送られてきた動画
-------3:00am
「うわ~・・・・やってしまった・・・・」
レポートを書いている間に、どうやら寝てしまっていたらしい。
スマホにアラームをかけておけばよかったと心底思う。
今から寝ずにやれば、レポートは完成するか・・・
半分しか仕上がってない状態のレポートに絶望しながら、スマホを確認する。
2件のメッセージが画面に表示されていた。
1件は友達の麻衣からのメッセージ。
9:48 ---『レポートできた?おわらん』
どうやら私は9時には寝落ちしていたようだ。着信があった記憶がない。
もう1件は”友だちではないユーザーです”と表示されていた。
ユーザ名は「You」。
---誰?
このアプリで一度もスパムメッセージを受信したことは無い。
知り合い?と思ってメッセージを開く。
2:00 --- 『ヒナへ。』
2:01 --- <動画>
ヒナへって書かれているということは、知り合いか。
「っわ!」
ザザザというノイズが流れた。自動再生された添付動画の音だった。
白い天井、壁の一部。夜なのか、電気がついてないのか、画像は薄暗い。下から見上げたようなアングルが映っていた。しばらく眺めていたが、何も場面がかわらない。
画面をタップして動画の残り時間を確認すると、あと2分もある。
「なっが。」
すると、15秒を超えたくらいで画面に女性のような後ろ姿が現れた。といっても、後ろ向き且つ見上げたアングルなので、頭のと背中の一部が見えた状態なだけで、誰かはわからない。
「誰?これ」
髪の長さは肩下まであるように見え、色は黒?暗くて判別不可。
出てきた女性は画面から出てきたり、消えたり。
一定の間隔でそれが繰り返されている。
--- 前後に歩いてる?
壁に向かって歩いて、そのまま下がって、を繰り返した動作に見えた。
エクササイズでもしているように見えなくもない。が、エクササイズをしているにしては、少し奇妙だった。
全く体幹がぶれていない。ベルトコンベアーに乗って前後しているような、でもそれにしては、このスピードで、髪の乱れがない。
あ、あれだ、この動き見たことあると思ったら、パントマイム。パントマイムに似てるんだ。
深夜2時にこんな面白(?)動画を送ってくるなんて、友達追加はしてないサークルの知り合いか。
ザザザザ
ザザザザ・・・
音声はというと、ノイズ音だけ。
そして前後に歩いた動作のまま40秒を過ぎた頃、ちょっとずつ、頭の部分が画面に向かって振り向いてきていることに気づいた。
画面から消えて戻ってくるたびに、少しずつ耳が、そして顔が・・・
「?」
強烈な違和感を感じ、動画を止めようとした。
---首だけ、振りかえってる。
少しずつ顔がこちらを向いてるのに対し、その後ろ姿は全くひねっている様子がない。
ふくろうは180°首が回転するというが、この振り向き方はまさにそんな感じだ。
徐々に、徐々に、顔が見えてくる。動画を止めようとしたのに、画面から目が離せない。
「ぎゃ」
前後の動きを繰り返し、こちらを振り返った女の顔は目が真っ黒で、ぐしゃりと歪んでいた。
慌てて停止ボタンを押し、送信先をブロックした。気持ち悪さと不気味さで、一気に目が覚めた。
なんなのよ・・・悪趣味すぎる・・・
脳裏に焼き付いたあの顔面を思い出して、思わず身体が震えた。
ガタンッ
1DKのこの賃貸は、今いる6畳の部屋とキッチンの間にドアがあり、今の音は明らかにそのキッチンの方で鳴った。
こ、こっわ・・・
怖いけれど、何か物が落ちたのかもしれない。
キッチンのドアを開けて様子を見た。
キッチンといっても簡易な作りで、一畳ほどの縦長の廊下の横壁に備え付けられていて、奥は玄関になっていた。
狭い間取りなので、電気はつけなくても部屋の明かりで十分だ。
「あれ、嘘、あいてる」
薄暗い中、玄関のドアを見ると、いつも帰ってきてすぐにかけている鍵とチェーンがかかっていない。
・・・誰かが入ってきたのかもしれない恐怖で、足に力が入らない。
「ひっ!」
うずくまりかけて廊下の床をみると、靴下を履いている自分ではない、無数の真っ黒な誰かの足跡が付いていた。
それは部屋に向かっている一方向のみで、往復している様子が、一切無い。
まるでさっきの動画のような。
私が寝てる間に、誰かが家に入ってドアを隔てた向こう側で動画を撮っていたと思うと、とてつもない恐怖に襲われた。
「け、けいさつ、警察に連絡しなきゃ・・・」
もはや立つことができず、四つん這いになりながら部屋のスマホを取ろうとしたら、メッセージの着信音が鳴った。
反射的に画面の着信アイコンをタップし、受信メッセージを開く。
"友だちではないユーザーです”
3:16 --- 『これからずっといっしょだよ。』
ドアが閉まってたから入れなかった&開けたから入ってきちゃったっていう。
1限〆のレポートはその後完成したのか・・・