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Bパート

「森橋です。初めてのお仕事となりますが、精一杯頑張ります!!」


4月1日。


新人採用やら人事異動などが決まって慌ただしい一日である。

自分を始め、8人の方がここの郵便局に勤める事となり、新人は自分を入れて3人である。ちなみに自分が一番年下であり、正社員じゃない。

周りなんかとても気にする余裕はなく、挨拶と名前だけの確認だけで終わってしまった。これからも仲良くなろうとするのに。


「おーい、山口。お前の初めての後輩だからなー!」


俺が配属された班。

そして、配達地域を任された場所は、北砂流町1丁目のエリア。”73区”の配達エリアだった。指導をしてくれるのは、自分より7つも年上であるが、班内では俺に次ぐ若さ。局全体で見ても、下から数えた方が早いというのだから、……見た雰囲気だけでも中年達・高齢者達がやっているお仕事だった。


「よろしくお願いします」

「おう!俺は山口な。他のメンバーについては、明日の朝のミーティングで紹介するから。今日は自己紹介とかあったから、道順組立とか。云々は明日にするとして。午後の配達だけ行こうか!」


恒例な話ではあるが、新人さんが初めて仕事をする日は午前の途中からだ。いきなり朝から来ないで、バイク操作や班のメンバーを覚える。仕事の段取りを教えられる……といった事がメイン。緊張はあるだろうが、初日は……言い方が悪いが


「午前中はジッとしててくれ。(初日に未経験者を教える余裕がない。余計なことすんな)」


4月1日というのは、すごーーーく。郵便局としては忙しい日になる。人事関係の話もそうだが、通常郵便、速達、レターパックなども大量に来るのだ。おまけに会社関係からの問い合わせも多い。

そのため、経験者だったら”道順組立”やら”配達地域を覚える”ことなどをするのだが……。午前中はまずやらない。森橋も班に呼ばれはしたが、待つこと10分くらいで面接で出会った部長から声を掛けられる。


「森橋くん。まずは、入社おめでとう。今日は君のバイクの運転を見たいんだ」

「は、はい!」

「はははは、良い緊張だな。だが、体はちゃんと解せよ」


部長・もしくは課長クラスの人間が、未経験の新人さんの運転チェックを行う。

郵便バイクにはクラッチ操作や電動バイクなどの操作はあるが、そう小難しい操作は要求されない。一般道路を爆走する大型バイクなんかと比べると、シンプル過ぎるし、操作性は簡単。

原付に毛が生えた程度の操作性だ。

今は運転免許の確認が徹底しているが、2000年代頃は原付免許で平然と120ccの郵便バイクを使っていたという。昔はホントに、世紀末ヒャッハーエピソードが多い。そりゃあ、お前等って公務員じゃないねって思える事ばかり。


「1階の発着場で待っててくれ。バイクを持って来るから」


郵便局の中の構造は局によって色々とあるが、基本的には地下に車やバイクの駐車場がある。1階もスペースは広いが、仕分けされた郵便物などを積んだ大型トラックが頻繁にやってくる発着場となっている。お客様によっては、うっかりここに駐車場があると勘違いして入ってしまう方もいる。大型トラックの出入りがあるので、危ないですよ。

森橋が待たされること、3分。スーツ姿の部長がヘルメットを被ってバイクを運転する様。郵便配達員ではなく、保険会社の方にしか見えん。制服の力は凄い。

普段からバイクを乗るわけじゃないが、この部長は慣れているのか。カッコよく自分の前に停まって。


「じゃあ、バイクの運転を始めようか。ちょっと端でやるぞ」


発着場の端に案内される。そこにはワザとらしく、バイクがなんかやりますよ~ってくらい。車1台分しか停められない駐車スペースと、謎の白線があった。自分はバイクのキャリーケースに入っているヘルメットを部長から渡され、装着する。その間に部長はバイクから降りて、バイクを優しく……


