飲むと苦味が舌に広がった。


かつての俺はブラックでも美味しく感じたが

今はミルク入りじゃないと飲めない……。

女性というのはこういう些細な違いもあるんだな……と思い知らされる。


「それで……話したいことがあるんだ。

 大事な話だからちゃんと聞いてほしい」


誠君は真剣な眼差しで俺を見つめてきたので

こちらも覚悟を決めることにする。

心臓の鼓動が速くなっていく中でゆっくりと切り出した。


「実は……美咲は亡くなったんだ……君の大好きな美咲は……もういない」


俺と美咲に起きた事の全てを彼に説明した。

沈黙の時間が流れそして彼の目に涙が溜まり始める……。


「嘘だ……美咲が亡くなってるなんて……今の君が美咲じゃないなんて……」


「ごめん……でも本当のことなんだ」


震える声で続ける。


「私は坂本雄一郎……この身体の中身は

 君とも交流のあった、美咲の父の雄一郎なんだよ」


彼の顔から血の気が引いていくのがわかった。

当然だろう……まさか恋人だと思って接していた相手が

その父親だったなんて誰も想像しないはずだから……。


それでもなお誠君は必死になって否定しようとしていた。


「ありえない……。いくらなんでもそんなこと──」


彼は俯いたまま黙り込んでしまったものの俺は構わず話を進める。


「事実なんだよ。君の目の前の私は美咲の姿だが中身は美咲の父の

 雄一郎なんだ。だから……美咲との結婚は諦めて欲しい。」


「…………」


誠君は何も答えずただテーブル上にあるカップを見つめ続けていた……


しばらくして顔を上げた時には泣き出しそうな表情になっていたが

それでも健気に笑顔を見せてくれる。


それが辛そうで……思わず抱き締めたい衝動が身体から湧き上がってくる。

なんだ、この感情は……?


「お願いがあります……

 一度だけでいいから最後の思い出作りがしたいんです。

 もちろん何もしない約束します……」


彼の申し出に戸惑ったが最終的には了承することした。


彼に美咲との最後の思い出を作ってあげたい。

それが、美咲の姿をした俺の責任だと思ったからだ。

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