Cパート
ブロロロロロ
随伴指導って奴になるんだが、正直。現場に時間も人員も足りてねぇ。やってる余裕などない。文句がある奴は
「誰でもいいから働け」
現場はまさにそれだ。人を募集していても、そいつを見ている余裕なんてない。
配達員採用の書類審査も気楽で現場に対して、
『57歳なんだけど、お前等雇ってみる?』
『いいけど、辞めさせても文句言うなよ。ミスも対応しねぇぞ』
『じゃ、採用するぞ』
これだけでホントに決まって、面接などもそのフリで終わらせてしまう。本人に会う事もなく、受けるだけで採用されるほど緩々だった時もある(運転免許は確認したが)。当然っちゃ、当然だが。4か月で体をぶち壊して辞めてしまった。
その辞め方がとても非常識に思えるが、会社としては安泰な辞め方。その程度で壊れるとすりゃ、最初から使えねぇと分かっている。そして、採用側からすりゃあ超絶迷惑なのが、交通事故などの重大事故を起こしての逃げだ。
”余計なことしやがって………”
そう愚痴る上司と班内だ。使えねぇならせめての事はしろってレベル。
まだ若すぎる森橋には関係ない話だったか。それもそうだが、
「左曲がるぞ」
「はい!」
”交通事故”には、年齢も人間も、職業も……誰だろうと関係がある。
部長が前を走りながら、森橋くんの運転をチェック。やはり緊張のし過ぎだ。運転になると、顔が強張っている感じで前を見ている。余裕がちょっとないぐらいだが、このくらいなら事故は起こさないと思う。
郵便局が起こす交通事故の大半は、”不注意”や”確認不足”、”慢心”など。低い運転技術が原因というより、運転手の精神状態などが原因になっている。
”交差点での事故”、”前方車両・歩行者の不規則な動きに対応できない”。配達員だけに問題があるという結果にはなり辛いが、それは予測できるだろうが、避けれるだろうがって、周囲は言うから結構キツイ。そんな事故をすぐに起こさせないよう新人の随伴指導はちゃんとやらねば……。
「おーし、そこの大型マンションな!」
随伴指導で厳しい場合は、新人には自転車でひとまず対応をしてもらう。自転車だって交通事故扱いになるが、被害を考えれば……。って判断。
あ、そうそう。バイクに乗る際には、運転免許証以外に”運転記録証明書”が確か必要になる。(うる憶え)。これを会社に提出されていないと、バイクには乗せられない。ほとんど誰でも雇っているような状況だが、交通事故をやらかしまくってる人間にはNOが言われるかもしれない。
ここまで長々と説明文風になってしまったのは、それだけ交通事故は”秒で重たい処分”になるのだ。起こした配達員はもちろん、その配達員の班の人間達、彼等を従えている課長・部長達。クソ過ぎる本社の連中にそれはもう、関わる連中に対して極上のイクラ丼にめんつゆを並々ならぬ量で流し込み、お茶漬けみたいな感覚にして残さず食べろ、とするくらいにだ。要は罰ゲームという事だ。嫌らしい。
起こした本人は数週間は生きた心地がしていない。精神的に来るから、起こさない事を考えろ。
どの仕事も車に関わったなら、それは意識して欲しい。
キーーッ
目的の大型マンションに到着。部長は慣れた様子で郵便物が積められたファイバーを開け、森橋くんに定形郵便物を渡し、自分は大型郵便と書留などを持つ。
「木下や実がまた教えると思うが、配達もさせるぞ(別の地域だけど)」
平地の配達、マンションの配達。
それに関わらず、基本動作について教える。それも超基本。ぶっちゃけ、ここら辺は個人に任せるとされる部分までピックアップしてくる部長。(郵便物によって、処理が異なるのでまた教わる)
まずは集合ポストがある場所まで2人で行く。
このマンションは12階建ての大型マンション。近頃、建てられたとすりゃ、オートロックが付いてそうだけれど、ここにはない。すでに中古マンション扱い。
「配達をする前にだ。ここのマンションをしっかり確認してくれ」
「このマンション。……ワイズリーグローマンションですか?」
「郵便物にも書いてあるし、表にも書いてあるもんな。字が読めればまずいい」
「超低次元からスタートしているような……」
新人にはまだ、”慣れ”ってのがない。何事も自信と共に来る油断が、ミスの元。
部長をして
