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Iパート

「いやぁ、終わるかと思ったんだが、終わらなかったぜ。新人配達の基本」


山口もちょっとスマン顔になって、森橋に謝る。


「でも、大事なんですよね?”特殊配達”って括りにするくらい」

「まー。一般的には必要ねぇんだけどな」


括りはないんだけれど、……。

お客様によっては配達方法を変えている場合がある。一般的な例で言うと、


「集合住宅で、”ドアポスト希望の配達”だな」


1.”ドアポスト希望の配達”


お客様の申請と、それなりの理由、原則として2階までと決められてる。

郵便法とかに詳しくはないけれど、配達局に相談してみるとやってくれるかと思います。


「それなりの理由としては、”足が不自由”とかな。そーいう”特殊配達”は配達原簿に記載してあるから、見落とすなよ」


お客様がやって欲しい事と言えば、集合ポストをガムテープかなんかで塞いで欲しい。申請しただろって仰られても、こーいうお客様って滅多に郵便が来ない上に、配達員も地域固定じゃありませんので。それからいちお、賃貸とかなら管理会社にも説明しておくと良いと思います。夜逃げと勘違いされます。


「これくらいならいいんだよ。中にはチラシいらねぇで、集合ポスト閉める世帯もあるけど」

「なるほど」


2.”対面・手渡し希望”


「単純に言えば、お店への配達だな。レジにポーンで渡したりもするところもあるけど」


お店への配達だと、郵便ポストそのものがない事も珍しくありません。

その際は店員さんや、一言伝えてレジに置いておくとかあります。

この点は分かりやすいと思いますが


「局や非推奨なところもあるけど、お客様の自宅とお店が同じ配達地域だと、住所が自宅でも対面配達する書留や荷物を店に持って来てくれってのがある」

「お店に届けろって事ですね」

「その数は多くないけれどな。間違えても怒られる事はねぇけど、頭に入れておけば配達が楽になる」


注意点としては、『配達員が知っていても、お客様の許可なく、無断でやってはいけません』。お店にいるとはいえ、ご本人やご家族じゃない方がお店を任されてる時があります。

信頼できるかどうかなんて、配達員では知り得ない事ですので、お客様からの許可をもらってから行ってください。


「自宅で在宅の確認をとってから、店に行く方が良いな」


3.”午前希望の配達と集荷”


「”時間指定”を除いて、絶対に午前中に配達をしてくれって箇所がある。遅くとも、14時までに届けろって場所」

「具体的には?」

「銀行がその筆頭だな。営業時間内ならいいんだろうが、なるたけ早く来てくれと。あとは郵便の特定局」


これは地域や企業によるので、一概に決められないが。そーいう配達があると覚えていて欲しい。

通常郵便だと特に言われず、ポストで構わないとかあるが


「書留は営業時間過ぎちゃうと渡せないんだよ。それがあれば、午前中に伺えって事」


贔屓と言えば、贔屓してるが。

それを確かに待ってるし、処理できないと仕事にならないわけだ。


「あとは大企業さんだな。あそこも12時までには持ってこいと言われてる」


郵便配達はルートが決まっているが、この決め方にも贔屓的なところがある。道順としては合ってないのに、無理矢理行っているのは、


「大企業さんは、商品を利用してくれてるからな。集荷とか、切手・レタパの販売もある」


郵便も早く欲しいし、渡す郵便もある。あるいは、切手とかの購入など……。


「まぁ、当たり前に贔屓するだろ?お偉いさんには頭を下げなきゃいかん。なんだかんだで、利用は昔からあまり変わってない」


個人のお客様が、”俺を特別に扱え”っていうのが何件かありまして。その度に俺はお前の会社を利用してるんだぞって喚いたりしてますが。ハッキリ言って、大した事ないです。

それだけ大企業・お得意さんは、動かしてるお金が違います。そんな大企業と個人を同等に扱うのは無理があります。配達・サービスに多少の贔屓があるのは、それだけ手厚いお礼があってできてるものです。


「これはクロネコや佐川も同じだぞ。むしろ、あいつ等の方が手厚すぎるから」


大口の配送になると、クロネコや佐川……あと、西濃さんも、相当ビックリするお値段で荷物を引き受けています。目玉が飛び出るほどです。この手の価格競争じゃまったく郵便局は勝てません。(営業の方は詳しくないが、話しを聞くとそんな事を担当さんが言ってる)


「配達員にちゃんとお金が回ってるのか?って疑うレベルのお値段だ」

「へーっ」


色々条件を付けてのお値段設定らしいですが。

利益が出ると判断したら、送料を簡単に下げたり、色んな条件を呑んでいるそうです。


「郵便局が得意とする集荷と配達は、基本は”個人”だからな。誰でも切手貼って、郵便ポストに入れりゃあ、成立するだろ?どこでも料金一律で全国配達するなんて、ムダなのにやっちまう。地域を限定したり、荷物のサイズや年間の発送数にケチつけりゃあ、営業を奪い取るのなんか簡単だとよ」


