Fパート
対面配達。
それはインターフォンを押して、荷物を渡すというだけの事。
実際はそれだけでしかない。ホントに
”通常のお宅”なら頭で思い描いた、仕事をするだけでいい。
しかし、そんなお宅が全てと限らず、それに対応しろというのが当たり前。新人さんが覚えるには、今は多すぎる。
とはいえ、こんなこともできなきゃいけないと言われる。
「ほいじゃ、あそこ保間さん家にゆうパックを届けてくれ、森橋くん」
「保間さん……って、どこです?」
「千勢さんの隣の家だ。表札ねぇけど、そこで間違いねぇよ」
森橋は山口に渡されたゆうパックを手に保間さん家に向かう。
ゆうパックを配達証付きのお荷物だ。配達をする場合は、配達証をとって、印鑑かサインを所定の場所にもらって回収し、荷物を渡す。
配達証に印鑑かサインをもらえばいい。そんな動きとなる。
ピンポーン
「郵便局でーす。保間さんにゆうパックでーす」
……反応がない。
森橋はゆうパックを持ちながら、不在票をぎこちなく書留カバンから取り出し、ポケットからボールペンを取り出し、……”保間さんの家のドアを壁にして、不在票を記入しようとした”
「馬鹿野郎!!」
「ひえっ!」
「配達員のダメ行動の1つだ!!」
「えええっ?」
「……ま、落ち着け。とりあえず、それは止めろ。人の家を壁にして不在票は書くな!」
これをやってる配達員も実際にいますが、この行動はNGです。気にしない人も多いけれど、家を汚すなとか、イチャモンを付けられるとこっちに非があるからだ。
ホントに良くないからだ
「でも、綺麗な字で書けませんよ」
「綺麗な字を書く必要はねぇ」
そう言うと、保間さんのゆうパックを板代わりにして、不在票を書いてあげる山口。
その字は綺麗じゃなく、普通より少し汚いくらい。
「とりあえず、ドアや壁を使って不在票を書くな。字を気にする場合は、自分でメモ台でも用意しろ」
「商品使っていいんですか?」
「力強く書かなきゃ問題ない。ボールペンは濃いの使えばいい。そのために商品に外装があるんだ」
「た、確かに」
こんなことを言っていると、お客様になんだとこの野郎と言われるが……。壁を使って不在票を書くなって理由としては
「不在票を書くのが遅くなるんだよ。受取人の名前は正面だけど、差出人は裏面で裏返したりするだろ?それと壁に荷物をぶつけても汚れるもんは汚れる」
1.
名前が書きにくくなって、不在票を作るのに時間が掛かる。ロスとしては10秒ぐらいだが、差出人の名前は意味もなく長かったり、英語だったりして、余計に時間をくう。
2.
お客様がよくイチャモンをつけてくる。不在でもインターフォンがカメラがついてある奴だと、その様子を訴えて来る事がある。
「だから、基本は荷物を下に不在票を書け。そうすりゃ、イチャモンは来ないし、不在票も早く書ける。人が見て読めれば良いんだよ。実際、再配達を依頼する事に受取人の名前や差出人の名前は要らないんだ」
不在票には再配達のやり方がちゃんと記載されており、その中に受取人の名前や差出人の名前は使う必要はないのだ。あれはあくまで、どんな荷物かを伝えているだけに過ぎない。
「でも、字が汚いとか言われたりもするんじゃ?」
「よほど、汚くなきゃ言われない。……そーいうクレームには、伝説の切り替えしが存在して」
【これくらいならあなたの識字力が悪いだけですよ。目ん玉だけでも入れ替えた方が宜しいですよ】
「ブチギレさせた回答をした事があって、爆笑したこともある」
「ひどっ!?」
……とりあえず、人が読める字を書けばいい。不在票の基本は読める字を書く。高齢者にありがちだが、再配のやり方が分からんって(やる気なし)お客様も珍しくない。たまに、佐川かクロネコの奴を頼むのは止めろ。
「不在票入れちゃいまーす!」
ガコォッ
山口に不在票の書き方を指摘された後、森橋は不在票を投函。初めての対面配達は不在で終わった。
不在のゆうパックを山口に渡すと
「馬鹿野郎!」
「ぐえーっ!」
再び、山口が指摘をする。森橋、何をしたのか分からず……。これが仕事のミスという奴。分からないところが分からないという、学校でよく学んだ出来事だろう。
「こ、今度はなんですか?山口さん!」
「2つある!まず、その不在票!書いたまま、投函しただろう?」
「そ、それがなにか?」
「お前、ポストに入っているチラシをどう思う?ペラペラじゃないか?新聞紙って束になってるだろ」
「!」
これは配達員のミスではないんだけれど……。お客様が不在票を失くした(入ってないんだ、コノヤロー)っていう原因の1つに、チラシと一緒に捨てたというモノがある。
これを防止する上で、不在票に折り目をつけたり、丸みを作って投函するのが好ましい。これだけでも後からやって来たチラシを押しのけるようになるから、お客様が気付きやすい。
