俺は誰だ
「坂本さん」
と医師は私の目をまっすぐ見つめた。
「あなたとお嬢さんの遺伝的相性が極めて良かった為……
非常手段が取られました」
「何が起こったんだ?」
看護師さんが鏡を取り出し私に向けた。
そこには痩せ細った若い女性の姿が映っていた。
「これが……今のあなたの体です」
頭が真っ白になった。それは明らかに美咲の顔だった。
「待ってくれ……どういうことだ?」
医師は言葉を選んでいるようだった。
「倫理的には問題ありますが娘さんの脳死を受けて、
あなたの脳を新しい身体。つまりお嬢さんの肉体に入れ替えました」
理解するのに時間がかかった。つまり自分は美咲になったということか?
「なぜこんなことを? 他にも方法があったんじゃ……?」
医者は首を横に振る。
「手遅れだったんです……坂本さんの身体は
もう修復不可能なほど損傷していました」
胸が締め付けられる思いだった。それでは美咲は本当にもう……
「あなた……」扉が開き入ってきたのは妻だった。
やつれた表情でこちらを見ていた。
「あなたなの? 本当に……あなたが美咲に?」
涙ながらに問いかける彼女に、対し俺は言葉を失うしかなかった。
彼女からしたら、娘の美咲の姿をしている女性が30年近く連れ添った
歴史を持つ夫であるなんて、信じられなくても仕方ないだろう。
病室には沈黙だけが残された。
これからどうなるのか想像すらできなかった。