黒い話になりますが。こちらに利益や得がないとしたら、クロネコや佐川さんは正直に料金を高くするなどをします。それも上手い具合に、郵便局だと利益が出るぐらいにして、誘導されます。これを掴んでキャッキャッしてても、全然利益が出ないんですよね。

発送してようやくお金になるので、その数が契約したよりも足りなかったり、運ぶサイズや距離がミスマッチだったら、郵便局のご利用がいいよっていう。……完全に貧乏くじな話だ。


「儲ける事とお客様選びに関しては、クロネコと佐川は優秀」


4.休日予定の配達


「リアルだと通常郵便の土曜日配達はもうやっていないが、いちお、説明な」

「はい」

「場所によっては土曜日は会社が休みってところがある。そこは月曜日に配達を回してくれって話だ。普段、手渡しのところはあんまり使われていないポストを使わず、月曜日にってこと。ポストによっちゃ、雨で濡れるとかもあるしな」

「あー……分かりました(簡単だな)」


別に説明するまでもない事だと思うが、これも平日だとお休みの会社は存在する。


「散髪屋や不動産会社って休みはいつだと思ってる?」

「え?……あれ、そういえば、土曜日じゃないような……」

「散髪屋は月曜日と火曜日(第二・第四とか店によって異なる)、不動産は水曜日が休みだ。そーいうお店は手渡しが多い」


店によっては定休日も色々異なるし、ポストがなくて手渡しもある。


「夏休みとか正月とかの休暇期間もある。そこは臨機応変に配達な。事前に向こうから連休について、言われることもある」


◇        ◇



ブロロロロロ


一通り、配達の基本を教えてもらった森橋。

あくまで言うが、森橋はまだ道順の配達をしていない。今日、山口から色々と教わったのは、配達をする上でのマナーや配達方法、状況に応じての対応などなど……。

”1件に対応するための処置”といったモノだ。


「家の並びと配達の道順を覚えてから、まぁスタート地点」

「すげぇクタクタっす」

「指導するのもクタクタだ。明日もよろしくな」


帰局は定時になるように言われている。

2人が郵便局に戻ってきた時。郵便バイクを所定の位置に停め、班に戻るため上に行く。その途中で


「あとは仕事終わりの事だな。これがうるせーんだよ」

「片付けって事ですか?」

「郵便の事故付けとか、資料整備やら、情報共有やら……色々あるけど、お客様対応がなきゃなんでもいいや」


ようやく、配達が終わって帰れる~って思っても、あと20分くらいは掛かる。ここをマイペースにやる人もいれば、パパパッで終わらして帰る人、何もやらずに逃走する人、翌日の大区分をしておく人もいる。

森橋は新人。今日は3番目の、


「最低限やっておけば、ちゃっちゃと帰っていいよってのを教える」


ぶっちゃけ何もやらずに帰っても、忘れ物がなければ問題はないのだ。

郵便局に限った話じゃなく、会社のモノはちゃんと返してから帰りなさい。返し忘れは会社へUターンが基本である。


「まずはバイクのキー。上は目ざとくチェックしてる。返納時間と返納印を忘れるな」


返し忘れに多いのが、バイクや自転車の鍵キーだ。制服のポケットに入れたまま、家で洗濯のお持ち帰りパターン。

もし、これが多い場合はバイクから降りた後、制服のポケットに入れるのではなく、台車に載せているケースに放り込むのも手だ。最悪、返し忘れてても課長に返してもらえる(怒られるが)。


「その次に……今日は行かなかったが、ガソリンスタンドで使う、クレジットカードな。局で借りられる。これの返納も忘れるな。明日、ガソリンスタンドに行く」

「どこでカードは借りられるんですか?」

「課長席だ。課長に一言伝えて、判子を押して借りろ」


山口に案内され、そのカードがある場所を教えてもらう。判子を押すとこ、借りた時間と返した時間の記録。忘れちゃいけないのはレシート。

今は電動バイクの導入もありますが、ガソリン車も当然ながらあります。

このカードの返納忘れもよくありがちです。


「それから今日は森橋くんはあまり使わなかったけど、”携帯端末”の返納な。”携帯プリンタ”も忘れるな」

「はい」


今はスマホ端末、GPS機能メインの端末も追加で持たされているので、3つは借りて返す事になる。これを返納すること自体は特に問題はないと思う。さすがにロッカー室で気付くからだ

ただ、返納が問題なんじゃない。


「”充電”と”端末データ”がちゃんと送られてるかチェックするんだぞ」


”携帯端末”のバッテリーは”経年劣化”していきます。1日使うだけで、100%から50%まで落ちますし、データ量が多いほど減る速度も早い感じです。

”充電”がしっかりされていない。返し方が雑だと、そうなりやすく、……翌日のバッテリーが30を切っていて、全然使えない場合があります。その際は予備バッテリーに切り替えれば、事なきをえますがドタバタします。

それと”端末データ”……主に、”追跡郵便”で”配達完了”や”不在・翌日回し”、”代引き・おつり”などの記録を会社に送るわけだが……。これをしないと書留や荷物の返納票が出せない(正確に出せない)。


