表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

1.雨の中こじらせる私たち

雨の日の情緒、、みたいなのを書きたくて。見切り発車です...汗

「今日は、会えてよかったです」


雨が降り始めた帰り際、陽向(ひなた)がそう言った。

 

私は、高梨 朱音(たかなし あかね)。32歳、営業職で、課長をやっている。

会社ではスーツが似合うクールな美人...だけどと言われている。会社では私情は見せない。だって元来のポンコツがバレるから...


彼、三浦 陽向(みうら ひなた)とは3ヶ月前に付き合い始めた。取引先の会社で会って、明るくて真っ直ぐ。感情が隠せない29歳。そんな子犬みたいなとこが気に入ったからかもしれない。


 なんだか“ありがとうございました”みたいな口調に聞こえて、ちょっと笑ってしまいそうになる。

 ――でも、それ以上に胸が詰まった。



お互い仕事が忙しくて、私は出張もあった。会うのは3週間ぶり。

ほんとは、もっとたくさん話したかった。

他愛もないことを、もっと自然に笑いながら言い合いたかった。


でも、今日はどうにもぎこちなかった。

彼の目は時々スマホを気にして、私は何度も口を開きかけては、言葉を飲み込んだ。



駅までの道、梅雨の湿った空気がまとわりつく。

並んで歩くのは久しぶりなのに、距離が近いようで、遠かった。


付き合って、まだ半年も経ってない。

出会いは仕事。わたしが営業で通っていた会社に、彼が転職してきた。


年下だけど礼儀正しくて、でもどこか抜けてて――

そのバランスが絶妙で、気づけば、彼から連絡が来るのが楽しみになっていた。


「よかったら、プライベートでも会ってみたいです」って、笑いながら言ってきたのも、あっちだった。

あのときの笑顔、まだはっきり覚えてる。


でも、最近は。


会うのも減ったし、連絡も少しそっけない。

もともと彼のほうが押してくれてたから、こっちから距離を詰めるのが下手で……

このまま飽きられちゃったのかな、なんて。


「……じゃあ、また」


駅の前で立ち止まり、私は笑った。

彼も笑った。


けれど、どちらもぎこちない笑顔だった。



―――――


その夜。

俺はひとりで部屋に帰り、濡れた靴を脱いで、深く息を吐いた。


(……なにやってんだよ)


今日こそは、ちゃんと言おうと思ってた。

会えなくて寂しかったこと。

ずっと考えていたこと。

ほんとは、手をつなぎたかった。名前を呼びたかった。もっと近づきたかった。



でも、口にすればするほど、きっと重いと思われる。

引かれたらどうしよう...


彼女は仕事もできて、大人で、落ち着いていて――

そんな人に、年下の男が「会いたい」「もっと好きになってる」なんて言ったら、引かれるんじゃないかって。軽口だって幻滅されるんじゃないか。


怖くて、今日もまた、何も言えなかった。


(こんなふうに黙ってるから、逆に不安にさせてんのか…… 朱音さん)


スマホを開く。

「今日はありがとう」

送るだけでも、どきどきしてしまう自分が、情けない。


――――――


一方の私も、ベッドの上でスマホを見ていた。

“ありがとう”の文字。

彼らしい、距離のある優しさ。


(そっか……私たち、もう終わりに近いのかな)


好きになってもらえたのが不思議だった。

仕事先で、ただの営業担当だった自分に。

だけど、あの頃の彼はまっすぐだった。

好きだと言ってくれた。

こっちが戸惑うほどに。


だからこそ、今の静けさがつらい。

好きって言葉が聞きたい。

寂しいって、甘えてほしい。

でも、それを求めるのは、大人げないような気がして。


「……おやすみ」


誰にともなくつぶやいた言葉は、静かな部屋の中に消えていった。


梅雨の夜、雨は一時止んだ。

でも、空気は濡れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