「そこまで配慮するんですか」
「いいか!!この世の人間は馬鹿ばっかりだ!優秀な奴に合わせる世の中じゃないんだ!馬鹿に合わせている世の中なんだよ!」
折り目付けるのは別に大した時間じゃないので、これはホントにやっておくと良いです。ただ、ちょっとした問題点があるとすれば……後に書きます。
ともかく、お客様に気付いてもらうように不在票は投函しましょう。
「新聞紙の間に不在票や郵便物を入れるなよ(夕方とかによく起きる)」
「もしかして、新聞紙の中から」
「そ!TSUTAYAのDVDが出てきました~ってトラブルがあったりもした。休日に見れなかっただろうがって怒られたもんだ」
ポスト投函すりゃあいいだろうじゃ、ダメなのだ。定形郵便や不在票の場合、チラシより小さい事が当たり前な分、気付かせる努力もすること。郵便は折っちゃいけないけど、不在票はお客様に気付かせる事は心がけましょう。
「そしてもう1つ。森橋くん。ご質問します。……保間さんってどこの家ですか?」
「へ……ここじゃないですか!?間違ってませんよね!」
実際に保間の家にお伺いする前に、山口に確認をとった森橋くん。この時はなんら間違いはない。山口が指摘している部分は、”不在”だという事だ。
「当たりだな。で、森橋くんはどうして俺に、保間さんの家がどこか確認したんだ?」
「そ、それは……表札がなかったから……初めてですし」
「だよな。で、もう一度訊くぞ。保間さんの家ってどこにあるんだ?表札は出ているのか?目印はなんだ?……この不在を切ったお荷物の再配達は、森橋くんが行ってくれるのかい?夜間配達の希望でも行ってきてくれるか?俺は知ってるけど、知らない人間もいるんだぞ」
不在の場合。
そのお宅に表札が存在していない場合、必ず、注意書きをしておこう。
不在の時に出て来る番号の紙片の隅に記そう。
”表札なし”とか”千勢のトナリ”、”白い色ポスト”など、特徴を書くのが大事だ。
「届けて終わり、不在票入れて終わりじゃないからな。表札を出してないこの人が悪いけど、そこを対応するのが仕事だから」
「嫌っすね」
「……表札がないパターンが多いけれど、”同性同番地”って、お客様でもしょうがねぇ理由がある。そこらへんも考慮して、仕事をする」
”同性同番地”はホントに珍しいが、平地の並びで同じ苗字・似た苗字が近くにあるというのは珍しくないのだ。それは通常郵便の誤配も珍しくなく、対面ご配達はもっと大きい事になる。
そこに住んでる人には、とりあえず罪がない。だからここは、配達員が気付いてフォローしなきゃいけない。まぁもっとも、そこで誤配をやらかした新人配達員がいたら先輩配達員は
【そんなところに並んで住んでるのが悪いんだよ。今は気にすんな。次はやるなよ】
こんなフォローで、次から気を付けるようにしている。
一方でこんなことを毎日やっている配達員がいたら
【なんでいつも間違えてんだ!!ゴミ野郎!!記憶鳥頭かこのクソ爺!!】
課長・班長ブチギレ案件。同じ配達員が同じお客様に何度もやっちゃいかんよ。その上で
【だはははは、お前めっちゃ怒られてやんの!】
【反省しろよ!当人!】
【反省しましたぁ~~、てんまつちょかきま~ちゅ】
【お前、殺してぇぇっ】
何度もやってる人はお茶らけて反省するのが日常化してるから無理だ。誤配しないより顛末書を書くスピードが上がっているくらいだ。なんでそっちにパラメータを割いてんだ。って課長・部長はキレている。……ともかく、配達員が悪いのもそうだが。
表札の下か横に”住所を載せる”と、改善しやすい。ただ、それでも間違える人もいるから、出来る限り、配達員が気を付けます。
配達員が気を付ける事とすれば、”常に住所氏名を読み上げて”の配達しかない。要するに基本動作をやる事である。
◇ ◇
集合住宅の配達、平地の配達。
平地の対面配達、……とくれば、
「集合住宅の対面配達も教える」
「それもやっぱり書くんですか。なんかイメージ通りのような気が……」
「でも、やってみると違うだろ?仕事ってそんなもんだ。だから、尊重はしなきゃな」
集合住宅の対面配達。これはオートロック式なども含めて、今回は解説させて頂く。
まずだ。
「絶対に上に行くの面倒だからって、ポストに無理矢理入れるなよ~~」
「部長と同じこと言ってますね」
「集合住宅の方が無理矢理、郵便物をぶち込むケースが多い……理由はさっき言った通りだ」
上に行くのが面倒だから、無理矢理入れるという配達員は珍しくない。心理的な事は分かるが、これがまず、基本中の基本。中身をぶっ壊されると被害が結構大きい。
「集合住宅の基本として、まずポストに入る郵便物を配達してから、対面配達を行うといい」
「分かりました」
ケース1.