ドーーーーンッ


壊さないよう、地面に倒すのであった。……一体なにを?って思うかもしれないが、原付免許の時にやらされた事がある。


「まずは倒した郵便バイクを持ち上げられるか。恒例なんだがね」

「テコの原理使わないとキツイですよ。教習所でやりました」


運転技術として始めに教えられる事は、地面に倒してしまったバイクを持ち上げるという事である。郵便に関わらず、バイクに関わるお仕事はまず必修であろう。

森橋はセンタースタンドの近くに体を寄せ、キャリーケースとハンドル部分を持ち、


「よっしょ!」


森橋はゆっくりとバイクを持ち上げていく。自分の若さもあるが、軽い軽い。歳をとると腕よりも、腰にグワッてなる重量。上半身の力だけだと腕がやられて、バイクの重量に苦労するが。バイクの下から自分の下半身も利用し、角度45度付近まで上げれば、あとは何とかなる。

サイドスタンドを立てる事ができるのなら、安全圏。


「おー。良い上げっぷり」

「何度もやりたくはねぇーっす」


これは辛いだけで楽しくないし、誰しもそうだがバイクを倒すなんて事を想定しない。しかし、事故の想定をしなきゃいけない。誰だってバイクを倒した事はあり、その度に四苦八苦。周囲の人達に頼んで一緒に持ち上げたりする。

最低限の、万が一の備えは自分に必要なのだ。


「でも、そうじゃなきゃな。ちょっと待ってろ。……あ、バイクはセンタースタンドにしといて!」

「?」


郵便バイクは、原付・大型だろうと、その重量に大きな差はない。ただ、電動バイクはかなりの重量があり、バッテリーなどを含めると単独でバイクを持ち上げるのは厳しい。電動バイクは給油がなく、便利で速くて、静かであるが。郵便配達を考えるとちょっとだけ困ることがある。導入したのが最近なのもあるかもしれない。まだまだ改善の余地がある。

簡単に倒したバイクを持ち上げた森橋。それを見てから嬉しそうに部長は、1階の郵便物が保管されている不在留置きのところへいき。


「!うぇ」


明らかにバイクで積み込むものじゃない。

超大型の郵便物を、両腕の全てを使って持ち上げて運ぶ部長が戻って来た。重量はどれくらいだと、不安に思う森橋を他所に部長は、


「おっしょー」


バイクのキャリーケースにつっこむ。これ1つでキャリーケースがほぼ一杯。普段は車で配達する人が運ぶ、”EMS”と呼ばれる国際郵便。それも大型。都合良く、不在になっていた大きくて重たい郵便物を借りて


「跨って。センタースタンドを解除してみ」

「は、はい!」


教習所のバイクは、1癖、2癖とある。操作性と重量に難があると言っていい。

だが、スーパーカブのタイプがほとんどである郵便バイクは、そーいう問題は少ない。

センタースタンドを外す時。森橋にもよく感じる重さ。



「お、重い」

「後ろの重量がヤバイだろ。この中身は野菜だから心配すんな。落としても平気だ」


郵便バイクを倒す原因は大きく分けて4つある。


1つ目は天候。


雨と強風、雪によって、運転ミスをしてしまっての転倒だ。これは交通事故にも繋がる。濡れたマンホールやタイル床を走行する際は注意しよう。極力、その地を回避して走行するのが最適解だ。


2つ目は停め位置。


「じゃあ、サイドスタンドを立てて、降りてみて」

「はい」



指示通りにサイドスタンドを立ててから降りる森橋。

自分がバイクを持ち上げた時に立てたサイドスタンドよりも、今の方が当然だが、バイクがサイドスタンド側に傾く。荷物の重さが影響している……が、それよりも大事なのは




「郵便バイクってのは、色んな家、場所に行くから。ここみたいに平らな駐車場じゃないところもある。砂利道に停めたり、坂道で停めたりな。一番多いのは、路肩ろかた




郵便配達の基本はサイドスタンドでの停車だ。ホントに重くて危ない時は、大事をとってセンタースタンドで停めるが……。台風クラスだと、風で倒れることも珍しくない。”状況判断”が大事。交通事故の大半は、”状況判断”を怠ることが入る。