「配達の基礎・基本として、自分が”どこ”を配っているのか、意識して欲しいんだ。ふざけた話、マンションを間違えて配る事を経験してる連中は誰にでもある。そうして、成長してるが……」
郵便一通一通、神経を尖らせてもしょうがない話なのだが。
自分の位置はまず把握して欲しい。どんなところを配るのか、想像してから配達をして欲しい。配ってからでは遅いのだ。マンションだとありえねぇーって思うが、平地の配達だと頻繁にあるのが悲しいこと。
部長はそれを告げた後で、森橋の指をチェックし
「指サックはちゃんと付けてるな。付けない奴もいるからぶっ飛ばしたくなる」
「そりゃまぁ。言われてるんで」
指サックはちゃんと付けているか。
「じゃあ、定形郵便を配ってくれ。ゆっくり慎重でいい」
「は、はい!」
しっかり郵便物を指で送りながら、ポストに投函する。まだ新人の内は、住所や苗字名前を確認するが……。慣れている奴は、その確認がとても”短い”。流れ作業に自信があるからだ。
新聞屋さんがよくやる配達の行動であるが、
「配達するポストに対して、体を正面に持って来てな。高い低いところは腰と足を使って、合わせるんだぞ。ポストを見ずに腕だけ伸ばして入れるやり方はすんな。新聞屋じゃねぇーぞ」
郵便配達は他の配達と異なって、非常にその件数が多く、配達する量は一番のはずだ。
郵便配達はその数の多さもそうだが、”どこ”に”何が”来るのか、その日にその日によってまったく違う。マンションだと特に、部屋番号が飛び飛びになって配達する事が多いし、1件に大量の郵便が届くパターンも珍しくない。
だから、配達するポストに対し、投げやりな感じで配達するのは、そもそも不向きで遅くなる。正面に体を持って来るやり方がなんだかんだで確実で早い。
ガコォンッ
そして、ここでは”まだ”少しだけ触れる事にするが。配達する”郵便物の向きの統一”も非常に大切な事である。道順組立の段階でその向きの統一はされるのだが、これがグチャグチャだと配達が不完全なモノとなる。
森橋くんはまだ、その大変さに気付いていない。
新人や業務の遅い・ミスが目立つ方は、まず”郵便物の向きの統一”から始めてみると良い。一人作業が多い分、人のやり方をなかなか確認できない事もある。この基本を未だに無視して、何十年と働いている人もいる事実もある。悪い癖は早々治らない。
森橋くんが定形郵便を慎重に配っている間、部長はポスト投函で良い追跡郵便を配達していた。
残りは定形外郵便。こちらも森橋くんに配らせる予定だ。
今、初歩の初歩。そんなこと言わなくていいよって、思う方々がいるんだけれど。……ミスして怒られるのは、班長・課長・部長クラス。この人達からすれば、そんなこともできねぇのかと、客以上に怒りもしちまうからだ。それをグッと堪えて、タバコと酒、女で我慢してんだよ。
こーいう基本は鬱陶しいと思われてから出来上がる。……ただし、ミーティングが長いのは許さん!
「じゃあ、定形外を配ってくれ」
「分かりました……(部長が配った方が早そうな)」
「森橋くんにやらせないとダメだろ」
「心を読んだ!?」
ここから定形外の配達。大きくは定形郵便の配達と変わりないのだが、注意点が1つある。
ガスッ
「むっ……入らない」
「無理矢理入れるな。折曲厳禁・割れ物、水濡現金とか注意書きがある郵便は特に、大事な商品で、替えが効き辛い」
定形外郵便の非常に困ることがいくつもある。
折曲厳禁と割れ物、水濡厳禁などの”郵便物の保護”について、ピックアップさせてもらえば……
「ウチ等にそんなサービスは、そもそもねぇ」
大前提として、それをやっている料金はもらっていない。……金が欲しいと言っているわけではないが、そこは考えて頂きたい。もちろん、そのような事がないようにしたいのは我々も同じです。
「だが、こーいうお客様の注文をそれとなく応えるのが仕事。指導しても指導できねぇぐらい、ポンコツはいくらでもいる。Mマゾなのはいいが、俺はどSエスだから関わりたくねぇ」
「仕事中にそんな事言わないでください」
「社会人やってる奴なんて、多少のMマゾ体質は持ってねぇとダメだぞ。どMは異常だ」