「課長や郵便課は”端末データ”がしっかりと流れてないと、閉め作業ができないんだよ。つり銭の管理やら、書留の数合わせもするんだ」


端末データが飛んでいない”携帯端末”を捜すのは怠いのである。おまけに、”携帯端末”は一定時間使用していないと、ロックが自動的に掛かる。解除には社員がそれぞれ決めているパスワードが必要なため、余計に困る。


「んー、あと返すもんは……今日はねぇかな?」


携帯端末、携帯プリンタ、バイクのキー、あとは……不在となって持ち戻った郵便物、翌日回しの郵便物、寄り忘れた郵便などなど……。

その始末が色々とあるが


「うん。今日のところはねぇはずだ!安心して帰っていいぞ」

「は、はい!!」



よ、ようやく終わりか~~。こんなに覚えることあって、まだ家の並びとか憶えてないのに……。



クタァ~って感じにその場で腰を下ろす森橋。その姿に、自分も昔はこうだったなって感慨深くなる山口。新人初日はよく覚えているものだ。

指導側。……山口も初めての職場の後輩だったから、結構飛ばし気味で教えた。


俺の最初の先生はあのクソ爺だったから、マジでムカついたもんだ。あれよりも大分マシな教え方をしたもんだ。



「じゃあ、家帰ってゆっくり休んでな」

「は、はい……明日、頑張ります」

「明日、8時だからな」

「あ、山口さんは?まだ仕事ですか?」

「ああ。夜間の再配達に行く」




指導終わってから、夜の再配に行く山口兵多だった。それを知り、森橋は自分はこの仕事についていけるのか、不安に思うのであった。

森橋の帰り間近でもそこに声を掛けてきた人物、


「お疲れ、森橋くん。どうだった、きつかった?」

「は、はい!部長!……や、山口さんに徹底的に教わりました……こ、細かいぐらい」

「新人のミスは気にするな。教育係のせいだ。あいつは、そーいうところは神経質に気にする奴だ。辛かったら、木下の馬鹿と代わってもらうといい」


木下というのは、この班の年長者だった人か……。あの人の方が指導役として、最適なのかな?って思うのだが。まだ初日だ。山口を信じる。もしかすると、優しいって意味かもしれない。

と、とにかく今日のところ


「明日。頑張ります」

「8時からだからね。ちょっと、朝の動きも教えてないから、また覚えること多いから。ゆっくり休みなよ」



まだ覚えることがあるのかぁ~……。って、自分にできるか不安げになって、帰宅する。

でも、辞めたり、逃げたりするつもりはない。

森橋くんも新人だけれど、山口兵多だって、指導役の新人だ。


自分の性格も含めてであるが、しっかりと新人に一から教え込むやり方。間違ってないんだけど、若い新人を任せるには……



「兵多。お前、酷だな~。間違ってねぇから余計に性質たちが悪い」

「うるせぇ」

「森橋くん、完全ギブアップ顔だったぞ」


部長は指導役を務めた山口に、随分と馴れ馴れしい苦言を言うも、山口も山口で反抗的な顔と声。



「俺が受け持った新人なんだ。生易しい事はしない!新人のミスが指導役のミスだって言ってるだろ?」

「そりゃあそうだ。……お前も、よく間違えてたもんな。木下によく怒っていたな」

「るっせーー!指導役が悪いんだよ!!俺は夜の再配に出るから!もう引っ込んでろ!!」


新人時代のミスを思い出したりすると、恥ずかしいから消し去りたい山口。

そのミスは決して恥じるものでもないし、大きく気にする必要はない。それがあって、今の自分があったりするわけだ。鬼教官っぽくなっているのは、森橋くんのタメというより、自分がその責任をとりたくないところがある。

新人が間違えないなんてあり得ないから、まず絶対に気を付けろっていうところは体に染みつかせたい。指導が足らずに、失敗ってのが面倒であり、


「ミスは連鎖するって部長さんの口癖じゃねぇか」

「そのと~り」


新人が年下かつ、初めての職場という点では……山口の指導は合ってるはずだ。決して冷たいわけでもないし、初日から教え過ぎでガチガチに固めた方が、若い奴には合ってる。


問題は指導役が年下で、新人が年上の場合。


この指導はかなり嫌われると思う(人にもよるが)。ガチガチで徹底的に教え込む指導は、覚える事が多い新人には凄くキツイのだ。マナーなり、礼儀なんて、文句言われなきゃ何でもいい。そーいう考えというか、別の社会に身を投じていた人物が、そんな当たり前のところからネチネチ言われるのは、気に食わないと思う。

世の中、最低限にできる仕事に必要なのは、マナーなり、礼儀なり……括るなら”常識”ってもんがあれば、どこでもOKだ。

社会の初めての人は、会社に勤めてるとよく分かる。


”今まで勉強してきた事よりも、今まで生活してきた事を活かせばなんとかできる”


緊張を解けて、ようやく、立派な社会人。


挿絵(By みてみん)

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