「例えば、サイドスタンドを停める場所に石ころやボールがあったら、ズッコケるよな?当然」

「はい」

「慣れない内は、停める前に足元を確認すること。停めるところが坂なのかも確認し、後ろの荷物の重量も把握すること。ハンドルを握ったら大分重かったろ?」



というより、これを軽々運んできたこの部長のパワーがすげーって思う事もある。

停め位置というのはとても大事だ。一番バイクを倒す原因である。

そして、周囲をしっかり確認して停めることも大事です。



3つ目は”積込”した郵便物の重量。


「デカイ郵便物は車にやらせるが、物数が多いと自然と積込する量も重さも大きくなる」


停め位置と似た話なのだが、……。郵便配達は、大型マンション・大企業を除くと、載せた郵便物を一気に配達する事が出来ない。物増時の郵便配達というのは、油断ならない。


「バイクを倒した時は、後ろや前に郵便物を積んでる事が多い。その時、無理をして持ち上げるな。まずは、バイクが倒れた状態でいいから、中身をとにかくキャリーケースの外に出して、バイクを軽くしてから持ち上げろ。郵便物の重さを甘く見るな。それと近くに人がいたら、助けを呼んで構わない。(むしろ、向こうから声を掛けられる事が多いけど)」


カタログは最たる例で、1通ではそんなに重さは感じないが、10通くらいになるとかなりの重量となる。カタログは隙間なく分厚いため、積込がかなりできる分、重量がある。

ここらへんは”積込”の話でまた……。


「新人の内は、一気に持っていくとかはしなくていい。事故が起きたら、俺達部長が責任をとってやるが、お前の怪我は治せない。だから、今は無理をしなくていい」

「は、はい」


4つ目は、サイドスタンドORセンタースタンドの整備不良。もしくは新品であること。


サイドスタンドにはバネやネジがあり、バネが曲がっていたり、ネジがとれていたりすると機能しません。また、新品のサイドスタンドはバネがかなり早く戻ってしまうため、すぐに上がってしまう事があります。50回ほどセンタースタンドを立てた状態で、サイドスタンドを倒す→上げる→倒すを繰り返しましょう。



「日常点検をちゃんとしてれば大丈夫だ。4つ目の例は、新人の間はまずないから」


そう言いながら部長は、


「じゃあ、後ろに荷物を積んだ状態で局の近くを一緒に一周して、配達もしようか!」

「え!?積んだ状態で!?」

「そりゃあそうだろ。その荷物は局に戻すけど、近くのマンションの配達もついでにやってもらう」


結構なハイペース。……しかし、部長の口から切ないこと


「今は部長も、配達やんねぇとダメなんだよ」


本来、部長というのは社内での作業が多いのだが……。現場に人がいないと、部長までも駆り出されて配達をしている。郵便局の部長と出会った事がある人は、凄くレアだと思うが……そうでもないのが今。ちなみに部長の仕事もちゃんとこなしている。


挿絵(By みてみん)


◇       ◇



バイクを使う郵便配達員の基本的な服装のお話。……ゲーム的に言うと、装備品のお話だ。

天気によってその恰好は異なる。今日は快晴、とってもいい。

今回は配達員のみに絞った、服装や装備品についての事を部長から紹介させてもらう。


「まずは基本的に、ユニフォームの正常着用」


新人さんだと私服でやっていたりもするが、基本はユニフォームの着用がある。

夏服、冬服とあり、季節ごとに着用しましょう。そして、大事なのはベルトである。


「ベルトに携帯端末とプリンタを付けるからな。”書留カバン”でやるのもいるが……」


郵便配達で絶対必須の携帯端末と付属のプリンタ。これを右の腰側に付けよう。


「腰の左側に”書留カバン”が来るようにしろ」


配達員の腰に付けている縦長カバンが、”書留カバン”だ。ここに定形の書留と不在票、配達証を入れるケース、つり銭、プリンタの用紙などを入れている。

書留の受入、配達などでもまた詳しく話す事になる。今はとりあえず、着用するだけで構わない。


「配達に限らず、この仕事をする上で必要な小道具、便利なモノをリストアップしておいた。区の地図はノーカンにさせてもらう(覚えたら要らねぇ)」


※必須級※


ボールペン 2本。できれば、3本


理由:お客様からペンを貸して欲しいという事がよくある。雨で使えなくなる時もある。



判子(シャチハタで可) 1個。できれば、2個


理由:車両点検・事故郵便を筆頭に判子を使用する機会が多い。1個はユニフォームに、もう1個はロッカーに入れておくと良い。使用し過ぎと雨で使えなくなる。班に補充インクは置いておくといい。