こーいう”郵便物の保護”に関するミーティングは、毎日のようにしちまう。部長や課長だってしたくねぇんだけど、配達員お前等が馬鹿だからしてんだよって。内心の気持ちである。いつまで経っても、直さねぇわ、責任ねぇわ、……金が欲しいって言ってるわけじゃないって前提したのは、仮にお客様が払って頂いても、一部の配達員は”それ”ができない。それも常態化してる。
「……怒られる奴なんて決まってる。少なくとも、森橋くんはそーいう人間になるんじゃないぞ」
「は、はい。なんか部長の愚痴ですね」
「部長やって分かるけど、マジでムカつくからなこの仕事……俺の相方が相方だけど」
「????」
話が飛び飛びになって申し訳ない。郵便物の投函方法についてまた話すからだ。
ここで言いたい事として、一部の配達員ばかの悪癖を伝えたい。そして、この基本中の基本がお客様に対して大切だからだ。
定形外が郵便ポストに入らない場合。
特に集合ポストに入れるタイプ=集合住宅では、
「郵便物がポストに入らない場合は、無理に押し込まず、上に行ってお客様のところまでお伺ってくれ。特に折曲厳禁や割れ物に関しちゃ、無理な配達はしないで、いなきゃ不在票でいい。こんな当たり前な事でも、できない奴がいるんだよ」
「…………」
「なんでそーいう事をするかって聞いたら、どいつもこいつも内心で。上に行ってまでお客様のところにお伺いするのが面倒だって思ってるからなんだよ」
”商品が壊れている”のと、”商品が届いていない(不在や返還、誤配)”の違いとして。
郵便局が可能な対応が違う。(クロネコ・佐川さん達も同じはずです)
中身がそもそも壊れていると、その中身の分まで謝罪と賠償をする事になります。原則ないとされてるけど、郵便局側に明らかな非がある場合はその対応はしてます。ただし、外装の破損に関しては知りません。それは間違いなく賠償による対応はしません。あくまで中身(線引きとしてこう書いてます)。
受取人に賠償もそうですが、差出人の方にも謝罪なり、請求なりが来るため、対応が大変である。発送するのが大変な場合、時間だけでも1か月以上は掛かります。
一方で、不在や保管期間による返還の場合。(誤配は別)
基本的にお客様から愚痴を言われるだけで終わりますし、再配依頼でちゃんとやってれば何事も問題ありません。……不在票が入ってないとかのクレームもありますが、こーいう結末は配達員やら課長達は、スマホ弄りながら謝っても済むレベルの事です。
もちろん、郵便物を投函できるなら、そうした方が再配達の手間が無い分良いと思っております。ですが、再配達ってそもそもの数が多いので、1つ、2つ増えても変わりはありません。
配達員なんて、コキ使って結構なんで。
「それと商品が壊れてるタイプの申告は、課長・部長が対応してる事が多い。俺達ができるのは、やらかした配達員を殴らず、蹴らず、口でシバくことしかできねぇから。……契約を更新しねぇって事をするにしても、時期が必要だ。場合によっちゃクビにもするし、異動もさせる」
「基本を護ってればいいんですよね」
「それくらいの配慮もできねぇ奴に、人権は与えねぇ。仕事をするって事はそれくらい覚えてくれ(いちお、初犯や不可抗力、お客様の状態によるもの、だったら許すが)」
いちお。……”いちお”の話であるが、そーいう基本中の基本のやらかしをやる方に対して、部長・課長がとるのは、口によるシバきと評価や異動関係に関わります。
ただし、”班長・班員”によるお仕置きは違います。
そいつの働きや普段の態度・業務能力を鑑みて、部長や課長の手を汚さないで馬鹿の始末を任されてます、……俗にいうパワハラって奴ですが。どMホイホイのプレイをしたりもします。
これ言うと、アレですが。
この手の常習犯は、お仕事を辞めて頂いた方が周囲やお客様達にとって有意義です。……正義のやり方ではありませんが、班長・班員は早く帰りたいし、課長・部長は対応をしたくないし、お客様から不信を抱くような事はしたくありません。
その上、デカイ声で給与が低いだ、残業代を払えとか、この業務はしないとか、年齢以上に無能な癖して態度も悪ければ、今は普通に切り捨てます。
パワハラをされていると思ったら、まず自分は周りと比べてどのようなお仕事をされているか、考えてから訴えましょう。これは郵便局に限った話ではないので、そこだけは言いたい。ですが、考える頭がないので無理だと思います。
「無能の戯言を聞く、部長の身にもなれ」