花嫁の誓い
チャペルの荘厳なステンドグラスから差し込む柔らかな光が
バージンロードを白く照らしていた。
シルクの長手袋に包まれた私の腕は、母(妻だった人)の腕に預けられ、
バージンロードを一歩ずつ進む度に心臓が高鳴る。
(この身体は本当にバージン。貞操を守っていた美咲には感謝している)
純白のウェディングドレスの裾が床を滑るように揺れる。
祭壇の前ではタキシード姿の誠さんが穏やかな笑顔で私を見つめていた。
(誠さん……!)
あの日、彼に初めて惹かれた時の感情が胸の中で鮮やかに蘇る。
今、彼は私の夫となるのだ。男だった雄一郎はもういない。
ここにいるのは、桐谷美咲。彼の妻となる女だ。
神父様が厳かに聖書の一節を読み上げ、式が始まった。
「汝、誠は美咲を生涯の伴侶として愛し続けることを誓いますか?」
誠さんが私の目を見て力強く答える。
「はい、誓います」
その瞳の奥にある愛情に私の胸は甘く疼いた。続いて私の番が来る。
「汝、美咲は誠を生涯の伴侶として愛し続けることを誓いますか?」
私は深呼吸し震える声で答える。
「はい、誓います」
自分の口から出た声があまりにも自然で少しだけ戸惑う。
まるで身体の奥底からの言葉のように聞こえたからだ。
誓いの言葉の後は、指輪の交換。
誠さんが私の左手薬指に銀色のリングをはめる。
冷たい金属が肌に触れた瞬間、全身に鳥肌が立った。
美咲としての新たな人生が始まることを鮮烈に感じさせる感触だった。
今度は私が彼の大きな手に自分の手を添え指輪を滑らせる。
少し手が震えてしまったけれど彼は優しく微笑んでくれた。
そして……誓いのキス。
神父様が合図をすると誠さんがゆっくりとヴェールを上げた。
私の素顔が露わになる。
緊張と期待で頬が赤らんでいるのが自分でもわかる。
誠さんが少し屈み込み、2人の顔が近づく。
香水なのか彼自身の匂いなのか分からない芳香が鼻腔をくすぐった。
唇が触れた瞬間、世界が止まったかのような錯覚に陥った。
温かく、少しかさついて、でも柔らかい感触。
まるで心の奥深くまで繋がっていくような不思議な感覚だった。
私はそっと瞼を閉じる。長い時間にも、刹那のことのようにも思えた。
キスが終わると拍手喝采が巻き起こった。
親族席では母(元妻)と義父と義母となった桐谷夫妻が満面の笑みで
拍手を送ってくれていた。
美咲の友人席からは黄色い歓声が上がり、
「綺麗ー!」「感動した!」といった声が飛び交っている。
自分の友人が1人もいないことが、
逆に今の自分は完全に別人なんだなという奇妙な実感を与えた。