集合住宅・オートロックなし・宅配BOXなしの場合。
普通にエレベーターOR階段でお客様のところへ行く。
山口と森橋は8階までエレベーターで上がり、805号室の柳さんのお宅へ。
ピンポーン
「柳さんに書留でーす」
”呼び鈴”、”呼びかけ”。これはとても大事だ。
それとうっかり忘れていたが、配達時にもちょっとした注意事項がある。森橋くんがちょっと悪いパターンを物語の都合上、”ワザ”と演じてくれる。
ガチャッ
「お待たせしました」
「柳さんに書留です。判子かサインをお願いします」
「あ、じゃあ、ペン貸してください」
そう言われて、森橋くんはボールペンをそのまま柳さんに渡すのである。
サインの場合は基本的にお客様はフルネームにして欲しい。郵便物によっては、フルネームにしてくれないとダメな奴もある。しょうもねぇのは作者も、サインなら何でもいいよって感じにしてはいます。以前にも書きましたが、誰に渡したか分かってればいいんです。
対面配達をして、荷物を受け取っていないというクレームは、……100万分の1くらいだ。そして、結局、受け取っているパターンが多い。
サラサラ
「はい」
「では、こちらとなります」
「ありがとうね」
ガチャッ
「ふーっ、無事に書留を渡せました」
扉を閉めてくれた柳さんを見た後、影に隠れていた山口が森橋くんへ。
「お前、何してんだコラァーーー!!」
「ぬおおぉっ!?蹴りを入れようとしないでください!!山口さん!」
「俺なんかまだマシだ!実さんだったら、ここからお前を1階まで投げ落とすぞ!」
対面配達のマナー講座。配達を行う時について。
「……後でも先でもいいけど、まず。ボールペン!」
「は?」
「お前、針側をお客様に向けて渡したらダメだろ。ちゃんとノック部分を向けて、お客様に渡せ」
これは勉強じゃ習わないな。ただ、図工とかでハサミを渡す時に刃先を向けて、人に渡すなって言われているだろう。あれと一緒である。ペン先をお客様に向けて、渡すんじゃない。気にする人はあまりいないけれど、不快に思う人もいる。借りといてなんだよって思うかもしれないが、それが社会人のマナーの1つ。同僚ならともかく、相手はお客様だという自覚は持って欲しい。
「その小言の次に、荷物を渡す際。……軽くでいいから、”住所”と”苗字”の読み上げをして、渡すようにしろ」
「は、はい」
「”フルネーム確認呼称”とか、郵便局でやってるけど。……あんなカッチリじゃなく、苗字と……集合住宅なら”マンション名”+”部屋番号”。一軒家なら、”番地を言いながら”渡すように。ホントに些細な事だと思うけれどだ。10年以上もやっている人でも、対面誤配は普通にやってんの!」
1日に対面配達をする数は、少なくても30ぐらいはする。書留の数次第じゃ、1日で70,80もの対面配達をしたりするのも珍しくないのだ。
週5で働いて、……その5日間に200件以上の対面配達を行う。これを月計算にすりゃ、1000件近くはお伺いしてるし、年計算にすれば1万なんて軽く超えられるんだ(特別な荷物の配達もあるから、対面配達だけでも10万以上に達してもおかしくはない)。
……だから、要するに
「間違えない奴なんていねぇんだ。だから、基本をちゃんとして、その間違えに早く気付け。そのために、”フルネーム確認呼称”があるの(あんなカッチリする必要はねぇけど)」
忙しいと表札すら違うのに、ウッカリ隣の家のインターフォンを押したりする。集合住宅で分かりやすい例だと、部屋番号を間違える事も多々ある。いつも来る4階の田中さんと、極稀にしか来ない3階の田中さんを混同してしまう時もある。
書留だと起こりやすいのが、
「同じ苗字が連続して続くケースもある。住所は違うんだぞ」
通常郵便の配達だと、そう稀にある事はないが。書留のみに絞った道順組立だと、連続して同じ苗字の並び。もう1つに定形外の書留。これもキャリーケースに収納する都合上、住所の把握が疎かになりやすい。いくら、朝覚えても、午後とか夕方にはスッカリ抜けている事もある。