交換用のプリンタ用紙 1個。


理由:プリンタの用紙はかなりハイペースで無くなりやすい。不在票もそうだが、料金の配達、集荷などを行うとその減りが速い。常に1個は”書留カバン”の中に仕込むと良い。プリンタ用紙がないと、不在票が手書きになったりと面倒になる。業務に支障が出る。局によっては、1人1個までと言われているので、多く持ち出すのはダメ。経費が掛かる。(会社の支給品)



指サック 2つ。 人によっては人差し指も使うので、4つでも可。


理由:郵便物を取り扱う時は絶対に付けて欲しい。圧着ハガキやカタログ郵便は非常にくっつきやすく、ないとまずまともな仕事ができない。指に匂いが付くので嫌がる人もいる。(会社の支給品)




不在通知票 20枚くらい。


理由:不在票がないと不在になった書留やゆうパックで不在を切りにくい。手書きでもOKだが、番号の記入が面倒。また、宅配BOXや玄関前などで配達通知にも利用できるため、必要以上に使用する。



「この4つは常に持ってけ。携帯端末やバイク、自転車とかは仕事が始まる前に立ち上げたり、点検するから、リストに挙げなかったぞ」



とりあえず、配達員はこの4つを始業前に揃えておくと良い。ほとんど、制服のポケットや書留カバンなどに保管しているだろう。

鉄板4つのアイテムの他に、色んな配達員が良く持っている小道具がある。

会社で支給されるのも含めて紹介させてもらう。




※便利級※


ファスナーケース 2つ。大と小。


理由:簡単に言うと、配達証入れである。書留カバンに付属しているとこが多い。チェーンを付けて、落とさないよう書留カバンや腰に付けておくと良い。

また、定形外の書留を大きなファスナーケースに入れて、通常郵便と棲み分けておくのに便利。その他の業務でも便利なので、自分に合ったものを用意しよう。(配達証分は会社側が用意してくれる)。



付箋&鉛筆、ホッチキス、輪ゴム、セロハンテープ、補充インク(判子用)


理由:郵便物には誤った住所の記入や部屋番号の記載漏れが多いです。作者は直接ボールペンで修正しているタイプなので使用しませんが、気になる方は付箋と鉛筆を使っています。


ホッチキスは配達証を纏めて留めるために使います。よく芯が無くなる。


輪ゴムは大・中・小とサイズ分けがされています。道順組立をし終えた郵便物の束を纏めて留めます。


セロハンテープは郵便物を汚損した時、修繕するのによく使用します。


補充インク。シャチハタは使用過ぎでインクが薄れるため、持っていると便利です。


これらの小道具は会社から支給されるケースも多いため、無くなった時は事務員さんに用意してもらいましょう。



コインケース 1つ。


理由:代引き商品のお釣り交換に便利。端数のある商品も珍しくないし、1万円といった大きな金額で支払うお客様もいるので細かく用意した方がいいと思う。



透明なビニール袋&手提げ付きビニール袋 


理由:これは主に雨天時に使用される道具です。雨対策に使用するのが一般的です。郵便物の保護のために会社で用意されますが、一日で万単位の郵便物をビニールに入れる作業は時間的にも予算的にも不可能です。大事そうな郵便物を保護するのが精一杯です(配達員の感覚次第)。

数に余裕は持たせていますが、争奪戦をする時もあるため、個人で持っているケースもあります。

また、積載量を増やすためにビニール袋を利用する配達方法もあります。




雨合羽あまがっぱ & ウィンドブレーカー & 手袋 & ストッキング(冬場用) & 冷感グッズ(夏場用)


理由:残念な話ではありますが、会社で支給される雨合羽などは期待できるものではありません……(予算ねぇんだよ)。防寒具に至っても、自前で揃えている方が多いです。自分の体に関わる部分ですので、長く働く覚悟を決めたら早急に用意するのを勧めます。




「こーいうのはもちろん、会社で用意はしているが……。予算はねぇから、すぐに用意できないモノもある(ユニフォームとか)。個人で揃えてる人も珍しくないな」


挿絵(By みてみん)

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