3.言葉で伝えたい
土曜の朝。
窓の外は、昨夜の雨が嘘みたいな快晴だった。
私は、ソファの毛布をたたみながら、ふと陽向の方を見た。陽向は床に座って、マグカップのコーヒーを両手で包んでいた。
「ねえ、陽向」
「ん?」
「……私さ、昨日、自分のことばっかりだったなって思った」
彼がゆっくり顔を上げた。
「“好き”って、言ってもらえないから寂しいって、勝手に思って。
でも、たぶん私も、ちゃんと伝えてなかったよね。“好き”って」
ちょっとだけ、気恥ずかしくてうつむくと、
陽向はすぐに応えるように言った。
「俺も……臆病だったんだと思う。
朱音さんに嫌われたくなくて、カッコつけて……そのくせ、本音が言えなかった」
「うん」
「でももう、黙ってて泣かせるくらいなら、ぜんぶ言うよ。俺、朱音さんのこと、めちゃくちゃ好きだから」
「……えっ」
思わず顔を上げたら、陽向はちょっと困ったように笑った。
「なんなら、初めて会った日からずっと、
“この人、どんなふうに笑うんだろう”って考えてた。仕事でピリッとしてるのに、ふとしたときに手が綺麗で、それ見て可愛いなって思ってたし」
「……ちょ、ちょっと」
「でも付き合ってからも、朱音さんが“年上だから”って一歩引いてるの、気づいてた。
俺の方が好きじゃないんじゃないかって、不安だった?」
「そ、それは……」
「俺の方が、たぶん百倍好きだよ」
そう言って、彼は私の頬にキスをした。
「重いって思ってたけど、もう言う。好き。毎日会いたいし、寝る前に“おやすみ”って言いたいし。
会議中に“今なにしてるかな”って考えてるし、朝起きたら“今日は会えるかな”って思ってるし」
「…………」
「うわ、俺ほんとに重いな……大丈夫かな」
「……だめじゃない」
私は少し唇を噛んで、それから笑った。
「むしろ……そういうの、もっと聞きたいかも」
「……ほんと?」
「うん。だって、私も――同じくらい、陽向のこと考えてたから」
彼は目を丸くして、そして満面の笑顔になった。
「……え、やば。今日一日、ずっとニヤけてると思う」
「ふふ、バカ」
でも、その笑顔が、たまらなく愛しくて。
私はふと、自分の心がすごく軽くなっていることに気づいた。
(ああ、こういうのが……恋人なんだ)
ちゃんと想いを伝え合うって、怖いけど、こんなに安心するんだ。
その日、陽向はずっと隣にいて、何かというと「好き」を口にした。
ご飯を食べながら「うまい。朱音さんって、味の好みまで最高」
スーパーで並んでいても「可愛い。俺の彼女、世界一可愛い」
「……恥ずかしいから、ちょっと控えて」
「でも、ちゃんと毎日言ってほしいんでしょ?」
「う……まぁ、そうだけど」
「じゃあ、毎日言う。ずっと言う。朱音さんが、“もういい”って言うまで」
照れながらうつむいた朱音の手を、彼がそっと握る。
幸せは、こうして、ちゃんと手を伸ばした先にあった。
言葉に出すって大事〜と思って書いてみました\(^o^)/