通り過ぎる分にはいいんだが、見落として勘違いの配達をするケースもある。
そんなの確率で決められるもんじゃないが、……まぁもし、長く続けるようだったら、夜間再配などの配達時に、
「再配達で”フルネーム確認呼称”ができない人は、使えないぞ」
知らない地域の配達もする。
だから、それくらいは常に配達員ならして欲しい。お客様も聞いちゃいないけれど、……違った場合は、ちゃんと言ってくれる。
これは荷物を正確に届ける上でやって欲しい事であり、郵便局”だけ”なのがシャクな話だけれど
「集合住宅だと、”昔住んでた人の郵便”が来るのも珍しくないし、”部屋番号を書かない”とか”部屋番号”を間違えている荷物も珍しくないんだ。……ぶっちゃけ、返したいんだけど、それも配慮して配達をするんだ(あくまで大事そうなもんだけな、AMAZONとか楽天とか自分で頼んだタイプ)」
クロネコさんも佐川さんも、こーいうトラブルは困っている……と思っているだろう。受取人が届かないとか騒がれても、配達員は差出人の書いた住所通りにお伺いしていたら、まったく非がないのだ。むしろ、完璧な仕事をしているのだ。
再配達の問題云々の前に、発送の際は、しっかりと住所と発送日の確認をお願いします!!
そして、そーいう荷物を一番取り扱っているのは、郵便局で間違いはない。
「書留だと特にあるのが、カードの更新だ。住所変更してない人は多い。使わないカードだって普通にあるだろ?」
”フルネーム確認呼称”で大事なのは、”昔住んでたお客様のお荷物”の場合を回避できる可能性がある。不在になったら、再配達の依頼が来なきゃ配ることはないんだ。配達完了になったら、OUTなのだ。書留やゆうパックの事前の”居住確認”は絶対にしてますって人が大勢いるのは分かっているんだけれど、……
「それが”当たり前”なんだ。当たり前でも、”やってねぇ”ことは実際に起こる。いかに危険を冒さず過ごすかが、このお仕事。やってる事は勉強以下だよ」
朝の朝礼でもそーいう確認を言ったりするのは、毎日、みんながミスしてるからじゃない。半年に1回くらいはこんなことが起こる。笑えないけど、書留なんか1年に2通くらい失くしたり、落としたりしているのが現場の実情だ。365日に2通失くすなら、大したことではないと思うかもしれないが。お客様が我々を信頼して、通常料金も高くお出しされてるのに、そんなことしてたら利用してくれなくなる。それがあってはいけないんだ。
「偉そうな事言うが、作者も4通くらい失くしたことあるし、昔住んでたお客様の書留をうっかり配達した事もあるから(無茶苦茶、怒られるから)。結構、最初に五月蠅く書いてるんだよ」
「はへ~、誰でも失敗はあるんですか?」
「”一時紛失”なら誰でも経験ある。そこらへんは書留配達・紛失編でやるからよ」
対面配達する際の確認。お客様に渡す際はしーっかり、確認しましょう。
とりあえず、1つの叱咤が終わって、次のお客様ところへ行く時。
「エレベーター、エレベーター……」
「階段を使うぞ!602号室の楠さん家だぞ!」
「ええっ!?」
「郵便配達員は基本的に”階段を使え”」
「えええーーー」
オートロックなしの集合住宅の場合。エレベーターを使うのは当然。配達するマンションにある、1番上の階から配達をしていき、順次降りて行きながら配達を行うのが、もっとも早い。
「基本は”5階分”までなら、階段で降りていった方が早い!……いや、俺達だと”8階分”は余裕」
エレベーターをなるべく使うなってのは、1つの大型マンションに5つか6つは対面配達が出る。そのくらいの数があると、2階~3階ずつ降りていくくらいになる。
だから、エレベーターを待ってたり、呼んだりするのは時間のムダが多い。途中の階で乗ってくる人にもちょっと気まずくなるし。
だいたい、”5階分”が目安としてはいい。5階くらいならサッと階段で降りようと、体を動かそう。
「クロネコや佐川さん、生協さんは台車を押して集合住宅を駆けずり回るんだ。エレベーターはなにかと各駅停車になりやすい」
「分かりました!」